未来に向けて
娘はつらいよ……
元気がミリャナを怒らせている頃。ポタンはアトランティスへとやって来ていた。
「……では、その様に……」
「……あぁ。今回は……迷惑をかけたな……」
アトランティスの王室で、トリトンと向かい合うポタン。ポタンがアトランティスに来た理由、それは、元気の尻拭いである。そして、魚人の受け入れは急務。情報量が圧倒的に足りない。特性や習性。生活に必要な物等の色々な事をトリトンから教えて貰った。
アトランティスでは、家族のある人魚達は迅速に、家族の元へと帰り。その人魚達に差別やイジメ等が無い様にと、既にローレライとセイレーンが動いている。その迅速さにポタンは驚いた。
「ローレライ様は……。その……お優しい方なのですね……」
「うむ……。しかしそのせいで死んでは意味が無い……。暫くは大丈夫だろうが……」
大きな体に黒いもじゃ髭で、一見怖そうに見えるトリトンだが、心根が優しい男なのだろうとポタンは見る。
「……トリトン様は……人間と国交を結ぶのは嫌でしょうか?」
「人間と国交だと……そんなの……無理だろう……これまでも……そしてこれからも……」
「……フフフ。実はですね……」
ポタンは現在人間国で進んでいる計画を、トリトンに聞かせた。
「何と……お主らは神なのか……」
「……なる気は無かったんですけどね……。まぁ、それは置いといて……。本題は、今度開催する。中央国の新王着任式典に、顔を出して戴きたいんです……」
「式典か……。参加するのは良いが……」
丘に上がるのに難色を示すトリトン。人間に対して良いイメージが全く無い。
「式典である事を宣言するので、これからはローレライ様の時の様な事は無くなると思います」
「宣言だと?何を言うのだ?」
トリトンが興味深そうにポタンを見やる。
「人魚に手を出したら死刑」
「は?」
胸を張りながらそう言うポタンに、トリトンが驚く。
「……あれ?……凄く解りやすいでしょ?」
「そ、そんな事が出来るのか?」
「まぁ。……出来ちゃうんです……これからは」
「なんと……まぁ……」
トリトンが呆れて言葉に詰まる。それを見てポタンがニコリとする。
「今までの事は……全て水に流せと言う事か……」
「……流さなくて良いんじゃ無いんですか?」
「は?」
ポタンの発言にいちいち驚かされるトリトン。人間に殺された人魚の数は数知れず。相当数に登る。現在アトランティスに住む者にも人間に恨みを持った者は多い。それを考えた上での発言だったのだが、ポタンは平然と返答を返して来るのだ。
「仕返しするのならどうぞです。……人魚を殺す様な人は、新王国にはいりません!」
「な、何を言っているのだ……其方は……自国民より、人魚を優先するのか?……人間がその様な考えをするとは考えられん……」
「あぁ。私……エルフですので……」
長くなった髪で隠れていた耳を出して、ピコピコしながらトリトンに見せるポタン。それにまた驚くトリトン。
「だはははは……成る程……。エルフがとうとう地上を征服したのか!」
「違いますよ?新王は人間ですし、私のパパとママは人間です」
「は?……訳が解らん……。お前は俺を馬鹿にしておるのか?」
「してませんよ……。う~ん……神様のパパが平和主義な人で単純でお馬鹿なので……仕方なく私が動いているんです……」
「人魚達を連れて来たあの男か……」
「そうです、その男です……。パパが話しをちゃんとしていれば、私はここに来なくても良かったのです……。他にも国の再建とか、人魚の受け入れも……本当はパパがするべきなんです……面倒事ばっかり押し付けて……ママとイチャイチャして……。腹立つったら無いわ……。これから帰ってアルカンハイトの方の警備や色々も……はぁ……」
「……く、苦労しておるのだな……」
