至る思い
傍に居るだけで……
リャナに別れを告げると元気はラピタへと戻る。ラピタの客室ソファーには、四号と五号も戻っており、ミリャナの持って来たサンドイッチを美味しそうに頬張っていた。
「あ、お帰り元ちゃん!」
「ただいまミリャナ……。どう?色々と話しは聞けた?」
「うん。あのね……」
ミリャナは妖精の事を教えて貰い。ポタンは四号と五号の事や、研究所の話を聞いたらしい。今回はミリャナがいたので聞けなかったが、他にも色々と聞きたい事がある様子だ。
妖精は魔力干渉に弱い。これはエルフも一緒なので、驚く事は無かった。
妖精の男と女で住処が違う。この情報にはポタンが驚いていていた。
そして、エルフは森にで普通に暮らしているのに、妖精が姿を見せない事にも納得出来た。
小さい妖精には、弱い魔力でも長い時間触れていると危険なのだ。
妖精については、そこまで驚く事は無かったが、研究所や南の大陸の方が問題だった。
「……って事は、その内攻めて来るって事?」
「解んない……。詳しい話は教えてくれなかったから……でも、戦って殺し合いしてる子達もいたわ……」
「一緒に逃げた子達も皆死んじゃった……」
「酷い……」
ポタンの質問に素直に答える鳥娘達。その話にミリャナが口元を抑える。
「……一度行った事があるが……あの国は何と言うか……戦争国家に近かったわね……。独裁的と言うか……」
「……成る程」
元気は過去に人体実験や、毒ガス実験等をしていた国を思い浮かべ。目の前の鳥娘達を見て顔が険しくなってしまう。素直で良い子達なのに……可哀想過ぎる。姿形は違えど同じ人間。そう思ってしまうのだ。
「私達は……どうなるの?」
「お兄さん怒ってる……?」
元気の険しい顔を見て怯える。四号と五号。
「あ、ごめん!怒ってる訳じゃ無いんだ……。いや……研究所のやった事に少し怒ってるけど……四号と五号に怒ってる訳じゃ無いからね。安心して……」
その後。四号と五号のいた研究所の中で行われていた実験を聞いて、元気は更に腹が立った。
昨日、五号が言っていた薬。それは毒の耐性実験。そして、研究所内での殺し合い、それは蠱毒と同じく、強く生き残った者を更に交配して強化する最悪の方法。研究所内で実験体は虫の様な存在なのだった。
「でもね!先生は優しかったよ?薬を飲んでちゃんと目を覚ますと褒めてくれるんだから!ね!五号!」
「うん……。そうね……」
無邪気に五号に笑顔でそう言う四号。五号は既におかしい事に気付いている様だ。
殺し合いの行われる日は、警備が手薄になるその日を狙って逃げ出した鳥娘達は、空へと飛び出し脱出に成功したが、飛べない者達は海や山や川へと逃げたらしい。しかしその結果は無残にも失敗。研究所の周り一体に、ミサイルにより毒ガスが散布された。
空からその光景を見ていた二人は、恐怖の中そのまま無我夢中で空を飛び、力尽きる寸前にこのラピタへと辿り着いたのだった。
「友達がバタバタと倒れて行ったの……。きっと私達も……あそこに戻ったら……」
四号を抱き締める五号。四号も雰囲気で何と無くだがどうなるか解る様で不安そうにする。
「……大丈夫よ……何とかなるわ……。ほらサンドイッチ食べて……。ね?」
ミリャナが鳥娘達に笑顔を向ける。すると鳥娘達も少し安心し、またサンドイッチを頬張り始めた。
「パパ……気持ちは解るけど……他の国の問題よ……それも、未知の大陸の……」
「……解ってるよ……」
手を出せば大事になる。相手が軍事国家であるなら尚更だ。
「オリビアさん……一度行ったって言ったけど……。それは黒竜として空から見た感じなの?それとも人の姿で行ったの?」
