背中
ミールとアルトのお話。
昼と夜共に、生活が充実して来たユートピア。それを基準にアルカンハイトの町も新しい物の取り入れ始めた。
町の急速な発展は、町に住む人間達にとっては、良い事。そしてそれ以上に刺激的な娯楽である。新しい発見や技術の進化。そんな楽しい遊びに、職人達がこぞって町を発展させる事を楽しんでいた。
「やっと会う気になってくれた様だなミール……」
「……母さんを仕向けるのは……卑怯だよ叔父上……。姉さんと元気が旅行でいないから……逃げ様が無いじゃないか……」
「逃げ様が無いか……。……何故お前は、我々から逃げるのだ?」
「……どうせ、面倒な事の押し付けでしょ?……元気を見てれば解るよ……」
領主執務室にて、ソファーに座りミールと向かい合うヴァイド。ポタンの提案でミールを時代の商業ギルド長として育てる事を考えていた。
「面倒事の押し付けか……」
ミールは元気を引き合いに出したが、ヴァイドは元気からミールの本音を聞いている。ダルドリーやリャナを戦争に送った事を根に持っているのだ。
理由はどうあれ、ダルドリー達を戦地へ送りだす決断をしたのはヴァイド。生きて帰れば良かったが、そのせいでミール諸共死んだのだ。言い訳のしようも無い。
「……で、話って何なのさ叔父上……。母さんに四六時中付き纏われられたんじゃ、仕事にならないんだ……」
「付き纏うなど……。そんな言い方はちょっと義姉さんが可哀想じゃ無いか?」
「母さんが可哀想?……風呂にトイレ。寝る時までもずっと、『城に行って話をしなさい』ってずっと耳元で囁くんだぜ?どう考えたって俺の方が可哀想でしょ……」
最近ずっとリャナに張り付かれているミールからは、疲労感が見て取れる。ヴァイドは目的を持ったリャナの行動力を知っている。恐ろしくしつこく粘着質なのだ。
「義姉さんにずっと……それは、堪らんな……」
「元気が母さんのアレに耐えるから、最近は昔よりパワーアップしてる……。父さんも父さんで、朝から部屋にやって来て釣りに誘おうとするし……。……叔父上が母さん達に何か言ったんでしょ?」
ミールがヴァイドを睨む。相手が元気ならば、笑って済ます所なのだが、相手はミール。過去の事もあり強くは出られない。
「あ、いや……。夕食の時に、ミールと話がしたい。と一度言っただけなのだが……。そんな事になっているとは……。すまないな……」
「もう、いいよ……。で、話って何なの?今日も仕事があるんだ」
ポタンの言っていた通り、ミールの仕事に対する真面目な姿勢にヴァイドは少し驚く。最近のダルドリーやリャナを見ていると、ポタンの言う事だけでは、信用があまり出来ていなかった。
家族としては大好きだが、頭を使う様な仕事のパートナーとしては不安しか無い二人。ヴァイドはミールに対しても自然とそう思ってしまっていた。
対してミールも同様。子供の頃は良かったが、思春期を迎えた今。毎朝釣りに誘って来る父親。何だかいつも魚臭い父親。アルトとの仲を執拗に聞いて来る父親。そんな父親の弟のヴァイドが、普通な訳が無いと思ってしまっている。ましてや、元気が色々と巻き込まれていると言う認識。ミールの中ではヴァイドは関わると面倒な相手の代表なのだ。
「……うむ。正直……。兄上と義姉さんの子供って事で……。もっと適当な事を言う子供なのかと思っていたが……認識を改めるべきか……」
「適当って……。叔父上こそ、父さんの弟なんだからもっと、遊び人的な人かと思ってたよ……」
「ハハハ……遊び人か……。遊ぶのは大好きだが……。兄さんがアレだからな……」
「……俺も父さんがアレだよ……」
ダルドリーの自由に遊ぶ姿を思い浮かべ苦笑する二人。親兄弟が自由だと下の者が苦労する。その体現者な二人。面と向かって話す事で、お互いの苦労が理解出来た様だった。
「……ミール……。お前……。商業ギルドで働く気は無いか?」
「え?……商業ギルド……?何で俺が?」
いきなりのヴァイドの発言に面食らうミール。そんなミールにヴァイドが経緯の説明をした。
