エルフの森と御神木
フェルミナは純粋で良い子です。
元気の為に言っておくが決して、見ようとして見た訳では無い。
ふわりと春風に舞い踊るスカートを見た時、あなたはどうするだろうか?目を逸らすという、聖人や仙人、神様の様な解答をする人もいるだろうが。
そんな事を言う人間は大概、詐欺師の類いなので関わらない様にする事をお勧めする。
神秘的な物に目を見やる……。これは、回避不可能な自然現象であり、人間の本能なのだ。
「シートもふかふかだな!」
シートの座り心地を確認する為。上下にフェルミナが……揺れる。
すると、瓜に瓜二つな、瓜が二つ。とても楽しそうに、ぶるる~んと一緒に揺れる。因みにミリャナの擬音は、ぷるるんである。
何はともあれ、これでフェルミナが落ちる心配は無くなった。内部の細かい所はなんちゃってだが、まぁまぁの再現率だ。
「見栄えも大事だけど、性能が一番大事!フェルミナ出発するよ!」
「あ、あぁ!いいじょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
急発進するジェット機に、何とも言えない声で叫ぶフェルミナを乗せ、元気は大樹林へと向かった。
「な!何なのだ!これは!凄い早さだ!」
「感動は後だ、場所は何処だ~?」
「あぁ、そうだな!太陽に向かって進め!そうすればすぐ解る!広い森と大樹が見えるはずだ!」
「わかった!もうすぐちゅきますからね~パパとママに会えるといいでちゅね~」
「お、お前は、一体何なのだ?」
「ん?何って、あぁ~俺、異世界人なんだ、だから魔力が多いんだよ」
「異世界人?」
「召喚者かな?」
「なに!お前!召喚者なのか!?」
「そうだけど?」
「ユグドリアスは、まぁ、大丈夫か……マーリュクには会っても言うなよ、アイツ召喚者嫌いだから」
「癒やしの女神だっけ?何で?駄目なんだ?」
「マーリュクが女神になってから六百年たつが、容姿が神なった時の幼い頃のままなのだ」
フェルミナがマーリュクを想いシュンとする。
「なんだよそれ……可哀想過ぎるだろ……」
小さき者の気持ちが解る元気。
「その事で召喚者に相当馬鹿にされたらしい、ガキが神様とか草とか、ママのおっぱい吸ってろとか、ロリ?なにソレ美味しいの?とか、いっぱい言われたらしい」
「それは、腹立つな。俺でも腹立ち過ぎて四肢断裂させるわ」
元気は自分が言われている様な気分になり、マーリュクという女神に同情する。
「あぁ。可哀想なんだマーリュクは……六百年経った今も元気と同じ10歳位に見えるのだ……」
シュンとしながらそんな事を言うフェルミナに、元気の同情心が一瞬で吹き飛ぶ。
「お前、四肢断裂させてやろうか?」
「な、何故怒るのだ!」
怒る元気に焦るフェルミナ。
フェルミナに悪気は無いのだろうが、元気は15歳。そういうのが一番気になるお年頃なのだった。
「まぁ。俺は成長期だからな!まだ希望は捨てていない。……お、森が見えて来たぞ」
遠目に森が見え始める。
「も、もうか!?早いな!」
「あれ、ヤバくないか?森が燃えてるぞ?」
「何だと!?」
徐々に近づく大樹林からは黒い煙が立ち上がり、ちらほら火の手が見える。
大樹林の中央には山の様に巨大な神樹。それにも飛び火していて、所々で炎が揺らめいていた。
「ユグドリアス!?た、大変だ!今行くぞ!」
フェルミナがそう言ってジェット機から飛び降りようとする。
「ば、馬鹿!?今行ったら一緒に燃えるぞ!それにその身体じゃ何も出来ないだろ!」
元気が間一髪。フェルミナの腕を掴む。
「あ!……。どうしよう元気……。ユグドリアスがぁ……死んじゃうよぉ……」
ボロボロと泣き出すフェルミナ。
「もう!キャラ崩壊してんじゃないか!ちょっと待ってろ!」
