夜明け
商業ギルド長ハブリムのお話し
事の始まりは、二人の妖精が現れた事から始まった。
リーナとリャナだ。
兵士だった俺は、いつも通りに仕事をしただけだった。
「ハブリム……。良くやったな」
「いえ……。自分は仕事をしただけです」
好々爺見たいな顔しやがってメスダめ……。貴族じゃ無かったら今ここで捕らえてやるのに……。そう思った……が、思っただけだった。
一塊の兵士の俺にはそんな事は出来るはずも無い。貴族に手を出せば極刑だ。
「顔色が悪いわね……ハブリム?どうしたの?」
「ん?いや……。実は今日さ……」
彼女はドロシー。見た目冴えない俺なんかと結婚してくれた器量のいい女だ。
俺は彼女に秘密事をしない。そう心に決めていた。だから今日現れた妖精の事を全部話した。
「それは……。可哀想ね……」
「……そうだな……。だが、俺にはどうしようも無い事だ」
「……そうね。……さぁ!ご飯にしましょう!落ち込んでる時は御飯よ!」
あぁ。彼女が居てくれて本当に良かった。
その後、俺は平穏な日々に戻った。……ハズだった。
「リャナを助けて……。じゃ無いと……貴方を呪うわ……」
妖精が夢に現れる様になった……。ロクでも無い夢だった。
助けろ。と言われても困る……。もう手遅れだ。貴族に捕まった妖精の末路など……決まっている。今頃あの二人も……。
そんな夢を見続けた一週間程経ったある日……。ドロシーが意識不明の重体に陥った。
俺は絶望した。しかし焦りはしなかった。
樹木化したドロシーの姿を見て、妖精の仕業だと直感で解った。
その日の内にメスダの屋敷に潜り込んだ俺は奴を殺し……。妖精の子供を助け出した。
メスダを殺すつもりは無かったが、顔を見られたので仕方なかった。
ともあれ……妖精の子供を救い出した。それでドロシーの呪いも解けると思った。
しかし、駄目だった。
いくら日が経とうとも、ドロシーの意識は戻らなかった。
「ドロシーの意識を戻さないならば!この子供を殺すぞ!いいのか!」
部屋の中でリャナと呼ばれていた子供にそう怒鳴って見ても、リーナからの返答は無かった……。
それから俺は、リャナを孤児院に捨てに行き……兵士を辞めた。
そして、色んな事をやって金を稼ぎ、あらゆる情報をかき集めた……。ドロシーの呪いを解く事に邁進した。
人殺し以外の事は何でも行った。
ありとあらゆる薬を買い。ありとあらゆる方法を試したが、殆ど効果が無かった。
しかし全く無かった訳では無かった。
早い内に樹木化は解けた……。だが、意識が戻る事は無かった。
色々と試し過ぎて、何で樹木化が解けたのか覚えていない。……細かい事はドロシーの仕事だったから。記録など付けていなかった。
そんな日々が続いたある日の事だった。
「貴方が私のお父さんなのでしょう?」
リャナが姿を現した。
幾年月が過ぎたのか……。リャナはすっかり大きくなっていた。
懐かしくさえ感じた……ドロシーをあんな状態にした妖精の仲間なのに、リャナを怨む気にはなれなかった。
リャナを孤児院に捨ててから時々寄付に行くようになり、それを見て何か勘違いしている様だった。
「すまなかった……。だ、だから……妻の呪いを……どうか、頼む……」
涙ながらに妻の呪いを解く事を、妖精である彼女に懇願したが……駄目だった。
あの時、赤子だった彼女は何も覚えていなかった。
しかし……。もしかしたらがあるかも知れない……。そう思い彼女への援助を始めた。
しかし駄目だった。
ドロシーは相変わらず。眠ったままだ。しかしリャナは結婚して子供が出来た様だった。
幸せそうに暮らす裏側で、彼女は本当の家族を知らない……。その事を酷く可哀想に思った。そして……何でアイツだけ幸せなんだ……。そうも思った。
お父さんと呼ばれた事で……リャナが気になり始めた俺は、リャナの同行に目を光らせた。
仕事以外にする事が無く、暇で……。ただ、寂しかったのだと思う。
「今日もリャナは仕事を一生懸命していたよ……。ドロシー……いつか話をしてみるといい……お前に似て、とても働き者だ……」
子供がいなかった俺は……その内リャナをドロシーと自分の子供の様に思い始めた。
「ドロシー。リャナは子供が産まれたらしい……。孤児院へもう少し寄付をしてやらんとな……そうか、いいと思うか?」
リャナの話をすると、子供が欲しいと言っていたドロシーが、喜んでくれている気がしたのだ。
