少年元気~プロローグ~
始まり始まり。
十二月三十一日、十一時五十五分。大晦日。この日。白いウサギ柄のパジャマ姿で、時計と睨めっこしている独りの少年がいた。
場所は、児童福祉施設<ひまわり>の一室。彼の名前は『元気』十五歳。身長:百四十五センチとちょっと小柄な男子中学生だ。
そんな彼のあだ名は、ブルマを愛する者……『ブルマニスト』だ。
皆さんは、伝説の黒いパンツ。『ブルマ』をご存知だろうか?ご存知の方は、この令和の時代に何故ブルマ?ブルマって何だろう?ブルマって美味しそう。ブルマはお金持ちで最高の嫁。等々。ブルマに対してのそれぞれの色んな意見があると思う。
知らない方は是非ともググって見て欲しい。伝説と言われる所以が一目で解るだろう。ブルマはエロいのでは無く、尊い物……。そして見た者の心を惑わす。特級呪物なのだ。
そんなブルマと中学一年生の時に出会ってしまった元気。馴れ初めは自分が通う学校の放課後の教室だった。
とある女の子の鞄から、零れ落ちそうに揺らめくブルマを見たのが最初だ。
その女の子とは、クラスの中では一番可愛いさっちゃん。学校一では無い。程々に可愛い女の子。
そんな彼女の鞄から、ガッツリとはみ出すブルマ。その儚くも神秘的な姿に魅入られた元気は、あろう事かそのブルマをズルリと引っ張り出し、手にしてしまったのだった。
それは、若いが故の好奇心。いや、黒いパンツの呪いだったのかも知れない。ブルマを見た瞬間に、もっと近くで見たい。と元気は思ってしまったのだ。
「ブルマ取るなよな~アハハハ!」
「元気君エロ~い!キャハハハ!」
「お前、最高だわ!アハハハ!」
ブルマを手にした瞬間に、聞こえて来たクラスメイト達の笑い声。鞄からはみ出したブルマは、クラスメイト達が仕掛けたドッキリだった。
「皆、こんなの酷すぎだろ!まったく!……ってか、この黒いパンツって何?」
元気がブルマをヒラヒラ振りながら、照れ隠しをすると、それに応えるクラスメイト。
「それブルマって言うらしいぜ?……昔の人ってすげえよな……そんなの履いて……」
「ちょっと優君。元気君よりエロい顔してるよ!」
「い、嫌!してねえし!笑いすぎだぞ元気!ハハハハ!」
とある放課後のドッキリ大作戦。それは見事に大成功と言う形で終わった。
因みにさっちゃんが持って来たブルマは、歳が離れたお姉さんの物だったらしい。そのブルマは、騙してゴメンね!と笑うさっちゃんから、元気がお詫びとして貰った。
皆が笑って大団円で終了したドッキリだったのだが、そのひと月後。元気の噂が、学校中に広がりに広がって、気付いた頃には時既に遅し、元気はブルマを盗む変態『ブルマニスト』として、学校の有名人となっていた。
『ブルマニスト』という称号を与えられた元気はその後、学校内で気持ち悪い。変態。と言われ続ける事になり、笑う事が出来無くなった。
そして、中学一年生の後半。とうとうストレスと疲労で、胃潰瘍になり入院。そのまま不登校となった。
後日、ドッキリを仕掛けた事を謝りに、さっちゃんが施設までやって来たので、その時に「持っていると思い出すから」と元気は、洗ったばっかりのお姉さんのブルマを返品した。
フローラルな香りのするお姉さんのブルマを抱き締めながら、謝り泣くさっちゃん。そんな彼女の姿を見て、元気も貰い泣きした。
……それ以来二人は仲良く……。なる事も無く、さっちゃんが施設を訪れる事は、もう無かった。
あの日いた男子共は、勿論一度も来なかった。
学校での友達は、学校の中での友達。ブルマは黒い悪魔。人の噂は七十五日以降も続く。中学生になってから、学校で学んだ事はこれだけだった。
病院から退院して、施設内に引き籠もった元気は、ゲームをしたり、ラノベを読んだり。唯一のお友達である。ウサギのぬいぐるみ『マロニーちゃん』とお話をしたりして過ごした。
「マロニーちゃん。俺……異世界に行きたい……。もう、一人は嫌だ……。信用できる誰かと一緒に、異世界でスローライフを送りたい……」
「何を言っているの元気君。キミには、私がいるでしょ?一人じゃ無いよ!」
「マ、マロニーちゃん!ありがとう!大好き!」
毎日マロニーちゃんと話している内に、腹話術のレベルは、プロの領域に達していた。
マロニーちゃんはこの後、クソ眼鏡柴田に捨てられるのだが、それは別のお話しである。
学校に行けなくなった元気だったが、施設内の子供達のお世話をしたりは、していたので、学校に行けなくなった理由を知っている職員達から、登校を無理強いをされる事は無かった。
元々は明るく、面倒見の良い性格だったので、子供達からの人気もあった。
しかし元気は、そんな物では無く、一緒にゲームをしたり出来る友達が欲しかった。
ゲームをしたり。ラノベを読んだり。子供のお世話をしたりしながら、孤独な月日は蕩々と流れて行った。
現在。中学三年生となった元気は、来年で義務教育が終わる。進学出来なければ就職して、施設を出なくてはいけないのだが、高校に受かる自身が全く無い。
両親も親戚もいないので、頼る場所も無く不登校の末に中卒。昨今の学歴社会の中で、上手くやって行ける自信も、全く無い。
未来の事を考えると、海の底にまで届きそうな程の深い溜息が出てしまうが、本来、楽しい事が大好きな元気。独りでも良いから、学生最後の年に、何か楽しい事がしたかった。
そこで思い付いたのが、ニューイヤジャンプだった。
一人でやると、心が新年から地獄に落ちるのだが、彼はまだそれを知らない。やるも地獄。やらぬも地獄だ。
シンと静まり返る施設内に、除夜の鐘が響き渡る。寺が近いので、毎年毎年、クソ五月蝿いな!と思っていた元気だったが、今年は違う。まるで、元気の心を元気付けているかの様に聞こえる。
そして、新年という深淵まで、残り五秒を切った瞬間。元気はすかさず、運命のカウントダウンを始めた。
「五……。四……。三……。二……。一……。ハッピーニューイヤ~~!」ーーーー
ーーーーっと両手でピースをしながら、ニューイヤジャンプをした瞬間だった。
ぐるりと目が回る様な感覚に襲われた元気は、新年でも、深淵でも無く、そのまま、異世界へとピョンと飛んだのだった。
次回から本編スタートです。
末永くよろしくお願い致します!
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