訪れ
新しい季節は、何かが起きる予感がしますよね。
「元気よ、いいか?良く覚えておけ。本音と建て前は違うんだ。それくらいはお前にも解るだろう?」
そんな事を言いながら、シュークリームを食べるダルドリー。
「まぁ。何となくは……」
話を聞きながら、日課のパンツたたみを行う元気。
「無論。人間には裏表もある。それも解るな?あ、お茶くれる?」
元気はダルドリーにお茶をついであげる。
「……。それで?何がいいたいの?父さん?」
「ん?まぁ。あれだ……。やっぱり、部屋作ってくれないか?城にいると気が休まらんのだ……。俺はもっと遊びたい!」
そこには、領主の兄。英雄ダルドリーの姿は無く。ミールの父親がいた。
「良いけど、母さんから、甘やかすなって言われてるし……。父さんが城に住み始めて、叔父上も喜んでるじゃないか」
「それは、それ。これは、これ。俺は、俺。として過ごす場所が欲しいのだ!」
最近、2日に1度はやって来るダルドリー。おやつを食べると、屋根裏にこもり、夜になると城に帰る生活を送っている。
「ヴァイドが甘えてくるのは、構わんが、大人になってからも、甘えすぎだ。それではいかんだろう?なぁ?元気よ?そう思わんか?……あ、シュークリームおかわり」
元気はダルドリーにシュークリームを出してあげる。
「……そうですね」
「ありがとう!……あ、そうだ!上の本で見たのだが、ゴム長靴って言うのが欲しいんだが、作ってくれ!ゴム?って言うのがどうも謎でな。な?頼むよ元気!釣りに履いて行きたいんだ。あと、ベストも欲しい」
「……作り方、教えようか?」
「え?いいよ。元気にお願いするし……。はぁ。うまかった。昼はハンバーグが良いなぁ!じゃ、部屋に戻るから……何かあったら呼べ!ハハハハハ……」
笑いながら、屋根裏へ向かうダルドリー。
そんな姿を見ながら元気は思う……あれは一体誰だろうか?と。
ヴァイド達の話を聞いて、ダルドリーは町の英雄で、人気者で、凄く頼れる兄貴で、立派な父親。好戦的で、活発な男の中の男みたいな存在だろうな。と元気は思っていた。
しかし……。おやつや遊びの時以外は部屋から出ない。嫌な事は極力しない。優しいには、優しいが、自分にもとことん優しい。行動パターンがミールとそっくりだった。
「ただいま。元気。あら……ダルドリーも来ているのね……」
ダルドリーが食べたおやつのお皿等を片付けていると、リャナがやって来た。
「あ、お母さんお帰り」
「たただいま……。ねぇ。ちょっと聞いてくれるかしら?私の母親ってマザーなのだけどね……。あ、片付けしながらで良いわよ」
とんでも無い事をサラッと言い出すリャナ。元気は片付けしながら話を聞く。
「どう思う?」
「ど、どうって言われても……」
リャナにジッと見つめられて、元気は戸惑う。そして思う。ブラをつけなさいと。リャナは今日も薄手のワンピース。胸の下で腕を組みながら話すので、おっぱいが強調されて二つの突起が目立つのだ。
「一生苦しめば良いと思う反面。感謝してる気持ちもあるのよ……。……お茶はまだかしら?」
「あ、はいはい」
元気はリャナのお茶を準備し始める。
「許すべき?このままで良いと思う?」
「う~ん。難し過ぎるし、何で俺にそんな話をするの?」
すると。ダルドリーの居る屋根裏を指さすリャナ。
「……無理でしょ?」
「……。確かに……」
リャナの言いたい事を理解する元気。
「貴方は私に最も近い。と感じるのよね。貴方……ミリャナにしたでしょう?……ペロリ?」
「え!?」
誰にも言って無いはずだ!と思い元気はドキッとする。
「フフフ……。あの子。反応が可愛いわよね……。この前久々にしようとしたら、耳ガードするんだもの。だからお鼻にしたわ」
「なるほど……。その手があったか……。あ、お茶どうぞ」
「ありがとう。……私……愛おしくなると歯止めが利かないのよね……」
お茶をすすり溜息を吐くリャナ。
「解ります。何か自然と身体が動いちゃうって言うか……」
元気が同意しながら、お茶をすする。
「多分。私達は我慢が出来ないのよ。愛情に飢え過ぎていて……。食べちゃいたくなるのよね……」
「確かに……。ミリャナ見てると……ペロリと食べたくなりますね……」
「貴方は変態ね……」
「母さんに言われたく無いんだけど」
元気とリャナは笑い合う。
「はぁ。話したら、スッキリしたわ。スッキリしたついでに、お風呂に一緒に入りましょうか?」
リャナが伸びをしながらそんな事を言う。そんなリャナの、強調されたおっぱいを見ながら元気が驚く。
「え!何で!?」
「え?一緒に入りたいからよ?嫌かしら?」
「え?いや。嫌じゃ無いけど、駄目でしょ?え?駄目だよね?」
普通に答えるリャナに元気が混乱する。
「お母さんと子供がお風呂に入るのなんて普通よ?ミリャナとは、ずっと入ってたわよ?」
「いやでも、俺は……」
「なに?家族じゃ無いとでも言いたいのかしら?」
「い、いや……」
徐々に徐々に絡め捕られる元気。
