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夢見る人魚姫

ちょっとだけ長め

「お待たせしたな、トリトル。ほら約束の洋服だ」


 ダルドリーがトリトルに近づくと、ポッケからズルリと子供用の赤いワンピースを取り出した。


「わぁ!ありがとうダルドリー!凄く楽しみにしてたの!」


「ほら。手を上げろ着せてやる」


 嬉しそうに服を着せて貰うトリトル。それを微笑ましく見守るミリャナと、マーリュク。


「姫様に馴れ馴れしくしおってからに……」


 ヒルトンは不機嫌その物だ。


 その光景を見ていたアイリスが、ある違和感に我慢出来ずにツッコんだ。


「何でポケットから服が丸々一着出て来るのよ!?」


「あぁ。元気ポッケを改造して貰ってな。家一つ分位なら色々と入る様にして貰ったんだ。……ほら」


 ダルドリーがそう言いながら、次は紫色の靴を取り出してトリトルに履かせてやる。


「アハハ!どう?似合う?ヒルトン?」


「えぇ。とてもお似合いですよ姫様」


 ニコニコのトリトルのワンピース姿をヒルトンが笑顔で褒める。ヒルトンはトリトルには甘々な様だ。


 その後一同がトリトルへの挨拶を済ませると、「そうだわ!丘の人はこう言うのが珍しくてお好きなのよね?」とトリトルが言いながらとととっと笑顔で走り出して、部屋の中の大きな水槽にドボン!と飛び込んだ。


