海卵
ピクニック終了です。
ポタンがそのまま、ヒルトンに海卵の説明をして貰おうとした時だった。
「立ち話もいいが、こっちでお茶を飲みながら話したらどうだ?アイリスがせっかく用意してくれているのだ。仲間外れも可哀想だろ?」
「別に私は……」
プイッとそっぽを向くアイリスだが、人数分のお茶とクッキーがしっかりと用意してあった。
扉から見て右側のソファーに奥からダルドリー。トリトル。ヒルトンの順に座り。左側にポタンを抱っこしたミリャナとアイリスが座った。
「う、旨い……。悪魔っ子……素晴らしい茶だ……クッキーとやらも旨い!」
「フフフ……そう?それは良かったわ」
ヒルトンが子供の様にボリボリとクッキーを食べる姿をニヤリと見据えるアイリス。トリトルはダルドリーにクッキーを食べさせて貰い嬉しそうだ。
「まだあるわよ。ヒルトン様?どうぞ。はい、あ~ん」
「む。何を……。く、食えば良いのか?……う、旨い……あ、ありがとう……」
ヒルトンが、アイリスのあ~んに頰を染めながらも応じる。アイリスはとても嬉しそう……と言うか楽しそうだ。
「……アイリス、あんまり変な遊びしちゃ駄目よ?」
「へへへ……は~い。センパ~イ」
ニコリとするアイリスに、ヒルトンが反応する。
「これが遊びだと?……何のあそーー」
「ーーほらほら~。気にしないでぇ~はい、あ~ん」
「う、うむ……。フフフ……旨いな」
アイリスの言われるがままになるヒルトン。ミリャナが不思議そうにその光景を見ながら小声でポタンに質問する。
「遊びってどう言う事?ポタン?」
「う~ん。パパに近い臭いがするのを、アイリスが感じ取ったんだと思うわ」
「……良い子って事?」
「……そうね……ママはそれで良いと思う。それが正解よママ」
「そうなの?フフフ……皆楽しそうで良かったわ」
そう嬉しそうに微笑むミリャナを見て、ヒルトンにロリっ子好きの才能を見いだしたアイリスが、その才能を開花させようと、悪魔らしい遊びをしている最中だ。とは言えないポタンだった。
「海卵って後どれ位で着くのですか?」
ソファー横の真っ暗な窓の外を見ながらポタンがトリトルに質問する。時々魚が通る位で先程から変化が無いのだ。
「う~ん。あとクッキーを三枚か四枚食べるくらいで到着するよ!フフフ……きっと皆ビックリするわ!」
ポタンは十分か十五分程だと考える。そして時間の概念も無いのだろうかとも思う。
「ヒルトンさん。…………その口の中の物を飲み込んでからで良いので、時間の概念などは無いのか教えて貰えませんか?」
ヒルトンは口いっぱいにクッキーを入れられ、ハムスターの様になっている。途中からトリトルも参戦しているのだ。
「ふご……。んぐあ……。時間の概念はある……。丘と変わらんが、幼い内は気にしないのだ……特に姫様は城から殆ど出ないからな……気にする必要が無いだけだ……さっき程のは十~十五分と考えておけば良いだろう」
「トリトルの言い方駄目だった?」
「あ、いや!姫様は何も悪くありませんよ!」
ヒルトンを見上げながら、トリトルが悲しそうな顔をする。それに焦るヒルトン。そこへ悪魔が囁く。
「ヒルトン様。クッキーをあ~ん。してあげたら良いわよ?……ね?トリトル様?クッキー嬉しいよね?」
「うん!とても嬉しいわ!ヒルトン。あ~ん!」
「ひ、姫様……」
無防備に目を閉じて自分に小さい口を開けるトリトルに対し、何とも言えない気持ちが湧き上がるヒルトン。そして小さく割ったクッキーを緊張しながらトリトルの口に入れると「ンフフ」っと嬉しそうに微笑む。そんなトリトルにヒルトンの中の何かが爆発した。とは言っても撫で撫でしただけだった。
「フフ……。ヒルトンが撫で撫でしてくれるのは、初めて……フフフ……」
