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夢物語

お母さんのお話に救いを求め続けた女の子のお話。

『あるところに。とても優しいクマさんと、女の子がいました。そのクマさんは困っている時は助けてあげるからね。と女の子に言いました。でもクマさんは、いなくなりました。女の子は悲しくて泣きました。女の子が大人になった頃。困った事が起きました。とても困った事です。女の子は困り果ててしまいました。そんな時でした。何と、クマさんが星のお船に乗って助けに来てくれたのでした。何とクマさんは実は、星の王子様だったのでした。星の王子様に助けて貰った女の子は、王子様のお船に乗って幸せの国へと行って結婚して、幸せに暮らしました。』


 グレイはその木札に書かれた物語を読んで、深く目を閉じる……そして思う。書き込みが甘いのでは無いか?と。


 グレイの人知れない趣味……。それは、物書き。発想は面白いが、こんなのは子供騙しだ。ましてや、大人の女性が自分に渡して来る意味がグレイには解らない。


「これは……。誰が書いたのだ?」


「……お母さん」


 なる程とグレイは思う。子供に読み聞かせる為のおとぎ話の類いであれば、納得出来る。


「それで、なぜこれを?」


「それは……」


 グレイスが何か言おうとした時だった。


「お待たせ。助っ人連れて来た」


「どもども~。元、奴隷のアイリスちゃんで~す!」


 そう言いながら、メイド服を着たアイリスがグレイの横に座る。そして、元気はその二人の後ろに立つ。元気達の正面に座るグレイスが、奴隷と言う言葉に反応し、膝を抱えた。


「……そんな事を易々とと口にするのでは無い……アイリスと言ったか……」


「え?だって、もう。過去の事ですし隠しても仕方無いです。私、元奴隷です。可哀想な子ですって言った方がおじさん的には良いですか?」


「い、いや……。お前が良いなら、良いが……」


 あっけらかんとそう言うアイリスに、グレイが困った様に元気を見る。


「旦那様を見た所で無駄ですよ?そうなの?としか言いませんし……でしょ?旦那様?」


 アイリスがニコリと元気を見上げる。


「う~ん。そうだね。アイリスが今日笑顔ならそれで良いよ」


 そんなアイリスに元気がニコリと仕返す。


「フフフ……。私はこれでいいんです」


 元気とアイリスが笑い合う姿を見て、そんな物なのか?とグレイは思う。


「……まぁいい。心とかそう言う難しい話は俺も解らんからな……。それで、これなんだが……。グレイス……見せても良いか?」


 グレイの問いかけに、グレイスが頷く。


「……。汚い木札ね。……お話?かしら」


 木札を受け取り顔をしかめるアイリス。それにムッとするグレイス。


「ア、アイリス……。心の声が出すぎだよ。きっと、大切な物なんだよ……」


 グレイスを気に掛ける元気に、ちょっとムッとするアイリス。


「へぇ~。大切な物ですかぁ。あ!……それは、旦那様が枕の下に隠してるお姉ちゃんの……むぐ!」


 元気が咄嗟にアイリスの口を塞ぐ。


「ア、アイリス!読んで見てくれるかな!?文字の勉強の成果をみたいなぁ!」


「むぐ!むぐぐ!ぷはぁ!まったく……焦りすぎですよ?旦那様?フフフ……じゃ、読みますね~」


「あぁ。よろしく頼むよ……」


 焦る元気を見て、アイリスが満足すると物語を読み始める。……そして物語を読み終わると「ちょっと……俺……。トイレ行って来る」と元気。「わ、私も……」とアイリスが席を立ち部屋を出て行った。


