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言い訳

悪魔的愛の伝道者参戦。



「ロマは……家を追い出されたのか?……しっかり者だから……家で面倒を見ると兄上達は約束してくれたのに……」


 元気と別れたハンソンは、来た道を振り返り独り言ちる。そしてコンテナハウスへと戻ろうとするが、迎えに行った所で……役立たずの自分にロマを養って行く事が出来るのだろうか?そう思うとハンソンは足が進まない。


 幼い頃から貴族らしからぬ容姿に体型。その事で兄弟達からは虐められ、親からは兄と比べられ贔屓ひいきされ続けた。そして、そんなハンソンにつけられた孤児のロマ。ハンソンの元にロマが来たのは僅か三歳の頃。ハンソンが十八歳の頃だ。


「ハハハ!……彼女も出来た事が無いのに子持ちとか面白すぎるぞハンソン!」


 ロマが孤児院から買われ、ハンソンの元に来たのは、兄弟達からのただの嫌がらせだった。


 その日からハンソンはロマを背負いながら、倉庫整理等の雑用を行い、兄弟達から馬鹿にされる日々を過ごした。


 昼は仕事と育児。夜もロマの育児。嫌がらせで傍仕そばつかえとしてつけられたロマを疎ましく思う事も勿論あった。


 しかし、家族から疎まれ続けたハンソンは、ロマを疎む事が出来なかった。


 家族はいるのに独りぼっちな自分。家族のいない独りぼっちのロマ。情況は違えど同じ独りぼっち。自分と同じ孤独な思いを、幼いロマには味わって欲しくないとハンソンは思ったのだ。


 ハンソンはロマの成長と共に、ロマに魔法学校等で習った事や貴族の礼儀作法。傍仕えの心得、そして家の商売の事などを幼い頃から教え、丁寧に教育を行った。


 日々賢く成長していくロマを見ていると、ハンソンは誇らしかった。


 しかし、ロマは孤児。そしてハンソンのメイド。家族に認められる事は無かった。


「ごめんな……ロマ。俺のせいで……給金も払ってやれない……。ロマは賢く気立てが良いのに……」


「フフフ……そんな事は気になさらないで下さい!ハンソン様!私は今のままで大丈夫です!」


 そう言ってニコリと笑うロマ。


 そんなロマの顔を見ると、貴族であるのに何もしてあげられない自分がハンソンは情け無かった。


 ロマの世話も落ち着き、兄弟の嫌がらせも殆ど無くなって来たある日の事だった。


「よぉ、ハンソン!女を紹介してやるよ!お前もそろそろ結婚を考えないとな!」


 長男からの紹介でお見合いをしたハンソン。何だかんだ言っても、自分の事を考えてくれているのだと、ハンソンは嬉しかった。


 しかし、これはハンソンが家を出れば、父親が死んだ時の遺産が増えると考えた長男、次男の暇潰し兼、ハンソン追い出し計画の一つだった。


 兄弟の計画通り、女に振られ気落ちしたハンソン。そこに、有るか無いか解らないアルカンハイトの噂を知り合いの商人にさせ、それを信じたハンソンは家を出た。


「ククク……。ハンソンは、馬鹿すぎるぞ……。アレと兄弟とは……虫唾が走る……。まあ良い、もう、会う事も無いだろうからな……。ハーピーに喰われて死ねハンソン……ククククク……」


 ハンソンの追い出しに成功した兄弟。残る問題は、屋敷に残ったロマの処分だ。


「ロマ!お前はクビだ!……孤児など屋敷にはいらん!そうだ!ハンソンを……追い掛けたらどうだ?……お前、ハンソンに惚れてるだろう?ククク……オークと孤児……お似合いじゃないか!しかし、残りたいなら残っても良いぞ?……女であれば使い道はいくらでもあるからな!」


