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ハンソンとロマ

題名そのまま。

『ハーピー』主に山岳さんがく地帯に生息する。鳥獣ちょうじゅう人型モンスター。


 めすの出生率が非常に多く、鳥類と同じく脳味噌が小さい、そして肉食な為、普通の獣人とは相容れず、モンスターとして分類されている。見た目が人間に近く、(えろ)く豊満なボディーな為。冒険者(おとこ)が良く狩られてしまう。女の武器を最大限に利用する。男にとってはとても、とても凶悪な肉食系女子モンスターだ。


「最低……」


 顔をしかめボソリとそう呟くミリャナの横には元気。その前にはテーブルを挟んで、先程助けた男が座っている。元気と男はとても気まずそうだ。


「性欲発散の為に……モンスターを使うだなんって信じられない……。命を掛けてまでする事じゃ無いわ……。ねぇ?元ちゃん?」


「う……うん。そうだね……」


 歯切れの悪い返事をする元気。そんな元気をミリャナがじろりと睨む。とんだ巻き込み事故だ。


「め、面目無い……」


 そう言ってシュンとうつむく元気達が助けた男。名前はハンソン。ガタイが大きく、長い間剃ってないのか髭がボサボサのオジさんだ。


 ハンソンは山向こうの領地から遠路遙々、ハーピーと一発やって童貞を捨てる為にやって来た。


 そしてハーピーと一発やる事には成功。天国に昇る様な快感を味わった後。肉食モンスターであるハーピーにそのまま喰われ、本当に天国に昇る事態に陥ってしまったのだった。


 基本、人には優しいミリャナだが、ハンソンの死に掛けていた理由を聞いて、現在とても怒っている。元気は、猫、犬、鳥、魚の獣人にも問題無くトキメク男。そして童貞。童貞を捨てたいと言うハンソンの気持ちが痛い程解るので、怒ったり攻めたりする事が出来無い。チンコ復活して、良かったね~。童貞卒業おめでとう。的な感じだ。


「で、でも、山にいるモンスターの情報が手に入ったのは、良かったよ……。ね?ミリャナ?」


「……そうね」


 下ネタがあまり好きでは無いミリャナは、まだ不機嫌な様子。だが、怒りは収まりつつある様だ。


「ハンソンさんは、これからどうするの?」


「山を越えるなら、俺らと一緒に行く?」


 怒っていても相手を気遣うミリャナ。


 せっかく修復したのに、また無くなっては意味が無い。護衛位はしてあげても良いかなと思う元気だ。


 ハーピーを見た時に鼻の下が伸びて、ミリャナに怒られそうなので、一緒に怒られる仲間が欲しい。等と言う姑息な考えからの提案では無い。


「いや……俺は、これからロウベルグへ行って船に乗り……楽園を目指そうと思うんだ……」


「楽園?」


「あぁ。どんな人間でも幸せになれるって言う……楽園。アルカンハイトだったかな?……本当かどうかは解らないけど……旅の行商人から聞いたんだ……幸せの国だって……」


 アルカンハイトの名前が出て来て驚くミリャナと元気。自分達の国が幸せの国と言われて悪い気はしない。


「俺さ……。太ってるし顔も冴えないだろ?頭もあんまり良く無いし……家の中でも厄介者扱いでさ……。今まで彼女も出来た事無くてさ……。本当は……あの日……死のうと思ったんだ……」


 紅茶をすすりながら、いきなり自分語りをし出したハンソン。オジさんの話には正直興味は無いが。どうするの?と聞いたのはミリャナと元気。話を聞くしか無い。


 そして死のうと思ったんだ……から黙るハンソン。どうやら合いの手が欲しいらしい。


「ど、どうして死のうと思ったのかしら……」


 ミリャナがハンソンに理由を聞く。すると話そうか辞めようかと悩むハンソン。そんなハンソンに元気は、このままアルカンハイトの浜辺にでも飛ばそうかなと思う。思わせ振りな仕草がとても腹立つのだ。


