戦場送迎船・出航
そう言えば、エルフ側の恋バナは無かったかな?
今日は中央戦線へ送迎船が出航する日。
元気はアルカンハイト北の船着場へ、最終チェックに来ていた。
「やりたい放題だな……。アイツら……」
寂れた船着場なのだが……。そこに停泊しているのは、エルフ達が制作した立派な巨大戦艦だ……船首からは、波動砲が出る。
中央戦線への送迎船には、護衛のエルフが5名と引率にグレイが指揮を執る騎士が10名。奴隷の戦争参加志願者が、約60名。これは、特に血気盛んな者達から送り込む事になった。
「おい元気。酒をこの木箱に頼む」
大きな木箱を差し出すグレイ。
「おっさん、酒って……。勤務中に飲むのは駄目だろ?」
「エルフ達が一緒に船に乗るのだ。万が一も無いだろ?ほら……早く。コレに入れろ」
「まったく……。ほら。飲み過ぎるなよな……。他に足り無いものは?」
「そうだな……。つまみに、干し肉も頼む!」
そう言う意味じゃ無いんだけど。と思いながら、木箱いっぱいに酒とつまみを出す元気。グレイはそれを確認すると満足そうに、船に乗り込んだ。
「元気様!船の護衛はお任せ下さい!このイケメン!無事に任務を遂行致します!……私……。この任務が終わったら告白するのです……」
モジモジしながら、そんな事を言うイケメン。本日。エルフ達は海賊スタイルだ。
「お前は、わざとらしく死亡フラグを立てるな!」
「はは!流石。元気様!ナイスツッコミです!素晴らしいです!いや~。感動します!」
「そ、そう?へへへ……」
元気は褒められると何でも嬉しい。
「それで、誰に告白するんだ?」
「ヘレンさんです。あの方は素晴らしい!私のボケに正確にツッコミを入れてくれるのです!」
イケメンは嬉しそうだが、イケメンの背後では、エルフ達がイケメンを面倒そうに見る。誰にでも、何処でもボケるイケメンが最近ちょっと鬱陶しいのだ。
「……そう。あんまり、皆に迷惑をかけない様にな……」
「はい!モチのロンで御座います!あ、勿論と言う意味ですよ?ハハハ!あ~!楽しみですね!皆も楽しみでしょう?」
「あ、うん」
とマウス。
「そ、そうね……」
とコスモ。
「ははは……」
とバーラ。
「ほら。さっさと行くわよイケメン」
とイグアナ。
マウス。コスモ。バーラ。の姿は少年少女だが、600歳を越えている。イグアナとイケメンはフェルミナと同じく2000を越える。送迎船を守る戦力としては、十分な編成だ。
「あ、これ……。船旅中暇だろ?新しい本」
木箱いっぱいの、漫画や小説を渡す元気。
「あら……。救世主様、気が利くわね。イケメンにもちょっとは、気を使う様に言ってくれないかしら?……まぁ。無駄ね……」
コスモ達と楽しそうに話すイケメンを見やり、イグアナが溜息をつく。
「ハハハ……。まぁ、色々とよろしくね。イグアナ」
「はぁ。何かあったら。女王に念話で伝えるから、その時の対応はお願いね」
「うん。解った」
「じゃ、行って参ります」
「あ、ちょっと待ってイグアナ……。これ……。アイツらには……ちょっと、見せられないやつ……」
元気が箱の本とは別に、小説をイグアナに手渡す。
「あら!本当に気が利くわね!続き。読みたかったのよ~。茂雄と武雄の恋がどうなるか、良い所で終わってたの!良いわよね~。60から始める、恋愛生活。フフフ……。ほら。あなた達!さっさと行くわよ!」
「「「はーい!」」」
イグアナは風変わりなエルフだが、他のエルフ達より、精神の成長が早く面倒見が良い。エルフ達の実質的な引率はイグアナだ。
皆が乗り込むと、船が動き出す。
元気が、城に報告に行こうかな~。と思った時。船着場にある小屋の陰で人影が動いたのに気付いた。
「……。誰かと思ったら……。ヘレンじゃ無いか?」
「ひえ!あ、あんた!いきなり現れるんじゃないよ!?びっくりするだろ!まったく……」
顔を真っ赤にして、慌てるヘレン。
「ハハハ……。ごめんごめん……。見送りか?……会わなくて良かったのか?」
「え!?そ、そんなんじゃ無いよ!や、薬草を採りに来たんだ!イケメンの見送りなんかじゃない!」
腕を組み怒るヘレンだが、何故かミリャナのワンピースを着ている。
「フフフ……。誰もイケメンなんて、言ってないんだけどな~」
「あ!?……。か、帰る!」