「私も……今日で失礼いたします……」


「お!そうか……。お前は良い値が付きそうだったが、ハンソンへのせめての手向けだ。拘束しないでやる。さっさと消えろ……」


 ハンソンの兄弟にそう言われたロマは、路銀も殆ど持たないまま屋敷を出た。


 そして、孤児院へは戻らずハンソンを追い掛けた。


「人間が駄目だからって……モンスター相手とか……。本当に馬鹿なんだから……」


 ロマはハンソンが女に振られ、泣きながら言っていた、ハーピーとアルカンハイト。という情報を元に、ハーピーの住む山の先の船の出る町。ロウベルグを目指し、そして山を越えた所で、元気達と出会ったのだった。


 ハンソンがハーピーと出会って、一発死にかけたのは、アルカンハイトを探すついでの出来事にしてあげて欲しい。モンスターであっても容姿は人間ソックリな美女。そんな美女が向こうから素っ裸で自分を求めてやって来るのだ。


 女に振られ傷心中のオジさん童貞には到底、あらがえない。勿論元気なオジさんも出会ったが最後。一発。ズッポシガブリだ。


 立ち止まってどれ程の時間が経っただろうか、ロマが居るログハウスの方を見たまま、前にも後にも進めないハンソン。


「ロマ……。怒ってるだろうな……」


 ロマが追い掛けて来てくれた事は嬉しいが、迎えに行こうにも勇気が出ない。


「……元気さんとミリャナさん……お金も持ってるみたいだったし……うちの家族と違って凄く優しかったし……。ロマは俺と違ってしっかり者だ……。きっと……俺なんかと一緒に居るより……幸せだ」


 ハンソンはその後も暫くログハウスの方を見つめた。そして「ゴメン」と一言呟くとロウベルグの町へと歩き出す。家を出て何もかもを失ったハンソンは、ロマを幸せに……平穏で何不自由の無い生活をさせてあげられる自信が持てなかった。


 一方その頃ログハウスでは、久々に現れた新しい少女の登場に、感極まった元気のお持て成しが爆発していた。


「も、もう、お腹いっぱいです……」


 クッキーモンスター元気に、たらふくクッキーを食べさせられたロマ。お腹がいっぱいで動けない。他にもケーキやクレープ等も食べさせられた。


「そう?じゃあ次は……」


 お腹いっぱいなロマを見て満足する元気。次はロマと何して遊ぼうか考え始めた。そんな元気を見てミリャナが呆れる。


「元ちゃん、ロマちゃんはここまで独りで歩いて来たのよ?少しゆっくりさせてあげたら?」


「あ!そうだね!ベッド使っていいよ!……何なら一緒に……」


 テンションが上がりすぎている元気。そんな元気に腹が立つミリャナ。


「元ちゃん。拳骨が欲しいの?」


「じょ、冗談だよ!」


 元気とミリャナのやり取りを見て微笑むロマ。ハルトルデアの屋敷では見た事が無い、楽しい光景に、町を出てから張った気がスルッと抜けていく。


「……すいません……。私……」


 ハンソンが見つかって安心出来た事。お腹が膨れた事。お風呂に入ってサッパリ出来た事。全てが重なり。ロマは机に突っ伏して気絶する様に眠ってしまった。


「……こんなに小さいのに……。凄く疲れてたんだろうな……安心出来た様で良かったよ……」


 ロマを抱えて、ベッドに寝かせる元気。それを見やるミリャナ。


「……添い寝は半分本気だったでしょう?まったく……」


 ミリャナは少しツンとした態度だが、そこまでは怒っていない様子。緊張する子供の前で真面目な話しはしない。騒いでいたのは元気なりの気遣いだ。


 そしてそれを理解しているミリャナ。だが腹が立つ立たないは、別問題である。


「迎えに来るかな?ハンソンさん……」


 死んだ様に眠るロマを見て、心配するミリャナ。


「どうかな……。来て欲しいけど……」


 そこまで言って口を閉じる元気。元気は知っている。虐められていた人間が抱える心の闇を、一歩が踏み出せない歯痒さを知っている。異世界に来て力を手に入れ、ミリャナと出会い、心の闇をある程度克復する事が出来たが、ハンソンは今も苦しんでいる途中だ。


