生還報告~城にて~
ダルドリー。リャナ。の生還報告の様子。
「今日は、劇の衣装を皆で作りましたのよ!凄く良いのが出来ましたの!」
「……そ、そうか……。木の役……だったな……。うむ。楽しそうで何よりだ」
「フフフ……。お遊戯会が楽しみね……」
夕食も終わり。ヴァイド達三人は、城の食卓にて食後の会話を楽しんでいた。
「はい!楽しみにしておいて下さいまし!メルヒオーネも来て下さいね」
「もちろんで御座います。姫様。命に代えても向かわせて戴きます」
「メルヒオーネ。命は大事にして下さいませ!」
「ほっほっほ……。そうで御座いますな」
メルディとメルヒオーネが笑顔を交わしていると、扉の前が騒がしくなった。
「止まれ!き、貴様は何者だ!どうやってここまで!?」
「俺はヴァイドの知り合いだ。門番の兵士は通してくれたんだが」
「今。確認を取る。ここで待っていろ」
「あなた、5年経ってるのよ。新人も増えているのだから、やっぱり。門で待つべきだったのよ……」
「うむ……。予想以上に入れ替わっているな……」
「可哀想に……。この人、今から門まで走って行かなきゃいけないじゃない……。ごめんなさいね」
「すまない……」
「いえ!では!少しお待ちを!」
門番の走って行く足音が遠くなる……。そしてヴァイドは、門番と話していたその声を聞いて心臓がドクンと鳴った。
「一体、どなたかしら?」
メルディが、ヴェルニカとメルヒオーネに問いかけるが、返答が無い。全員が扉を見たまま固まっている。
「そ、そんな訳……。無い……」
「えぇ。そんな訳……」
「まさか……。坊ちゃんが何か……?」
ヴァイドがそれを聞いて、弾ける様に立ち上がり。扉へ駆け出した。
「やりやがった!アイツ!どうしてこうも俺の日常をぶち壊すんだ!」
「だ、旦那様!」 「ヴァイド!落ち着いて!」
メルヒオーネとヴェルニカが急いで止めようと立ち上がるが、時既に遅し……。ヴァイドが扉に手を掛ける。
どんなに、望んだ事か……。扉に掛けたヴァイドの手が震える……。
「まだ、どう説明するかも決めていないのよ。まったくあなたは……」
義姉さん。説明何かいらないよ……。久々に聞く懐かしい声にそう思うと、ヴァイドは胸が熱くなる。
「いや……。そうだが……。じゃ、出直すか?」
帰っちゃ駄目だ!帰りを待ち焦がれた声の主が言い出した事に焦ったヴァイドは扉を勢いよく開いた。
「うお!驚いた……。ハハハ……老けたなヴァイド……」
「久しぶりね。ヴァイド君……フフフ……。男前になったわね……」
「義姉さん!!!……兄さん!!!」
並んで立つ。ダルドリーとリャナの姿を見てヴァイドは二人に飛びついた。
「きゃ……。もう、ヴァイド君はまた泣いてるの?」
「ハハハ……。相変わらず。甘えん坊は治ってないのか?」
ダルドリーとリャナがヴァイドの頭を撫でる。あぁ。間違い無い。帰って来たんだ。と思うとヴァイドは涙が止まらない。
「お帰り……。お帰りなさい……」
ヴァイドが震える声でそう言うと、ダルドリーとリャナは優しくヴァイドを抱きしめた。
「とりあえず……。お席へどうぞダルドリー様。リャナ様……」
「ハハハ……メルヒオーネは、変わらんな」
「はい。ダルドリー様のおかげで、今も平和に暮らせております……。お帰りなさいませ……心より……嬉しく思います。リャナ様も……よくお戻りに……」
「フフフ……。メルヒオーネも相変わらず元気そうね。フフフ……涙もろい所も相変わらずなのね……」
涙を拭きながらメルヒオーネがやって来て、二人を席へと案内する。
「こんばんはメルディ。驚く程大きくなったな……。とても美人さんだ」
「そうね。ヴェルニカに似て、とっても賢そうね」
ダルドリーとリャナがメルディの頭を撫でる。すると褒められたメルディが、嬉しそうにニコリと挨拶を返した。
「メルディです!こんばんは!」
そして、三人で微笑み合うとダルドリーとリャナは、メルヒオーネの案内で席へと座った。
「兄さんは、こっちだ!」
「ヴァイド……。何を言っているのだ。そこは、領主の席じゃないか」