耳まで真っ赤になって、町へ向かって歩き出すヘレン。それを追いかける元気。
「話しがあるなら、瞬間移動で送ってあげようか?」
「出たり消えたりするあれか……。いいよ……。話す事なんか……ないし」
「……そう」
「そ、それに、私が行った所で……無駄だよ。私は馬鹿でおかしいから……変な事を言うに決まってる」
「ハハハ……。ヘレンは、イケメンが好きなんだな……フフフ……真っ赤になっちゃって……子供見たい」
「な!ミリャナ見たいな事言うなよな!大体、神様の方が子供だろ!……馬鹿にすんなよな……。馬鹿だけど……」
「…………。うわ!子供扱いしたな!神様怒ったぞ!」
元気がバッとヘレンの前に飛び出す。するとヘレンがザッとひざまずき両手を組んだ。
「ごめん!神様!こ、殺さないでくれ!私。最近毎日!楽しいんだ!だから!やだ!」
必死にお願いするヘレン。
「いや……殺すって……」
殺さないよ。と言おうとして、元気はある事を思いついた。
「……いいや!そうかもしれない!何で、楽しいのか正直に言いなさい!」
「うん。恥ずかしいんだけどさ……イケメンが毎日来て……面白い話しを……」
「ヘレン!待って!待って!」
「え?何だよ?聞いたのは神様じゃないかい?」
「うん。あ、ちょっと、目をつぶってから、話してよ……」
元気は、そっとヘレンの肩に触れる。
「え?良いけど……変な事するなよ?ミリャナに何かあったらすぐ言えって言われてるんだからね」
「……うん。大丈夫」
少し警戒するヘレン。ミリャナは一体何を言っているのか?と元気は思う。元気が何かしたいのは、ミリャナだけなのだ。
「閉じたぞ……これでいいか?じゃ、話すぞ?」
「………………。うん。いいよ」
元気はそれを確認すると、船の上まで瞬間移動で飛んだ。
「何処まで話したっけ?」
「毎日イケメンが来るって……所かな?」
静かにする様に。と、人差し指を立てながら、元気がイケメンを呼ぶ。ソロリソロリ忍び足でイケメンが近づいて来るが、動きがコメディ調過ぎて少しイラッとする。
「そうか!イケメンがね。最近毎日来るから、私は毎日楽しいんだ。実は……今日も、本当は、会いに来たんだ。でも……。私何かが来ると迷惑だろ?ミリャナ見たいに美人じゃ無いし、気も利かない。頭悪いからすぐ変な事を言うし……。怖いんだ……イケメンに嫌われるのが……」
それを聞いた。イケメンがピクピクっと耳を嬉しそうに揺らす。しかし、そう言うヘレンはポロポロ泣き始めてしまった。
「へへへ……。情けないね……。何言ってんのかな私……。……孤児はさ、夢見ちゃイケないって……アルトに言っちゃったりしてたし、ミールにも酷い事を言った。私もそうしないとって思ってのに……。夢を見ると、いらないって言われた時に、心が破けそうな程に辛いんだ。だけど……あれ?」
頭に浮かんだ事を、次から次に喋ってしまい、自分で困惑するヘレン。
「フフフ……。ヘレンは今日。イケメンに会って言おうと思ってた事は何だい?」
元気が子供に語りかける様に促す。
「……。今日?今日は、毎日会いたいから、無事に早く帰って来てって……。でも迷惑だろ?私何かにそんな事を言われたって……へへへ」
卑屈に笑うヘレン。いらない。必要ない。と外の世界から迫害されて来た結果だろう。自己肯定感が異常に低い。
「そんな事ありませんよ。心配してくれて嬉しいです。私嬉しくて、世界を滅ぼしてしまいそうです!」
「滅ぼしちゃ駄目だろ?何処に住むんだよ?」
ヘレンが子供の様にへへへと笑う。
「ヘレンさんとなら、何処でもいいです。ほら、泣かないでください」
イケメンがヘレンの涙を拭うと、ヘレンがイケメンの手を握って目を開いた。
「泣いてない!子供扱いするな…………。え!?ここは何処だ!?え!イケメン!?」
驚くヘレンに、イケメンが微笑む。
「船の上だよ。いや。お節介かな~と思ったんだけど……。なんか、あのまま、帰るのは駄目かな~と思ってさ」
元気とイケメンを交互に見たヘレンが一気に赤面する。
「ぎゃ!ち、違うんだイケメン!今のは!違わないけど!違うんだ!」
ヘレンがイケメンの握った手をブンブンする。イケメンは楽しそうにされるがままだ。
「ほほう、言葉遊びですか?違うけど違わない……。面白いですね」
微笑ましい二人を見ていると、イグアナが元気の隣で溜息をつく。