信じられない程に深い溜息を吐くポタンに、トリトンが同情する。それもそうだろう。成長したと言っても、まだ六歳程。溜息を吐く姿に貫禄があり過ぎる。
「あ……。失礼しました……。ついつい……愚痴が……」
へへへ。と笑うポタンにトリトンは苦笑する。トリトルと同じ程の娘が頑張っているのだと、トリトンは一番重要な質問をする事にした。
「……アトランティスが式典に参加しなければ、そちらはどうする?」
相手は子供だが、他国の使者。本腰を入れて質問をするトリトン。全てにおいてトリトンがポタンを認めたのだ。ポタンの答えによっては今後一生、アトランティスとの国交は無い。
「え?……まぁ……。出て欲しいですけど……。出なくても別に今と何も変わりません……。アルカンハイトの方はちゃんとしますけど……他の海域を泳ぐ時は気を付けて下さいね?……あ、でも……勝手にお触れを出すのは良いいのかな……」
本腰を入れたハズだったが、すぐに腰が折れるトリトン。ポタンに緊張感がなさ過ぎる。
「……それでは、そちらに何の得も無いでは無いか」
「パパは、そこが面倒臭いんですよ……。損得が無いから片っ端から問題事を……って、危ない危ない、また愚痴が……。まぁ、その辺りは考えなくて良いです……考えるだけ無駄なので……答えが無いんですから……」
「はぁ……。本当に訳が解らん……」
「私もです……」
二人で溜息を付き合い、笑い合う。
「式典に参加しよう。……恨み辛みはすぐには消えぬだろうが……その内消える事を俺は願うとしよう……」
「フフフ……。千年二千年も平和に暮らせばその内消えますよ……」
「千年二千年……。まったく、エルフの時間感覚で言うで無いわ……」
式典の知らせや、詳しいやり取りは後日連絡を行うとトリトンに告げ、今度はヴァイドの所ヘと飛ぶ。そしてこれまでの事を色々と説明した。
「……解った……」
「あれ?……驚かないのお爺ちゃん?」
人魚の事も、式典の事も平然と受け入れるヴァイド。いつもなら眉間に皺がいっぱいよるのだが、今日は落ち着いている。
「今更だろう……。それに俺はその姿の方が気になるぞ……」
「あ、これはですね……」
ポタンはヴァイドに神になった経緯を説明する。するとヴァイドが椅子から立ち上がり驚いた。
「な、何だと!?……ポタンまで神になったのか!」
「え!?……こっちの方が驚きですか!?」
「それはそうだろう!しかも時を超えるなど……信じられん……」
「色々と実験したいんだけど……。やり過ぎるとすぐヨボヨボになりそうだから……出来ないのよね……」
「や、辞めてくれ……ヨボヨボのポタンなど見たくは無い……。頼むから、検証は俺が死んでからにしてくれ……」
「善処します……」
それを聞いて椅子に座り直し、溜息を吐くヴァイド。ポタンの善処は、元気同様あまり信用ならないのだ。
「人魚達の方は好きにするが良い……。時にポタンは……ハブリムを知っているか?」
「ええ……。商業ギルド長ですよね?」
「あぁ……。奴が……町からいなくなった……」
「え!……何か事件ですか?」
「いや……。嫁と……旅行に行ったらしい……。何年も意識が無かった嫁とだ……」
「はぁ……。不思議ですね……」
不思議な事件は好きだが、嫁と旅行に行ったのなら事件でも何でも無い。それ程興味が湧かないポタンだ。
「どうやらその件に……元気と義姉さんが関わっているっぽい……」
「え……。って事は……何か問題が起きているんですね……」
元気が関わると問題が起きる。これは決まり事の様な物だ。
「あぁ。いきなり居なくなった奴の穴埋めで、ギルド内は大忙しだ……金にガメツイ男だったが、仕事は誰よりも出来たからな……。各国の商談相手や、取引先から苦情が殺到している……。すまないが本当に人魚の事は任せるしか無いのだ……」
「こちらは大丈夫ですけど……そうですね……。人出が必要ですよね?」
「心当たりがあるのか?」