「ドロシー……。リャナは、戦場で死んだって聞いていたが……何故か帰って来たらしい……。フフフ……不思議だな……。お前もそろそろ……帰って来たらどうだ?」
幾年月40年近く……俺ももう60過ぎだ。
ドロシーは、あの日の姿のまま……。
「俺は……多分……。このまま……先に逝くんだろうな……君はいつまで……」
いつまで、生きるのだろう?いつまで……歳を取らないのか?あの世では会えるのだろうか?最近は……そんな事ばかりを考える。
「ちょっと……。母さん……こんな夜中に……しかも仮面一枚じゃバレるって……」
「大丈夫よ。夜は寝る時間なのだから……。それとも元気。一緒に寝る?」
「な、何言ってんだよ母さん!」
「シッ!五月蝿いわよ元気バレたらどうするのよ?」
「アンタのせいだろ!」
「「あ……」」
屋敷の寝室のドアが開くと……。そこには、仮面をかぶった子供と女が立っていた。
「貴様らは誰だ?」
取り敢えず聞いてみるが、被っているのは仮面一枚だ……。リャナともう一人は、ミリャナに纏わり付く……謎のパンツ小僧元気だったな。
時々路地裏でパンツを売っている……。パンツの女神と言われているパンツ女とも、関わりがあるのだろう。と考えているが、特に害があるわけでは無いのでほたっている状態だ。
「あ、あの~……。妖精さんから……色々と聞きまして……。奥さんの治療を……」
「な!何だと!妖精だと!?今更何を!」
「ひぃ!……か、かあさ……。いや、仮面ピンク……。ハブリムさん……。めっちゃめちゃ怒ってるんだけど……」
「そうね……。でも安心なさい元気。私に任せるがいいわ!」
「ちょっと!?名前!コードネームの意味無いだろ!?」
「あら。失敬。ごめんねアカマン……。そんな事よりあれ早くしなさい……」
「まったくもう……」
元気とリャナの茶番劇はそこまでだった。
元気が何かすると、リャナの背中に妖精の羽根が生えて来たのだ。
「……か、母さん……。それ……早く取った方がいいよ……」
「……?何よ?美し過ぎて欲情でもしそうなのかしら?」
「……うん。だから早くそれ、渡して帰ろ?」
「……そうね……。長居は無用ね……。じゃ早く取ってくれるかしら?自分じゃ手が……うぎゃ!?……ちょっと、もっと優しくしなさい……。初めて何だから……痛いのよ……。お馬鹿……」
「お馬鹿は母さんだろ……。頰を赤らめてモジモジしないで……。ヒール、はいこれ渡して来なよ」
「……。ねぇ。元気。これ何の羽根かしら?……ハエの羽根に見えるのだけど……?」
「……。ベルゼブブって言う……妖精王の羽根じゃ無いかな?……聞いた事ある……気がする……」
「……まぁ。いいわ……。後で、色々とお話しましょう……。貴方に私への悪意があったら大問題だわ……」
「……いったい。お前らは何をしているのだ……」
あれは……妖精の羽根なのか?万病に効くと言われている……。
「そうだったわ……。これをっと……こうしてっと……」
「あぁ!リャナ!?何を!?」
そんなにグチャグチャに丸めて……ドンドン小さく……。
「リャナじゃないわ……。ピンクよ……その辺りよろしく……。じゃ、これ飲ませてあげて……」
「こ、これは……?」
「妖精の羽根の丸薬よ……」
「……リャ……。ピンク……。お前……手はちゃんと洗ったのか?」
「…………。元気。任務完了よ……。逃げましょう」
「アイアイサ……。逃げなくても大丈夫と思うけど……」
「ま、待ってくれ……。これは本当に……」
妖精の羽根の薬か?大金貨100枚出しても買えない物だぞ?……それに妖精の代理……?記憶が戻ったのか?色々と聞きたい……。
「……お父さん……。娘の言う事が……信用出来ないの?」
「リャナ……」
「私……。アナタに感謝してるわ……またね……」
「リャナ!」
き、消えた!?……何が……起きたんだ……。訳が解らん。急に現れて……あっと言う間に消えよった。
「これは、夢か?ハハッ……。……お父さん……か。……娘の言う事は……聞いてやるべきだな……。夢でも何でも良い……。今日は……久々に心が踊ったな……」
リャナは手を洗って無いようだったが……。まぁ良いだろう。……そろそろ起きる時間だ……。
「…………おはよう。ドロシー」
ドロシーがずっと目覚めなかった理由は……。後々w
次回は、マザーとリャナ。こっちも短くまとめるかなw
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