クマさん ~グレイス・グレイ~
おっさん。うらやまし過ぎ。
「クマさん……まだかな?」
お城という名前の監獄で、豪華な囚人服を身に纏い。大きな牢屋の中から、私は満天の星空を見上げます。
今日も、お部屋にはあの魔物しか来ませんでした。
私はお母さんの書いてくれた。クマさんのお話が大好きです。クマの様な星の王子様……。
フフフ……。解ってます。……誰も助けに来ません。お父さんとお母さんと村の皆は、私とヒラリーが、捕まった時に。私達の前でお星様になりました。なので外の世界の人は誰も私を知りません。
村を焼いたあの魔物からは、逃げられないのです。
それに、お友達のヒラリーが人質になっています。
「逃げたり、逆らったり、自殺をしようとしたら、ヒラリーを殺す」
魔物が笑いながら、毎日の様にそう言います。だから、熱くても、冷たくても、痛くても我慢します。ヒラリーには死んで欲しくありません。お友達だったのですから、当然です。
「……。私の命まで奪わないで……アンタのせいで……村が、皆が……」
ヒラリーはあの日からあまり口を利いてくれません。それもそのはずですね。村が滅んだのは、魔物が私を捕まえに来たから、皆が星になったのも私のせいなのです。
「ほう、噂通りの美しさ……連れて行け。王族の身内に平民はいらん、焼け」
皆はお星様になって、きっと私を憎んでいる事でしょう。フフフ……。死んだ。って事はちゃんと解っています。死んだら星になるんだよ。とお婆ちゃんがお話ししてくれました。
だから。私は待っているのです。昨日も今日も明日も……捕まってからの12年間。ずっと。星の王子様が星のお船に乗って迎えに来てくれるのを待ってます。
私も早く。お星様になりたいです。
そんなある日の夜の事でした。
「グレイス!?早く逃げなさい!?こっち!」
ヒラリーが珍しく慌ててお部屋にやって来ました。
珍しくと言うか、このお城に来て初めてかも知れません。いつも怒りながら、無表情か泣いているかなのです。怒る。のではありません。いかっているのです。……勿論私に。
「どうしたの?ヒラリー……」
ヒラリーには30日に一度。少しの時間しか会えないのですが、どうした事なのでしょう?今日はまだその日ではありません。
「王が殺されたわ。今が逃げるチャンスよ!」
魔物が死んだ。お城の中が騒がしいのは、どうやらそのせいらしいです。これで私はヒラリーとずっと一緒にいれる。と思いました。
ヒラリーに手を引かれて、お城の裏口に向かいます。
「海沿いに行けば、大きな船が見えるからそれに乗りなさい!良いわね!アルカンハイトと言う。戦争が無い平和な国へ行けるらしいわ!」
戦争が無い平和な国?にわかに信じられませんが、ヒラリーと一緒なら何処でも良いです。それにヒラリーは嘘をつきません。
だから、ヒラリーが、私を殺したい程に憎んでいるのも知っています。でもヒラリーになら殺されてお星様になっても良いのです。
「じゃ……私は戻るから……」
「え……。一緒に行かないの……?」
「……私……。結婚するの……。お腹に赤ちゃんがいる……」
「え!凄い!おめでとう!旦那様はどんな人?」
「凄くいい人よ……。船の事もその人が教えてくれた……。バレるとヤバいからさっさと行って……」
「でも……」
「……これ以上。私に関わらないで……。それとも、あの時の様にまた私の家族を殺すの?あの時……アンタが死んでれば……」
「……ごめん。……ここまでありがとう。ヒラリー」
「……。お礼なんか言わないで……。あの人が言うから私は動いただけ……。あの人の前では、いい人でいなきゃいけないの……」
「それでもーー」
「ーーいいから!さっさと行って!…………。さよなら。グレイス……。もう二度と会わないわ……」
そう言ってヒラリーは、バタリと裏口の扉を閉めました。
「……さよなら。ヒラリー。幸せになってね……」
ヒラリーが結婚。私はこの時。初めて知りました。とても嬉しく思います。だけど、涙が止まりませんでした。
私はヒラリーに言われた通り。裸足のまま裏の森を抜けて海岸沿いに出ます。
真っ暗な崖下からは、ザザーンザザーンっと波の音がします。とても怖いです。
今日は残念な事に、空に雲がかかっていて星が見えません。12年振りの外出なのに本当に残念です。
アルカンハイト……。ヒラリーに行け!と言われたので、行かなければなりません。私が見つかると、ヒラリーが酷い目に会うかも知れません。いえ。かも知れませんじゃ無いでしょう。あいます。
私は歩きました。雨が降っても、足が擦れて血が出ても、身体が痛くなっても歩きました。
そして、驚きました。
見た事も無い大きなお船があったのです!
