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 翌日の朝。

 家の入り口近くにアーシュラが荷造りをしたリュックが置かれていた。

 昔使っていた古いリュックには色々と詰め込まれている。

 朝食を食べながらコンラッドは溜息をついた。

「なんか、行きたくないな……」

「なによ今更。行かないとお小遣いなしだから」

 アーシュラは呆れながらコーヒーをカップに淹れていた。

 コンラッドはカップを受け取り、一口飲む。

「それも困るんだけど、やっぱり心配だよ。子供達だっているし」

「人を寄越してくれるって言うから大丈夫よ。いざとなればお母さんを呼ぶし」

 アーシュラの母親はここからそう遠くない村に住んでいて、よく会っていた。

 少なくとも子育てにかんしてはコンラッドよりも遙かに優れている。

「寂しいこと言うなよ……」

「だって仕方ないじゃない。誰かがしないといけない仕事でしょう? それにお給料もいいんだから。十年前に貰ったお金だってこの家と畑を買ったらほとんどなくなっちゃったし。どのみち出稼ぎするとか言ってたじゃない」

「それはそうだけど……。来る奴って男かな?」

「なに? それを心配してるの?」

「いや、だって……」

「安心して。あたしと釣り合う男なんてそういないから」

 アーシュラはニコリと微笑んだ。

 だがコンラッドの心配はそれだけじゃない。まだ寝ている息子達を見た。

「あいつらは寂しくないのかな?」

「さあね。案外すぐ慣れちゃうかも」

「…………それが一番イヤだな」

 溜息をつくコンラッドにアーシュラは笑いかける。

「そんなに心配ならさっさと終わらせてくればいいのよ。魔神でもなんでもぱぱっと片付ければまたここでゆっくり暮らせるわ」

「やっぱりそれしかないか……」

 コンラッドは諦め気味にコーヒーを飲み干した。

 しばらくすると出発の時間になった。

 コンラッドはリュックを背負い、アーシュラとアーシュラに抱かれる次男のレイ、そして眠そうな長男のユーリに見送られる。

 アーシュラはコンラッドの頬にキスをした。

「いってらっしゃい。もしもの為に色々とリュックに入れておいたから、必要なら使って」

「うん」

「あ。あと浮気したら殺すからね♪」

「…………はい」

 コンラッドは苦笑しているが、それが決して脅しでないことを知っていた。

「パパ~。バイバイ~」

 次男のレイはよく分かってないまま手を振る。

「あんまりママを怒らせるなよ?」

「うん」

 最後にコンラッドは長男のユーリの前に屈んだ。

「パパとしばらく会えなくなるけど、ママを頼んだぞ」

「うん」

「寂しくても我慢できるか?」

「全然できる」

「……そうか」

 コンラッドはガックリと肩を落とした。

 ユーリは目を輝かせる。

「あのさ。王都に行くんでしょ? だったらお土産いっぱい買ってきてね。おもちゃとかおかしとか。とにかくいっぱい」

「……ああ。良い子にしてたらな」

「約束だからね!?」

「うん」

 コンラッドはユーリの頭を撫でてから立ち上がるとアーシュラに笑いかけた。

「じゃあ、行ってくる」

「いってらっしゃい。気を付けてね」

 アーシュラとレイが手を振る中、コンラッドは歩き始めた。

 するとさっきまで平気そうだったユーリが泣きそうな顔になる。

「パパ! 魔神なんか早く倒して帰って来てよ!?」

 コンラッドは立ち止まると振り返り、フッと笑った。

「任せとけ」

 力強くそう告げると、コンラッドは踵を返し、泣くのを我慢しながら歩みを進めた。

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