ポタンがオリビアに質問する。フェルミナと違って長年生きているだけあって色々と知識を蓄えているのだ。
そして、フェルミナと違ってグワッ!とかブアッ!等の擬音での説明や、凄かった。大きかった。と言った抽象的な説明では無いので、ポタン的にもの凄く嬉しい話し相手なのである。
「いいえ……。黒竜の姿の時に運悪く捕まっちゃったのよ……」
「え!?……黒竜の姿の時に捕まったの!?」
「えぇ。南の大陸を飛行中に打ち落とされたの……。あれは痛かったわ……元気の何だっけあの……ダサイ名前の七色何とか……」
「あ、あれは、忘れて……」
ダサイと言われて、黒竜戦で叫んだ必殺技の事が恥ずかしくなる元気。あの時は格好いいと思っていたが、今考えると、とても恥ずかしい。
「フフフ……。まぁ、あれ位の威力があったわ」
「……まじか……」
元気の全力攻撃と同じ威力の、謎兵器を所有する国がある事に、元気とポタンは驚いた。
「脱走する時に攻撃は無かったから、そうそう使える物では無い様だけどね……」
「それって……何年前くらいなの?」
「そうね……。百年位前かしらね?」
「百年……」
百年……。化学が武器の国であるのならば、相当な発達があるとポタンは考える。行ってみたいと思うが、危険過ぎるので自重した方が良いと思う。
しかし鳥娘達から出た、戦争の準備。と言う言葉が引っ掛かる。もし、そんな国が攻めて来れば、中央と魔国が行っているチャンバラの様な戦争とは訳が違う。大陸中を巻き込んだ大戦争になりかねないのだ。
「ちょっと……席を外すわ……」
「ポタン?……何するんだ?」
「ちょっと未来を見て来る」
「ちょっと見て来るって……」
「大丈夫よ。一瞬だけだから、何も変わらないわ……」
そう言うとポタンがフッと姿を消した。
「もう……。ポタンたら……」
「……ミリャナって……。おっとりした感じだけど……肝が据わってるのね……」
子供が急に消えたり出たりするのだ。流石のオリビアも驚く。だがミリャナは元気達のする事にはもう驚かない。耐性が付き過ぎているのだ。
「え?……そうですか?……最初はビックリしてましたけど……。いちいち驚いてたらポタンのママ何て出来ませんから……」
「そう……。いいお嫁さんね……」
「え?……うん!そうなんだ」
へへへっと笑う元気。そんな元気をミリャナが見る。
「……どうしたのミリャナ?」
「……ううん。何でも無い……。四号ちゃんと五号ちゃん……お腹はいっぱいになった?」
「うん!ありがとう!ミリャナ!」
「こら!四号!ミリャナさんでしょ!」
「あ!……ありがとう!ミリャナさん!」
「フフフ……。いいのよ。と言っても元ちゃんが作ったんだけどね!……ね?元ちゃん?」
「うん!……喜んで貰えて良かったよ!」
元気の様子のおかしさにオリビアも気付くが、さっき何処かに行った時に何かあったのだろう。と思うだけで口には出さない。若者の恋愛程面倒な物は無いのだ。
「……四号と五号は、私が面倒を見てあげるわ……。その変わり食材の提供をお願いしたいのだけど……良いかしら?……子供を抱えたまま仕事も難しいでしょ?」
「それは良いけど……いいの?」
「えぇ……。黒竜の姿になって飛び回って獲物を狩って回っても良いけど……困るでしょう?」
「確かにそれは困るかな……。ベビーシッターをお願いするよ」
「フフフ……。ベビーシッターね……懐かしい響きね……承ったわ」
伝説の黒竜が家の上空を飛び回るのは困る。黒竜には冒険者ギルドで懸賞金が掛かっているのだ。極力面倒ごとや争いは避けたい。
「四号と五号。オリビアさんの言う事をちゃんと聞いてお利口さんにね!」
「……?ここに居ていいの?」
「え?……いいの?」