「う~ん……多分。成長するのに時間は掛かるでしょうけど……。今の状態でも結構役には立つと思います」
「それは誰だ……?勿体ぶらずに教えてくれ」
「ミールです」
「……ミールだと……?」
ポタンの発言に驚くヴァイド。ヴァイドの中では、親類から逃げ回っているイメージしか無いので、仕事とはあまり結びつかない。
「……婆ちゃんの息子ですよ?そこそこ賢い……と言うか……ずる賢いですし……お金に貪欲です……」
「うむ……」
学生時代。事ある毎に、リャナからお金を巻き上げられていたヴァイド。リャナのお金を得る能力と、お金に対する貪欲さを身を持って知っている。
「それに……不真面目かと思ったら、最近は毎日お仕事にも行ってますし……。結構根性もあります……根は真面目見たいです……」
「そうか……。根は真面目か……。一体誰に似たんだろうな?」
「……さぁ?」
リャナとダルドリーを思い出す二人。だがしかし、真面目か?と問われれば何とも言えない。ダルドリーは毎日釣りか、元気宅の二階でゲーム。リャナは孤児院に毎日通っているが、行くか行かないかは気分次第。雨が降ったらお休み。南の島の大王の様な生活で、城の客室で基本昼まで寝ているのだ。
「血筋で言えば……父上か……」
「確かに……。子供の子供はお爺ちゃんやお婆ちゃんに似るって事も結構あるかも……。本で読んだだけだけど……」
「ふむ……。ちょっと手伝いを頼んでみるか……。しかし……逃げないだろうか?」
「……機会を作って見ましょう。後はミール次第ですけど……」
「うむ。よろしく頼む……。ったくあのジジイめ……。引き継ぎ位して行け……」
仕事に戻るヴァイドに挨拶をすると、今度は兵士達の詰め所。そこでグレイや他の騎士や兵士に人魚に手を出すのは重罪だと、アルカンハイト、ユートピア両方で広めて貰う様にお願いする。
「うむ……解った……。しかし、何だその姿は……」
「これは……」
グレイにもヴァイドと同じ様に説明する。すると同じ様な反応。それにやはり兄弟だなぁ。とポタンは苦笑する。その後、警備等の話しをグレイと行い、詰め所から出るポタン。空を見上げるともう夕方だ。
「あら……。女王様……。子供の成長は早いのね……。たまには町に顔出してね!」
「女王様!こんちゃ!……あ!この前子供が産まれたんだ!見に来てよ!」
「女王様!……あれ?ハハハ……少し見ない内に美人になっちゃって!……またね!」
アルカンハイトの町の門から出て、ポタンに挨拶をしながらユートピアへ帰る獣人達。町を造ったポタンは人気者だ。
皆、笑顔で活き活きしている。その姿を見送る。
「……はぁ。これだから手に負えないのよね……。まったくパパは……」
元気が動くと周囲に迷惑が掛かるが……。救われた人達は皆、笑顔なのだ。
五年後。戦争回避の為に、南の大陸を滅ぼすポタン達。それが原因でラストが滅びへと向かう。未来のポタンは未来で何とかしてみると言っていた。
「……こっちはこっちで、いろいろ模索しなくちゃ……。まずは……南に集まっている神々が誰かを突き止めないと……。未来のママと約束したもの……皆を守るって……。パパも絶対に……死なせない……」
ポタンは太陽に向かって大きく伸びをする。そして自分で歩ける様になったポタンは、瞬間移動をせずにダイエットも兼ねて、家まで歩いて帰るのだった。
駄目なパパを持つと子供が苦労しますw
まぁ、何だかんだ言って無理難題を解決するのが嫌いじゃ無いポタン。超天才児ポタンにとっては、元気の引き起こす問題程度はパズル問題を解く感覚ですw
次回は、ちょっとだけ未来の話し。アトランティス編はそろそろ終了です(*^_^*)
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『★★★★★』で……元気も喜び頑張りますw