海の底から
セイレーンとローレライのお話。
アトランティスの王妃。ローレライ。彼女が復活を遂げ。数日が過ぎた日の出来事。
「ノコギリ!ローレライは何処に行ったのだ!」
王室内の警備。及びに執務の手伝いを行うノコギリ鮫の魚人ノコギリ。フェルミナを打ち倒す程の実力者だ。
「トリトン様……。ローレライ様はお出かけになりました……」
「ど、何処にだ!?……まさか!また外海へと行ったのか!」
「……その様です」
「その様ですとは何だ?……お前はずっと王室内にいたのだろう?」
「居ましたが……。いつものアレです……」
「ぐぬぬぬ……。セイレーン様の力か……」
セイレーンの『サイレントヴォイス』の力を使うと辺り一帯の魔力が無効化される。幾ら警戒をした所で魔力探知が出来ない。
そして、ローレライが持つアトランティスの王妃に代々受け継がれる宝具。『人魚の羽衣』魔力を使わずに姿を隠す事が出来る羽衣だ。
それで姿を消されると、もうどうしようも無い。本来は外敵から姿を隠す物なのだが、ローレライはお城脱出様に使っている。『サイレントヴォイス』ととても相性が良い羽衣だ。
宝具と神力を使い。アトランティスから脱走した二人。そんな二人が向かっているのはユートピアだ。
「ローレライ……。その……貴女は一度人間に殺されたのに……。また丘に行こうだなんて……怖く無いの……?」
「怖くは無いわ!……いい人もいれば悪い人もいる。そんなのは、魚人も人間も一緒よ!」
「それは、そうだけど……」
深海からアルカンハイトを目指す二人。
セイレーンにとって遠い孫になるローレライ。そんなローレライにお願い事をされると断る事が出来ないセイレーン。今回もお願いをされ脱走を手伝ったが、ローレライが死んだ時の事を思い出しセイレーンは不安で仕方が無い。
「それに、お婆ちゃんやトリトルばっかりズルいわ!私もユートピアに行ってみたい!良い所なのでしょう?」
「ええ……。水は澄んでいて……。住民は皆親切で……とても良い所よ……でも……今度貴女に何かあったら私は本当に……」
「もう!……あの日の事は私がお婆ちゃんにお願いした事でしょ?……お婆ちゃんのせいじゃ無いわよ……」
「でも……」
先を泳いでいたローレライが、海中で泳ぎを止めセイレーンに向き直り腰に手を当てる。
「もう!……お婆ちゃんは誰に似たのかしら?そんなにウジウジして!」
「あ、ごめんね……ローレライ……」
「もうもうもう!もう!謝らないで!……私が戻ってから、ずっと謝ってばっかりじゃ無い!」
「ご、ごめんね……。でも、あの日私が何もしなければ……」
「はぁ……もう……。いいってば……。あの日は私がワガママを言ったからあんな事になったんだから……」
「でも……」
ローレライが死んだ日。人間に連れて行かれる所を見ている事しか出来なかったセイレーン。その事をずっと今でも後悔している。ローレライはローレライで、自分のワガママのせいで、優しいセイレーンを苦しめてしまった事を申し訳なく思っていた。
「……一時は大人しく城に居ようと思ったけど……お婆ちゃんが元気無いのは面白く無いのよ……。お婆ちゃん私の顔見ると、泣きそうな顔をするんだもの……」
「そ、それは……」
「だから!……もう一度丘に行って、お婆ちゃんと楽しい思い出を作りたいの!そしたら、もうお婆ちゃん泣きそうな顔をしないでしょ?」
「ローレライ……」
「さ、行こ!」
セイレーンの手を引き泳ぎ出すローレライ。そんなローレライの後姿を見て涙が溢れるセイレーン。自分の事を考えてくれる孫娘が愛おしくて堪らない。
『お前は役立たずだ。神になっても何の役にも立たないとは……』
セイレーンがアトランティスの王妃だった時代。セイレーンはポセイドンに役立たずと、そう言われ続けた。
戦うのが苦手なセイレーンは、武力国家では役立たず。そんなセイレーンは子供の成長と共に、子供からも煙たがれる様になった。
セイレーンは、子供を平和を愛する様に育てたつもりだったが、その子供は平和では無く、武力を愛した。
親子で戦場に出る様になったポセイドン達は、国力を増す為。神の能力を奪い自陣営に神を作り出し、人間国に勝利をしようと考えた。
神の力の継承。それは未知の儀式。
継承は死んでも問題無いセイレーンが実検体として選ばれ。セイレーンはその提案を快く受け入れた。
どんな事でも良い。旦那や息子。国民に必要とされたかったのだ。
しかし、セイレーンに能力を渡したのは、人生に疲れ果てた凪の神だった。
魔力を殆ど持たない人間には、『サイレントヴォイス』は役に立たない。そして、魔力を使う魚人族には、セイレーンの能力は邪魔者以外の何者でも無かった。
その日から、セイレーンは誰の目にも止まらなくなった。そしてその内誰にも必要とされなくなったセイレーンは、アトランティスから離れ海卵で生活をする事にした。
心の何処かでは、いつかポセイドンが迎えに来てくれる事を願っていた。がしかし、ポセイドンがセイレーンを迎えに来る事は無かった。
それから数百年。気まぐれで海上の様子を見て回る内に、フェルミナや、ローレライと出会った。
そして、ローレライが平和を願う愛を持った自分の子孫である事を知ったセイレーンは、駄目な事だと解りつつも、ローレライに依存してしまった。そして事ある毎に姿を現しては甘やかした。
ローレライに必要とされているのが、セイレーンは嬉しかった。
その結果。愛しい孫娘のワガママを受け入れ続け、あの日。目の前でローレライを死なせてしまったのだった。
そんなセイレーンの心の傷は、どれ程嘆いたところで一生消える事は無いだろう。勿論。人間に殺されたローレライの心の傷も一生消える事は無い。
「お婆ちゃん!見えたわよ!アルカンハイト!……丘に上がったらパンツってのを履くんでしょ?」
「え、ええ。元気さんから貰ってるわ!」
「フフフ……。堂々と丘に上がれるのね……楽しみ!……お婆ちゃんいっぱい楽しい思い出を作ろうね!」
「えぇ勿論。……驚くわよ……。喋る赤ちゃんがいるんだから……」
「えぇ!?……会うのが楽しみだわ!」
しかし……嬉しそうに手を繋いで丘に上がる二人の心の傷は、今は海の底に……
……と。ここで終わるときりが良いのだが、二人が薄暗い深海から丘に上ったのは、綺麗な月が輝く真夜中。パンツ一枚でずぶ濡れのアトランティス王妃の急な訪問に、慌てふためくアルカンハイト一同なのだった。
これにてアトランティス編は終了だす。
セイレーンから始まり。セイレーンで終わらせますw
次回から元気とミリャナの旅行編w
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