「俺……好きな人に告白したんだ……。文字を一生懸命勉強して、金を貯めて高い花束を買って、手紙を添えてさ……。だけど……。『字が汚ぇわ!?花なんかよりも、普通はアクセサリーとかでしょ!?これだから夢見る童貞は駄目なのよ!気持ち悪い豚は、太陽に焼かれて死ね!……アンタなんかハーピーとでも結婚しなさい!この豚人オーク!』って言われちゃって……。ハハハ……笑えるだろ?」


「ひ……酷い……」


「わ、笑えねえよ……」


 口を押さえるミリャナに、顔が引きる元気。


「……崖から飛び降りようと思ったらさ……。この山に向かって飛んで行くハーピーを見てさ……。童貞のまま死ぬのは嫌だな……。ハーピーなら……モンスターみたいな俺でも……受け入れてくれるかもって……。もし駄目だったら……あるか解んないけど……楽園を探そうと思って町を出たんだ……。あ、そうそう……旅の準備してたら……親に喜ばれちゃってさ……。もう……。俺……町に帰れ無いんだ……フフフ……」


 悲惨。それ以外に言い表しようが無い男。ハンソン。そんなハンソンのしょげて下がった頭の天辺は、少し肌が見え始めていた。


 空が白み始めた頃に丁度ハンソンの話が終わった。


「夜が開けたな……。元気さんに、ミリャナさん。本当にありがとう……俺はそろそろ行くよ……」


「あ、うん……」


「ええ……」


 ゆっくりと立ち上がるハンソン。どう声を掛けて良いか解らない二人。相手が子供であれば、送り届けて孤児院で良いが、相手は大人のオジさんだ。


 コンテナハウスの入り口までハンソンを見送ると、元気はハンソンに小金貨ひゃくまんえんを一枚渡した。


「……こ、こんな大金……受け取れないよ!命まで助けて貰ったのに!」


「見た感じ持ち物とか全部ハーピーに取られちゃった感じでしょ?それにロウベルグの宿も高いし……アルカンハイトへ付いたら家も探さなくちゃでしょ?」


「そ、そうだが……。それでも……」


 元気に金貨を返そうとするハンソン。見てくれは確かに良く無く……。何日もお風呂に入って無い様子で汚くて臭い。だが、最初にミリャナの事を気遣った様子を見て元気はハンソンを気に入っていた。


 チンコが無い死にそうな情況でもチンコを隠すハンソン。合いの手を欲しがり、いきなり自分語りを始める面倒臭い男でも、この男は紳士なのだ。


「俺達……アルカンハイトから来たんだ……。だから貰うのが嫌なら……。次会った時に返してくれれば良いよ」


「ア、アルカンハイトはあるのか!」


 元気の発言に驚くハンソン。そんなハンソンに元気の隣でミリャナが微笑みながら答える。


「えぇ、もちろん!……でも、ハーピーは、いないわよ!」


「あ、いや……。ハーピーはもういい……。そうか……あるのか……。あぁ……本当に……」


 アルカンハイトの存在が明確化され、膝から崩れ落ちて顔を押さえるハンソン。家では役立たずと爪弾きされ、今まで告白して来た女性には毎度毎度、こっぴどくフラれ、それでも希望を捨てなかったそんなハンソン。彼は今日心から救われた。


 ハンソンは暫く泣いた後。元気達が見守る中立ち上がった。


「す、すまない……。いい大人が子供の前で……。と言っても今更か……。あぁ。アルカンハイト……楽しみだ……。心優しい君達が暮らす町だ。良いで無い訳が無い!本当に楽しみだ!」


