お散歩と無くなった……
まったりとした時間はあっと言う間に……
二人は朝食を終えると、お姉さんに別れを告げる。
「あんた達その格好は紛らわしいから、ローブでも被って行動しな……この町で貴族は恐怖の対象だけど……。他の町じゃ解んないからね……」
別れ際のお姉さんからの助言により。元気達は貴族に間違われない様にローブを纏い、ロウベルグの町を後にした。
「う~ん!お日様の香りがするわ。ぽかぽかで気持ちいいね!元ちゃん!」
現在、ミリャナと元気は黒に近い色のローブを纏い、町から山までの草原の道を歩いている。とても気持ちの良いお散歩日和だ。
「うん!……もっと、モンスターとかいるかと思ったけど……全然いないね……」
見渡す限りの平原。左手には遠目に海の水平線。右手に至っては草原の水平線。正面、遠目には岩肌の山。そこを目指して移動中だ。
「戦わないで良いに越した事は無いわよ……。あ、ほら!元ちゃん!お花の所に蝶々がいるわ!ほら!あの飛んでる鳥も、アルカンハイトでは見ない鳥よ!初めて見たわ!」
些細な発見をしてニッコニコのミリャナ。そんなミリャナの姿を眺めて歩く事……かれこれ三時間……。一向に山の入り口に辿り着く気配が無い。
お散歩をしながら、一喜一憂するミリャナを眺めるのは、至極幸せな時間で良き良きの良きなのだが……。元気はそれ以外に見る物が無い。風景を楽しみ、自然を愛でる。まだその領域に達して無いのだ。
マイナスイオン?パワースポット?ナニソレオイシイノ?……ミリャナノオシリヤ、ホッペヤ、オミミノホウガ、オイシソウ。
元気の方はそんな事を思いながらのお散歩だ。
「アルカンハイトに無い物ばかりで、新鮮ね!」
「うん!……ほら!あの花とかも無いんじゃ無いかな?」
白い小さな花を指差す元気。自然にそれ程興味は無いが、ミリャナと同じ時間空間を共有したい気持ちはある。
「え?あの花は……アルカンハイトにも咲いているわよ?」
「あ……そっか」
「あ……。でも、アルカンハイトよりも……綺麗ね!……うん!綺麗よ!……フフフ。ポタンへのお土産にしちゃおうかな~?」
八割方、珍しく無い物を指摘する元気に、毎回ミリャナが笑顔でフォローを入れる。
「あ!そうだ!ミリャナ!これ……。……たったかたったった~ん♪……押し花セット~!」
元気はミリャナに、大学ノート程の大きさの押し花専用のノートを出してあげた。ページ毎にフィルムが付いていて、花を何処で取ったか書き込める物だ。
「なあに?それ?」
ノートを不思議そうに見るミリャナに、元気が使い方を教える。すると予想以上の喜び様だった。
「げ、元ちゃん!ありがとう!……えぇ~……。いつでも好きなお花が見られる何て……本当にありがとうね!凄く嬉しいわ!」
嬉しさのあまり、感情のまま元気に飛びつくミリャナ。
「ひゃ!……喜んで貰えて良かったよ……エヘヘ……」
「…………。元ちゃんってエッチな事を考えなくても、鼻の下が伸びるのね?……わぁ!どうしよう……。何から押し花しようかな~」
元気の顔を見て不思議そうにした後。ノートを抱えて嬉しそうに辺りを見渡すミリャナ。フェルミナや人魚までとは行かなくても、ミリャナは柔らかく、形の良い、健康的な可愛い、二つの果実を持っているのだ。
元気の鼻の下が伸びるのは仕方が無いと言う物。因みにミリャナがエッチと言う単語と意味を覚えたのは、おませなアイリスのせいである。そして、鼻の下が伸びる。本来は比喩なのだが、元気の場合。本当に伸びていて気持ちが悪い。魔力イメージが強いせいだ。
ポタンが元気に言う。「気持ち悪い」は見た目と内面の二重の意味。ミリャナとアイリスは、異世界人はそう言う物なんだ。と思っているから元気に何も指摘はしない。そして当人の元気は自分がスケベ顔になっている程度の認識だ。
ノートを持って子供の様に花を探すミリャナを見て、心が浄化され鼻の下が元に戻る元気。今度は青い花を指差す。
「ミリャナ!ほら!あの花なんか珍しいんじゃない?」
「それ……。お庭に生えてるわよ?フェルミナが良くウンコしてた所の近くに……いっぱい」
「あれ?……そうだっけ……」
「フェルミナノ・ウンコ花って言って……。ぶはっ……げ、元ちゃん。ミールとフェルミナを揶揄ってたじゃ無い……。プフフフフ……」
「あ!思い出した!……いつもフェルミナのウンコが近くに無かったから、全然気付かなかったや、へへへ」