 グレイがどうしたのか?と思っていると、グレイスがモジモジし出す。


「む、そうか……。ずっとこの部屋にいるのだったな……グレイスよ、トイレに行くか?」


 そう言うとグレイスがコクコクと頷く。そして、グレイがグレイスの手を引いて部屋を出ると、ドアの前で笑い転げる元気とアイリスに遭遇した。


「何だ。お前達?トイレでは無いのか?」


 不可解そうに元気達を見るグレイとグレイス。そして息を整える元気とアイリス。


「ご、ごめん!もう終わった!はぁ……」


「ふぅ……。うん。もう、大丈夫!」


 元気達はグレイ達を見送ると先に部屋に戻る。そしてアイリスがお茶の準備を始め、元気がソファーに腰掛け、お皿にクッキーを付け足し始めた。阿吽の呼吸だ。


「……しかし、おっさん。鈍すぎるだろ……」


「旦那様も相当ですけど、あのおじさんも相当ですね……」


「え?俺って鈍い?」


「はぁ……。旦那様~大好きですよ~」


「ハハハ!俺も大好きだよ~」


 キョトンとする元気に、アイリスがギュッと抱きつく。するとすかさず元気も笑顔でギュッと仕返す。


「……ほら。こう言う所」


 元気のその行動に、抱きついたままジト目でツッコむアイリス。


「え?どう言う事?」


「はぁ……。もう良いです。それで、あの面白い光景を見せる為だけじゃ無いのでしょ?私を呼んだのは」


 未だキョトンとする元気に、説明を諦めるアイリスだった。


「そうそう。アイリスってお風呂のイメージってどんな感じ?」


「ん~。エロい?」


 抱きついたまま、そう答えるアイリス。


「ん~。解らなくも無いけど……何か違うな~。グレイスが、熱い。冷たい。痛いって言ったんだ……」


「え?……そんなの、熱湯を掛けられて、冷水を掛けられて、痛い事をされたって事でしょ?そのままの意味だと思いますけど?」


「でも、王妃だぞ?そんなの誰が?」


「誰って王様でしょ。首輪つけてたし、あの人奴隷ですよね?旦那様……平和ボケしすぎてませんか?」


 アイリスが元気の膝の上によじ登り元気の目を見据える。


「……平和ボケって……」


 元気がその言葉に少しムッとする。


「また、言いましょうか?私が捕まってた間に何されたか?」


 アイリスの視線の奥に揺れる静かな物に気付き、元気がアイリスを抱き締める。


「……いや、いい。ごめんアイリス……」


「フフフ……解ればよろしい」


 こう言う所が駄目な人……と思いながらアイリスは元気を抱き締め返した。


「お前ら……。何をしてるのだ?」


 二人でギュ~っとしているとグレイとグレイスが戻って来た。


「あら。お早いお帰りで……。愛の抱擁をちょっと……」


「アイリス。誤解される様な事を言うんじゃ無いよ。色々とアドバイスを受けたお礼にね、それにちょっと、真面目に答えてくれるアイリスが愛おしいな~。と思っちゃって」


「や~ん。旦那様~もっか~い」


「ハハハ……も~。アイリスは甘えん坊だな

 ~」


 笑顔で抱擁し合う二人を見て、戸惑うグレイとグレイス。そして手をつないだままソファーに座る。グレイには元気とアイリスの関係性が解らず。何も言えない。


「そ、それで、どうなのだ?何か解ったのか?」


「……。解らないおじさんの方がおかしいわよ……。グレイスさん。星の王子様は誰?」


 アイリスの問いかけにグレイスが迷わず。グレイを指さした。


「は?どういう事だ?俺はただの人間だ」


 それに困惑するグレイ。


「はぁ……。夢の無い男ね……脳味噌が石で出来てるんじゃ無いの?」


「な、何だと!?……あぁ。驚かせてすまんグレイス……。元気。その小娘の教育をしっかりしろ……言葉遣いが酷いぞ……」


「ご、ごめん……。アイリス。目上の人に言いすぎだ……」


「だって……。お姉ちゃんみたい何だもん。気付いてるのに気付かない振りして……。そんなの卑怯よ……」


 アイリスがそう言ってグレイを見据える。


「ほう。卑怯とはどう言う事だ?小娘……」


 グレイもその視線に応える。


「旦那様ならともかく、戦場に出ている兵士が、気付かないハズが無いでしょ?彼女の傷や視線に……。奴隷がどういった扱いを受けるかも」


「そ、それは……」


「おじさんが連れて来といて、気付きませんでした~。じゃ無いでしょ?絶望の中で助けて貰えてどんなに嬉しかったか……。今!彼女がどんな気持ちでそこに座っているか解る?助けてくれた王子様に邪険にされて!迷惑そうにされて!どんな気持ちか解ってる!?」


 アイリスにそう言われて、グレイがグレイスを見やると、グレイスがポロポロと涙を流しながら泣き出してしまった。


「ア、アイリス……ちょっと、落ち着いて……」


 アイリスがミリャナに飛びかかる前のテンションにまで、ヒートアップしている。元気がヤバい!と思いギュッとアイリスを抑えた。


 グレイは泣き出したグレイスを見て、どうした物か。とオロオロとしている。


「大丈夫よ。旦那様。流石に、おじさん相手に飛びかからないわよ……。……でもね!腹が立つわ!優しくしたのならね!最後まで優しくしなさいよ!馬鹿!優しくした責任を取れ!」


 腕をバッと振りほどいたアイリスがグレイに飛びかる。何も大丈夫じゃ無かった。


「ごめん!アイリス!」


「ぎゃ!?」


 元気はそう言うと、飛びかかるアイリスの足をひぱって止める。するとゴン!と大きな音を立ててアイリスが机の上に頭を打ち付けた。


 それを見て、グレイとグレイスが驚きで目を見張る。


「いった~。旦那様……酷いです……」


「何がだよ……全然、大丈夫じゃ無いじゃ無いか……ほら、ヒール……」


 起き上がって、元気の膝に戻りヒールされるアイリス。グレイとグレイスは驚いたままだ。


「はぁ……。とにかく……。おじさん。男ならしっかりしなさい。泣いている女の子を助けるのが男の子仕事でしょ?違う?」


 驚いてポカンとしていたグレイだったが、アイリスの言葉にグレイの瞳がユラリと揺れる。


「…………。はぁ。こんな小娘に説教される日が来ようとは……情け無い……」


 そう言いながらグレイが立ち上がり。グレイスの前に膝をつく。そして握ったままだった手を額に当てた。


「俺は王子様でも何でも無いが……。その……良ければ、俺に君を助けさせてはくれぬだろうか?……一目見た時から気になって仕方が無かったのだ……その……あれだ……」


 そこまで言ってグレイが口篭もる。


「おじさん長い……」


 それを見てアイリスが茶々を入れる。


「う、うるさい……。こう言うのは苦手なのだ……。……その、身分不相応なのは、理解している……忘れようと一度逃げてしまったが……もう逃げん……。俺はお前に一目惚れした。好きだ……結婚して欲しい……」


 それを聞いたグレイスがまた、ポロポロと泣き始める。そして、グレイにギュッと抱きついた。


「まったく……。やれば出来るじゃないの……」


 その光景を見て、満足そうに溜息を吐くアイリス。そして。どうしてこうなった?と思う元気なのだった。



書き始めたら、長くなっちゃったw

嫌いではないお話になったかと思います。


次回は女の子がとても困った事のお話。


ブクマ:評価:コメント等々よろしくお願いします。

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