眼下に大樹林を見据えながら飛行し、大樹の真上にジェット機を停止させると、元気は急いで大雨をイメージする。
すると大樹林の上空をあっという間に灰色の雲が支配した。
「こ、これは……」
空を見上げながら、ポカンとするフェルミナ。
「自然災害は、自然の力で納めるのが一番だ……。発生タイミングは不自然だけどな」
ザザァァァ!っと、雨粒同士が弾け散る音が大樹林一帯に響き渡り、火災を徐々に鎮火していく。しかし、次なる問題が発生した。
雨を想定していなかった為ジェット機は、屋根が無いオープンカー状態。雨が凌げないのだ。
元気は急いで傘出してさす。そしてフェルミナにも傘を渡した。
「ほら、これ使え……。あんまり危ない事するなよな……心配になるだろ」
「あぁ。スマン……。ありがとう元気……」
泣き止んだフェルミナに安心すると、元気は幼女を見やる。
「フフフ……。ちょっと濡れちゃいまちたね~。大丈夫でちたか~?あら、ねんねしてまちゅね~」
元気はそう言いながら片手で傘を差して、幼女のぽっぺをぷにぷにする。とても柔らかく、幸せな感触だ。
「お、おい!元気!これは、どうやって開けばいいんだ!おい!ふれば良いのか!?おい!」
泣き止んだのは良いが、今度はぶるるんぶるるんとうるさいフェルミナ。雨の中、傘を空に向けてぶんぶん降っている。
ずっと見ていても良かったが、あまりの必死さに可哀想になって来た元気は、使い方を教えてあげた。
「おぉ、これは便利な物だな!」
嬉しそうに傘を広げるフェルミナだったが、既にずぶ濡れ。張り付いた羽衣が実にエロい、水も滴る。見た目だけいい女だった。
十五分ほど豪雨を降らせ続けると、森の火災は収まった。
次に森全体を癒やそうとしたが、魔力が足りないのか魔力に反応が無い。仕方が無いので、大樹だけにヒールをしてみると魔力が吸われる。残りの魔力は帰るだけでギリギリまでになってしまった。
少し休めばちょっとずつ回復するので、大丈夫だろうと元気は考える。
「とりあえず、生存者がいないか見てみようぜ!」
「あ、あぁ、そうだな!大樹の根元に集落ががある!急ごう!」
元気がジェット機を根元に寄せ根元に着陸する。集落の火は消えていたのだが、残念ながら家などは殆ど燃え尽きていた。
元気達はジェット機から降りると集落内を見て回る。ツリーハウスだったと思われる残骸が、転々と樹木の枝の付け根に見受けられ、辺りには、草木が焼けた後の苦くてツンとした匂いが充満していた。
「エルフは空を飛んで全員避難したのか?」
「いや、エルフは森を出ないから、空を飛ぶという概念は無いな、普段は吊り橋で移動しているぞ?」
それを聞いて元気は不思議に思う。じゃあ、何でここにはエルフが居ないのだろうか?と……。エルフ達の死体さえ無いのだ。
何処かへ避難した可能性も勿論ある。だがドライアドが言った、森の子供達を助けて。との発言が引っかかる元気。
「おかえりフェルミナ……」
「ユグドリアス!良かった!無事だったか!」
フェルミナが巨大な樹木へ嬉しそうに話しかける。
「フェルミナ?誰と喋ってるんだ?」
「ユグドリアスだ、ほれ目の前に居るではないか!」
フェルミナが巨大な樹木を指差して嬉しそうに笑う。なるほど、御神木か、神にも色々な形があるのだな。と元気は納得する。
「ユグドリアス紹介するよ!元気だ!」
「は、初めまして、元気です」
元気はユグドリアスに向かってお辞儀をする。エルフの女王出現。的なのを本当は期待していたとは言わない。
「うむ、儂は森の神ユグドリアス、ソナタのお陰で儂は生きながらえた様じゃ、感謝する」
「あ、いえ、気にしないで下さい。それより一体何があったんですか?」
「人間が森に火を放ち、我々の子供達をさらっていったんじゃ……」
