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兵舎にて~狼少年ヘイト~

少年兵達のそれぞれの思い。

「ヘイトは、どうするか決めた?」


 兵士宿舎内の食堂にて、鎧を着たトカゲ族の少年ガリオが、狼族の少年ヘイトへ話しかける。訓練は終了したが、夕食は鎧を着たまま行う。食事も訓練の一環だ。


「何の話?」


 ヘイトがハムをパンに挟んで食べながら、ガリオを見上げる。ガリオも同じ様にパンにハムを挟む。トカゲ族は身体が大きい。少年同士でも体格差が大人と子供程ある。


「何って、中央戦争への志願だよ?君は、行くのかい?」


「……俺は……」


 ヘイトがガリオの質問に答えようとすると、狼族のゼイルが横からヘイトの発言を遮った。


「ヘイトに聞くだけ無駄だぜ?ガリオ。ソイツは狼族じゃ無い。腰抜けワンちゃんだ。魔族の風上にも置けねぇ」


 ゼイルに、人魔族のゴリスとライゼが賛同する。二人はゼイルの取り巻きの少年だ。現在。宿舎内には戦争の駒に使われた。12~15歳ほどの獣人や魔族の少年が多い。


「ハハハ……。そうっすね。ゼイルさん」


「ガハハ。普通行くべきだろ、家族を殺されたんだ……。仇を討たないでどうするか……。平和を歌うお前らは、腰抜けだ」


 ゼイルの取り巻きは、まだ複数人いる。殆どが根っからの奴隷では無く、奴隷狩りに合った魔族を怨む被害者だ。


「そうだな……。俺は、腰抜けだ。ガリオ……。これやるよ。俺は部屋に戻る」


 ヘイトは残りのパンとハムとスープを、ガリオに渡すと席を立つ。


「おいおい、逃げるのかよ?ヘイト?本当につまらん奴だ……。奴隷狩りでお前が死ねば良かったのにな?」


 去り際に、ゼイルがヘイトを睨む。そして、ヘイトもゼイルを睨み返す。


「……そうだな。じゃあな……」


 ヘイトがそう言いながら、ゼイルを通り過ぎると、背後から「チッ。この腰抜け野郎が……」とゼイルが言った。


 ヘイトが食堂を出て廊下を進んでいると、ガリオがパンを持って追いかけて来た。


「ま、待ってよヘイト……」


「ガリオ……。お前さぁ、俺と話してるとまた、アイツらにやられるぞ?」


「……。いいよ。ほら、これ、パン。ヘイトもお腹空いてるだろ?」


「……ありがとう」


 ガリオは、根っからの奴隷だ。母も父も知らない。戦場で爆弾を持っている所をエルフに保護された。


「その……。ヘイトは行くのかい?戦争……」


「……。お前はどうなんだよガリオ。今までの仕返しとか考えないのか?」


 ガリオとヘイトは、交互にパンを頬張り。喋りながら廊下を進む。


「う~ん。どうだろう。生まれた時から奴隷だったし……考えた事無いかな?今は、叩かれないし、蹴られないし、お腹も空かない……。それに、ちゃんと眠れるし、僕はこの暮らしを、捨てたく無いな」


「……そうか」


「ごめん……。僕の話なんて、どうでも良いよね……。でもさ、ヘイトが行くなら、僕も行くからさ、教えてよね」


「何でだよ?俺が行ったとしても、お前はここにいればいいだろ?好きなんだろ?ここの暮らし」


「うん……。でも、ヘイトがいないとつまんないから……」


「そうか……」


 部屋の前でガリオと別れると、ヘイトは部屋に入る。部屋とは言ってもベッドと机だけの小部屋。服などは、ベッドの下の収納スペースにしまう。


「何で、あんなに懐かれたんだか……」


 ヘイトは、暗い部屋でポツリと呟くと、鎧を脱いで、身体をベッドに放る。そして目を閉じた。


 本来。トカゲ族は気性が荒い好戦的な種族で、奴隷では無く、奴隷を使役する方だ。


 ガリオも身長が180センチ程あり、見た目が怖い。なので無言で立っていると他の種族は誰も近づかない。しかし、幼い頃に親に売らたガリオは、長い奴隷生活の中で闘争心を失っていた。


 訓練が始まってすぐの頃、独りでオロオロしているガリオの面倒を見てやったのが、ガリオと過ごす様になったキッカケだった。

 ヘイトにはガリオが、どうしよう。と。ただ困ってオロオロしている子供に見えたのだ。


 戦場で保護された奴隷の中に、トカゲ族はガリオしかおらず。それもガリオを孤立させていた理由の一つだ。


「おい。俺の真似をしろ」


「……うん」


 ヘイトが木剣を振ると、ガリオが真似をする。ヘイトが走り出すとガリオも走り出す。と行った感じで、毎日一緒に訓練する様になった。


 そんな、ある日。それを面白く無い。と感じたゼイル達のグループが、ガリオを訓練と称して、集団でボコボコにする事件が起きた。


「ヘイトは、復讐を考えない腰抜けだ!あんなのと一緒に行動するな!お前まで腑抜けになる前に性根を叩き直してやる!」


 そう言いながら、ボコボコにされるガリオだったが、大人と子供の体格差。それに、トカゲ族の硬い鱗に木剣。痛みも何も無い。相手が怪我をする位なら。と、ガリオはされるがままになっていた。


