シャリ
問題事の主軸はやはり人間。
元気はお茶の準備を終えると、膝の上に童女を乗せる。セイレーンが熱い物が苦手をと言っていたのでお茶はちゃんと冷ましてある。準備は万端。抜かりは無い。
目の前のお皿には、クッキーと特別に苺のショートケーキだ。
最初は膝に乗せられ驚いていた童女だったが、目の前の甘くて美味しそうな香りに釣られてしまい。不信感は何処かにお出かけしてしまった様だ。
「どうぞ、お食べ~」
「は、はい!戴きます!」
フォークを使ってパクパクと美味しそうにケーキを食べる童女の横顔を、横から覗き込みニッコニコで眺めるクッキーモンスター元気。時折童女のお口の横に付いたクリームを指で優しく拭ってあげる。すると童女がニコリと笑うので、元気もニコリと笑顔を返す。
今日のショートケーキのクリームも、上出来である。上品な甘さが際立っていて美味しい。童女が美味しそうに食べるのも解ると言う物だ。と元気が指先のクリームを堪能していると、ケーキを食べ終わった童女が挨拶を始めた。
「わ、私はサハギンのシャリです……。食べ物ありがとうございました!とても美味しかったです!」
膝の上に座り元気を見上げながらお礼を言うシャリ。黒い髪で隠れていた艶々(つやつや)のオデコがまた可愛いなと思う元気。
「いえいえ~。クッキーもあるから食べても良いんだよ?」
「で、でも……。私……お返しが何も出来ないです……」
「何を言ってるんだい?俺とお話しをしてくれてるじゃあ無いか?」
「お話しですか?」
元気の発言にキョトンとするシャリ。
「あぁ!可愛い女の子とお話しをするのは楽しいから、お礼はもうして貰っているんだ!」
「か、可愛いだなんて……。フフフ……丘の人はトリトル様が言ってた通り優しい人なのですね!」
元気はトリトルの名前を聞いて、トリトンに会わなければいけない事を思い出す。しかし今は笑顔でクッキーを食べ始めたシャリ専属の人間椅子なのだ。動く訳には行かない。
クッキーを食べるシャリを横から眺めながら、元気は色々と質問をする事にする。
「シャリはサハギンって言ってたけど……人魚とは違うの?」
「あ……。はい……違います……。すいません……」
クッキーを食べる手を止めてシュンとしてしまうシャリ。
「いや、良いんだ!責めてる訳でも何でも無いから……。ほらドンドン食べて良いんだよ?これはシャリにあげたんだから」
「私に?」
「そうだよ?シャリが何者でも関係無いよ!だからシャリが食べて良いんだ!……ちょっと興味があっただけ……」
「私に?……興味が?」
「え?うん!シャリに俺は興味津々だよ!」
「そ、そうなのですか……?」
そこはかとなく、顔が赤くなるシャリに笑顔で元気はそう言うが、深い意味がある訳では無い。と一応言っておく事にする。元気は子供とはノリで喋るのだ。
「うん!だから、答えるのが嫌だったら答えなくていいし、クッキーもいっぱい食べても良いんだ!」
「フフフ……。ありがとうございます!」
その後、シャリはサハギンと人魚の違いを元気に教えてくれた。
人魚とは、エルフと魔族とのハーフ。サハギンは人間と人魚とのハーフだ。
どちらも亜人種だが、歴史の違いと過去の行いにより扱いが違う。元々人魚は獣人寄りの生物なのだ。
人魚も元々魔国で暮らして居たのだが、大昔に人間が魔国を攻めた際に人魚狩りが横行。魔国に戻れなくなった初代の王ポセイドンが、アトランティスを造り上げた。
その後、人間から姿を隠しひっそりと生きている。それが現在の魚人族なのだった。
「……魚人達の住処を奪った人間の血が混じった私達サハギンは、罪の象徴なのです……。お母さんも二度とお城の外には出られません……」
「……お父さんは……どうしたんだ?」
