思いの連鎖
失う者と得る者。そして闇は暗く深く連鎖する。
私がいけなかった……。
しきたりしきたり。そればかりを重んじて……。あの娘の気持ちを考えていなかった……。
相手が何者であれ……娘が選んだ相手だ。
今度は許そう……。生きていてくれるだけで……それだけで十分……。
娘とは、恋人の事で散々喧嘩をした。少し遅いけど……。許して貰えるかしら?
あの娘の好きな海老と貝のスープを作って、娘の帰りを待とう……。相手が人間であっても娘の選んだ相手。きっといい人よ……。
二軒先の奥様の所の娘さんは、ちゃんと帰って来たもの……明日はきっと帰って来るわ……。
早く謝って……娘と仲直りしたい。そして……また一緒に……。
早く帰って来て……元気な顔を見せて頂戴……。
アトランティス。アウトゾーンからの幽閉者解放の後。幽閉者に対しての拷問。殺人を行った兵士はトリトン王の采配にて迅速に処分された。
人魚の兵士による暴行。怪我の放置による壊死や感染症による病死。兵士達の横領による配給不足によっての餓死。そしてイジメに耐えかねての自殺。アウトゾーンでの死者、約百五十名。
彼女達はもう、家へ帰る事は無い。
「あら……奥さん……。貴女の所の娘さん……帰って来ないの?」
「……えぇ。でもきっと帰って来るわ……」
「……そう。そうだと良いわね……」
帰って来る訳が無いでしょう……。もしそうなれば……。人魚の風上にも置けない愚かなアンタの娘を、息子の代わりに私が殺してやる……。
国を出て行った裏切り者が解放され……。何故……私の息子が処刑されなければいけない……。
裏切り者も、裏切り者を許す王も皆……死ねば良い……。
「それじゃ……奥さん……またね……」
「えぇ……。また……」
虐待やイジメに関わり。処刑、アトランティスからの追放となった兵士。約三十名。彼等もまた、戻る事は無い。
イジメや差別の巣窟となっていた『アウトゾーン』一度生まれたその深い闇は、人々が生きている限り消える事は無いだろう。アウトゾーンの発覚に消滅。この事はアトランティスの人々の心に喜びも。憎しみも与え終了した。
アウトゾーンを狂わせた元凶である。黒竜のオリビア。彼女が復讐の為に落とした一欠片の心の闇。その闇がアトランティスの人々の心に根付く事で、子供を奪われたオリビアの復讐は終わりを告げた。
海底都市アトランティス。この国がこの先どうなるのか、それはもう、心の闇による支配を復讐とした彼女の知る所では無い。結果どうあれ、アトランティスがオリビアの復讐により消滅しなかった事。だたそれだけが救いだ。
「……オリビアさんってもう、復讐とかっていいの?」
「ん?……元気は私に復讐して欲しいのかい?……今から世界中を飛び回って来ようか?」
ラピタの客室にて、アーシャにミルクを飲ませながら元気に微笑むオリビア。今日はミリャナとの旅行前の挨拶に来ている。
「いやいや!そんな事はして欲しく無いけど……。その……アーシャ見てたらね……」
オリビアに抱かれ美味しそうにミルクを飲むアーシャ。オリビアに似て美人さんになるだろうと元気は思う。そして……一番目の子供もきっと可愛かったんだろうなとも……。
「フフフ……。この子が生き返ったのならもうそれで良いわ……。それに……一応この子の……古里になる訳だし……」
「そっか……」
自分のお腹を愛おしそうにさするオリビア。その姿に元気は言葉が出て来ない。
「フフフ……。心配し無くても大人しくしてるわ……。何なら、島の護衛もしていてあげるわ」
「え!……いいの?」
「えぇ。この子達が暮らす場所だもの……」
「そっか……。ありがとう……」
「護衛料は……この子達の学費の免除ね」
「ハハハ……。気が早く無い?」
「早く無いわ……。何百年も考えていたのだから……子供の成長した姿をずっと……」
「……そっか」
アーシャを優しく見つめるオリビア。その姿はただの優しい母の姿であり。腹の底に怒りを秘めた黒竜の姿は、もう何処にも無かった。
アトランティス編最後に急遽付け足し!
アトランティス編は終わりますが、アトランティスの人達の生活はこれからも続きます。……なんつってw
次回からは本当に旅行編ですw
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