 泡立つ水槽を見て驚くミリャナ達だったが、泡が消えた瞬間に現れたトリトルの姿を見てもっと驚く事になった。


「に、人魚……」 「初めて見たわ……」とミリャナとアイリス。


「絶滅したと聞いてたけど、まだ生きていたのね……」 


「……どう言った原理なのかしら?足からヒレに変わる瞬間がじっくり見たいわね……」


 とマーリュクとポタン。


 水に浸かったトリトルの足が紫色の鱗がビッシリと付いた魚の様な尾ひれに変化し、ヒレの部分が虹色に輝いていた。絹の様にふわりふわりと揺れるヒレに一同は目を奪われる。


「フフフ……驚いた?……でもお洋服が……ぺっちゃんこになっちゃった……」


 驚くミリャナ達を見て嬉しそうにしたトリトルが、洋服を見てシュンとする。子供らしい反応に思わずミリャナ達は笑ってしまった。


「うむ。そうか、服を着たまま水の中に入る事は想定してなかったな……どうしよう……困ったな~……いやぁ……。困ったな~……にしても……。困ったな~……」


 そう言いながら、ポタンをチラチラと見るダルドリー。ダルドリーも元気同様に困った時はポタンだ!が既に定着しているのだ。


 ダルドリーに釣られて皆がポタンを見る。とても嫌だと言える雰囲気では無い。


「……はぁ……。解ったわよ」


「さすが先輩。おじさんの相手は先輩に任せたわ。私は向こうでお茶の準備をしとくわ!」


 そう言ってソファー席に向かうアイリス。しかしダルドリーが後を追う。


「私はちょっとフェルミナを探して来るわね!」


 マーリュクもそう言って姿を消した。人のお洒落にも、人魚にそこまで憧れも無い童女組とこどおじはとても自由だった。


「私はポタンのお手伝いをするわ!」


 ミリャナは人魚姫に目を輝かせ興味心身だ。


「……ママって本当に……愛すべき存在だと思うわ……」


「え?……フフフ……私もポタンを愛してるわ」


「私もよママ……。ママ。水槽の近くに寄って貰っていい?お洋服のサイズを見たいの」


「も、勿論よ!勿論いいわ!」


 ミリャナがポタンのお願いにコクコクコクと頷く。ミリャナもトリトルを近くで見たい様だ。


 ポタンは水槽に近寄るとトリトルの様子をじっくりと見る。


「トリトル様こんにちは。お水は冷たく無いの?」


「うん!大丈夫よ?ミリャナはお水入らないの?」


「時々かな?お風呂は毎日入るけど……」


「お風呂?お風呂ってなあに?」


「お風呂って言うのはね~暖かいお湯がいっぱいで気持ちの良い物なの」


「え!……火傷しないの?」


「そんなに熱いお湯じゃ無いのよ?」


「そうなの?……私達は水が暑いとすぐのぼせちゃうから、お風呂は毎日入れないかも」


 ポタンはトリトルのサイズを見ながら、ミリャナとの会話に聞き耳を立てる。そして中々良い会話をしているなと思った。


 そして、どうやら人魚はイルカ等と生態が似ている様だと思う。そう考えている内にポタンが計測を終え服を一着出した。


 トリトルにはそれに着替えて貰い、水中を泳いで貰う。ワンピース型の物だが綺麗に水の中でふわりふわりと浮いている様に見える。


「うわぁ。凄いわこれ……泳ぎやすいし、水でべちゃりとしない!凄いわねポタン!」


「フフフ……喜んで貰えた様で何よりです」


 競泳水着の素材で造ったワンピース。防腐加工もしたので、ずっと水中で着ていても腐らない。そして他にも数着出して試して貰う。


 アイリスの様なゴテゴテのメイド服。貴族のドレスに、白いワンピース型のパニエドレス等々。


 一番気に入って貰えたのは白いワンピース型のビッグパニエドレスだ。


 水の中で停まる度に波打つスカートがふわりと浮いて漂う海月の様に見える。腰に色違いの大きなリボンを巻けば、コントラストが明確化され完璧だ。


「そう言えば、アトランティカと言うのは、水中にある都市なのですか?」


「アトランティカはね、大きなシャボンの中にあるの!だから、シャボンの中には水は無いのよ!フフフ……シャボンが割れるとーー」


「ーー姫様……お喋りが過ぎます」


「あ、ごめんなさい……」


 ヒルトンに注意されトリトルがショボンとしてしまう。ポタンは防壁に囲まれた国なのだろうと考える。深く聞きたいがここで色々と質問して交流が途絶えるのは避けたい。地上と全く交流が無い国なのだ。過去に何かあったのは明確だ。


「……そうですか……ならば靴下や靴も準備をしておきましょう」


「本当!ありがとう!」


 トリトルはそう言うと足を人間の物へと変える。鱗がどんどんと肌に吸い込まれて行き、ヒレの先から半分に割れて行くのだ。


 その神秘的な光景にポタンとミリャナが息を呑む。ダルドリーはソファーでお茶を飲みながら、塩対応のアイリスに何か一生懸命話している。リャナと言い。アイリスと言い。ポタンと言い。ダルドリーはどうやら塩対応されるのが好きな様だ。


 水から上がると、ポタンがトリトルにタオルを渡す。


「わぁ!何これ!ふわふわで気持ちいいわ!アトランティカは切れ布で拭くから時々痛いのよね」


「そうなのですね……。フフフ……では、タオルも何個かプレゼントしますね」


「ありがとう!いい人ねポタン!ミリャナも!」


「私は何も……フフフ。喜んで貰えて良かったわねポタン」


 三人で笑い合っていると、ヒルトンが口を挟む。


「……ポタンとやら何が狙いだ?……赤子だと思って黙って見ておったが、怪し過ぎるにも程があるぞ……いや、喋る赤子と言うだけでも勿論怪しいのだが……初対面で何故そこまでする?……目的は何だ?」


 ヒルトンはポタンの事を相当怪しんでいる様だ。その様子にミリャナの表情が緊張の色に変わり黙ってしまった。


 トリトルも洋服を貰って喜んでいたが、申し訳無い気持ちになった様で俯いてしまう。楽しかった空気が一気に霧散してしまった。


「……そうですね。理由は色々とありますが、一番はママが楽しそうだからですかね?」


「ママがだと?」


「正直言えばアトランティカの事をもっと良く知りたいですし、行って見たい気持ちもあります。でもそれはトリトル様と同じではありませんか?」


「そ、それは……」


「プレゼントはトリトル様がお話を聞かせてくれるお返しです。これ以上口を挟むのならば、私はここにある物全てを持って地上に帰ります……」


 そう言うとトリトルが、着ている白いドレスのスカートをギュッと握って泣きそうになってしまった。


 トリトルには悪いと思うが、昨日今日知り合った女の子よりもポタンはミリャナの楽しい時間を奪った男への仕返しの方が優先順位が高いのだ。


「ポ、ポタンちゃん……ドレスはあげましょう。ね?トリトル様も気に入ってるみたいだし……でも……ポタンを怪しいと言う人の所にはもういられません……ゴメンねトリトル様」