「……ごめんなさいね。元気……。私。嬉しかっただけなのよ。同じ様な境遇で育った貴方に出会えて。深い話が出来る家族が出来て、でも迷惑だったわよね……ごめんなさいね……フフフ……お茶。美味しかったわ……じゃ、さよなら……」
よよよ……と泣きながら、立ち上がるリャナだったが、元気には嘘泣きだとすぐ解った。
「母さん。ミリャナって泣き真似下手なんです。そっくりですよ?」
「……。あら。これ、結構通じるんだけれど?……。あ。そうだわ。あの水着を着ればいいでしょ?色々あって本当にお風呂に入ってスッキリしたいのよ……。駄目?」
急にしおらしく、上目遣いでおねだりするリャナに、元気はグラリと心が揺れる。普段はキリッとしているが、甘えた顔がミリャナそっくりだ。
「ひ、一人で入ればーー」
「ーーミリャナって……足の小指がーー」
「ーーもう!解りましたよ!でも!何もしないで下さいね……。ちゃんと水着も着て下さいね!」
元気が怒りながら、水着をリャナに渡す。
「何もしないでって。普通。逆じゃ無いかしら?」
リャナはそれを嬉しそうに受け取ると、ワンピースをその場で脱ぎ始めた。
「だ、だから!お風呂場で着替えて!」
「あら?そうだったわねフフフ……さ。行きましょ」
裸で元気の手を引くリャナ。
「ちょっと!服を着なさいって!と、父さ~ん!?」
屋根裏に向かって助けを求める元気。
「ちょっと今。忙しい~。ミールもそんな感じだったし大丈夫だろ~。頑張れ~」
屋根裏親爺は役に立たなかった。
その後。お風呂に入った元気だったのだが、何もしない。と言う約束は守られる事は無く、「ぎゃ!?」っと耳をカプリとされたり。「ひえぇぇ!?」っとプニプニされ。リャナの愛に絶叫が止まらない元気なのだった。
後日。本気で向かってくるリャナが怖くなり。元気はミールに相談した。
「へぇ~。元気が母さんの標的になってるんだ。まぁ、頑張れ。僕も子供の頃に散々やられた」
「頑張れって……」
「リャ、リャナ様……。その、大人って感じで……。凄いよね……私色々……教えて貰っちゃって……」
最近ずっと、ミールと一緒のアルトが頰を染めながら、モジモジする。リャナが孤児院に戻ってから、アルトは急激に女の子化していっている様だ。
「…………。元気……お前は、家を守るのが仕事だ。色んな所に飛び火する前にしっかり。母さんの面倒見ろよな……。じゃ僕、仕事行くから……」
ペコリと頭を下げると、アルトは嬉しそうにミールに着いて行った。
「面倒を見ろって……」
屋根裏コンビは役に立たない。そう思った元気は、意を決してミリャナに相談してみる事にした。
「ミ、ミリャナ……。どう思う?やっぱり駄目だよね?こういうの……」
「え?駄目って……。カプリもペロリも元ちゃんが私にするじゃない?何言ってるの?お風呂だって入ってこようとするし……」
何食わぬ顔でそう言うミリャナに、元気は同意しか出来ない。
「……そうだね。何かごめん」
「怒って無いわよ?お母さんとお風呂入るといつもだったし。……でも、元ちゃんにやられると……恥ずかしいから……その。そういうのは……もっと……大人になってから……」
え!大人になったら!良いの!?と元気の頭の中にお花が咲き乱れ。猫がハッピーに踊り出す。
「そ、そうだね!うん!ハハハハハ!俺は何を悩んでたんだろ!カプリもペロリも、くんくんだって、普通の事だよな!」
「くんくんは、どうかと思うけど……。お母さんは、やるなら何事も本気でやりなさい!って言ってたわ」
「何事も本気で?」
「うん。それが大人だって」
「大人の本気か……。何か大人って凄いな……」
「うん!フフフ……お母さんって凄いの!」
何事にも限度があるのだが、限度と言う物を、リャナがあえて教えていない事に。思い当たるハズも無い二人だった。
元気がそんな騒がしくも、平和な日々を送っていると、送迎船の第一便が帰港した。
「どうしたんだ?おっさん?元気が無いじゃ無いか?何か問題でも起きたのか?」
その出迎えに向かった元気だったが、グレイの様子がおかしい事に気がつく。
「うむ……それがな……」
髭を摩りながら歯切れ悪く喋るグレイ。
「エルフ達が何かした?戦場で暴れたとか?」
「いや。あやつらは大丈夫だった」
「じゃ、どうしたんだよ?」
「まぁ、お前になら良いか……。中央の姫君が亡命を希望して……船に乗り込んで来た……捨て置く事も出来ないから……取り敢えず連れて来たが……。あまり、よろしくは……無いよな?」
「…………多分。よくないな」
「俺の仕事はここまでだ!後は頼んだぞ!元気!ではな!」
「お、おい!おっさん!」
ダッと、脱兎の如く逃げるグレイ。後ろ姿は熊のそれで、兎の様な可愛い物では無かった。逃げる姿も、置いていった問題も。
そんなグレイの後ろ姿を元気がポカンと見ていると、何処からともなく冷たい風が吹いた。
もうすぐ。本格的に凍える季節がやって来る。元気は身震いすると、嫌な予感しかしない船内へと足を進めるのであった。
さて、冬の訪れと共に。やって来た姫君w中央王国では、一体何が起こっているのでしょうか?
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