「人間!?どうやって森に!?」
驚くフェルミナ。森に人間は入れないとか言ってたな。と元気は思い出す。
「森の外から徐々に焼き払って来おった。
森が子供達を隠すのなら森をなくせば良い……。盲点じゃったわ。ここへ到達した人間達は次々と子供達を捉え何処かへ去って行った」
「何所へ行ったかは解らないんですか?」
「わからぬ、儂も半分燃えかけていて意識が朦朧としておったからの」
「クソッ、人間め!」
フェルミナがぶるるんと右足で大地を蹴る。
「時間はどれ位たったんですか?エルフ達が連れて行かれてから?」
「人間が森を出てから、1日とたってはおらぬはずじゃが……、もう間に合わん」
「元気!お前のジェッテキで間に合うんじゃないのか!?」
「ジェッテキ?」
フェルミナがジェット機をぶる!と指差す。名前を間違えているが、面白いので指摘はしない。
「なる程……。ジェッテキでか……。でもさっきのヒールで魔力がさ……」
「そ、そうか……すまん。ユグドリアスの命を救ってくれただけでもありがたいのに……」
フェルミナがシュンとする。どうにかしたいが、どうする事も出来ない。エルフ達を見つけたとしても、相手の数が解らないので勝てるか解らないのだ。
冷たいかもしれないが、名前も顔も知らないエルフ達の為に命をかけるつもりは元気には無い。
「元気よ、力があれば何とかなるのじゃな?」
「えっと、相手が普通の人間であれば多分、助けられますけど、人数が解らないので全員とはいかないかもしれないです」
「そうか、何人でも構わん、協力の意志があるだけで助かる、元気よ儂に触れるが良い」
「爺さん!何する気だ!?」
「儂の力を元気に授ける」
「ちょっと待てよ!そんな事したら爺さんが!」
フェルミナの言葉が焦りで崩れている。それを見て元気は何が起こるのか?と不安になる。
「フェルミナよ、我々が存在するは民がいてこそじゃ、このまま独りでここに居ても仕方ないじゃろ?」
「それはそうだけど……」
「それに、消滅する訳では無い少し眠りにつくだけじゃ……」
「だけど……」
「フォッフォッフォ、フェルミナは相変わらず甘えん坊じゃな、大丈夫じゃ、もうお前さんは独りじゃ無いじゃろ?」
訳が解らないまま話しが進んで行く。
「元気よ我々の子供達を、よろしく頼む」
「えっと、はい!頑張ります!」
元気がそう答え、ユグドリアスに触れた瞬間、目が眩む程の光が元気を包み込んだ。
目映さに目を閉じ、次に目を開くと大樹が小さな苗木になっていた。
「これって……」
「ユグドリアスだ……お前に力を譲って眠りについたのだ、どうだ元気?いけそうか?」
フェルミナが泣きそうな顔をしている、これで無理そうなんていったら号泣されそうだ……。
元気は魔力が回復したか確認してみる。何だこれ……体の中に魔力とは違う流れがあった。
「これ、凄くないか?魔力が水ならこれは、レッドブルだ!パワーが桁違い過ぎる。フェルミナ!負ける気がしないぞこれは!」
「ブルブルか!そうか!イケそうか!ならば出発だ!!!」
2人はジェット機へ乗り込み、一気に空へと飛び上がる。
「エルフは何人位いたんだ?」
「総勢で50だ」
「少ないのか、多いのか解らんけど、移動してたら目立つし、すぐ見つかるな。近くの町や港も見ながら探そう!」
「それにしても、便利過ぎるなこれ、後で出し方を教えてくれ」
「わかった、後で戦闘機のゲーム出してやるよ」
元気はそう言って、ジェッテキを発進させた。
神の力で元気の体がピカピカと光り輝いている事に、本人はまだ気付いていなかった。
次回は救出へGO!
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