鬼
城門から、城門前広場に飛び出して来た露死南無天とフェルミナ。その後から巨大な怪物が城門をぶち破り追随する。
露死南無天にまたがったフェルミナは、肩に桜の入れ墨を入れ、胸にさらしを巻いて何処かの将軍様スタイルだ。
ぶるるんぶるるんしながら、元気の方へ向かって来る。
「フェルミナ!急いで広場を抜けろ!その怪物は広場からは出て来られないから!」
「そうなのか!わかった~!ハイヨ~!露死南無天!」
「こ、こら!フェルミナ!尻を叩くで無い!置いて行くでござるぞ!」
「アハハハハ!すまん!つい気分がのってな!ハハハハハ!」
実に楽しそうなフェルミナだったが、怪物の大きさに街の皆が息を呑み。次々に家の中へ避難する。
『赤鬼』そう評するのが一番イメージしやすいだろう。
二階建て住宅程の赤鬼が、金色の髪を振り乱しながら猿の様な動きでフェルミナ達を追いかける。嬉しそうに笑う彼女の綺麗な顔が、筋肉質で巨大な身体と相まって不気味だ。
「あ、あれが元……人間なのか……?」
元気が赤鬼を見てポツリと呟く。そしてフェルミナが防壁を突破。そして次の瞬間。
「ぎゃぁあああああぁあぁぁぁああぁぁ!!!」
バリバリバリ!っという音と共に赤鬼の悲鳴が街中に轟いた。
一瞬怯んだ赤鬼だったが、再度防壁を破ろうとバリバリバリバリたたき壊そうとする。そんな赤鬼の目の前に浮いているミリャナ。
「あ、あな……た。カワイイわ……あぞびまじょ?あ、あいじでアゲル……」
ミリャナに赤鬼が気付き、ニコリと微笑んだ。
「ひぃえぇぇえええぇぇ!!!げ、元ちゃん!もう良いの!劇は楽しかったわ!だ、だから降ろして!降ろして~!」
「ちょっと!元気!可哀想よ!早く降ろしてあげなさいよ!ちょっと!こ、怖いのよこれ!早くしなさい!」
「ご、ゴメン!ミリャナ今降ろすから!」
元気は急いでミリャナを屋根の上に降ろす。そしてニコラウスを見て頷いた。
「皆の者!安心するのだ!悪しき者は出て来られぬ!安全は保証するぞ!」
ニコラウスが剣を掲げてそう宣言すると、家の窓からちらほら人が顔を出し始めた。
赤鬼は現在。ニコラウスや街を見ながら城門広場に座り込んでいる。しばらく防壁を破ろうと必死に引っ搔いたが、障壁に触れる度に発生する衝撃と痛みで一旦は諦めた様子だ。
「これから城はしばらく封鎖する!悪人や怪物は外へは出られぬ!恐怖に怯える事はもう無いのだ!」
「ほ、本当か!?」「嘘だったら既に死んでるだろ?」「そうだな……助かったんだ」「もう。怯えなくて良いのね!」「光の人が!俺達を救ってくれたんだ!」
「うおぉぉおおおぉおお!!!」
ニコラウスへの歓声とお礼が飛び交う。
「30日が過ぎた頃に、この怪物の討伐を行う!決してこの防壁には近寄らぬ様に!」
ニコラウスがそう言いながら皆の所へと飛ぶ。
「ご苦労だったなニコラウス……」
「はい。グレイさん」
グレイを筆頭にニコラウスを労う一同。
「お前は!本当に!何やってんだよ!」
「い、いや……。ダンジョンを抜けて家に帰ったら、ミールだけがいてだな……。ピクニックって聞いて……元気の魔力を辿って来たら城があったから、ちょっと探険と思ったらアレを見つけて……」
フェルミナは正座中。
「拙者は帰ろうと言ったが、ちょっと戦いたいと言ってな……。手を出して追いかけられた。と言う訳でござる……倒しても良かったが……あれは、人間の類いでござろう?」
「え!?あれが人だって解るのか?露死南無天!」
「うむ。鬼。そのままでござる。これ程大きいのは見た事は無いが……。ふむ。元気の時代にはおらんのか?」
「い、いないよ?昔はいたの?」
「怨み辛み妬み嫉みを持った人間が修羅に落ち。行き着く先が鬼でござる。鬼とは……過去に傷を持った人間の成れの果て……あまり切りたい物ではござらん……」
「……そうか」
「ブルッファ!鬼がいない世界とは元気の時代は、平和で良い時代では無いか!」
「良い世界か……どうなんだろ?怨み辛み妬み嫉みを俺はあんまり感じた事無いし……。多分……ああなる前に自分で死ぬ人が多いんだ……」