 トリトルにミリャナが困った様に微笑む。すると、とうとうトリトルがポロポロと泣き出してしまった。


「ト、トリトル様!……わ私は、敵対心があるとかそう言った意味合いで言ったわけでは無くてだな……」


 泣くトリトルにヒルトンが慌てる。


「ハハハ!ポタン。ミリャナ。許してやれ、ヒルトンはまだ十七、八の子供なのだ」


 ソファーから様子を見ていたダルドリーが、紅茶片手に気楽そうにそう言う。その姿と声に張り詰めた空気が一気に消え失せた。


 ポタンはアレも才能なのかしらね。と思うと、ヒルトンに怒る気力も失せてしまった。


「はぁ……。もういいです。ほら。トリトル様泣き止んで、お靴を造りましょ?何色が好きですか?」


「でも……」


 トリトルがさっきの事で萎縮してしまった様で口篭もる。


 それを見て、ポタンがヒルトンを少し魔力で威圧しながらギロッと睨む。それにゴクリと息を呑むヒルトン。ヒルトンはその威圧の魔力量でポタンの底が知れた様だった。


「す、すまなかった……。余計な事を言った。許して欲しい……」


 二人に頭を下げるヒルトン。そしてダルドリー以上の怪物が現れた事にヒルトンは肝を冷やした。


 戦闘種族サハギンであるヒルトンは、ポタンが本気を出せば、この船もろとも消えてしまう事に気づいたのだ。


「ママが許すならいいわ……」


 ポタンがそう言うとトリトルとヒルトンが、ミリャナを見る。


「わ、私がって……ポタンを怪しいとか言わないなら、私は良いけど……。それにこのままお別れと言うのも何だか寂しいわよね」


 ミリャナがそう言ってトリトルを見ると、トリトルがぱぁっと笑顔になり。ミリャナに抱きついた。


「ミリャナはいい人ね!」


「フフフ……トリトル様も素直で良い子ね」


 笑い合う二人を見て、再度ヒルトンが頭を下げた。


「以後。怪しい等と軽々しい発言は致しません……姫様のお客人に大変失礼な発言でした。誠に失礼致しました」


 実力行使をすれば、姫を攫う事だってヒルトンを捕まえて情報を得る事だって、アトランティカへ行くことだって出来る。だがしかしソレをしないポタンの立ち回りにヒルトンは感服し敬意を払った。


「もう良いですよ。ママも許すっぽいですし……。それじゃ、もう一度。トリトル様の好きな色は何ですか?」


「私は、ピンクが好きです!」


 元気に答えるトリトルの笑顔に場の空気が一気に和む。それを見ていた悪魔が一言。


「なんじゃ、あれは?」


 そう言いながらクッキーをかじるアイリス。それを面白そうにダルドリーが見やる。


「ハハハ、アイリスは少し大人過ぎやしないか?悪い事とは言わんが……」


「フフ……。女の子は好きな人の前でだけ子供になれば良いんです。まぁ、ああ言う素直な子供が可愛いと言うのは解りますけどね~。私には無条件で甘えるとかもう無理ですね」


「……そうか、じゃ!俺が無条件で甘やかしてやるぞ?どんどん甘えると良い!」


「……それ。おじさんが喜ぶだけで、私が嬉しい事じゃ無いし……。甘える意味なし」


「ハハハ!アイリスは賢いな~!」


 アイリスに軽くあしらわれ、喜ぶダルドリー。アイリスも雑に扱っても怒らない相手と一緒にいるのが楽な様だった。


 靴の制作も終わり、白のドレスとピンクの靴を履いたトリトルが、頰を染めて嬉しそうにはにかむ。夢見る少女そのままの姿だ。


「はぁ~。素敵です。丘の上にはこんな素敵な物がいっぱいあるのね……」


「いや、そんなの一切無いわよ?」


 ソファーの方からポツリとツッコミが聞こえるが、夢見る少女トリトルには聞こえない様子だ。


「そうだわヒルトン!街の中はお父様にバレたら怒られるから駄目だけど、あそこなら案内しても良いんじゃ無いかしら?うみタマゴ!」


「……ふむ。海卵ですか……」


 トリトルの発言にヒルトンが顎を撫でながら悩む。ポタンがそれにすこぶる反応する。そして、海釣りを開始した。


「ヒルトンさん……これをどうぞ……プレゼントです」


「こ、これは!」


 ヒルトンが驚き震えながらソレを受け取る。そのプレゼントとは、漢服衣装に合わせて棒の部分は金の昇り龍で出来たトライデントだった。


「良かったわね!ヒルトン!」


「し、しかし……」


 嬉しそうなトリトルに反して、ヒルトンは困った顔をしている。だが槍はしっかりと握っていてとても気に入ってる様子だ。


「……ただの観光なので気にしなくて大丈夫ですよ?それは、案内料金とちょっとした説明があれば嬉しいなと思いまして……駄目ですか?」


 ポタンの言葉に迷うヒルトンだったが、迷っただけだった。


「そ、そう言う事なら……有り難く頂戴しよう……。うわぁ……格好いいなこれ……」


 槍をキラキラと輝く瞳で見るヒルトンは、十七、八の少年そのままの姿。いとも簡単にサハギンを釣り上げるポタンだった。



まぁ。そう言う事ですw


次回の章はアトランティカメインのお話となります。ピクニックは次回の海卵を見学して終了。マーリュクとフェルミナは一体何処へw



少しワロタ! もっと読みたい! 心がピクリと反応した! と思われた方は、ブクマ:評価:いいね等々。よろしくお願い致します。


下の ☆☆☆☆☆ ⇒ ★★★★★ で評価できます。最小★1から最大★5です。


『★★★★★』で……元気も喜び頑張りますw



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