 優しいと褒められ、少し嬉しい元気とミリャナ。そして拳を握り締め喜ぶハンソン。そのハンソンの嬉しそうな姿に更に嬉しくなる二人。嬉しさと笑顔の連鎖だ。


「じゃ、またアルカンハイトで!」


「あぁ!金貨は君を探し出してちゃんと返すからな!約束だ!ミリャナさんも色々とありがとう!ではな!」


「フフフ……。スキップしそうな程に喜んじゃって……」


 元気とミリャナは笑顔でハンソンと別れの挨拶を交わし、コンテナハウスの中へと戻った。


「最初は、エッチで最低な人と思ったけど……。悪い人じゃ無かったわね……ハンソンさん」


 テーブルにお皿を並べるミリャナ。山越えの前に朝食だ。


「そうだね……。まぁ、童貞って男にとっては、呪いみたいな物だからね~。ハンソンさんの気持ちは解るよ……」


「そうなの?……何で?」


「何でって……。ステータスって言うか……男のプライドって言うか……。恥ずかしいって言うか……あれ?何でだろ?」


 童貞=恥ずかしい。それをミリャナに何故?と聞かれて、答えられない元気。朝からする話では無いが、その辺り純粋な二人。エロには結びつかない。普通に日常的な疑問だ。


 元気が答えにきゅうしながら、朝食の準備をしていると、コンテナハウスの扉が急にノックされた。


 元気が扉を開けると、扉の前には少し薄汚れたメイド服を着た女の子が立っていた。


「あ、あの……朝早く……すみません……。わたくし……ハルトルデアの町のデアゴ商会でメイドをしています。ロマと言います……。いきなりで申し訳無いのですが……ハンソン様と言うお方をお見かけしませんでしたでしょうか?……体が大きい方なのですが……」


「ハンソンさんなら、ロウベルグの町へ向かいましたけど……」


「そ、そうですか!……生きておられるのですね……良かった……。実は……」


 ホッとするロマ。十二歳ほどの黒髪ボブカットの少女。ロマは聞いてもいないのに、経緯を語り始める。そんな年端の行かない少女を立ち話も何だからと元気はコンテナハウスの中に連れ込み。話を聞く事にした。


「ハ、ハンソンさんの知り合いだって……」


「そう……」


 少女の手を引いてニッコニコで戻って来た元気に、驚いたミリャナだったが、ハンソンの知り合いと聞いて納得する。元気の鼻の下がほんの少し伸びていた気がしたが、気のせいにする事にした。


 クッキーや紅茶を出し。ロマの話を聞く元気。ミリャナはお風呂の準備だ。


 オジさんは汚れて臭っていても良いが、女の子は駄目らしい。


「……と言う訳なのです」


「そうか……。大変だったな……」


 元気が話を終え、クッキーを美味しそうに食べるロマの頭を褒めながら撫でる。


「ロマちゃん。お風呂湧いてるから、入って行きなさい……。フフフ……ハンソンさん会った時に汚いのは嫌でしょ?」


「え!お風呂!……あ、ありがとうございます!奥様!嬉しいです!」


「お、奥様!……こ、こっちにいらっしゃい……」


「はい!」


 ミリャナと一緒にお風呂に向かうロマ。元気はそんな二人の姿を見送りながら、どうした物かと考える。


 ハンソン。彼はハルトルデアの町。最大手デアゴ商会の跡取り息子の内の一人。三男と言う事で不遇に育った男。そして一応、ハルトルデアの領主系列の大貴族だ。


 ロマは孤児でハンソンに唯一、与えられたメイド。これは兄弟からの嫌がらせだ。


 しかしロマはハンソンに色々と物事を教えて貰い、メイドとしていちじるしい成長見せた。だが、ハンソンが家を出たその日に嫌がらせで雇われただけのロマは、即クビになった。


 孤児院に戻っても、飢えて死ぬ様な苦しい生活に戻るだけ。それ位ならと、ロマはハンソンを追い掛けここまでやって来たのだった。


 しかし、家族や故郷と一緒にロマを捨て、町を出たハンソン。そんなハンソンがロマの面倒を見るのかが、実際問題解らない。ロウベルグでの感じからすると、この大陸で孤児は、愛玩動物以下の存在なのだ。


「私には、ハンソン様しかいません……それにハンソン様は優しいのです」


 ロマはそう言っていたが、これは優しさ云々(うんぬん)の問題では無い。多数の意見による刷り込み洗脳。習慣のお話だ。


 日本では、ゴキブリは汚いから殺す。おっぱいはエロいから揉む。豚は美味しいから食べる。パンツは愛しいから眺める。と言った様な常識だが、ラストでは、孤児は殺して良い。それが常識となっている。個人の問題では無いのだ。


