愛が終わった日
イメージ……八卦。
「やっぱり貴女いいわぁ!」
防壁内に侵入したリャナを捕らえようと、アリアナが飛びかかる。
「母さん!」
あまりにも自然に防壁内へ入ったリャナに、元気の反応が遅れた。
間に合わない!元気がそう思った瞬間。パァン!と言う音が結界内に響いた。
「ぎゃぁああぁあああぁ!」
元気は何が起こったのかが理解出来なかった。
リャナがアリアナに捕まれる瞬間に、何かをした。その瞬間。アリアナが急に吹き飛んだのだ。
アリアナはそのまま城門前へ飛んで行き壁へと衝突する。崩れた壁からは土煙が上がった。
「アリアナ……。貴女の愛はそんな物なの?」
「アハハハ!そんな訳無いじゃない!」
煙の中からアリアナがリャナに突進するが、またまたパァン!と音がなり今度は空へとアリアナが飛ぶ。そしてドダァンと地に落ちた。
一瞬。武術の型の様な事を行っているのは解るが、何がおきているのかがさっぱりな元気。
「あぁ……痛い……。フフフ……久々よ……愛を感じるわ……私を愛し尽くしてぇ~!……ぐえぇ!」
アリアナが嬉しそうにリャナに襲いかかるが、リャナが何かをする度々に返り討ちに遭っている。元気はその光景に唖然とする。体格。魔力共にアリアナの方が遥かに上なのにリャナが優位に立っているのだ。
「うむ。見事見事。誰に習ったかは知らぬが……血気を見事に使いこなしておるでござるな」
「血気……?」
「うむ。人間の血液……血の力でござる」
「血の力?」
「ブルッファ!まぁ。解らんでござろうな!川の水を圧縮して、鉄砲水にする様に。人間中の血の力を圧縮して鉄砲水の様に吐き出す。達人の域の技でござる……まさか、血がなんとな~く身体を流れているだけ。とは思ってはいなかろう?」
「え……?違うの?」
ポカンとする元気に露死南無天もポカンとする。
「……その反応に驚きでござる……。血がただ流れているだけならば、心の動きに血は反応せんじゃろうて……。元気は血がたぎった事などは無いのか?熱を感じた事は?」
「熱は……あるけど……。血がたぎるって程、何かに熱くなった事は無いかも……」
「ふむ……そうか。熱くなると言うのは解るのじゃな?…………熱くなると血がたぎる。たぎらせ続けると蒸発する。……ふむ。そうじゃなぁ。……たぎった鍋にぴったり蓋をすると破裂するのは解るでござろう?そんな感じでござる」
「そんな感じって……」
「ブルッファハハハ!拙者も詳しくは知らん!それを学ぶ為に色々したが、たぎきる前に蒸発してぷしゅ~っと出て行くのだ!……常人には、身が焦げるほどの熱を溜め込む事など到底出来ぬ。……そんな熱を溜めに溜め込んで一気に放出……。それが一番難しい。……血気は達人の技。そう言われる所以だ。常人には無理な代物……。あの御仁相当な胆力の持ち主でござる」
「胆力か……。俺も無理そう……」
いつでも本気で熱いリャナを見て、元気はそう思う。時々寝てないんじゃ無いか?と思う程に動いている。この前はどうでもいい話を一晩中聞かされた。
防壁内は相変わらずリャナの優勢だ。
「あら、そろそろ終わりね」
そう言うリャナの身体から湯気が上がり始めた。
「フフフ……嫌よもっと愛し合いましょ?楽しいわ……」
アリアナの方は所々怪我をしているが、体力はまだまだ残っている様子。楽しそうに笑っている。
「フフフ……。そうしたいのは山々なのだけれど……ね。また……今度。遊びましょ」
リャナはそう言うと、弓を射るポーズを取りアリアナに狙いを定める。
「……あら……残念。フフフ……でも、楽しかったわ……リャナ……最後までちゃんと私と遊んでくれて……ありがとう」
「……どう致しまして……じゃ、さよなら」
「えぇ。さよなら」
ニコリとするリャナにアリアナがニコリとした瞬間。リャナの放った閃光がアリアナを一瞬で消し去った。
アリアナの居た所には、魔石が一つ残っている。リャナはアリアナの魔石に近づくとそれを手に取り。クルクル粘土を丸める様に圧縮し始めた。
「……か、母さん……それ、何してるの?」
「何って……。このままじゃ一人で可哀想じゃない……。殺さなくても良かったけれど、人を食べた魔物はもう無理だもの……生きている限り人を食べるわ……永遠に救われない」
「うむ。完全に魔に落ちる前に命を終わらせる。それも救いの一つかも知れんでござるな……」
「魔物から戻して優しくすれば良い子になる。とでも思って居たの元気?」
「そ、それは……」
元気はリャナに言われた通り。自我があるのだから何とかなるかも知れない。と思っていた。