「いいから!早く!」
ダルドリーの手を強引に引いて、ヴァイドが自分の座っていた上座にダルドリーを座らる。そして、自分で椅子を持って来て隣に座った。
それを見てメルディ以外がクスクスと笑い、メルディが不思議そうに、その光景を眺めていた。
「ヴァイド……。メルディにも笑われますわよ?まるで子供じゃないの」
「仕方ないだろ……。今日位は許せ……」
溜息を吐くヴェルニカ。それに子供の様にムスッとするヴァイド。
「ハハハ……。そう怒ってやるな。ヴェルニカ。しかし……お前……老けたな。怒るとシワが増えると言うが……。怒り過ぎたのではないのか?お前は昔からガミガミと良くーー」
「ーーダルドリー様!相変わらず失礼ですわよ!……本当にあなたは……。変わらない…………。お帰りなさいませ……」
ヴェルニカの声が震える。
「あぁ。ただいま」
「リャナ様も……。お帰りなさい……。私……ずっと……会いたかった……」
そう言うとヴェルニカが顔を覆ってしまった。
「ほらほら、子供の前よ?泣かないで、ヴェルニカ……。後でいっぱいお話しましょ?」
「はい!」
リャナがヴェルニカを慰めると、涙ぐんだヴェルニカがメルディそっくりな笑顔で返事をした。
「お、お母様……お母様がそんなに可愛らしく笑う姿を、わたくし……初めて見ました……」
「あら?メルディ。ヴェルニカはとても可愛らしい娘よ?フフフ……」
「そうなのですか?」
メルディがリャナに質問をすると、ヴェルニカが焦り出した。
「ちょ、ちょっと、リャナ様……。メルディ……。もう寝る時間ではなくて?」
リャナはそんなヴェルニカをチラリと見ると、メルディにヴェルニカの話を聞かせてあげる。
「フフフ……。一度、お星様を食べたい~って、孤児院の屋根から落ちた事があったわね……それにーー」
「ちょっと!姉様!お辞めになって!そ、そんなのは子供の頃のお話ですわ!」
ガタンと椅子から立ち上がるヴェルニカ。
「あら?そう?じゃ。球根のお話はどうかしら?」
「だ!駄目でーー」
「ーーハハハ……。あれは、面白かったな!なぁ。ヴァイド!」
「笑い事じゃ無いよ兄さん……。俺、ビックリしたんだから、これが私の気持ちですわ!っていきなり、球根を渡されたんだから……」
「どう言う事ですの?」
不思議そうに首をかしげるメルディ。そんなメルディの手を引くヴェルニカ。
「メ、メルディ……。そろそろお部屋に……」
「フフフ……。ヴァイド君がヴェルニカに告白したお返しに、あなたと一生一緒にいたいですって意味で球根を送ったのよ」
「球根を?何故ですの?お母様?」
メルディに質問されどう答えた物かと困るヴェルニカ。
「……あ、あれは!ダルドリー様が悪いんですのよ!球根を送って、殿方に受け取って貰えれば、求婚成立になるって、お洒落だから。って言うから!」
「ハハハ。でも、上手く行っただろう?」
ダルドリーがニヤリとする。そうするとヴェルニカが言葉に詰まった。
「そ、それは……そうですけれど……」
「ハハハ!本当にするとは、思わなかったがなハハハハハ!」
「ダルドリー……。楽しそうに笑っているけれど。その後、球根を引っこ抜いた畑の持ち主に謝ったのは、私なんだからね……その辺りは忘れないでね……」
リャナがギロリとダルドリーを睨む。
「う、うむ。そうだったな……。すまん。だが、ズルいぞリャナ、話しを始めたのはお前だろ?怒るなよ……」
「怒って無いわよ……。あの時は球根と一緒に埋めてやろうか。と思ったけれどね」
「ハハハ……。姉さんなら、やりそうだ」
「やらないわよ。そんな事……。フフフ……。……まだ、意味が解らないってお顔をしてるわねメルディ?」
「はい。球根ってお花の種ですわよね?」
メルディが手でお花を作って、リャナに見せると、リャナも手を使いながら説明する。
「フフフ……。本当に可愛いわねメルディ……。お花の球根と、結婚をしましょうの求婚……。洒落は洒落でも、お洒落じゃなくて駄洒落なの。解ったかしら?」