「……元ちゃん。いつまで撫で撫でしてるの?ロマちゃん起きちゃうでしょ……」


「え?……あ、これはいつもの癖で……」


 ロマをずっと撫で撫でしていた元気を、ジト目で見やるミリャナ。そんなミリャナを見てへへへと姑息に笑いながら席に戻る元気。


「あ……」


「ん?どうしたの?ミリャナ?その顔は、何かを思い出した時の顔だけど……」


「……良く解るわね元ちゃん……。フフフ……何か小さい頃の事……思い出しちゃって……」


「へ~どんな?」


「う~ん……。内緒」


 そう言って少し恥ずかしそうに笑うミリャナ。ミリャナの事は何でも知りたい元気は、何が何でもミリャナの思い出話を聞きたい。


「え~!知りたい知りたい!知りたい!知りた~い!」


「ちょっと!大きな声出さないで!……ロマちゃんが起きちゃうでしょ!」


「だって~……」


 ミリャナはロマが起きていない事を確認すると、子供の様にスネる元気を見やる。


「フフフ……。元ちゃんって……変な人よね」


「え!急に何?……しかも今更?」


「フフフ……自覚はあるのね?」


「そりゃあ、まぁね……ハハハ」


 そんな事を言いながら静かに笑い合う二人。


「昔ね……。お母さんがね、さっきの元ちゃん見たいに……他の子を可愛がるのを見て……良く怒ってたな~って思い出したの……フフフ……お子ちゃまよね」


 困った様に照れ笑うミリャナ。元気は母親に可愛がって貰った経験が無いので、女性に可愛がられると、今でもとても嬉しい。


「そっか……。やっぱり母さんが他の子を可愛がるのは嫌だった?」


「あの頃はもっと私を見てよ!って感じで嫌だったけど……。今は……嬉しいかな……。お母さんは誰にでも優しいな~って……」


「そ、そう……」


 リャナは優しいには優しいと思うが、どこそこ面倒事に連れ回されている元気。ミリャナの言う。誰にでもの部分にとても疑問が残ってしまう。しかしツッコミは入れない。ミリャナの過去話優先だ。


「だから、元ちゃんはお母さんに似てるな~って……時々思っちゃったりするの」


「え……。俺が母さんに……?」


 そんな訳が無いよ~と言おうと思ったが、考えて見れば、心当たりがあり過ぎて何も言えなくなる。元気にとってのポタン。それがリャナにとっての元気。そう考えた時。成る程と渋々納得するしか無い。


「それに、ペロリもクンクンもやってくるのは、お母さんか元ちゃん位よ?」


「……それは、まぁ。仕方ないよ……。そこはとても母さんの気持ちが良く解る」


 そこだけは、素直に納得出来る元気。こんなに可愛い娘が出来たらペロペロしない訳が無い。むしろ食べちゃいたいと思うだろう。


「何だか思い出しちゃったな~って言うだけの話よ……フフフ」


「ハハハ。そっか~ミリャナは甘えん坊だったんだね~」


「フフフ……そうかも……」


 紅茶を飲みながら、たわいない話で盛り上がる二人。話を要約すると、他の女の子を可愛がる元気にミリャナが嫉妬し、昔、リャナに同じ様に嫉妬した事を思い出した。と言う話だ。


 そして、ミリャナの元気に対してのお母さんみたい発言。ミリャナはリャナがとても大好き。遠回しな元気へのラブコールである。朝っぱらからそんな恥ずかしい話をしているのに、まったく気付かない鈍感な二人。アイリスがいたら『ウゼェ!』と一蹴されていただろう。しかしツッコミ役はいない。驚く事に夕方までこの空気のまま、二人はまったりとした時間を過ごした。