元気と露死南無天が赤鬼を見やる。
「ふむ。成る程。元気に拙者が違和感を感じていたのはそこかもしれんな。拙者が生きた時代は人を殺してでも生きる抜く。そんな時代じゃったからのう……生きるのにいつも必死じゃった」
「あなた達は両極端なのかもね……。こんにちは、喋るお馬さん」
急に現れたリャナが、露死南無天の鼻を撫でる。
「む、何とも美しい御仁でござるな。拙者は露死南無天でござる」
「そう。私はリャナ。ミリャナの母親よ。娘がお世話になったみたいね、どうもありがとう」
リャナが露死南無天に笑顔を向けると、露死南無天もニカッと仕返す。
「いやいや、こちらこそでござるよ。うむ。笑い顔がそっくりでござるな!ブルファ!」
「母さん?他の皆は?……フェルミナもどっか行ってるし……」
「あぁ。あの変な子も含めて皆移動したわよ。何かダルドリーが面白い所があるって言って……」
「そ、そう。俺を置いて……皆で……」
「……私は残ったわよ?置いて行かなかったわよ?どうかしら?嬉しい?」
元気を真顔で見るリャナに、何だか恐怖を感じる元気。
「……う、嬉しいです」
「そう、では褒めなさい」
「ほ、褒める?」
「そうよ……。撫で撫でさせてあげるわ。ほらどうぞ」
リャナが元気の顔の前に胸を寄せる。今日はシスター服なので背徳感が凄い。リャナの行動に焦る元気。
「ちょ!ちょっと!母さん!そういうのは駄目だって!」
「そういうの?それは何かしら?」
「だから……。おっぱいとか……その……」
想像力は豊かな元気だが、リアルなのはビビってしまう奥手な元気なのだ。
「ブルッファ!こっちの世界の人間は濃いな!面白いでござる!」
「……それをあなたが言う?」
「ブルッファ!そうでござったな!喋る馬!拙者も濃い仲間でござった!ブルッファハハハハハ!」
「さて、冗談はさておきアレとお話をしても良いかしら?」
「え!……お話って赤鬼と?」
「えぇ。元は人間よ?出来るでしょ?」
「う~ん。どうなんだろ?」
「暴れている時は意識が無い様だが、落ち着いている時は話が出来ると思うでござるぞ?拙者は鬼となった者と話した事がある」
「え!そうなのか?」
「うむ。ちょっと聞き取りづらい事もあるが、普通に喋る。完全に落ちてしまっては、もう無理だがな」
「そう。良かったわ。……元気に聞きたいのだけれど……アレは殺すのでしょう?」
「え……。そ、それは……」
「……まぁいいわ。一緒に来なさい。元気。お勉強の時間よ」
「え?お勉強?」
「ふむ。中々酷な事を……。拙者も付き合おう。何か役に立てるかもしれぬ……拙者は何にでも……化けられるからな」
露死南無天がリャナに目を向ける。
「そう……何にでも……ね。……助かるわ」
そう言いながら防壁に向かって歩き出すリャナと露死南無天。それを元気が追う。そしてリャナが赤鬼の近くまで行くと口を開いた。
「こんにちは……私はリャナ。あなたのお名前は?」
リャナが赤鬼にニコリとする。
「わ、わだじ?は、アリアナ……。あなたは……リャナ?あぞぶ?あぞぼ?……あいじでアゲルから……わだじをアイジテね?……フフフ……」
赤鬼もリャナにニコリとした。
「貴女のお話……聞かせてくれるかしら?」
「おあなじ……。じまじょ。アリアナはおあなじ……おんどうは……ずぎよ……でも……誰も……聞いて……くれないの……」
「そう……フフフ……私が聞いてあげる」
「ほん……とうに?本当に!?あぁ……嬉しい……あのね!あたしね!アリアナって言うのよ!フフフ……」
子供の様に無邪気に笑う赤鬼……。
元気はその様子を後から見守る事しか出来なかった。
吸血鬼か……鬼か迷って……まずは鬼w
さて……バトルしませんでしたwすいませんw
後でする予定ですが、しないかも知れません。
ですが章のラストは決まりました!
お楽しみに!
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