月の雫~ユートピア本店~
これを書きたかった。
『月の雫』一時の安らぎをあなたに……。
「あら……いらっしゃい……。お兄さん。初めてね……何にする?」
「取り敢えず……エールで……」
カウンターに座る男に、優しい笑顔を見せながら、おしぼりを出すヤール。黒髪にパーマを当てて、星屑のピアスに黒いスリットドレス姿。
薄暗い室内でチラリと見える褐色の生足と、胸の谷間が恐ろしい程に男の目を引く。
「はい……お客さん……。エール……私。ヒトリア……。よろしくね……」
ヒトリアは白いショートワンピースのヒラヒラのドレス。金色のショートヘアーに月の飾りの付いた金色のピアス。それがライトで光り、赤く艶めかしい紅を塗った唇を際立たせている。ショートワンピースから抜け出た足はスラッと長く、大きく開いた胸元は手が張り付きそうな程にみずみずしい。そんなカウンター内の二人の美しさに息を呑む男。
しかし、後のテーブル席の片付けをしているシャーリーに、男の目は自然と向いてしまう。長い青い髪を垂らしながら、薄暗いライトの中で、懸命にテーブルを拭く緑色のドレスを纏った、子供と見間違うかの様な小さい女性。……露出は少ないが……。二度見……。三度見してしまう程に大きい。
人魚とは……大きい種族なのだろうか……。と男は思う。地味で目立たないからこそ、清楚な存在感があるのだ。と男は誰かに言われている様に感じる。それは神かも知れない。とエールをゴクリと飲み込む。
そして……小さな唇に塗られた紅。耳から下がる星のピアスが子供の容姿に似つかわしく無い……。似つかわしく無いのだが……。男心をくすぐる何かが確かにそこにあるのだ。
「……お客さん……。ボトルを入れたら……次からお安くなるけど……どう?」
「ボトル……?」
「フフフ……。シャーリー……。この方あなたが気に入ったみたいだから……。説明してあげて……」
「あ……。いや……俺は……」
「シャーリー……早く……」
「え!……うん……。どうぞ……こちらに……」
ヤールに強く言われると断れないシャーリー。アルバイトのはずなのに……何で私ばっかりと思ってしまう。しかしボトルを入れれば、お時給の他に歩合で、大銅貨一枚アップ。シャリの学校の文房具やバックの準備もあるし、お洋服の準備もある。毎日のご飯代も旦那がいないので、自分で稼がなければいけない。お金は少しでも多く稼がなくていけないのだ。
「お、お隣……失礼します……。シャーリーと言います……では説明を……」
「あ、あぁ……よろしく頼む」
自分の娘の様な体躯の女性の説明を受ける男。男を見上げる様に喋るシャーリーだ。自然と整った顔の下の撓わな果実に目が行く。一生懸命テーブルを拭いていたのだろう。ライトに照らされ、滲んだ汗がチラチラと輝く。
「……と言う感じで……次回から……。お席の料金だけでお酒を飲む事が出来るのです……」
「うむ……。そうか……。説明ありがとう」
「いいえ……どう致しまして……フフフ」
達成感で、無垢に笑うシャーリー。そこはかと無く見える八重歯が幼さを際立たせるがそれを包み込む紅がミスマッチ。しかしそれに男の中の何かがくすぐられる……。
「あ、どうぞ……」
「あぁ。ありがとう……」
シャーリーがお酌をするガラス瓶に入ったエール。男は初めて見る物だが、不思議と高級感漂う部屋と合っていて、違和感が無いと感じる。
「それで……。その……ボトル……どうしましょう?」
「うむ……」
この様な場所へは、そうそう足を運べ無い男は悩む。入れた所で次ぎいつ来られるか解らないのだ。
「……私……その……。小さな子供がいまして……旦那もいなくて……ボトルが入るとお給金が上がるのです……。一本大銅貨五枚なんですけど……。つ、次も安くなりますし……その……」
死ぬ気で次に繋げろ。ヒトリアにそう言われているシャーリー。恥ずかしいが必死にアプローチする。男は顔を真っ赤にしながら、大銅貨五枚の為。子供の為に頑張るシャーリーに、同じ子を持つ親として心を打たれてしまう。
「……次いつ来られるか解らんが……。そのボトルと言う物を頼もう……。子育て大変だろうが……頑張るのだぞ……」
「あ……。はい!……ありがとう御座います!」
嬉しそうに笑うシャーリーに、男は満足する。大銅貨五枚でこんなに喜ばれる事が今まであっただろうか?そう思うのだ。
「……そろそろおいとましよう……料金は幾らだ?」
そう言うと男は席を立つ。
「あら。お早いお帰りで……。今日は、席代とエール一本と、ボトルキープで小銀貨一枚になります」
「……ほう。以外と安いな……」
「フフフ……。本当はもっとボッタ……高めにしようと思ったのですけれど……ドクターの治める町ですし……。皆さんに楽しんで貰おうかと思いまして……」
「ドクターの治める町……。そうか……。……ツリはいらん取っておけ……」