元気にそう言われて困惑する二人は、理解が追い付いていない様子だ。
「ここに居ていいわよ……。その変わり変な事をしたら……食べるわよ……」
二人を見てオリビアはそう言うと、顔をドンドンと黒竜の物へと変えて行く、それを見て抱き合いながら怯える鳥娘の二人。
「そんな事出来るんだ……凄いな……」
「か、格好いい……」
「え?」
怯える二人とは違い。目を輝かせるミリャナに驚く元気。
「へぇ……。ミリャナはこういうの怖く無いのね?」
「その……。私……男の子が好きな物が好きみたいで……変よね……」
「フフフ……。良いじゃ無い……私も女の子っぽい物よりも男の子が好きな物の方が好きよ……。お人形さんよりもロボットとかロケットとか飛行機とかね」
「見た事無いけど……。きっと良い物なんでしょうね……」
そんなミリャナを見て元気は思い至った。
ミールとは色んな事して遊んだが、ミリャナとあんまりは遊んでいない。
「ロボットってのはね……こんなのだよ……」
元気はロボットのおもちゃをミリャナに出して見せる。
「えぇ!何これ!……ひゃ~……格好いい……。まるで元ちゃんのあの格好いい鎧見たいね!さ、触っても良いかしら!?」
「勿論!」
「え~……。何それ~可愛くな~い……」
「四号!……もう!」
「ハハハ……四号と五号はこっちかな?」
鳥娘達には、黒と白のウサギのぬいぐるみだ。
「可愛い!貰ってもいいの?」
「勿論!」
「ありがとう!」
「もう!四号ったら……。こ、これ……私も……いいの?」
「ハハハ……。勿論」
「ありがとう!」
ぬいぐるみを抱き締めて喜ぶ鳥娘達。オリビアがそれを見て感心する。
「便利な能力ね……」
「能力ってか魔力で作れるよ?多分オリビアさんも作れるよ。誰かに……あぁ、そうか……」
「逃亡生活メインだったから魔法は殆どね……」
「欲しい物を深くイメージするんだ。そうすれば……。ほら、こうやって……」
今度は黒竜のフィギュアを出す元気。それをミリャナがキラキラとした目で見つめる。
「はい。ミリャナ」
「え!……いいの?」
「勿論!ほら、翼も動くよ」
「うわぁ……。凄いわぁ……」
子供の様に喜ぶミリャナ。とても新鮮な姿に元気の心がチクリと痛む。
「出来たわ……。便利ねこれ……」
黒竜の顔まま、ピストルを握るオリビア。その姿はこの上無く恐ろしい。
「拳銃って……本当にそう言うの好きなんだね……」
「えぇ……。。……はぁ……なんて顔してるのよ元気……」
「え?……」
「どうしたの元ちゃん……。何だか泣きそうな顔してるわ……。お腹でも痛いの?」
オリビアの後に、ドラゴンのおもちゃに夢中だったミリャナも、元気の異変に気付き心配する。
「あ、いや……何でも無い……大丈夫。……それにしてもポタンは遅いな~……」
オリビアもミリャナも、そっぽを向いて誤魔化そうとする元気に、理由を深くは聞いては来ない。その優しさが元気は嬉しい。理由を聞かれたら泣いてしまうからだ。
ミリャナと暮らし初めてもうすぐ日本時間で二年……。そんなに一緒に暮らしていて今日初めて知ったのだ。
ミリャナは男の子が好きな様なおもちゃが好きで、遊ぶ時はあんなに輝いた無邪気な笑顔を見せる。その事を知れたのが嬉しくもあり、悔しくもあり、情け無くなった。
美味しい御飯も洗濯も掃除もしてミリャナの生活は出来うる限り改善したが、一緒に遊ぶ。それをして来なかった事に、今更後悔する元気なのだった。
傍に居るだけでいい……。んなあ訳が無い。
今日。また一つ元気が成長したようですw
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