 そして、ロマは昼過ぎには目が覚めたのだが、あまりにも酷い空気感に、夕方元気達が声を掛けるまで起きる事が出来なかった。


「そろそろ……時間ね……」


「そう……。ですね……」


 ハンソンを待ちながら俯くロマ。そんなロマの肩を抱き、ミリャナが窓の外を見やる。既に空は茜色に染まり始めていた。


「ゆ、夕飯を準備するよ……」


「そ、そうね!……食べてる間に来るかもだし……」


 何とか重い空気を変えようと、明るく振る舞い夕食の準備を始める元気。ミリャナも並ぶ食事の説明をして、場を盛り上げようとする。ロマも出来るだけ明るく振る舞おうとする、しかしショックが隠せない様子で笑顔がぎこちない。


 本当は昼過ぎには、皆が解っていた。


 ロマと入れ違いになったハンソン。元気が追い掛けた後、そのまま戻って来ればここまで二時間とかからないのだ。


「……私……これから……どうしよう……」


「ロマちゃん……」


「と、とりあえず食べよう!難しい話は御飯の後で!」


「そ、そうね!……戴きましょう!」


 三人で戴きますをして、夕食開始だ。


 戴きますもスパゲティーもコーンスープも新鮮な野菜サラダもロマは初めて、その美味しさに大喜びだ。


 その姿に元気とミリャナはホッと胸を撫で下ろす。しかし、ホッとしたのも束の間。ロマがパンを頬張ったまま、ぽろぽろと涙を流し始めてしまった。


 どう声を掛けて良いか解らない元気とミリャナ。もしかしたらもうすぐ……。等と言う安っぽい台詞しか思い付かない。


「す、すいません……。覚悟はしてたんですけど……」


「大丈夫よ……。大丈夫だから……」


 ロマを抱きしめるミリャナ。ミリャナに抱かれ声を押し殺しながら啜り泣くロマ。そんな光景に元気は、心が揺さぶられる。


 人の色恋沙汰に容易に入って良い物では無い。無いが、どうにかしてあげたいと元気は思う。しかしどうして良いかが解らない。ポタンに聞こうにも、恋愛に関してはポタンの専門外だ。


「あ……。そうだ……」


「どうしたの元ちゃん?」


「アイリスなら、同い年位だし……ロマのいい話相手になるんじゃ無いかな?」


「そうね……。同じ位の年の女の子同士なら……色々と話やすいかも……」


「じゃ……。ちょっと呼んでくる」


「うん」


 瞬間移動で家へと戻る元気。家に戻ると夕食準備中だったアイリスに、今起きている事の事情を説明した。


「良いですよ~。その代わり……」


 細長い尻尾を振りながら、手を出すアイリス。お小遣いの催促だ。


「アイリス。貴女この前も貰って無かった?」


「そうね……。私にもよこしなさい元気」


 アイリスを睨むポタンと、何故かお金を催促するリャナ。


「俺が一緒に行ってやっても良いぞ?」


「いや……父さんが行っても意味ないでしょ。子供の話相手が欲しいのに」


 自信満々で一緒に来ようとするダルドリー。それに素早くツッコむミール。みんなアイリスの御飯をテーブルに座り待っている。


「年頃の女の子は色々と入り用なの!先輩ももう少し大きくなったら解るわよ!」


「ふ~ん。言う様になったじゃ無いのアイリス……」


 上から目線のアイリスの発言に、ポタンがピクリと反応しアイリスを睨みつける。


「だ、旦那様!さっさと行きましょう!ほら!早く!ほら!」


「あ、あぁ。……みんな元気そうで良かったよ。こっちも元気だから!またね!」


 ポタンをイラつかせたアイリスに急かされて、皆に急いで挨拶すると、元気は瞬間移動でコンテナハウスまで戻った。


「はろ~……えっと。あなたが旦那様が言ってたフラれた子?あらら、泣いちゃって……。泣いてもどうしようも無いのに……」


 ロマに向かってヒラヒラと手を振りながら、一発かますアイリス。そんなアイリスにミリャナが怒る。


「ア、アイリス!あなた言い方って物があるでしょう!」


「……相変わらず騒がしいわね、お姉ちゃん……ウザ……」


「何ですって!」


 クビをかしげ、下唇を突き出して、右上に目線をやり。肩を少し上げるという。かなりムカつくジェスチャーをミリャナに向かって行うアイリス(気になった人は、鏡の前か嫌いな人の前でやってみよう!)。その仕草がミリャナにバッチリと刺さり。一瞬にしてミリャナの怒りゲージが上昇する。今にも喧嘩が始まりそうだ。