「……俺に、後々……商業ギルドの長をしろって……。叔父上……本気?」
「あぁ。……今日会うまでは正直無理だろうと思っていたが……。どうやらミールは義姉さんと兄上の良い所を受け継いでいる様だ」
「良い所?」
「うむ。義姉さんのずる賢さ、それに兄さんの直感力……。今ここに、今いる事が証拠だろう……。面倒事ではあるが……将来的には悪い事では無いだろう?」
「……面倒事ってのは認めるんだね……」
「フフフ……。面倒事の少ない人生の方が少ないだろう……」
「……まぁね……」
アルトと一緒にお金を貯めて家を買うという夢に向かって仕事をする。そんな毎日が楽しく無い訳では無い。しかし働けば働く程見える現実。少年少女がいくら正攻法で頑張った所で、家など買える訳が無いのだ。
「月謝は月に大銀貨二枚……」
「え!?……二枚!?……それって俺一人で……?」
荷物運びのバイトは、一日二人で小銀貨一枚程度。それに雨の日や荷物の無い日はお休みである。二人でクタクタになるまで頑張って、月に(大銀貨)二枚になる事は少ない。
「お前は、ギルド長候補として……その金額になるのだが……」
「……アルトは駄目って事か……」
ヴァイドの口利きがあっても、孤児のアルトには学も信用も、親の肩書きも何も無い。ミールは英雄の息子。領主の親戚と言う事で何とかねじ込める。
「しかし……。条件次第では……共に働く事も可能だ」
「……条件って?」
「……領主一族の使用人としての雇用だ……。それなら、アルトを従者として連れ回せる……。まぁ、少し従者としての教育が必要になるがな……。その教育の費用は……城で行えば払わなくて良い……」
「……アルトが、俺の従者……そんなの……」
ミールはアルトの事を親友だと思っている。そして将来的には一緒に暮らすパートナー。いつもどんな時でも対等な関係じゃ無いと嫌なのだ。
「そんな苦虫をかみつぶした様な顔をするな。上辺だけで良いのだ……。それに、無料で学ぶ機会を得ると言うのは、孤児にとっては…………あ、いやすまぬ……孤児と言う言い方は良く無かったな……」
「あ、いえ……。こちらこそ……すいません……」
アルトを孤児と言われ、自然と顔付きが険しくなっていた事に気づくミール。
「……アルトが賢くなる事は良い事だろう?……それに将来的には結婚を考えているのなら尚更だ」
「……結婚」
「孤児である事で舐められる訳にはいかん……。領主一族の長男の息子であるお前の嫁なのだ……それは当然であろう?」
「……領主一族……」
ミールは現在、誰よりも次期領主に一番近い場所にいる。その事は考え無い様にしてきたが、アルトとの将来を考えると逃げ様の無い事柄なのだ。
ヴァイドは遠巻きに、次期領主の座も狙えるぞ?とほのめかしたのだが、ミールの反応驚く程に薄い。
「……お前も、領主には興味が無いと言う感じか……?」
「え?……まぁ……」
現在は領主である事に誇りを持っているヴァイド。だが、ダルドリーを含めた身内の権力や欲の無さに顔を顰めてしまう。
「……はぁ。どうして其方達は領主になるのを嫌がるのだ……。兄上に始まり、元気に……お前まで……。お前には英雄願望があったのでは無いのか?」
「あったけど、そのせいで死んじゃったし、今はアルトと一緒に生きていれる。それだけで……良い……」
一度死んだ。そう言われてしまうと何も言えなくなるヴァイド。正直ヴァイドも領主や王の職など辞めて、ダルドリー達と遊びたいと時々思う。人間、死んだら欲もクソも無いのだ。
「お前の気持ちは……まぁ。解った。この話はまだ良い……。取り敢えず今は、今の話だ。いざとなれば、元気になんちゃって領主をやらせて、ポタンに指揮させれば良いからな……」
「そんな適当な……」
「適当だが……。これ以上に適当な配置は無いだろう?」
「……まぁ。その配置は最適だと思う……」
各国で世界で有名な元気に、最強の頭脳の持ち主のポタン。後先考えなければ最悪で最強な二人だ。
「お前に領主になるのを無理強いして、兄上の様に何処かに行かれてしまっては、俺が義姉さんに殺されるからな……。後継ぎは……グレイ兄さんとグレイスが男を産む事を願うしかあるまい……」