嬉しそうなトリトルに対し、ヒルトンはバッと手を引き自分の行動に焦る。
「す、すいません!姫様!サハギンの分際で身分もわきまえず……軽々しく姫に触れるなど……」
「ふ~ん、身分差ってやつ?」
落ちこむヒルトンにアイリスが内情を尋ねる。ポタンはやりすぎよ。っとアイリスを注意しようとしたが、身分差の事の方が気になりお説教は後にする事にした。
「……ヒルトンはいつもそうなの。自分は人魚と人間の混ざり物だから姫様には、触れられませんって、そればっかり。私はそんな事気にしないのに」
「ひ、姫様……そんな事ではありません……私は……」
「お!何か見えて来たぞ!みんな来てみろ!」
ヒルトンが何かを言いかけた時。ダルドリーが窓の外を見ながらヒルトンの言葉を打ち消した。
「な、何だろう?楽しみだわ」
それに乗っかりポタンを連れて席を立つミリャナ。孤児問題や、ハーフエルフの問題が身近なので、こう言う話題に敏感なのだ。
ミリャナに手を引かれ、アイリスも渋々と窓の方に行く。それにホッとするヒルトンだったが、トリトルは不満げだ。
「さ、姫様……参りましょう……」
「……うん」
ヒルトンに促されトリトルも窓に近づくと、窓の外の遠くの方に丸い光がポツリと見えた。
その周りだけ明るく照らされいて海の底の風景が見える。
「あちらで見た方が凄いのよ!」
そう言ってトリトルがアイリスの手を引いてとととっと駆け出す。それをヒルトンが追いかけ。ミリャナ達も後に続いた。
先程のアクアリウム空間に戻ると、深海まで来ているらしく辺りは真っ暗。遠くで光る球体だけが見える状態だった。
球体に近づくにつれ輪郭がハッキリと見えて来る。その風景に息を呑む一同。巨大なパールが白い貝殻の台座の上で輝いているのだ。
その周りでは魚が泳ぐシルエットだけが見え。静かに優しく輝く海卵が辺りの岩や珊瑚を照らし存在の深みを増している。自然の力が生み出した奇跡の姿がそこにはあった。
「……魔力の結晶体かしら……?」
「先輩……ムードぶち壊しよ……」
「ほぉ……。見事だ……」
「綺麗ねぇ……」
それぞれが海卵に見蕩れる。ヒルトンとトリトルがその姿を見て満足している。
「フフフ……あれはな、海の女神セイレーン様の住み処でだな、決して軽々しく近寄ってはならない神聖な場所なのだ!今回は特別見学を許可したがーー」
「ーーあ!?」
ヒルトンが自信満々に説明をしていたのだが、ミリャナがある物を発見して声をあげた。
「……あれは……多分相当よろしく無いわね……」
ポタンもある物に気付き、そう独りごちる。
そのある物とは、輝くパールの上に座ったスクール水着姿のフェルミナだった。
誰かと楽しそうに談笑している。話している相手……それが一番の問題だ。
「あ、あれは!セイレーン様か!?生きている間にお目見え出来るとは!何たる幸運!」
「凄いわ!ねぇ!ヒルトン!本当にいたのよ海の女神様は!」
ヒルトンとトリトルが初めて見るその光景に手を取り合いながら歓喜している。女神の権限は、身分差のわだかまりもを超える緊急事態なのだ。しかし、二人にはセイレーンの姿が見えているのでは無い。あれは、フェルミナだ。
そして、その光景に更に焦りを感じるポタン。アトランティカの神聖な物の上に同族があぐらをかいて座っているのだ。
国際問題レベルの愚行である。
それにポタンにはセイレーンの姿が見えている。フェルミナがこちらに気付き、セイレーンを連れて来でもしたら、ポタンでも何が起こるか予想も出来ない。セイレーンの能力が解らないのだ。
顔をしかめるポタンの額から、冷や汗がツツツっと流れる。その異変にダルドリーがいち早く気づき緊急事態だと悟る。ダルドリーはポタンの冷や汗など今まで見た事が無いのだ。
