異国のお姫様
お城の広間には、
オジサンしか居ませんでしたね。
中央王国の闇が見えて来ます。
戦艦内部では、騎士達が荷下ろしを進めている姿がチラホラと見える。そんな中、元気は姫君が居る客室へと向かっていた。
「聖人様!お久しぶりで御座います!」
「おぉ、アルビナ!」
笑顔で元気に駆け寄るアルビナ。狼族の少年とトカゲ族の兵士も一緒に付いて来る。
「こ、こんにちは!聖人様!ガリオです!」
トカゲ族の兵士が、胸に手を当てて敬礼をする。身体の割に声が幼い。少年兵なのだろうか?と元気は思う。
「ヘイトです」
狼族の少年が敬礼をしながらも、ぶっきら棒に挨拶をする。元気と同じ位の背丈で、大きな耳と尻尾が愛くるしい。
「ヘイト!しっかりと挨拶をせんか!まったく……。今日はどうされましたか?我々の様な虫けらに、何か御用でしょうか?」
ニコリとそんな事を言うアルビナに、そうだった、こんな人だったと元気は思い出す。
「い、いや。あの……グレイのおっさんが、姫君を保護?したって聞いて……」
「あぁ!アレですか!敵国の姫君の処分に参ったのですね!あそこの部屋におります!」
「しょ……処分?」
ガリオが元気を見ながら、ゴクリと息を呑む。ヘイトも「ひでぇ……」と言いながら一歩引く。
「いやいや!話を聞くだけだって!何か、困ってるかもだろ?……怖い事を言うなよな!」
元気の言葉を聞いたアルビナの表情が、一変。笑顔から怒りの表情へと変わる。
「話を聞く!?何を言っているのだ!?アレはアルカンハイトを切り捨てた国の人間ぞ!!!話など聞く必要も、助ける必要も無い!!!問題事しか起こさない!虫よりも厄介な物だ!!!」
元気に怒鳴りながら、アルビナが通路奥の部屋を指さす。いきなり怒鳴り出すアルビナに、元気が驚き慌てる。アルビナは怒り冷めやらぬ様子で、扉を睨みつける。
「……聖人様。アルビナの弟が……。中央で戦死してたんだ……それに、何人か戦争からの帰還者も乗ってる……皆……ボロボロ。その、アルビナも悪気があって怒鳴ったんじゃ無いんだ。……許してやってよ……」
「ぼ、僕からもお願いします……」
ヘイトとガリオが元気に頭を下げる。
「お、怒ってないよ。驚いただけ……頭を上げて……。そっか……弟さんが……辛いよな……」
ミールを失っていた時期のミリャナを見ている元気は、アルビナの事が心配なる。しかしどう声を掛けていいか解らない。
「す、すいません!聖人様!個人的な事で声を荒らげてしまい!どんな処罰でもお受けします!望むのであれば、喜んで腹でも切ります!」
そう言って頭を下げるアルビナ。本当にしそうで怖い。と思う元気。
「処罰って……。あ、じゃ、そこの二人が立派な戦士になるまで、面倒をちゃんと見る事がアルビナの罰だ……悲しいからって、変な事は考えないでね……」
アルビナの身体がピクリと反応する。どうやら、何か考えていたらしい。
「聖人様は……。希望を失った私に……一人で生きろ。と言うのですか?……罰が重過ぎます……いっそ……」
元気がアルビナの言葉を遮る。
「……一人でって……。ヘイトもガリオも居るじゃ無いか?アルビナにとって、そこの二人はどうでもいい人間なの?そりゃ……弟の代わりには、ならないだろうけどさ……」
アルビナが、頭を下げたままのヘイトとガリオを見やる。
「…………。聖人様……寛大な処置……お礼を申し上げます。虫けらな私ですが、コイツらを命に代えてでも立派に育て上げ。聖人様のお役立てる様。精進したいと思います」
「いや、虫けらって……それに命も掛け無くてーー」
「ーー聖人様……。もういいよ……急いでるんだろ?これから、コイツの事は俺が見張っとくから……。大体、聞いてた話と違うじゃねぇか」
「話が違う?」
ヘイトが頭を上げて、元気に向かって腕を組む。
「虫けらだの、羽虫だの人をコケにするムカつく野郎かと思ったら、普通の奴じゃねぇか、そりゃ、力は凄いんだろうけど」
「へ、ヘイト!言葉が過ぎるぞ!す、すいません!聖人様!どうか、お許しを!コイツはまだ、子供で!なのでどうか、お命だけは!」
アルビナが頭を下げ過ぎて、土下座してしまった。
「はぁ……。ヤバい奴の匂いがしないんだよ。聖人様からは……。コイツが勝手に誤解してるだけだろ?」
「ま、まぁね……。正直……。普通に話してくれる方が有り難いかな……」
「も、申し訳ありません!聖人様!」