「そうですか……」
諦めた様に宙を見るヴァイドに、ミールはホッとする。領主の様な面倒事ほど関わりたく無い事柄は無いのだ。
「取り敢えず。ギルド長の件は考えておいてくれ……。領主とは言わずとも、仕事はそれなりの物であった方が良いだろう?」
「それは……。確かにそうですね……」
「……話は以上だ……。まぁ、何だ……。時々で良いからお前も城に顔を出せ……ここ最近普通の会話と言う物が出来んのだ……」
「……はい。また来ます……」
深い溜息を吐くヴァイドにミールは同情してしまう。面と向かって話をすると、ヴァイドは問題児達の面倒を見る苦労人のオジさんだった。
ミールがヴァイドの認識を改める事となった話し合いを終えると、城門前で待機していた、馬車に乗り込みアルカンハイトの町の孤児院へと向かった。
そして、アルトと合流した後。商業ギルド倉庫からの荷物を受け取り一緒にユートピアへと向かう。その道中にアルトへ朝にヴァイドと話した事を全部伝えた。
「へぇ~……。いい人じゃん。領主様」
「アルトはそう思うか?」
「うん!……でも、勉強か~……苦手なんだよな~」
荷押し車を押しながら、空を見上げるアルト。ミールは前を向いたまま。ユートピア間での道を進む。
「……お前、決まっても無い内に前向きだな……。アルトは俺の従者でも良いのか?」
「え?……一緒にいれれば何でもいいよ?……お給金も高いんでしょ?……家買うのが早くなるんだろ?……良い事だ」
「……お前……プライドとかねえのかよ……」
友達や家族関係には譲れない物があるミール。孤児。奴隷。貴族。異人種。育った環境はどうであれ、友人知人になれば対等。家族関係。友人知人になれば尚更だ。
「プライド?そんなもんじゃ、飯は食えねぇからな~……。ミールは私が従者は嫌か?」
「嫌だな……。アルトとは対等がいい……」
「そうか……。じゃあ、私は勉強しなきゃな~……」
「何でそうなるんだよ?」
「対等が良いんだろ?……私はミールにして貰ってばっかりだからな……。ミールの為に勉強して役に立つよ!」
「……役に立つとか、そんな話じゃ無いだろ……」
「私は……役に立たなくて良いのか?」
役に立つか、立たないか、パートナーとしては役に立って欲しいが、アルトはアルトのままで十分だと思っているミール。何と返した物かと考えるが答えが出ない。
「……はぁ。やっぱり、叔父上の話は面倒くさい事だったな……」
「そうか?……ミールは難しく考え過ぎだって!」
「お前が気楽に考え過ぎなんだよ……」
「へへへ……」
アルトの笑い声を聞いて、やっぱりこのままが良いと思うミール。家を買うのが遅くはなるだろうが、アルトと適当な話を毎日するのが心地良いのだ。
「……ミールは私と……その……結婚はするのか?」
「え?……何だよ……いきなり……」
「えっと……。好き同士はするんだろ?……結婚……リャナさんが……言ってたぞ……」
「……まったく……母さんは……」
「……ミールは嫌か?」
後を見なくても、アルトが照れているのが解るミール。それに溜息が出そうになる。リャナが孤児院に戻ってから、この手の会話が孤児院の女子達の間で多いのだ。
「……今は、お金を貯めて家を買う事が先決だろ……」
「そ、そうだな……。へへへ……。家を買わなきゃな……」
ガッカリするアルトの声に更に溜息が出そうになるミール。何で伝わらないんだ。と腹も立つ。家を買って一緒に暮らすと言うのは、そう言う事だろうと思うが、アルトには伝わらないのだ。
「…………。その内……ちゃんと考えてるから……今は仕事を一生懸命しろ……」
「か、考えてるのか!?……そうか!……へへへ……。そうか……へへへ……そうか……」
一瞬にして声色が明るくなるアルト。ミールの気持ちがちゃんと伝わった様だ。
少し鈍感だが、素直なアルト。そんなアルトが大好きなミール。やっぱりこのままが良いと思う。ヴァイドからの誘いは断り。二人でこのまま頑張ろう。ミールはそう思うのだった。