「……よし……皆。そろそろ満足しただろう?そろそろ帰ろう……」
「そ、そうね……た、楽しかったわ」
「わ、私もそろそろ帰って旦那様と洗濯物を畳まなきゃ……」
フェルミナが関わるとヤバい。は一同一致の認識だ。皆がダルドリーの意見に乗っかる。
「そうですね……。もう、すぐにでも瞬間移動で帰りま……」
しかし、時既に遅し。えせ女神フェルミナがこちらに気付いて楽しそうに手を振っている。そして凄いスピードで水中をクロールしながら近づいて来た。
大きな胸の白い名書き部分には、大きく汚い字で『ふぇるみな。』と丸まで書かれていてお馬鹿丸出しだ。
そんなフェルミナが、ぶるるんぶるるんとジェスチャーで一生懸命何かを伝えようとしている。一同はもう何がどうなっているのか解らない。ヒルトンとトリトルはそれを見て「何かの啓示か!」「ええ!きっとそうよ!」とフェルミナの前へ膝を着いて意味を読み取ろうとしていた。
『クッキー・崩れる・どうにかしてくれ・ポタン・セイレーンが・食べたがって……』
フェルミナの口がそう動いているのを確認したポタンは、窓の外にオブラートでコーティングしたクッキーを出すと、クジラ船ごと海上まで飛んだ。
「な!何事だこれは!」
「何が起きたの!」
急に現れた。青空に驚くヒルトンとトリトル。
「セイレーン様は恥ずかしがり屋さんなのかも知れませんね……神の御業でしょう……」
「そ、そうか……うむ……残念だ」
「ええ。そうね……」
残念そうにそう言う二人は、お互いに手を握っている事に気付いていない様子だった。
その後。トリトルとヒルトンに別れを告げ、オートバイを回収して家路に着く一同。ダルドリーのオートバイの後にはアイリスが乗り。ポタンは先にミリャナと家まで飛んだ。
「私も、一緒に帰りたかったんだけど……」
「俺独りじゃ寂しいだろ?……家までのドライブだ。良いじゃないか」
「……まったく」
そう言いながらもドライブに付き合う、お願い事に弱いアイリス。二人は水平線に太陽が半分沈み。茜指す海上を眺めながら家までドライブだ。
「アイリス……。ああいう人種の問題は、デリケートな問題だ。あまり口を出さない方が良いな……」
「なに?……お説教?」
「そうだな……お説教だ……。お前からしたら煩わしいかも知れんが……好き同士でも叶わない恋もあるのだ……二人の為を思うならそっとしておいてやれ……」
「……何よそれ……別に私が面白かったからからかっただけよ……」
「ハハハ。面白かったからか……そうか。フフフ……アイリスは優しいな……」
「……何かムカつく……」
「あいたた!こら!腕を噛むな!あ~!腕が痛くてバランスがぁ~」
「ひぃぃぃいいぃ!!!ちょ、ちょっとおじさん!危ないでしょ!?私は先輩達みたいにポンポン飛べる訳じゃ無いのよ!」
「ハハハ!噛んだのはお前じゃ無いか!」
「サイテー……やっぱり先に帰れば良かったわ!」
手がかる子供程に可愛い。とは良く言った物だとダルドリーは思う。自分と似て悪戯が大好きなアイリスを放っておく事が出来ないのだ。
「アイリスは魔国には、両親の元には帰らんのか?」
「……解らん」
「……そうか。解らんか……」
こうして、それぞれのピクニックが終わったのだった。
後日。フェルミナがある人物を連れて来るのだが、それはまた違うお話だ。
次回の章の伏線かな?中央の貴族放置の期間に起こった話ですw
次回は元気とリャナのお話に戻ります。リャナに飲まれたアリアナの魔石はどうなるのでしょうか?
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