お出かけ
ミリャナの仕事場の様子
魔法でだいたいの物が出せるとわかった元気は、屋根裏でミールと遊ぶ日々を送っていた。
「さて、これから先どうしようか」
「なにが?」
「いやぁ。最近充実した毎日を送れてるのは楽しくて良いんだけどさ。このままじゃ駄目人間になってしまうと思うんだよね」
「毎日楽しいんだし良いんじゃないの?世界を救うとかそんなこと考えて無いんでしょ?」
「うーん、裏切られる前は頑張ろうと思ってたけどさ、世界とかはもう良いかな~って」
「ふーん、まぁ僕死んじゃってるし、どうでも良いけどね。あ!おい!ハメ技は禁止だろ!」
不健康ではあるが毎日楽しくはある。
その反面、働いているミリャナに申し訳ない気分になる事が元気は多くなっていた。
「大体ダメ人間ってなにさ?誰にも迷惑かけてないんだし。姉さんが帰って来る家を守ってるんだし」
「守る。と言っても誰も何も奪いに来ないけどな」
完全な駄目人間が隣に完成していた。
「何かしたいならとりあえず町に行ってみたら?小さな町だから何も無いけど。まぁ……。やる事を決めないと何も始まらないよ」
「ん~。そうだな!まともな事言うお前にちょっと腹が立つけど……町に行ってみようかな……」
「いってら~」
元気は、ジャージから黒いTシャツとGパンに着替える。そして町へと出かけた。
町までは林の細道を通って真っ直ぐ進めば良い。吹き抜ける風が気持ち良く。葉を揺らす木々達が日光のきらめきで、踊っている様だ。自然に元気の足取りも軽くなる。
林を進み道を突き当たると、背の高い壁が立ちはだかる。正面にまわらなければ町には入れないのだ。
家から町の入り口まで……歩いて一時間以上かかった。
「と、遠いな……。ミリャナは毎日こんなに歩いてるのか?……どおりで太ももがぷりぷりしているわけだ……」
入り口には立派な門があり。兵士の詰め所があった。
「あ、あのぅ……。ま、町に入りたいんですが……?」
知らないおじさんと話すのが久しぶりすぎて、元気はドキドキしてしまう。
「ん?見ない顔だな。流れ者か?」
「えっと……そのような者です」
四十代だろうか、厳つい顔つきで髭もじゃの熊みたいな兵士のおじさん。迫力がありすぎて少し怖い。
「まったく。ろくな世の中じゃねぇな。子供がこんな所まで独りで……金はあるのか?住むところは?」
「あ、あの。今は森の近くの人の家に居候させて貰っていて、住むところはあるんですが、お金は……持ってないです」
「森の近く?……ミリャナの所か?」
「あ、はい!」
「ふむ…………。ちょっとこっちに来い」
「……はい」
元気は詰め所の奥にある小部屋に連れて行かれ、椅子に座らされた。埃っぽくて薄暗く窓が小さい……。どうやら取調室の様だ。
何だか罪人の気分になってしまう元気。
「担当直入に聞くが……。お前は誰だ?何の目的でこの町へ、ミリャナの所へ来た?」
「……え?」
兵士の目が怒っている様に見える。何もしてないのに罪人気分の元気は、兵士の取調に応じる事にした。
「名前は元気と言います。仲間に裏切られて、森で死にかけている所をミリャナさんに助けて貰いました!最初は何も目的は無かったのですが、今はミリャナさんへの恩返しです!」
説明口調にはなったが、上手く話せて良かったと思う元気。勿論。魔王討伐や魔力の事は内緒だ。
「仲間に裏切られて?って事は冒険者か?」
「そ、そのような者です」
「ふむ、ミリャナへの恩返しねぇ……」
兵士はアゴ髭に手を当てながらジロジロと元気を見る。怪しまれているのがヒシヒシと伝わりドキドキする元気。
「まぁ、もう少し成長してから見極めれば良かろう。ほれ、持って行け」
兵士は、部屋の棚に置いてある箱の中から木札を取り出し元気に渡す。どうやら通行許可証の様だ。
「あ、あの?お金は?……」
お金は所持していないが、一応聞いてみる元気。
「いらん……。どうせ持っていないのだろう?」
「……はい」
「……急に働けとは言わんが。……ミリャナに何かしたり、迷惑を掛けたら俺がお前を殺すからな。覚えておけよ」
「は、はい!」
毎日ミリャナに甘えている事が、この人にはバレない様にしなきゃ。と思う元気だった。
その後。詰め所から解放された元気は、大きな門をくぐり抜けアルカンハイトの町へと入った。
「…………ミールは田舎って言ってたけど……立派な町じゃないか」
裏切りおじ達と冒険をしていた時に、何カ所か町を見たが、アルカンハイトの町……そこは大きいの部類に入る町並だった。
門を抜けると広い一本道。両側には様々なバザーが並んでおり。野菜や肉が売られている。パンや果物屋。武器や防具にアクセサリーショップもある。
それを眺める町の人や、冒険者っぽい人達。それに肉の焼ける良い匂い。その光景に心がわくわくと踊り、自然と顔が綻ぶ元気。
「異世界と言えば、ドワーフやエルフや獣人。……居ないのかな?」
周りをキョロキョロ見渡したが、人種族以外は見当たらなかった。
「この世界にはいないのかな?他の町でも……。いや、でもミノスは獣人だったな……魔族側にいるのかな……」
「お!見慣れない兄ちゃんだな!これ!旨いぞ!食ってくか?アルカンハイト名物。クソッチャだ!」