思い出し笑いをしながら、青い花に近付き花をノートに押し花するミリャナ。
「これでよし!」
「押し花するの?ウンコ花?」
「もう!何でそっちで言うの?……これはフェルミナの花!……楽しい思い出の花。フフフ……良いでしょ?」
「いいね!……うん。とっても良いと思う!」
ノートを開いて見せながら、向日葵の様に明るく笑うミリャナ。そんなミリャナの笑顔を押し花にして、一生眺めていたいなぁ。と思う。心がオダマキ的な元気なのだった。
※オダマキとは『勝利』『必ず手に入れる』『愚か』が花言葉の毒花。花言葉がストーカーの様なお花なので、くれぐれも嫌いな人以外には、プレゼントしない様にしよう。
その後も、草原で花探しをしながら山へと向かう元気達。町を出て約九時間後。やっと山の麓へと辿り着いた。
朝に町を出たが、辺りはもう夕暮れだ。
「ミ、ミリャナ……。山越えは明日にして、今日は麓でキャンプしよっか?」
「そ、そうね……。元ちゃんのくれた靴のお陰で疲れては無いけど……夜の山は足元が危ないわ……」
山の入り口で、山を見上げる元気とミリャナ。山道を魔法で昼間の様に明るく照らす事は可能。そしてモンスターも大丈夫。しかし、目の前の山は入り口からして不気味なのだ。
岩肌の山道への登り口。所々には黒くなって枯れ尖った木。そして薄く掛かった白い霧。他には何も無く殺風景なのだが、それが更に不気味な雰囲気に拍車を掛けている。空を旋回している黒いカラスの様な鳥が、今にも襲って来そうで、それもとても怖い。
「お、おし、じゃ、テントを建てるね!」
「わ、私も手伝うわ!」
元気達は入り口から少し離れた場所にテントを作製。しかし安全面など色々と探求した結果。工事現場にある様な大きめのコンテナハウスになった。
「……ひ、一つで大丈夫……」
「そ、そう?……じゃ……一つで……」
元気は、モジャモジャ考えてもヘタレな俺には、色々と無理だろうな。とミリャナの分のコンテナハウスを併設するつもりだったが、ミリャナがそれを断り。一緒の部屋で過ごす事になった。
最初は緊張でドキマギしたが、御飯を食べたり、話をしている内に二人の気分は落ち着いた。
室内は、二段ベッドに食事用のテーブル。炊事場。入り口横にお風呂とトイレ付きの簡易宿泊所のイメージだ。
洗濯物等は、アイリスへの手間賃の大銅貨一枚を添えて、家へと送る。ミリャナのパンツを干して眺める時間が無いのは残念だが、二人旅なのでそこは仕方が無いと諦めた。
二段ベッドの上はミリャナで、下が元気。ミリャナが上が良いと言ったので、何だか上の段が良いという気持ちの解る元気は、ミリャナに喜んで貰う為に上の段を譲った。
上からミリャナの寝顔を覗き込めないのが、これまた残念だったが、階段を上り下りするミリャナの足の裏のホクロや皺、パジャマ越しに突っ張るお尻や太股。そして、上の段から降り注ぐ可愛いミリャナの寝息を元気は堪能しながら、穏やかな夜を過ごした。
しかし、元気がミリャナの寝息と寝返りで肌と布が擦れる音を子守歌にして、布の擦れる音が少ないから、突っ張ったおっぱいか、お尻の部分が擦れたのかな?……そろそろ寝ようかな?等と思っていた時。それは起こった。
コンテナハウスの近くで、何かがズッズッズっと地面を這う様な音が聞こえ始めたのだ。
ミリャナもそれに気付いた様子で、寝息が止まり。起きている時の呼吸音へと変わる。
「……おはようミリャナ。ミリャナも気付いた?」
「ひえ!?……げ、元ちゃんも起きてたのね……ビックリした……。……変な音で今目が覚めたの……」
「……こっちに近付いてるよな……」
「うん……」
また少し遠いが、確実にコンテナハウスに近付くズッズッズっという音。
そしてとうとう、コンテナハウスの前でその音は止まった。
モンスターならば、何かアクションがあるだろうと様子を見る二人。だがしかしその気配が全く無い。外は物音一つせずシンとしている。
そしてある事が二人の頭に浮かぶ。もしかしたら……お化けかもしれない。
「……ど、どうしよう……ミリャナ……」
「ど、どうしようって言われても……」
モンスターなら力尽くで倒せば良いが、お化けは無理。魔石から生れてすぐの魂には意志があるが、年月が経つと意識失う。そして浮遊霊となる。勿論その中には悪霊となる者も少なく無い。
「げ、元ちゃんなら……除霊出来るんじゃ無いの?」
「やった事無いから解んない……。存在を消す事は……出来ると思うけど……」
