事情聴取開始。
アルカンハイト三兄弟の中で、実はグレイが一番いい男なのかも?
「無理だと言っているだろうが!ああ言うのは無理なのだ!」
兵士の詰め所で愚図るグレイ。それを説得しようと粘る元気。
「無理って言っても、おっさんにしか懐いて無いんだから仕方ないだろ!……あいた!」
「馬鹿者!人を犬の畜生の様に懐く懐かないで評するな!」
「ご、ごめん……。悪気は無いんだ……。で、でも実際はそうだろ?おっさんにしか、心を開かないんだから!」
「知らん!……関わってしまったら、最後まで面倒を見らんといかんなるじゃあ無いか!俺は嫌だ!そうだ!……兄上!兄上ならどうだ!」
良い事を思いついた風にグレイが言う。それに元気が頭を横に振る。
「無理だよ。屋根裏から出て来ないもん。家に居る時は英雄でも何でも無い。ひこもりのオジサンだよ」
「ぐぬ……。ヴァイドの前や民衆の前では格好つけるが……元気の前でもそうなのか……」
「うん。ミールが一人増えただけ、今日は釣りに行くっていってたから、何処に居るかさえ解らない」
「そ、そうか……。兄上は、楽しそうにしておるのだな……。長男故に、心が休まる少年時代が無かったのだ。良くしてやってくれ。と言う事で、帰れ」
ギュッとグレイが元気の手を握ると、椅子から立ち上がり元気を追い出そうとする。
「おい!いい風に締めようとするなよな!」
「だから!知らん!俺を国政に巻き込むな!」
「……。連れて来たのは……おっさんだろ?」
グレイがピクリと反応する。
「そ、それは……」
「それに、あの姫様、まだドロドロだったけど、可哀想だったな~。会いたそうにボロボロと泣いてたし……」
リャナの言い回しを真似しする元気。それにグレイが黙ってしまう。効果は抜群の様だ。
「ふ、風呂や話し位……誰にでも……」
「そう言えば、中央王国の人間は救う必要無い!って言って怒ってた騎士もいたな……。このままじゃ……いった!」
「その姑息な言い回し……。リャナの真似をするな馬鹿者……」
苦い顔をするグレイ。グレイも過去に何か被害に遭っている様だ。
「ご、ごめんて……。でも、どうしようも無いんだよ……」
グレイが顎髭を摩りながらキツく目を閉じる。そしてしばらく黙った後に、ゆっくりと口を開いた。
「酒だ。良い酒をよこせ……。じゃ無いと行かん」
「解った!おつまみもつけるよ!父さん母さんの要求に比べたら、お安い物さ」
グレイが諦めた様に溜息を吐く。
「まったく……。兄上と義姉上は何を子供にさせているのだ……」
「え?おやつやご飯の準備に、炊事洗濯。それに、洋服や乗り物や、遊び道具をねだったり、この前は、部屋が欲しいって言ってた」
「元気よ……あんまり甘やかすな……。……何か、身内がすまんな……」
「遠慮されるよりか、いいよ」
グレイがそんな元気の笑顔を見て、パン!っと両手で自分の頰を叩く。どうやら、腹を据えた様だ。
「よし。行くか……。身内が世話になっている礼だ……何でもやってやる」
「ありがとう!助かるよ」
問題児の多い元気の周りでは、問題児じゃ無い人間の陰が自然と薄くなる。今まで目立つ事が無かったグレイだが、この人が一番真面目なのかも知れない。と元気はこの時、初めて思った。
グレイを連れて、戦艦内の客室に戻ると、グレイスの顔がぱぁっと笑顔になる。
「お待たせ、何か変わった事は?」
60から始める枯れ専生活。を読みながら、待機していたイグアナに状況を聞く。
「無かったわよ?良くも悪くも大人しいまま……きっとオジ専なのね、あんな、熊みたいな男の何処が良いのかしら?」
イグアナがそう言い切った時だった。バン!とグレイスが机を叩き、イグアナを睨む。それそ見た元気が焦る。
「い、イグアナ……。ありがとう。ゆっくりと休んで、これ今回の特別手当」
イグアナに、枯生の最終巻までの25冊を箱に入れて渡す。
「……どうも。まぁ、今のは人の趣味に口を出した私が悪いわ……。お幸せにどうぞ。じゃあね。聖人様」
そう言って去って行くイグアナ。どういう成長の仕方をしているのか?とイグアナの成長を不安に思う反面。何か格好いいな。とも思う元気だった。
「で。元気よ俺は、何をすれば良いのだ?」
「何って、取り敢えずお風呂でしょ?」
「ふ、風呂って、……風呂くらい……自分で入れるだろ?」
そう言いながら、グレイスを見やるグレイ。するとグレイスが首を横に振る。
「何か、理由があるのかもよ?」
「ふむ。何か理由があるのか?」
グレイが質問すると、グレイスが元気を気にしながらも、ポツリポツリと答える。
「お風呂は……熱いし、冷たいし、痛いから嫌い……でも、グレイがしたいならいい……」
「したいとは、どう言う事だ?俺も好きかどうかと言われれば、好きでは無いしたまにしか入らんが……。どう言う事だグレイス?」
グレイスはそれから俯いてしまい。また喋らなくなってしまった。
「お風呂に入らないのに、驚いたんじゃ無いか?ちゃんと、毎日入れよ?兵士は汗かくんだから」
「うるさい。汗はちゃんと拭いてる」
お風呂に入る。とは言わないグレイだった。
「うむ。訳が解らん。誰か、意味が解る奴はおらんのか?」
「……。あ、もしかしたら……。ちょっと待ってて」
元気がパッと消える。それを見てグレイスとグレイが驚く。
「あれが、瞬間移動と言う奴か……驚くな……」
そう驚くグレイを見て、グレイスがクスクスと無邪気に笑う。グレイはそれを見てまるで子供の様だと感じた。
「グレイスよ……。その、なぜ俺にしか口を聞かんのだ?それにも何か理由があるのか?」
グレイスは少し視線を彷徨わせた後。「これ……」と言って一枚の木札をグレイに差し出した。
「何だ?読めって事か?」
コクコクと頷くグレイスから木札を受け取るグレイ。木札は、色んな染みが付着しておりインクも染みていて読みにくい……。
グレイにはその染みが血である事が一目で解る。戦場の遺品の中に似た物があるからだ。
「誰かの……遺書か?」
グレイの問いに、グレイスが首を横に振る。そんなグレイスの、所々赤黒く変色した腕や指を見やるグレイ。
これは、グレイスの血か……。と思い至り。……だから……関わるのは嫌だったのだ。
と、木札に書かれた文字を静かに読み始めるグレイだった。
何か、書かないと忘れそう。
プロット書く時間で、物語を書く自分ですw
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