握手
愛だの恋だの友情だのどうなの?
「あぁ。ヒラリー。やっと目が覚めたんだね!……良かった……君は一週間、ずっと眠って居たんだよ」
泣かないでニコラウス……。
「……あれから……どうなった……あれ?」
……手足が……。そうだった……あの鬼の様な化け物に……千切られたんだった。
「ゴメン……。僕の魔力では、傷を癒すので精一杯だった……」
「いいの……。生きていてくれて嬉しい……。でも……私達の……」
また。奪われた……。
「……それは悲しいけど……。君が無事なだけでも良かった……」
無事?何処が?……手足が無いけど?……そんな事をニコラウスに言っても仕方が無いわ。
……。またあの娘だけ助かったのね……。そして私はまた……。
「あの後から、被害が城内。城外と広がって、今は何処も彼処も混乱してる……」
「そう……」
「あの魔物は喰らえば喰らう程強大に、そして貪欲になってる……。もうこの国は駄目だ……」
「……そう」
「だから、僕達もアルカンハイトへ逃げよう!」
「アルカンハイトへ?」
フフフ……。グレイスを追い出しといて……結局私達も行くの?……。今の私を見てどう思うかしら……。ニコリとまた笑うかしら……。この姿なら……許してくれるかしら?
「嫌かい?」
「いいえ……。ニコラウスとなら何処へでも行くわ……」
「あぁ。嬉しいよ……。ヒラリー……。そうなれば、早速準備するよ!」
✴
「ニコラウス……。貴方が食べて……」
「僕は大丈夫だ……。ヒラリーが食べるんだ」
アルカンハイトまで、海を渡って三日で着くんじゃ無かったの?もう一週間近く経つわ……。
「そう言って、一昨日から何も食べて無いじゃない……」
「僕は大丈夫だから……。君が寝ている時に。いっぱい食べた。君の方こそ寝ている間に痩せたんだから、ちゃんと食べなきゃ……」
ニコラウス……。
✴
「ニコラウス……。ニコラウス!起きて!ニコラウス!起きなさい!ニコラウス!こんな身体で、一人でどうやって生きて行けば良いの!ねぇ!答えてニコラウス!やだよ!ニコラウス!」
こんな。海のど真ん中で一人にしないで!
✴
何故……。私は生きているの?もう。良いでしょ?誰か殺して……。グレイス……貴方何処にいるのよ……。いつもみたいに笑って……私のお願いを聞きなさいよ……。
✴
「ねぇ……。貴方……何処に行くの?」
……私……まだ死んで無かったのね……。どれだけの時間が過ぎたのかしら……。喉がヒリつく……身体が痛い……。……青い空がとても……綺麗だわ。
「ア……ルカ……ン……ハイ……ト……。グ……レイ……ス……」
声が出せないわ。早く死ねば良いのに……。ニコラウス……置いて行かないで……早く迎えに来なさいよ。
「あら。そうなの?私もそこに行くのよ……一緒に連れて行ってあげる!」
「あ……りが……と……」
と言うか……。誰よ貴方……海のど真ん中で……。もしかして、アルカンハイトは、もうすぐそこなのかしら?
「気にしないで!フフフ……」
あぁ……。ゴメンね。ちゃんとお礼を言いたいけど……無理……。生きてたら……お礼……言うから……。
✴
「ヒラリー!やっと起きたのね!良かった~!!!」
泣きながらヒラリーに抱きつくグレイス。
「グレイス……」
ヒラリーが横を見ると、グレイが正座しているのが目に映った。
「おっさん!やり方が酷すぎだろ!」
と元気。
「元気が居なかったらどうするつもりだったんだ!」
とヴァイド。
「間に合わない事だってあるんですからね!」
とポタン。
「まぁまぁ。間に合ったんだから、良いじゃないか……。あんまり。怒ってやるな」
とダルドリー。
「すまん……。これしか思いつかんかったのだ」
グレイがシュンとしながら、皆に謝る。
「どうなったの……。グレイス……」
「刺された後で、元気ちゃんが……治してくれたの……」
グレイスがそう言うと元気を見やる。ヒラリーもつられて目を向ける。すると、へへへ……っと嬉しそうに笑いながら、頭の後ろに片手を当て。元気がペコリと会釈をする。
「それで、おっさんは何がしたかったんだ?」
「うむ。俺は難しい話は解らんし、心だの愛だのも解らん……。しかし。好き者同士、すれ違ったままは、いかんだろう?」
「……。ハハハ……グレイは可愛いらしい事を言うな……」
ダルドリーが、モジモジするグレイを見て笑う。
「う、うるさい!……。とにかくだ!」
そう言うと、グレイが立ち上がり。グレイスの横まで行き。ドカッとあぐらをかく。するとグレイスがヒラリーをギュッと、グレイから守ろうとする。そして、キッとグレイを睨んだ。
「グレイス……。すまなかった……。もうしないから……安心しろ……ヒラリーもスマンかったな……」
「……いえ……。いいわ。凄く……驚いたけど……。グレイス……もう大丈夫よ……」
ヒラリーがポンポンとグレイスの腕を叩くと、ヒラリーを抱く手が緩む。しかし相変わらずグレイを睨んだまま。相当怒っている様だ。
「その。過去に何があったかは、グレイスから聞いた。本当にヒラリーがグレイスを嫌いであったなら……。捨て置くつもりだったが、どうやら違う様子だったのでな……」
そう言ってポリポリと頰をかくグレイ。
「……一度死んだ。と思って……。仲直りしたらどうだろうか?死の淵で見えた物があるのでは無いか?」