「あぁ~もう。喧嘩は今度家に帰ってから!……今はロマの話を……」


 会うなり喧嘩を始めようとするミリャナとアイリスを止める元気。ロマは急に消えたり現れたりする元気と、一緒に現れたアイリスに目を見開き驚いている。


「そうね……。お小遣いの為だもの我慢するわ……。旦那様椅子に座って下さいな」


 椅子をペチペチしながら元気を見上げるアイリス。元気がアイリスに言われた通り椅子に着席すると、元気の膝の上にアイリスが着席した。


「アイリス!あなたはもう!」


「良いでしょ!お姉ちゃんは毎日一緒に居るんだから!どうせ毎日イチャイチャしてるんでしょ!」


「イチャイチャなんかしてないわよ!ねぇ!元ちゃん!」


「え?うん。……残念ながら……あんまり出来てないかな……」


 元気とミリャナの発言に、昼間のあれはイチャイチャじゃ無いのか!とロマが静かに驚く。そしてアイリスはそんな二人に呆れる。


「男女二人旅よ?……イチャイチャしないで、一体毎日何してんの?お姉ちゃん……」


 不気味な物を見るような表情でミリャナを見るアイリス。イラッとするが強くは言い返えせないミリャナ。


「さ、散歩とかぁ……。押し花とかぁ……。おはなしとかぁ……」


 語尾を上げ、遊んでる風に言おうとしているミリャナだが、自分で言っててちょっと恥ずかしい様子。声がどんどん小さくなる。


「子供か!」


 そんなミリャナに対し、アイリスがドカン!とお尻を浮かせて鋭いツッコミを入れる。ミリャナはアイリスに対して反論する事が出来ない。ミリャナはミリャナで解っているが、中々先に進めないのだ。


「ま、まぁ、その辺りは良いから……ロマの話を……」


 今にもミリャナに向かって飛びかかりそうなアイリスを、元気がギュッと抱きしめ抑制する。そんな元気の久々の抱擁ほうように満足し、気分が落ち着いたアイリスは、ミリャナを使った元気ロスのストレス発散は、今度にしようと思い、ロマへと視線を移した。


 現れてからずっと、猟奇的過ぎるアイリスに見られ、萎縮するロマ。何を言われるのかと不安な様子だ。


「……あなた。好きな人をここまで追い掛けて来たのよね?」


「……えっと好きな人と言うか……。お仕えしてる人で……」


「じゃ……好きじゃ無いの?」


「えっと……」


 アイリスの質問に頰を染めながらモジモジするロマ。


 そのロマの様子に元気とミリャナは、やっと思い至る。子供が親代わりの人間を追い掛けて来た訳では無く、一人の女が好きな男を追い掛けて来たのだと。


「まぁ、いいわ……。その男と一緒に死ぬ気があるなら追い掛けるべきね。無いなら帰りなさい。それ以外に無いわ」


 小さなお胸の前で腕を組んで、ロマを見つめるアイリス。その真剣な表情にロマはゴクリと息を呑む。


「アイリス……あなた死ぬとか簡単に言うけど……」


「何よ?私は旦那様と一緒になら死ねるわよ?ねぇ?旦那様?」


 平気で元気と一緒に死ぬと言うアイリス。そんなアイリスに呆れるミリャナ。


「……アイリスが死ぬのは嫌だな~。俺が死んでもアイリスには生きてて欲しいと思うよ?」


 アイリスは遠回しに、貴方と一緒に死んでも良い程に愛してる。と伝えたのだが、元気には全然まったくもって伝わらない。アイリスは元気のそのお馬鹿な返答に、ゾクゾクっと喜びを感じる。