「その考え。悪いとは言わないけど……いつか人を殺すわよ。まぁ、間接的にだけれどね……今回貴方は、この子を使って間接的に城の人達を殺そうとしたのよ?」
「でも……それはポタンが言いだした事で……」
「そうね……。でも、貴方はあの子の父親なのでしょう?……それとも家族ごっこがしたいだけかしら?」
「ち、違う!……俺はポタンを……」
愛してる……と言おうとしたが、元気はその言葉が口から出て来なかった。とてもむさしく思えたからだ。あまりにも軽々しいと思った。
「まぁ。お勉強はこれ位でいいわね。後は自分で考えなさい……もう限界。私は貴方の母親からリャナに戻るわ」
リャナはそう言うと……アリアナの魔石をゴクリと飲み込んでしまった。
すると、ぼふっ。と一気に煙がリャナの身体から上がり。その場に座り込んでしまった。それを見た元気が急いで駆け寄る。
「母さん!大丈夫!?」
「……ええ。その内この子は私の身体を通って産まれて来るわ……。愛する。と言うのならこれ位の愛を持って愛しなさい……」
「う、産まれて来る?……ど、どう言う事?」
情報量が多すぎて混乱する元気。
「どう言うって……。あぁ。面倒ね……自分で調べなさい……。疲れたわ、元気抱っこして」
「え?」
「抱っこよ抱っこ。歩きたく無いの。勿論。お姫様抱っこよ。それにお腹が空いたわ……。それに汗かいて気持ち悪いから、身体を洗ってちょうだい……。早くしなさい。じゃないと、私……この国滅ぼすわよ?」
真顔でそう言うリャナ。元気は何が起きているか解らなく。ますます混乱する。
「ブルッファ!我慢の限界。……解放の反動でござるな。いやぁ。リャナ殿凄かったでござるよ!見事な血気でござった」
「……ちょっと貴方。もっと離れてくれる?口が臭いわ。身体も獣臭いわよ……お風呂に入りなさい。薄汚れていて汚いわ……それにその喋り方はーー」
「ーーか!母さん!帰ろう!今すぐ帰ろう!美味しい物を食べよう!……そ、それに露死南無天だって俺らを心配して……」
「心配?横で何か知識をひけらかしてゴチャゴチャ言ってただけでしょ?……血気?そんなの知らないわ……それにツバ飛ばしすぎよ貴方顔に掛かるのよ凄くくさーー」
「ーーごめん!母さん!何でも無かった!一旦帰ろう!……ろ、露死南無天……ごめん」
「い、いやぁ……。だ、大丈夫。大丈夫。拙……俺はぁ気にしてないでござ……無いからさ早く帰るといいよ……俺は……ちょっと散歩して帰るから……ブルッハ……。へへへ……」
露死南無天のアイデンティティが消えていく……とても涙目だ。
「……ろ、露死南無天……」
「元気。早くしなさい。早くしないとミリャに全部言うわよ。私のおっぱいをしれっと触った事や時々私のパンツもーー」
「ーー露死南無天!俺!先に帰るから!帰りたくなったら俺の姿になって、瞬間移動で帰って来てね!待ってるからね!」
「ブルッファ。ちゃんと帰るから安心せい」
心配する元気に、ニコリとする露死南無天。キズはつくが、露死南無天のハートはもろくは無いのだ。
元気はこうして、リャナを連れて家へ戻った。
その後、中央では防壁前に城内の貴族達が集まり。壁から出られた貴族はそのまま投獄。出られなかった貴族は命乞いの後、出られないと解ると悪態をつきながら城内へ戻った。
そして、餓死及び自殺。そして食糧を巡って殺し合いをする者達が相次いだ。
城は無人と化したが、恐怖の去った町には活気が戻り。中央には平和な日常が戻った。
そして、国民は国を救った光の人がいつ来るのかと待ちわびた。
しかし、賑わう町とは違い。中央ギルド内部では、国のトップがいない事により混乱が起きていた。
「じゃぁ!……お前が責任を取れ!」
「……何故儂なのだ!お前こそソレをしたいのならば、自分で責任を取れ!……何か起きて天罰を受けるのは嫌だ!」
「俺だって嫌だ!まだ娘も結婚しておらんのに!」
国の最高責任者が不在。なので些細な失敗さえも許されない状況。誰も彼もが責任の押し付け合いだ。
「と、取り敢えずもう少しの辛抱だ。光の人が来る」
「そ、そうだな。あの人が来れば責任は取ってくれる。俺達じゃ失敗したら国民から弾かれて終わりだからな!」
「あぁ!誰からも文句を言われない責任者がいないとな!」
違う意味で、光の人を待ちわびる。各ギルド長達なのであった。
取り敢えず。王国内は片づきました。
ドッカンドッカンバトルはいつも通り無かったですw
さて、アリアナが産まれてくるとは?一体。
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『★★★★★』で……元気も喜び頑張りますw