 長い奴隷生活で、他人の悪意や暴行になれていたガリオが、早く終わんないかなぁ?と思っていると、死体処理の仕事から戻ったヘイトが、その現場を目撃してしまった。


 怪我をして、アルビナにおんぶされている。ガリオが、大丈夫かなぁ?と思ったその時。


「お前らぁ!ガリオに何してんだぁ!!!」


 ヘイトがアルビナから飛び降りて、ガリオに群がる少年兵達を、無作為に張り倒して行ったのだ。


 しかし、多勢に無勢。標的がヘイトに変わり。今度は、ヘイトがボコボコにされ始める。


「僕を殴るの良いけど!ヘイトは殴っちゃ駄目!!!」


 ヘイトを暴行する少年兵達に、ガリオがそう叫ぶと、ヘイトの周りの少年兵達を尻尾で一撃。一気に吹き飛ばした。


「だ、大丈夫!ヘイト!」


 ガリオがヘイトを抱え起こす。


「……。お前、強いのかよ……。やられたら、やり返せ馬鹿!」


「で、でも……。皆……怪我しちゃう……」


「……。じゃ、俺が勝手に遣り返す。お前は黙って見てろ!」


 ヘイトが少年兵達を見据え、戦闘態勢を取り。


「……。ぼ、僕もやるよ……。何かヘイトを見てたら、そうしなきゃって思う」


 ガリオがヘイトの真似をした。


 その後、乱闘が始まり。きりが良い所でアルビナに止められ、乱闘騒ぎは終了したのだった。


「もっと、早く止めてくれよ……。アルビナ……」


 医務室でブスッとしながら、アルビナにヒールして貰うヘイト。


「子供の喧嘩は止めに入ると逆に手が掛かる。馬鹿者め……。それで、何があったのだ?そこの魔族の少年」


 ヘイトを、心配そうに見つめるガリオに、アルビナが質問する。


「あの……。ヘイトと一緒にいると、腰抜けになるって言われて……。でも、僕が怒っちゃうと、皆が怪我をするから……怒れなくて……ごめん……なさい……」


 ガリオが泣いてしまった。


「……。名を何と言うのだ。少年」


「僕は……ガリオです」


「そうか……。ガリオは、友達の為に我慢をしたのだな。偉いぞガリオ。ヘイトもガリオを見習え、馬鹿者……」


「うるせぇ……。……ガリオ。次、何かあったら、我慢せずにすぐに俺に言えよ!」


「うん!わかった!」


 その日から、宿舎でも仕事でも、ガリオが常について回る様になった。


 そんな事を思い出しながら、ヘイトは眠りについたのだった。


 後日。兵舎の一室に呼び出され、ヘイトの面談が行われた。


「ヘイトはどうする?」


 面談相手はアルビナだ。


「……アルビナは行くのか?」


 アルビナの正面の椅子に座るヘイト。


「私か?正直言えば……。行って弟を探したい……」


「そっか……」

 ヘイトの耳が垂れる。


「だがな、行かない事にした」


「何で!?」

 ヘイトの耳がピンと立つ。


「ハハハ……。そんなに驚く事か?弟同様……手間が掛かる奴がこっちにいるのだ。私が行くと、一緒に付いて来そうだからな……」


「へぇ……。それは、ずいぶんと自信過剰だな……。ソイツは付いて行かないかも知れないぞ?」

 ヘイトの尻尾がふりふりと揺れる。


「そうか……。ならば、行こうかな……。もう二度と会えぬかも知れぬが……」


 それを聞いて、ヘイトの耳と尻尾が垂れる。


「べ、別に好きにすればいいだろ?俺には、関係無い……」


「いや……。でも、やっぱり、行かない方が良いかな?」


 それを聞いて、ヘイトの耳がまたピンと立った。


「別に、どっちでも良いって……」


 腕組みをしながら、興味無さそうにするヘイトを見て、アルビナがクスクスと笑う。


「私は行かないよ……。お前も行かないだろ?」


「な、何でそんな事……。まぁ、お前がいろって言うならいてやってもいい、それに、ガリオもいるしな……」


「フフフ……。そうだな。お前には色々と期待している。このまま、こっちにいろ……。私に心配を掛けるな……」


「ったく。仕方無ぇな……そこまで言うなら残ってやるよ!じゃあな!」


 ブスッとしながらも、尻尾をふりふりするヘイトの後ろ姿を見送ると、アルビナは再びクスリと笑うのだった。


「ヘイト!どうだった?行くか決めた?ゼイル達は行くって!」


 部屋から出ると、ガリオが待っていた。


「そうか……俺は行かないよ」


「ほ、本当かい!やった!」


 尻尾をバタンバタン揺らして喜ぶガリオ。


「ガリオ。お前さぁ、嬉しい時に尻尾を揺らすのやめろよな。うるさいぞ。それ……」


「ごめん、嬉しくてつい……。へへへ……良かった~」


「はぁ。まったく……何が、嬉しいんだか……」


 そう言いながら尻尾を振り。訓練場へ向かうヘイトだった。

生きる目的は色々ですねw


そろそろ、新章スタートです。


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