「元ちゃん……浮かない顔ね……」


「あ、ミリャナ……。ロマは?」


「お風呂に入ってるわ……。とても喜んでた……」


「そっか……」


 二人はそのまま沈黙してしまう。ミリャナもロウベルグの一見を見て孤児がどう言う扱いをされるのか、思い出していた。


 他の地域までとは言わないが、アルカンハイトでも孤児の命は軽い。今は殆ど無いが、過去に何度も凄惨な事件が起きている。


「ねぇ。ミリャナ……このまま……追い掛けさせて良いと思う?」


「……ロマの気持ちを優先させてあげたいけど……ハンソンさんが貴族だったって聞いたら……ね……」


 行かせてあげたいが、貴族と孤児。上手く行く可能性が低すぎる。


「……俺、ちょっとハンソンさんに知らせて来るよ……。それでさ……ハンソンさんが迎えに来たら……大丈夫なんじゃ無いかな?」


「来るかしら?」


「解んないけど……。ハンソンさんが孤児をどう思ってるかは、解ると思う……」


「でも……迎えに来なかった時。ロマは……」


「私は大丈夫です!……か、勝手にやって来たのですから!」


 お風呂場の前でそう言って仁王立ちするロマ。青と白のストライプ柄の小さめパンツ一丁姿で震える拳を握り締め、涙目で真っ赤な顔をしている。途中から話しを聞いていた様だ。


「ロマ!?お洋服!?元ちゃん!鼻の下!」


「おっと!反射的に!……これ!新しい服!俺が着せて……!ぎゃ!?」


 元気がロマの服を出して立ち上がると、ミリャナの拳骨げんこつが飛んで来た。拳骨をまともに喰らった元気は、痛みのあまり声も出せず床を転げ回る。


「アイリスじゃ無いんだから!駄目に決まってるでしょ!まったく!お洋服貸して!……もう。……ちょっと元ちゃん!……ロマが私を見て怯えて震えているじゃ無い!……お、大袈裟おおげさに痛がらないで……」


 ゴブリン位なら、軽めのビンタで倒せるミリャナの拳骨は鬼痛い。自覚が無いのも考え物だが、ミリャナが本気で拳骨するのは元気だけなので、今の所アイリス以外に被害者はいない。因みにミリャナ拳骨の威力は、工事現場の鉄骨てっこつが頭上に落ちて来る感じだ。一般人であれば頭蓋骨が粉砕する。


 転げ回る元気からロマの服をもぎ取り、ミリャナがロマと一緒にお風呂場へと入って行く。能が震え終わった元気はよろよろと椅子に座り。少しヒビが入った頭にヒールをする。目の前がまだチカチカするが、ここまで来れば大丈夫。と元気は元気で把握している。いつもの脳震盪のうしんとうの後の症状だ。


「フフフ……。ミリャナったら、少女に嫉妬なんかしちゃって……可愛いったらありゃしない……。ふう……。さてと……ハンソンさんの所に行くか……」


 元気はハンソンの所へと瞬間移動をすると、ロマがハンソンを頼って来た事を伝えた。


「ロマが……そうですか……」


「一旦、ロマは預かっておくので……。ハンソンさんがロマを必要だと思ったら……迎えに来てあげて下さい……。夕方まで待ちます……」


 元気がハンソンにそう言うと、ハンソンは少し考えクビを縦に振って答えた。


「……はい」


 さっきは笑顔で別れた元気とハンソンだったが、今度は重い空気の中での別れとなった。



さてはて、ハンソンはロマを迎えに来るのでしょうか?


お気に入りのおもちゃ……。その程度の気持ちでロマを迎えに来られても困る二人です。


少しワロタ! もっと読みたい! 心がピクリと反応した! と思われた方は、ブクマ:評価:いいね等々。よろしくお願い致します。


下の ☆☆☆☆☆ ⇒ ★★★★★ で評価できます。最小★1から最大★5です。


『★★★★★』で……元気も喜び頑張りますw



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