男は懐から大銀貨一枚をカウンターへ置くと、颯爽と店から出て行った。
「シャーリー!お見送り!次も絶対来て貰うんだよ!ほら!早く!ほらほら!早く!」
ヒトリアに急かされ、シャーリーが急いで外に出る。そして橋のたもとで馬車に乗ろうとする男に駆け寄った。
「……どうしたのだ?そんなに慌てて……」
急いで走って来て、息が上がり肩で息をするシャーリー。着慣れていないドレスが少し開けている。
「あ、あの!……今日はありがとう御座いました!……次も、来て戴けるでしょうか……」
「……うむ。ボトルを入れたので……今度は知人も一緒に連れて来るとしよう……。面白い男がいるのだ……」
「そ、そうですか!……あ、ありがとう御座います!……あの……よろしければ……お名前を……。ボトルにお名前を書かなければならなくて……」
「名前か……。ダルドリーと覚えておいてくれ……」
「ダルドリー様ですね!かしこまりました!……次の来店をお待ちしております!」
「うむ。では……気を付けて帰りなさい」
「はい!」
男はそう言うと馬車に乗り込んだ。
「……旦那様……。ダルドリー様の名前を勝手に使ってよろしいのですか?」
「名前位は良いだろう……。怪しい店と聞いていたが、中々面白そうだったぞ?……今度はメルヒオーネもどうだ?……其方もそろそろ結婚をせねば……」
「旦那様……まだまだハーフエルフは嫌われ者で御座います……結婚など……」
「ふむ。元気のお陰でそんな事も無くなって来ていると思うが……」
「フフフ……。確かに変わりましたね……」
走り出した馬車の窓からユートピアを見るヴァイドとメルヒオーネ。夜の静かな街並みからは暖かな光が零れている。
「平和な世界……夢物語と思っていたが……生きている内に見られるかも知れんな……」
「フフフ……。そうなると……良いですな……」
視察を終えたヴァイドはそんな事を言いながら城へと戻るのだった。
一方シャーリーは、店のドアの前でヤールとヒトリアの話しを聞いていた。
「はぁ……。どうよ?この国って幼女好き多くない?」
細い煙草を吹かすヤールに、付け睫毛を整えるヒトリア。完全なオフモードだ。
「せっかく気合い入れてんのに、シャーリーばっか……。いやんなるわぁ……。巨乳幼女ってやっぱ良いのかね?」
「さぁ……。まぁ。そう言うウチらも巨根少年好きじゃんか……そんなもんじゃん?」
「まぁね~……。今回はシャーリーにお金多く渡して、次も来る様にしなきゃね~」
とても入りづらい雰囲気に尻込みするシャーリー。だがお給金を貰っていないので、入らない訳にも行かない。
「た、ただいま~……」
「あ、お帰り~。あのおじさんどうだった?また来そう?」
煙草を吹かしながら、横目でシャーリーを見やるヤール。ヒトリアは変わらずマツゲを整え中。
「こ、今度は知り合いを連れて来てくれるって言ってた……」
「お!でかしたじゃんシャーリー。太客ゲットだね!……その内結婚とか良いんじゃ無い?」
「あ~。良さそうね~。金払いも良いし、変な趣味の一個や二個我慢すれば、平和に暮らせそうじゃん……結構イケメンだったし。何か顔濃かったけど」
「け、結婚なんて……」
そう言いながらテーブルの片付けをしだすシャーリー。
「はぁ……。シャーリー。アンタもっと貪欲になりなよね……。そんなんじゃいつか損するよ……」
「そうね……。可愛いんだから勿体無いわよ……」
「うん……」
「はぁ。駄目だこりゃ……。まったく……」
「王子様なんていないんだからね~……生活の事を考えなよ~……シャリももう学校行くんだから……。父親ってのが必要になるでしょ……」
「うん……」
「まぁ良いわ。さっきの大銀貨はアンタが持って行きな。子供の入学祝いだ」
「え、でも……」
「良いわよ……私達の子供の時には、アンタんとこのお下がりでも頂戴……」
「うん……。ありがとう……」
辛辣な事を言うが、何だかんだ困っている時に助けてくれる二人。今回もシャーリーを誘ったのは二人からだ。
「あ、いらっしゃいませ~……」
しかしシャーリーは思う。
「……シャーリー。この方。貴女が気になる見たいよ……。ボトルの説明お願い……」
「はい」
何で私ばっかり何だろうと。
でも、お仕事なので頑張らなければいけない!そう思い返し。撓わな胸の上で、幼い笑顔を見せながら、一生懸命ボトルキープの説明をするシャーリーなのだった。
えっと……。こんな感じのを書きたくてアトランティス始めたまであるw
三人は他人同士ですが、長女ヤール。次女ヒトリア。三女シャーリー的な、リアル追求型のママ友同盟ですw
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『★★★★★』で……元気も喜び頑張りますw