「そう言う事ですのね!解りましたわ!とても素敵なお話ですわ!」
球根と求婚が繋がり、喜ぶメルディを見て皆が一斉に笑う。
「ハハハ!さすが、ヴェルニカの娘だな!あの時のヴェルニカと同じ反応だ!」
「フフフ……。素直で良い子に育ったのねヴェルニカ」
「そんな褒められ方しても、嬉しくありませんわ!もう!」
「はぁ……。メルディは、真似するんじゃないぞ?花の種など、貰った相手が困惑するからな……」
「はい!お父様!解りました。フフフ……」
皆が楽しそうに笑うのでメルディも一緒につられて笑った。
その後。途中からグレイも合流し、兄弟三人は、色んな話しをしながら日が昇るまで飲み明かし、リャナは、メルディとヴェルニカと三人一緒のベッドで眠った。
そして。夜が明けダルドリーとリャナが帰る時間となったのだが。
「兄さんは!ここに残るべきだ!」
「しかし、ミリャナが……」
「ミリャナには、元気がいるじゃないか!もう何処にも行かないでよ!兄さん!」
ヴァイドがダルドリーの腕を引きながら、食堂でぐずり出したのだった。
「朝から泣くなヴァイド……お前はもう、王様なんだろ?部屋の外では威厳を保て……」
「知らないよ!そんな事!兄さんが帰るなら俺も一緒に行く!王様なんて辞める!」
「ヴァイド!あなたは何て事を言うのですか!?」
ヴェルニカがリャナと、がっちり腕を組みヴァイドを怒鳴る。メルディは既に学校へ行った。
「ヴェルニカだって、義姉さんにベッタリじゃないか!義姉さんもいてよ!部屋もいっぱいあるし、いいだろ?ねぇ。お願いだよ兄さん!義姉さん!」
「うむ。しかしだな……。リャナ……」
ダルドリーがリャナを困った様子で見やる。
「ここまで、好かれているのは、嬉しいんだけどね……」
リャナもヴェルニカが、がっちりとホールドした腕を振り払えず、困てしまう。それを見ていたメルヒオーネが溜息をついた後、口を開いた。
「ミリャナお嬢様に決めて戴くのは、どうでしょう?今まで一番寂しい思いをされていたのは、お嬢様です」
「メルヒオーネ……。それはそうだが……。俺だって……」
ぐずるヴァイドを、メルヒオーネが厳しい目つきで見据えた。
「旦那様にはご家族が居たでしょう?ミリャナ様とは比べ物にはなりません……。甘えが過ぎます。いい加減になさい」
メルヒオーネの腹の底に響く様な重い声に、ヴァイドが萎縮する。
「…………。すまぬ」
メルヒオーネに怒られ、ヴァイドがシュンとしてしまい。ヴェルニカもそれを見て、リャナを解放する。
「はぁ……。ごめんねメルヒオーネ。私達が言うべきだったわね……」
「うむ。そうだな。すまぬメルヒオーネ。しかし、相変わらず。怒ると怖いなメルヒオーネは」
「ほっほっほ。先代から、ヴァイド様を甘やかさない様に。と言われておりますので……」
「まったく。オヤジめ……」
「ハハハ……。父上はヴァイドの甘えん坊対策も、ちゃんとされていたのだな」
ダルドリーとメルヒオーネが笑い合いヴァイドがいじける。
「そんな感じで、いかがでしょうか?」
メルヒオーネが、4人にニコリと微笑みかける。有無を言わさない笑顔だ。
「メルヒオーネの言う通りにしましょう……。私達は死んだ時のままだけれど……。5年間で築き上げた、あの子の生活があるものね……。悲しいけれど……。私達は過去の異物……思い出なの」
リャナがダルドリーを見る。
「うむ……。そうだな……どんな結果でも、生きていればまた会える……。それだけでも喜ばしい事だ……。ミリャナに判断を任せよう……」
ダルドリーがリャナを見やると二人でメルヒオーネを見据える。そして一緒に頷いた。
「フフフ……。では、その様に致します」
こうして。メルヒオーネがミリャナの家へと向かったのだった。
元気達に戸惑いを産んだダルドリー達の蘇生でしたが、無条件で喜ぶ人達ももちろんいます。
ここでも、一番苦悩したのはミリャナかも知れませんね。
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