「お、お星様……」
お船の横には五芒星が書かれています。なんと!ヒラリーが言っていたのは星の船でした!
私は、嬉しくて走り出した。かったのですが、足が痛くて走れませんでした。
そのまま歩いて向かいます。すると、船から少し離れた所に、王子様がいたのです!
クマの様な星の王子様!どうやら、王子様は森の木陰で、お酒を飲んでいる様でした。
お酒は、吐くまで無理矢理口に入れられるので、私はあまり好きではありませんでしたが、王子様は美味しそうに飲んでいて幸せそうでした。
私は急いで王子様に近づき、飛びついてお願いしました!
「王子様!私を殺してお星様にして下さい!そして、星の国へと連れて行って下さい!」
そう語り終えると、グレイスが目を閉じた。
「……。それで、殺してくれ。と言っていたのか……。頭のおかしい奴が現れたかと驚いたぞ……。……グレイス。痛く無いか?」
「うん……」
グレイが浴室でグレイスの頭を洗う。グレイスは白い水着で、グレイは短パンにシャツだ。
子供の様に見える……。グレイがそう見立てたのも当然。10の頃から幽閉……。グレイスの時は止まっている。蓄積されたのは嫌な記憶のみだった。
「しかし……。その物語口調は中々に良いな」
グレイが褒めると、グレイスが嬉しそうに笑う。
「フフフ……。ずっと。お部屋で考えてたの。他にする事無かったから……」
「……そうか……。背中……洗うが……触れてもいいか?」
グレイスが緊張しながらコクリと頷く。
皮膚が変色し硬化した火傷の跡。
それが、うなじから尻に掛けて綺麗に、均等に続く……ただ苦しめる為だけで出来た拷問の後では無い……。何度も何度も焼いては冷まし、焼いては冷まし芸術作品を仕上げるかの様に、拷問を楽しんで居たのだろう。着替えさせる際……腹の下に国王の名前が刻印されていた。
グレイは怒りがこみ上げ、ギリッと奥歯を食いしばる。そして、どうすれば良いのかと考える。
「グレイス……。まだ……死にたいか?」
「……。グレイは……どうして欲しい?」
「それは……。結婚を申し込んだのだ。死なれたら困る……」
グレイスの背中を丁寧に洗うグレイ。
「フフフ……。じゃぁ。死なない。だって私は星の王子様が迎えに来るのを待っていたんだもの……。グレイは王子様じゃ無いんでしょ?」
嬉しそうに笑うグレイス。
「……そうだな。違うな。それに、死んでも星にはならんし、星の国など無い」
「本当に夢の無い人ね……酷い」
グレイスがシュンとする。ころころと表情が変わるグレイスを見て、本当に子供の様だ。とグレイは思う。
「……夢は終わったのだ。もう見なくて良い。お前の悪夢は、俺が酒と一緒に飲んでやる……」
それを聞いたグレイスが、急に振り向きグレイに飛びかかった。
「こ、こら!抱きつくで無い!色々といかん!大人である事を自覚しろグレイス!」
グレイが押し倒され。グレイスの色々な物が色々な所に触れる。
「フフフ……。やだ。だってグレイ……お父さんみたいなんだもん……」
「お、お父さん!?……嬉しく無いな……それは」
「私は嬉しい!」
無邪気に笑うグレイス。そしてグレイをギュッと抱き締める。
「はぁ。解ったから、椅子に座れ。身体が洗えん……と言うか、自分で洗えるだろうに……何故洗わないのだ?」
「え?男の人ってこう言うの好きなんでしょ?」
グレイスがキョトンとしながら答える。
「はぁ。……良いから離れろ。早く座らんと洗わんぞ?」
渋々椅子に座り直すグレイス。それを見て、道徳から教えんといかんな。と思うグレイ。
「フフフ……。でもね。グレイだけよ。他の人には嫌」
「……そうか……。風呂から上がったら、本を読ませてやる。お前には物書きの才能がありそうだ」
「本当に!読みたい!」
笑顔で振り向くグレイス。既に中腰だ。
「こら。飛びついたらみせんぞ?」
「…………はーい。へへへ……」
嬉しそうにするグレイスを見て、失った12年間分の笑顔を……。幸福を……俺が与えてやりたい。と思うグレイだった。
常々思うこと。良い作品っておじさんにスポットが当たるんだよねw
そして!思う事。グレイスを逃げ出させちゃった!?城の様子どうしよう!って感じですw
まぁ何とかしますw
ブクマ:評価:コメント等々よろしくお願いします(*^_^*)