「はぁ……。コレコレ!……旦那様はこれが良いのよね~」


 久々に見るその光景にミリャナが溜息を吐く。自分の事には鈍いミリャナだが、他人事には鋭い。


「それで……。ロマだっけ……あなたはどうなの?」


「わ、私は……」


 ロマは悩む、ハンソンと一緒に居たいし、優しいハンソンが好きだ。しかしハンソンと死ねるかと言われたら死にたくないし、ハンソンにも死んで欲しくない。そしてハンソンが死んだ時に一緒に死ねるかと言われたら解らないのだ。


「はぁ……悩みすぎ……」


 悩むロマにアイリスが呆れる。


「仕方ないわよ……まだ子供だもの……」


 ロマを庇うミリャナ。そんなミリャナにアイリスのお尻がピョコンと反応する。それを察知して元気がまたアイリスロケットを抱き締めて阻止する。ロマの前で取っ組み合いの喧嘩はご遠慮願いたい。


「子供?……子供じゃ無いわ!女よ!年齢は関係ないわ!ロマはその男のとどうしたいの!」


「一緒にいたい。けど……私は孤児だし……」


「けど、とか、だっては、要らない。その後は言い訳だもの……。一緒に居たいそれだけ?」


「……もにょもにょ」


 アイリスの問い掛けに、うつむくロマ。そして小声で何かを言った。


「何て?声が小さい!大きな声で!はい!ほら!さんはい!」


 両手をロマに向かって広げ、大袈裟おおげさあおるアイリス。そんなアイリスを見てミリャナが叱ろうとした時だった。


 ガタガタっと椅子を倒し弾ける様に立ち上がったロマが、天を仰ぎ吠えた。


「お世話も!エッチな事も!何もかも私がしてあげたい!一緒にいて結婚してずっと一緒に居たい!ビビりの癖して何で!モンスターのハーピーなんかと!そんなにやりたいなら、私に言えよ!ハンソン様のお馬鹿!ずっと一緒に居たのに!絶対許さないんだから!会って絶対ビンタしてやるんだから!私を置いて行くなぁぁあああぁぁ!」


 ロマの魂の叫びに元気とミリャナが驚き、ポカンとしてしまう。アイリスは腕を組み直しウンウンっと満足げだ。


 祭りの後の様にシンとしてしまった室内に。ロマの本気の思いの火照りだけが残っている。色々と気まずいやらなんやらで、元気とミリャナは口が開けない。そんな空気の中平然と口を開いたのはアイリスだ。


「……良く言ったわロマ……。じゃ、行きましょうか旦那様!」


「え?何処に?」


 驚いたままの元気を下から見上げるアイリス。そんなアイリスの言葉に再度ポカンとしてしまう元気。


「何処に?って……そのダメ男の所にですよ……ロマ?覚悟は出来たでしょ?」


 アイリスが元気からロマに視線を移す。


「はい……。死ぬ気で行きます……絶対に許さないんだから……」


 ロマの顔付きが大人しい女の子の顔から、怒りに燃えた女の顔に変わった。


 ロマのあまりにも強い覇気に、ハンソンの身が心配になる元気。ミリャナもロマの変わり様に驚いている。


「こ、これ……だ、大丈夫なのか?」


「え?今更何を言ってるんですか?旦那様?……魂に火を着けちゃったんだから……もう引き返せませんよ……フフフ」


 楽しそうに微笑みながら元気を見上げるアイリス。元気はそこに本物の悪魔の微笑みを見た気がした。

相談する方向性は間違いでは無いと思うけれど、相談相手を間違える元気君。


まぁ、周りが濃い人達なので致し方無しw


次回は、ハンソンの元へ突撃です。



少しワロタ! もっと読みたい! 心がピクリと反応した! と思われた方は、ブクマ:評価:いいね等々。よろしくお願い致します。


下の ☆☆☆☆☆ ⇒ ★★★★★ で評価できます。最小★1から最大★5です。


『★★★★★』で……元気も喜び頑張りますw



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