「お馬鹿がいるわ……」
ポタンがグレイに呆れる。
「ダッハハハハ!ポタン!良いツッコミだ!後でちゅ~してやるぞ!」
「今度したら。家出するからね!」
そんな事を言うダルドリーにポタンが怒る。ポタンはダルドリーに一度ちゅ~されているのだ。
「父さん。俺もまだなんだから、今度は俺も許さないからな!次は俺だから!」
「……パパも嫌よ……。したら家出するから」
「えぇ!何で!……一回だけ……。ちょっとでいいから……。ね?ポタン!……あいた!」
「ちょっとは静かに出来んのかお前は!まったく……」
「何で!俺だけ怒るんだよ!叔父上!不公平だ!ひいき反対!」
元気達が騒ぐその光景を見て、グレイスが笑う。それを見てヒラリーも笑った。
「……。グレイス……今までゴメンね……。貴方が……羨ましくて……。平和に暮らしてると思ってたの……。でも、その背中……きっと私何かより……」
「……良いの!ヒラリー。貴方がいてくれたから……私はここにいるの!……だから。また会えて嬉しいわ……。……ヒラリーは……あんまり嬉しく無いかもだけど……へへへ」
困った様にニコリとするグレイス。
「ゴメンね……グレイス……。ゴメンね……もっと早くに言いたかった……。ゴメンね」
「謝らないでヒラリー……。私の方こそゴメンね……。ゴメンね……」
子供の様に泣き合う二人を見て、グレイはもう。大丈夫だろう。と思う。そして、元気に向き直り土下座をした。
「神よ!願いがあります!」
グレイの真剣な目に気圧される元気。
「や、辞めろよ。おっさん怖いって……」
「我が妻の友人夫である。一人の男を蘇らせてやっては頂けませんでしょうか!こんな事は許されんのは解っております!どうか!よろしくお願い致します!代償が必要なのであれば、この命をお使い下さい!」
グレイがそう言いながら頭を下げる。するとグレイスがグレイの隣へ行き、同じ様にする。
「げ、元気ちゃん!私の命もあげる!だからお願いします!……へ?神様?」
頭を下げた後。グレイスがキョトンと元気を見る。
「……。思い出したわ……。アルカンハイトの神様……確か城の財宝をーー」
「ーーはっははっは!グレイ君!グレイス君!そしてヒラリー君!君達の願いを聞き届けよう!しかし。私は神様では無いので!城の財宝など知らんし!もう使ってしまって無い!なんて事も知らない!……あいた!」
「……馬鹿者!王族は他にもいるのだぞ!黙れ!阿呆が!」
「ゴ、ゴメン!」
胸を張る元気をヴァイドがはたく。ポタンがそれを見て溜息を吐き。ダルドリーが笑う。
「ニ、ニコラウスが生き返るの?」
ヒラリーがポロポロと涙を流す。
「……。いや……ここまで言われたらねぇ……。どうしようも無いよね……。良いだろ?ポタン……」
困った様にポタンを見る元気。
「はぁ。何で私を見るのよ……。ここで駄目!って言ったら私が悪者でしょが!」
「ご、ごめんて……。でも、本当に内緒にしてね。こういうの駄目だと思うから……」
「はい!神様!命が必要であれば!私のを一番にお使い下さい!」
そう言ってヒラリーもバッと起き上がり。土下座をした。
「命はいらないよ……。……何かしたいなら、おっさんが言った通り……仲直りするとかで良いよ。元々は友達なんでしょ?」
元気がそう言うと、グレイスとヒラリーが同時にお互いを見やる。
「……グレイス……。本当にごめんなさい……今まで酷い事言って……貴方をたくさん傷付けたわ……。今更都合がいい話だけど……許して下さい!」
それを聞いたグレイスが、ポロリと涙を流す。
「いいの。そんな事はどうでもいいの……。私こそ、私のせいで……。私が産まれて来たせいで……皆を死なせちゃった。ゴメンなさい、ヒラリー……」
謝り合う二人を見て、グレイが痺れを切らす。
「……。拉致があかん……。ほら、仲直りの握手をしろ!もう。許したのだろうお互い。謝るのは終わりだ」
「仲直りの握手って、子供かよおっさん……」
「うるさい!クドいのは好かんのだ……」
腕を組んでイジけるグレイを見て、グレイスとヒラリーが笑う。そして、笑顔で握手を交わした二人だった。
その後。ニコラウスを復活をさせた元気。そして、ニコラウスの正体に、元気とヒラリーとグレイス以外が、驚いた。
「ぜ、前王の血を引く者だと……」
と驚くヴァイド。
「し、信じられん……。血筋が残っておったのか……」
同じ様に驚くグレイ。
「……。間違いないな……昔一度。中央で見た事がある」
お茶を飲みながら、そう言うダルドリー。
「前王の血を引くと何か、あるの?」
「はぁ。パパはもっと歴史の勉強をしなさい」
「うん。わかった」
笑顔で答える元気に、ポタンは再度溜息を吐き、そして最悪で最高な作戦を思いついた。
「……王族が手駒にいるのなら。もう、いっその事。中央を乗っ取れば良いんじゃ無いかしら?」
その発言と、王族を手駒と言うポタンに、心底驚くヴァイド達だった。
陰の薄かったニコラウス。実は重要人物です。
さて、ポタンの作戦はいったい……。
あれ?急に終わりそうな感じがwしかし。ヒラリーを助けたのは一体誰何でしょうね?w
次章の為の伏線ですw陸は……終わり。と思いますが~?まぁ。各領地の旅行もありますけどねw
ブクマ:評価:コメント等々よろしくお願いします!