土下座を辞めないアルビナに、ヘイトが呆れた表情を見せる。その後、アルビナの代わりに色々と説明してくれた。
「ったく。姫君は、あそこの部屋にいるから、それと、戦場から帰還した兵士は一度、兵舎で休ませておくよ。そんな感じでいい?」
「あぁ。ありがとう。そんな感じで頼むよ」
元気がヘイトにニコリとすると、ヘイトもニッと返してくれた。
「ガリオ。アルビナを抱えろ。聖人様の仕事の邪魔だ……ったく……。じゃあな、聖人様。……その、助けて貰った事……すげぇ感謝してる……」
去り際にそんな事を言うヘイト。
「解った。行こうアルビナさん!あ、聖人様!僕も、毎日楽しいです!ありがとう御座います!」
そう言いながら、アルビナを抱えるガリオ。
「こ、こら!お前達勝手に!聖人様!お、お許しを!……こ、こら!は、はなさんか!な、なにとぞお許しを!」
そう言いながら、ガリオに抱えられたアルビナ達三人が去って行く。その騒がしい後ろ姿を見て、何だか嬉しくなる元気だった。
三人を見送ると、姫君が滞在中の部屋をノックする元気。しかし返事が無い。元気は帰ろうかな?と思うが、そうも行かない。
「失礼しま~す」
元気が部屋をのぞき込むと、ソファーに女の人が一人。ポツンと座っていた。
豪華なボロボロのドレス。整った顔や、長い手足には泥が付着したまんま。長い金色の髪はボサボサ。年の頃は、20~25。成人の女性だ。
眠れていないのだろうか?怯えた様な青い瞳の眼下には、深いくまが出来ている。小刻みに震える瞳がジッと元気を見据える。何があったんだ?そう思うと同時に元気の目にある物が飛び込んで来た。
「首輪……?姫君って……これは……」
「そう。まるで、奴隷よね」
「うお!イグアナ!いつの間に!?」
「ちょっと、驚きすぎよ……」
「ご、ごめん……」
背後にいつの間にか立っていたイグアナに、元気が驚く。性別は男なのだが、化粧をバッチリ決めて、今日はキラキラのスーツを着ている。
「お風呂に入れようとしたけど、嫌がっちゃって……。グレイのオジサン以外とは、話をしないのよ……」
「そうなの?」
「ええ。名前はグレイス。……王室で王妃として飼われていた性処理用の奴隷らしいわ……」
イグアナが何を言っているのか解らずに、元気の思考が停止する。
「い、意味が解らないんだけど……」
「私もよ……。それ以降、グレイのオジサンも話して無いみたいだし……。ああ見えて、ウブなのよね、あのオジサン。お風呂も無理だ!って言って入れないし……。ちょっと救世主様。話して見てくれる?」
イグアナが頰に手を当て、溜息を吐く。
「良いけど……」
元気がグレイスにゆっくりと近づく。するとグレイスが膝を抱えて身構えた。
膝を抱える腕には、紫色の指の後が無数に付いている。どれ程握り締めて来たのかと元気は思う。
「こ、こんにちは、俺は元気って言います。よろしくね」
「……………………」
元気がニコリとするが無反応。
「そ、そうだ!お腹空いてません?」
元気がクッキーを出すが無反応だ。
「……………………」
「ここに、来た理由は何かな?」
やはり、無反応なグレイス。
「どうすりゃ、良いんだこれ……。何でグレイのおっさんにだけ……」
「…………!」
グレイと言う言葉に反応するグレイス。
「……もしかして……。グレイのおっさんの知り合いとか?」
「……………………」
無言だが、少し目が泳ぐグレイス。知り合いって訳でも無いようだが、反応はアリだ。
「グレイのおっさんに……。会いたい?」
「………………」
コクリと頷くグレイス。
「解った!連れて来るよ。でも……その姿のままじゃ、嫌われちゃうかもな~。ハハハ……。まぁ、おっさんに嫌われた所で……え!?」
軽口を叩いて、コミュニケーションを取ろうとした元気だったが、大失敗。目を見開きボロボロとグレイスが泣き出してしまった。
「な、何やってのよアンタ!?」
イグアナに怒られる元気。
「い、いや!俺は何も!ちょ、ちょっとおっさん捕まえて来るから、イグアナ!頼んだ!」
「ちょ、ちょっと!もう……」
呆れるイグアナを残し、元気は戦艦を飛び出しグレイを探しに向かった。
前書きでそれっぽく言いましたが、それっぽく繋げただけですw
さて、次回は城の様子か、聞き取りの様子か、どっちから書こうか迷い中w
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