屋台のゴツいお兄さんが、笑顔でソーセージ見たいなのを差し出してくる。顔に傷があって怖い。
「あ、いや……。俺……お金無くて……」
「あぁ?何だよ……貧乏人か!ちっ……」
お兄さんの舌打ちに、元気はドキッとする。ここは優しい世界では無い。お金の為に人を殺す世界だったと思い出す元気。
「……す、すいません……それじゃ……」
元気は急檄に不安になった。……ミリャナが特別なのだ。……ミリャナに会いたい。ミリャナの笑い顔が今すぐ見たい……。そう思い。元気が走り出そうと屋台に背を向けた時だった。
「まてまて少年!……ほら。持ってけ。ちゃんと飯食えよ。じゃないと大きくなれねぇぞ!……じゃあな!」
ゴツいお兄さんが元気を追いかけて来て、クソッチャを二本。薄い木の皮の皿に入れて持たせてくれた。
「あ、あの!ありがとう御座います!」
「おう!」
お兄さんは去りながら右手を上げると、次のお客さんに声をかけ始めた。
「……ハハ……ほっかほかだ……」
貰ったうんこ色のクソッチャを、歩きながら頬張る元気。外はプッチっと……中はネチャリとしてあまり美味しくは無かったが、ほんのりと香る塩味と温かみが、不安になった元気の心に染みた。
しかし、クソッチャは一本で限界だった為。もう一本は野良犬にあげた。
普通の野良犬は食べなかったので。ガリガリで死にそうな野良犬を捜して食べさせた。
あれは、お兄さんの優しさ。そう思うと元気はクソッチャを捨てる事が出来なかったのだった。
元気は、死にそうで臭い犬に別れを告げると、バザー通りを抜けて町中央の広場に向かった。
広場には大きな噴水があり、その向こうにはお城の様な巨大な建物がある。人の出入りが激しい。
「なんだろあれ……町の中央だし、役所とかかな?……やっぱりミールも案内役として連れて来ればよかった……」
そのお城を挟んでYの字に道が分かれており。右はお洒落な感じのお店。左は居住用の建物が並んでいた。
「ミリャナのいる教会は、左側の路地を抜けるんだったな……。フフフ……あのお洒落な商店街でミリャとデートとかしたいなぁ~」
ミリャナとのデートを妄想しながら、うす暗い路地を抜けると教会が姿を現した。
「へぇ~。何か昔の学校見たい……。雰囲気が……表通りとは全然違うな……静か過ぎ。……廃校みたいで何か怖いんだが……」
しばらく遠目に教会を眺めていたが、教会からは物音一つしない。もっと近づいてみよう。と元気は敷地内へコソッと侵入してみる。
「なんか俺……泥棒みたいだな……」
建物まで辿り着くと窓から中を覗いてみるが、誰も居ない。勿論外にも誰もいなかった。
「ここは、子供が寝る部屋か……」
質素なベッドが六つ程並んでいる。その後。五~六部屋まわった所で、ミリャナの姿を発見した。
ミリャナを見つけて嬉しかったが……直ぐにその気持ちは消えてしまった。
周りの子供達の数にも驚いたが、明らかに栄養が足りていなくて、どの子もガリガリだった。
ミリャナの周りの子供達はかろうじて座っているが、座れずに横たわっている子共も居る。戦時中の孤児……。まさにその姿だった。
その子供達にミリャナは優しく微笑み。聖典を読み聞かせている。元気はその光景に暫く目がはなせなかった。
元気も今まで施設で育って来たが、命の危機など感じた事は無い。ミリャナがどれだけ愛情を注いでも、このままでは命は失われる。子供が大きくなるには愛情と同じくらい、栄養も必要なのだ。
弱肉強食という言葉を小説やアニメや映画でよく聞くが。これはアニメでも小説でも映画でもない。無論、夢でも無い。だってクソッチャはクソ程に不味かった。
元気はそう思うと、目の前の光景を放っては置けなかった。
元気は孤児院の扉の前に、大量のクソッチャ……では無いパンやハム。卵やミルク等を大量に出すと、ドンドンドン!と孤児院の扉を叩き……。全力疾走で教会をあとにした。
誰が出てくるか解らず。待っている間にビビってしまったのだ。最近家に引き籠もっていた弊害である。
「食糧も置いたし!……うん。頑張った!良い事した!……帰ろ……」
次はそっと置きに行こう。そう思いながら家路につく元気だった。
帰り道。クソッチャのお兄さんは、もう元気の事を覚えてい様で 「おう!見かけない少年だな!これ!旨いんだぜ!一本どうだ!」とまた声を掛けてきた。
「いえ……。これから夕飯で……今食べるとお母さんに、怒られちゃうんです……」
「……そうか……お母さんか……ハハハ。……オカンは大切にしろよ……。俺……孤児院の育ちだからさ……あんまそう言うの解んないけどよ……。あれだ、大事にしないと……後悔すると思うから……。ほら……これ持ってけ……。母さん大事にしろよな……」
「あ、ありがとうございます……」
へへへっと笑う。お兄さんにホカホカのクソッチャを渡され。もう、嘘をつくのは辞めよう。と思いながら帰宅する元気なのだった。
ミリャナの仕事は大切な仕事です。
ですが、これまでやり切れない夜もいっぱいあったでしょうね。お兄さんはミリャナが働いている孤児院の卒業生ですw
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