「存在を……消す。……そ、それは……。可哀想ね……。元は人間なんだものね……」
布団を被り、ベッドの上下でコソコソ話す二人。ミリャナの言った通り。元は人間。なのでワイトやリッチー討伐の様には出来無い。
元気は幽霊を何度か見ている。その姿は目が吸い込まれそうな程に真っ黒で不気味で怖い。そして死んだ時のイメージが強いのか、殆どが死んだ時の姿に戻っている。首が折れているのや、足が無いの。ガリガリで骸骨みたいなのと、どれもおぞましい者ばかりだった。
ミリャナもミリャナで、教会の夜勤を手伝っていた頃に、時々幽霊を見たいた。
深夜。ミリャナが子供部屋を見回っていると。半透明の裸のオジさんが子供達の寝顔を見てニヤニヤしている事があったのだ。
その不気味な光景にミリャナは、恐怖を感じ足を震わせながらも、子供を守らなければと侵入者に声を掛けた。
するとその幽霊は「……ジュウマデ……ジュウマデ……」と怒りの形相で謎の呪文を唱え、ミリャナの目の前まで凄いスピードで飛んで来て、舌打ちするとニヤリと不気味に笑い消えてしまった。
ミリャナにも子供達にも実際的な被害は無かったが、怖い思い出としてミリャナの脳裏には今もその不気味な笑い顔が焼き付いている。
力が強い弱い。出来る出来無い。問題はそこでは無い。お化けは不気味で怖い。それが真実な二人だ。そんな二人は、布団から出る事が出来無い。
過去に見た幽霊を思い出して、元気とミリャナが布団の中で震えていると、掠れる様な声がコンテナハウスの入り口付近から聞こえて来た。
「……た、助けて……下さい……。だ、誰か……助けて……」
その声を聞いたミリャナが、弾ける様に起き上がりベッドから飛び降りた。
「元ちゃん!お化けじゃ無いわ!人よ!?……助けなきゃ!」
「ミリャナ!?」
裸足のままドアへ駆け出すミリャナ。元気も急いで後に続く。
そしてミリャナがドアを開け、何かを見て固まった。
「何で……こんな……」
「ミリャナ!通して!急いで手当てする!」
「うん……」
ドアの前に立っていたミリャナを押し退けると、元気は声の主に駆け寄った。
そしてヒールをする。
「ど、何方か知りませんが……、あ、ありがとう……ございます……」
「まだ、喋んないで……」
横向きで倒れる男。
その男の身体は血だらけで、両足が無く。腹からは腸が飛び出している。そして、そんな男が渾身の力で元気の服を引っ張り、ボソボソっと何かを耳打ちをした。
それを聞いた元気は、急いでミリャナにお願い事をする。
「ミリャナ……。タオルを濡らして来てくれる?」
「う、うん!解った!」
コンテナハウスの中にミリャナが戻ったのを確認すると、元気は男を仰向けにした。
「ぐぅ……」
仰向けにされ、痛みで呻く男。元気は急いで腹部の修正をする。足などは後回しだ。
「すぐ……治すから……」
「す、すいません……。貴重な魔力を……」
「大丈夫……。絶対元に戻るから……」
腹部の修正が終わり。痛みが落ち着いて来た様子だ。
「すまない……。本当にありがとう……ございます……」
元気を見て涙を流す男。元気もそんな男を見て泣きそうだ。
「……泣くなよ……男だろう?」
「うん……そうだな……」
何かを感じ合う二人。その背後から、タオルを持ったミリャナがやって来る。その気配に男が急いで腹這いになった。
「元ちゃん?これでいい?」
「あ、ミリャナ……!もうちょっと待ってて!こっち見ちゃ駄目!」
「あ!……ごめんなさい……」
ミリャナは元気にそう言われ、急いでコンテナハウスへと戻る。その様子に男がもう訳無さそうに謝った。
「す、すまない……」
「あ、いえ……大丈夫です!……何か必要な事があったら呼んでね元ちゃん」
「うん。ありがとうミリャナ」
元気はミリャナにそう言うと治療を再開する。そして、再び仰向けになった男の姿を見て、恐怖した。
「ハハハ……。笑えるだろ……ハーピーにやられたんだ……」
そう言って悲壮に笑う男。
「……笑えないよ……」
根元から金玉ごともぎ取られた男のチンコ。
それを見て、男に同意する事が出来る訳が無い元気なのだった。
お散歩と無くなったお㊙んぽ。
こうしようと思いましたが、あまりにも酷いタイトルなので表は……でw
山には男の天敵……ハーピーがいるようです……。
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