しかし、次の日。アルトが急に孤児院から姿を消した。
治安の良くなったアルカンハイトの町だが、孤児の誘拐未遂等は時々起こる。殺傷までは行かなくなった物の暴行事件等も起こる事がしばしあるのだ。
「クソ!……何処行ったんだアルト!」
アルカンハイト、ユートピアの町中を駆け回り姿を捜すが、アルトの姿は無い。元気とミリャナもこんな時に限っていないのだ。
「……ポタンに……頼るしか無いか……」
お小言を喰らうだろうが、孤児の行方不明は命に関わる緊急事態。そんな事は言ってられない。ミールは急いで町で馬車を借りると城へと向かった。
そして門番に事情を説明する。しかしミールは簡単には通れない。城に顔を出さないからミールは城の兵士と殆ど面識が無いからだ。
「い、急いでくれ!」
「解った……」
解ったと言いながら、ノソノソと城に向かう兵士にミールは腹が立つ。いなくなったのが孤児では無くて貴族であれば、走って向かうはずだ。と更に腹が立つ。しかし城門を怒りと焦りで突破した所で、ポタンがいる図書室へ辿り着ける気がしない。待つしか無い自分にも腹が立つ。
門前の兵士詰め所でミールが通行の許可を待っていると、ポタンがミールの前に瞬間移動で現れた。
「ミール……あのね……」
「……嘘……だろ?……だって……」
『アルトが死んだ』ポタンが言い放ったその一言はミールを地獄の底へたたき落とすには、十分な一言だった。
ポタンの持って来た薄汚れたシスター服。それは紛れも無く、アルトがいつも着ている洋服だった。
ポタンがミールに何かを言っているが、ミールには何も聞こえない。ポタンからアルトの洋服を受け取るとミールはそのまま家へと帰った。
それから一週間。働く意味も気力も失ったミールは部屋に引き籠もった。
孤児の葬儀は行われない。死体も魔石も無い。何故死んだかも解らない。無い無いづくしだ。
だがしかし、知りたくも無い。信じたくも無い。が何処へ捜しに行ってもアルトの姿は無かった。
「アルト……。あいつも……俺が死んじゃった時……こんな気持ちだったのかな……」
部屋の隅っこに座り。天窓から星を見上げるミール。食事を殆どしなくなり、少し痩せ、目の周りは寝不足のせいで真っ黒。朝から晩までアルトの事ばかり考えている。
「……ったく……。どんだけ私が好きなんだよお前……」
「え!……アルト……何で?」
不意に聞こえたアルトの声にミールは、部屋の中を見渡す。すると階段からアルトが顔を出していた。
「うわ!?お化け!?」
「うわ!ってハハハ!ミールダセぇ~」
笑いながら階段を登ってくるアルト。そんなアルトの姿は白いドレス姿。何処かの貴族令嬢の様だ。
「な、何で……?」
「何でって……。生きてるからだろ?……情け無いな~。あの時の私より酷いじゃ無い……きゃ!?」
ミールを指差すアルト。そんなアルトが喋り終わる前にミールはアルトに抱き付いた。
アルトはそのままミールと一緒にソファーベッドへと倒れ込んでしまった。
「アルト!……アルト!何で!……良かった……アルト……」
「な、泣き過ぎだってミール……まったく……」
まったくと言いながらも、嬉しそうにミールを抱き締めるアルト。ミールはアルトの確かな温もりと感触に、心から安心する。そして収まる感情と共に熱が冷め冷静になって行く。
「……何でお前……ここにいるんだ……?アルトは……死んだって……」
痩せこけ、涙を流すミールを見てアルトは少し気まずそうだ。
「いや……。このままだと、ミールが死んじゃいそうだから……会って来いって……」
「……誰が?」
「……ポタンちゃん……」
「訳を話せ……」
「ふぁい……」
アルトのほっぺをぐにっと掴み。現状の説明を求めるミール。ミールの静かな激怒具合に、アルトは断れず。ダルドリー発案の秘密計画を素直に話す事にした。
アルトが行方不明になった日、アルトが向かったのは王城。
「ミ、ミールの、お嫁さんになりに来ました!勉強したいです!」
「ちょ、ちょっとお待ちを……」