「はぁ。あんた達イチャつくのは良いけど、場所を考えなさい。遊び場じゃ無いのよ?」
イグアナの発言に、ヘレンがピタッと大人しくなる。そしてイケメンが優しく話しかけた。
「そうですね、ヘレンさん。安心して待っていてください。私は貴方の元に戻ります。例え死んだとしても、不死鳥の様に貴方の元に舞い戻りますよ」
「死んだら、駄目だろ……馬鹿め」
「ハハハ……。それはそうですね!ナイスツッコミ!やはり、ヘレンさんは楽しい方です」
「ハハハ……。お前もだイケメン……。待っててもいいのか?その……私何かが……お前を……」
笑い合った後。ヘレンの問いにイケメンが笑顔で答える。
「ええ、あなたなんかが、私なんかを待っていてください。私、何か……お土産を持って帰ります」
「ハハハ……そうか!じゃ、私も何か準備しとくよ!」
「次に会えるのが……楽しみですね……」
「うん」
手を取り合い。見つめ合う二人……。
「ちょっと!あんた達いい加減にしなさい!まったく、ほら。救世主様!さっさと連れて帰りなさい。コスモ達がポーッとしてるわ!変な事に目覚めたら責任取れるの?」
思春期真っ只中の少年少女組が、ポーッと見二人をつめている。端から見たら微笑ましい光景だが、エルフ達の感情が暴走したら、何が起こるか解らない。
「……無理だな……。ヘレンそろそろ戻ろう」
「あぁ!じゃ、待ってるな。イケメン」
元気に向かって頷くと、ヘレンがイケメンに手を振る。そしてイケメンも手を振り返す。
「ええ。帰ったらすぐ会いに行きます!」
ヘレンとイケメンが笑顔で手を振り合う……………………。
「……………………。いつまで降ってんのよ!?長いわよ!さっさと行きなさい!」
激怒するイグアナを見て皆で笑うと、元気はヘレンを孤児院まで送った。
「ヘレン!……に元ちゃん?何で一緒に?」
孤児院に戻ると、洗濯物を干していたミリャナが元気達を見つけて駆け寄って来る。
「あぁ。ヘレンがイケメンのお見送りに来てたんだ」
「そ、そう……。そ、それで、大丈夫だった?ちゃんと会えた?ヘレンどうだったの?ちゃんと言えた?ヘレンは変な所で卑屈になるから……。ねぇ。元ちゃん?大丈夫だった?フフフ……お洋服似合ってるわねヘレン……」
お母さんの様な事を言うミリャナに、ヘレンが怒る。
「もう!神様もミリャナもお節介が過ぎる!私だってもう!18なんだから!」
「それは、そうだけど……」
それでも心配そうなミリャナ。
「ミリャナ……大丈夫だったよ。ちゃんと会えたから、ね!ヘレン……」
「……うん。ありがとう……神様。会えて良かったよ。あんな事言って貰って……嬉しかった……へへへ」
ヘレンが嬉しそうに笑顔を見せる。それを見た元気とミリャナは、自分の事の様に嬉しくなった。
「ハハハ。どういたしまして」
「フフフ……。何か、うまく行ったみたいで良かったわ。後でお話し聞かせてねフフフ……」
二人並んで、嬉しそうに笑う元気とミリャナに、ヘレンは思った事を口にする。
「てか。人の心配何かより、あんた達はどうなのさ?結婚とか?」
「「け、結婚!」」
二人が同時にビクッ!と反応し、モジモジし出す。
「そ、それは……。ねぇ。元ちゃん?」
「そ、そうだね。ミリャナ……」
「その前に……。一発やらなきゃね……」
「か、母さん!?」 「お母さん!?」
洗濯物を抱えて、真顔でリャナが過ぎ去っていく。それを黙って見送る三人。
「あ!そ、そうだわ!元ちゃん!お城に報告に行かなければ行けないのでは無いのでは無いでしょうか!?元ちゃん!」
「あ!そうだね!ミリャナ!お城に報告に行かなければ行けないのであった!ミリャナ!ありがとう!ではでは!」
目がバシャバシャと泳ぐミリャナと元気。
「うん!行ってらっしゃい!気を付けてね!」
「う、うん!行って来ます!」
焦りながら瞬間移動で消える元気と、お仕事!お仕事!と言いながら慌てるミリャナを見て、駄目だこりゃ。っと溜息が出るヘレンなのだった。
フフフ……。誰も残しません!w
そして、余計な事を思い出した!
ミリャナの母親。リャナの出生……!wちょっと、船が戻る前に挟もうかなw
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