「お父さんは……」
そこまで言うとポロポロとシャリが泣き出してしまった。
ノリで話すが故に、他人の地雷を踏むのが上手な元気なのだ。
「あぁ!ごめんよ……!言いたく無かったら良いから……。変な事聞いてごめんな!」
「ふえぇええぇえぇん」
元気に抱きついて泣き出すシャリ。とりあえずシャリを抱き締め返す元気。がしかし泣き止む様子の無いシャリに元気は困り果てる。
「子供の泣き声がするぞ!」
「何事だ!?」
元気がシャリをヨシヨシしていると、部屋の外から兵士達の声が聞こえ始めた。
「ご、ごめんなさい!私……つい……。お父さんを思い出して……」
「い、いや……。大丈夫。俺が悪いし……でも、どうしよ……。争いたく無いんだよな……」
「元気さんは……。サハギンと戦わないの?……人魚のお肉……欲しく無いの?」
「戦わないし……。そんなのいらないよ……。シャリともお話ししてた方が楽しいじゃ無いか……」
それを聞いたシャリは涙をグイッと拭うと、元気の膝から飛び降りた。
「こっちに来て!こっちの昇降路から逃げられます!」
「いや、俺は逃げるってか、トリトン王に会わなきゃいけないんだ……」
「王様に?」
「うん。トリトルの事でお話しをしなきゃいけない事があって……」
「そっちの部屋か?」「違うな……」「後は兵士の待機室だ!」「脱走兵の仲間かもしれん急げ!」
足音が元気達のいる部屋へ近づいて来る。
「これを使って下さい!」
「こ、これは?」
「お母さんと……。城を抜け出す為に取っておいた鍵です……。それはもう魔法力が少なくて一度しか使えません。それで王様の元へ……」
鍵を渡すと昇降路に元気を押し込み扉を閉めるシャリ。
「な、何をしてるんだシャリ。それにこんな大事な物を……何で……」
「クッキーのお礼です。それに……足止めが必要でしょう?……鍵はまた何とかします」
「でも……」
元気が使って良い物か悩んでいる時だった。
待機室の扉が勢い良く開いた。
「早く行って下さい!……そしていつかまた……」
そう言うとシャリはドアへと駆け出す。昇降路はドアから死角になっていて、元気からは部屋の様子が見えない。
「こら!シャリ!待て!お前はまた盗みを!」
「おい!捕まえろ!今度は流石に逃がさんぞ!」
「アウトゾーンに逃げ込まれたら終わりだ!その前に捕まえろ!」
一気に遠のく兵士達の足音。元気はそれにホッとする。シャリの身柄が心配だが、どうやらいつも悪い事をしている様子なのでいつもの事なのだろうと思い。元気は鍵穴に鍵を差し込んだ。
「……。これ……動かすにはどうすれば良いんだろ?」
鍵は貰ったが、動かし方を教えて貰っていない元気。
「とりあえず、上に行け!」
上にと言ったり、念じたりするが昇降機は動か無い。昇降機の扉も中からは開かない様だ。
途方に暮れる元気。
「はぁ……。シャリには悪いけど……。ドアを破壊して徒歩で行くしか無いか……。。……シャリ……『アウトゾーン』って所まで無事逃げられれば良いけど……。おわぁ!?」
ゴウゥン……。と言う音と共にいきなりエレベーターが動き出した。
「ビックリした~……。……動作条件は行き先の名前を言うって事か?……やばいな……。どうしよう……。このエレベーター……上じゃ無くて下に向かってるぞ?」
階層の指定で動くエレベーター。そのエレベーターでアウトゾーンを指定した元気。
王室へ向かって上を目指していた元気は、アトランティス城の地下にある。アウトゾーンへと向かう事になったのだった。
お城の地下にあるアウトゾーンとは一体!?
なんて言って見たりしてw
次回はアウトゾーンの様子。
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