荷物を持って、城の門前に立つアルト。そんなアルトに驚く兵士。急いで城内へと知らせに向かった。
その後、問題無く城に通されたアルトだったのだが、ヴァイドの所へ向かう前にダルドリーに見つかった。
それが事の始まりだった。
「兄上……。それ……ミールが可哀想過ぎるよ……」
「そうか?……でも、アルトを貴族にするのが一番手っ取り早いだろ?……手続きの間だけ消えるだけだしな。それにアルトの頑張ってる姿を見たら、ミールが領主をする気になるかもしれんぞ?」
「……それは、そうかもだけど……。別に死んだって伝え無くても……」
「……フフフ。物事には、劇的な刺激が必要だろう?」
「……何かあったら兄上が責任取ってよ?」
「ああ!大丈夫だ!任せろ!……アルト!一緒に頑張ろうな!」
「え!?……あ、うん!」
「ハハハハハ!アルトは素直で良い子だな!」
「え!?……へへへ……。そうかなぁ?」
豪快に笑うダルドリー。そんなダルドリーに褒められ照れるアルト。話の理解は殆ど出来ていない様子だ。
町での孤児の生死など、殆どの人の感心が無い事柄。しかし、孤児が領主一族に嫁ぐのは大問題。町の人々からの信用が揺らぐ。身分差結婚。それは政治の世界ではなんら美談で無いのだ。
現在は王族になっているので殊更である。そこでダルドリー発案の『貴族令嬢誕生作戦』が強制的に始動した。
「……と言う訳で……ポタン。ミールを追い返してくれ!」
「な、何で私が!?」
図書室にやって来たダルドリー。自分の計画に人を巻き込むのは常だ。
「一番こう言う作戦を練るのが上手いじゃ無いか?……なぁ?……飯も食わずに図書室に籠もってるの……ミリャナに黙っとくからさぁ……な?……頼むよ?ポタン……」
ニコリと子供の弱点を平気で突くダルドリー。
「ぐぬぬぬ……。何かあったら責任を取ってよね!」
「わかった!」
元気と同じ様な返事をするダルドリーに、何か起きる気しかしないポタンだったが、アルトを中央の貴族令嬢とする事で、結婚の時。領民からの信用問題を解決するシンプルな作戦。確かに問題を排除するには手っ取り早かった。
しかし、そこにはミールの気持ちなどへの考慮が微塵も入っていない。その後アルトは城へと身を隠し、ミールや商人ギルドなどの関わった人への接触を断った。
そして、各所への手回しをポタンとヴァイドで行った。
アルトと言う孤児が森で死んでいた。とギルドの関わりがある各所では噂を流し、孤児院ではリャナがシスターには本当の事をさも美談の如く聞かせた。
「ええ……。アルトはこれから幸せな生活を送るの……。一緒に祝福するべきよね?……だからミールには内緒よ……わかった?」
リャナはリャナで、元気が旅行に行ったので暇つぶしを失っていた。なのでダルドリーやポタンの話に乗っかった。
着実にアルトの死亡が広がり。ミールがそれを信じ込み。役所ではポタンとヴァイドの権限で、秘密裏に出生改ざんが行われた。
そうして、貴族令嬢誕生の準備が整った頃。ダルドリーは作戦に飽きていた。
「あ、飽きただと……。親父の野郎……。許せねぇ……」
怒りで、身体が震えるミール。アルトが今にもダルドリーの元へ駆け出しそうなミールを抱き締める。
「ミ、ミール……待って!……。城に行ったのは私だから!……ミールのお嫁さんになりたいって……」
「……だからって死んだ事にしなくても……」
「……孤児には……それ程に何も無いんだよ……ミール……」
「……アルト」
アルトの寂しそうな笑顔に、ミールの身体中の力が抜ける。そしてアルトに覆い被さる様に突っ伏した。
「お、重いぞミール!?」
「……俺を騙した罰だ……我慢しろ……。それで……これから、どうするんだ?」
「……。お勉強するつもり……。ミールが対等が良いって言ったろ?だから私もミールを助けたい……」
「……一緒に居たいから……駄目だって言ったら?」
そう言いながらアルトを抱き締めるミール。
「え!?……それは……」
いつもはしっかりしているが、今日は甘えん坊なミール。そんなミールが嬉しくて愛おしく思うアルト。
「もう、離したく無い……」
「ミ、ミール……。こ、困るってば……私もずっと一緒に居たいし……。ずっとギュッとしてたいけど……。私もミールを……」
「……助けなくて良いよ……ずっと一緒に……」
ミールの甘えん坊がマックスになり。アルトにキスをしようと顔を近づける。アルトもキスをしたい気持ちが山々だったが、気を引き締め、ミールへと頭突きを喰らわせた。
「ミールの……お馬鹿!?」
「ぎゃ!?……何すんだよ!?」
「何すんだよは、こっちのセリフだ!助けなくて良いってのは、どう言う事だ!対等が良いてのは嘘か!?」
「いや……。それは……」
「孤児の私が……どんな気持ちでお貴族様達が住むお城まで行ったか!……もういい!お前なんか知らん!何処かの誰かに甘えとけ!」
「あ、おい!待てって!……アルト!」
ミールを押し退けたアルトは、屋根裏からリビングへと駆け降りて行った。
ミールも急いで追い掛けて階下に降りるが、既にポタンと瞬間移動で城に戻った後だった。
「……クソ……。俺の気持ちは無視かよ……。はぁ。……俺も……か……。腹減った……」
アイリスが作ってくれていた夕食を食べ。アルトが生きていた事に安堵するミール。しかし先の事を考えると、ズシリとスプーンが重くなった。
次の日。
城を訪れ、ミールはヴァイドに面会。ダルドリーは朝早く釣りに出掛けた。
対面に座るミールは明らかに不機嫌そうだ。
「ミ、ミール違うのだ……。あれは兄上の発案でな……。た、多分お前の将来の事を考えてだな?」
「……そう。俺の将来を考えて……俺だけにアルトが生きてるのを秘密にしてた訳だ……」
「あ、いや……。それは……」
悪戯大成功だな!とダルドリーが喜んでいた。等とはとても言えないヴァイド。ミールに対しての答えに窮する。
「…………叔父上……。仕事の件、受ける事にするよ……。アルト……頑張ってるんでしょ?」
「あ、あぁ……」
ダルドリーの悪戯が上手く行っている事に驚くヴァイド。しかしこのミールの出した答えは、アルトの覚悟に対するミールなりの返答だ。
「そ、そうだ!アルトだが……今マナーのレッスン中なのだが……見て行くか?」
「うん」
ミールがヴァイドに頷くと、マナーレッスンが行われている客室へと、一緒に向かった。
客室の中ではアルトがパンを使って、ナイフとフォークの使い方をヴェルニカに教えて貰っている。
「難しいよこれ……」
「アルト……言葉遣いがなりません……。難しいです」
「あ、……うん。これ、難しいです」
「うんでは、ありません。返事は、はいです」
「あ、はい!難しいです……」
「……よろしいですが……よろしくはありませんね……」
「はい、そうです」
「……はぁ」
アルトの様子に頭を抱えるヴェルニカ。そんなヴェルニカを見て焦るアルト。
「あ、あの!私!頑張るますので!……よろしくです!」
「……では……もう一度……」
「はい!」
テーブルで向かい合う二人。ヴェルニカはアルト相手にかなり手こずっている様子だ。
「……ミール。良い娘を見つけたな……。素行は良く無いが……。めげない姿勢は良い……」
「……うん」
その後も何度も怒られるアルトを見て、ミールは、成長しようとするアルトには負けていられない。と心に火が付いた。そして彼女の前を一歩でも先に歩き、一生アルトを守ろう。そう決心したのだった。
アルトのレッスンを見終わると、ミールはヴァイドから仕事の説明を受け。開始時期等を決めて帰宅となった。
「お!ミールじゃ無いか?今日はどうしたんだ?」
ミールが執務室から出ると、釣りの帰りだろうか、バケツと釣り竿をひっさげミールを見つけて嬉しそうなダルドリーがいた。
その姿に、大人になりかかっていた心は一瞬にして霧散。怒りに任せ。ダルドリーに本気の跳び蹴りを喰らわせたミールなのだった。
長くなっちゃいました。
細かく刻もうかと思いましたが、普通に一本でw好きだから守りたい。それはどちらも一緒ですw
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