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コンラッドの王都行きが決まり、その為の簡単な話をするとアレンはルークと共に家から出た。
来たのが遅かったせいで外は既に夕方になっていた。
見送るコンラッドにアレンは心配する。
「本当に一人で大丈夫ですか?」
「大丈夫に決まってるだろ。俺をいくつだと思ってるんだ?」
「でも師匠ってよく迷子になるから。なにかあったら近くに駐在している軍に聞いてください。それを見せればみんな優しくしてくれますから」
コンラッドはアレンから王族の紋章が入ったバッジを貰っていた。それを見てコンラッドは怪しんだ。
「こんなのでか?」
「そんなのでです。大事にしてくださいよ」
「ふうん」
コンラッドは半信半疑だが、弟子の言うことを聞いてバッジをポケットに入れた。そして先を行くルークをチラリと見てアレンに尋ねる。
「あいつってどれくらいのレベルなんだ?」
「ルークですか? トップとは言えませんが、トップクラスの実力は持っています。まだまだ伸びますし、期待のホープですよ」
「と言うことみんなあのレベルってことだな?」
「まあ大体は」
コンラッドは少し沈黙し、真剣な顔で言った。
「もしそうなら誰も連れて行けないな。死ぬぞ。全員が」
それは予測ではなく、経験に基づいた確実に起きる事実だった。
アレンは目を見開き、かと思うと爽やかに笑った。
「ええ。だから師匠が必要なんですよ。そうならない為にね」
コンラッドは一本取られた気まずさから頭の後ろを掻いて嘆息した。
「お前さ。人使い荒すぎだぞ?」
「師匠譲りですよ。じゃあ、王都で待ってます。遅れないでくださいよ?」
「はいはい」
コンラッドは手をひらひら振るとアレンは踵を返して宿のある村へと歩いて行った。
だがその表情に爽やかさはない。それが事の重大さを物語っていた。
弟子の背中にそれを感じたコンラッドはやれやれと面倒くささを覚えながら、開いた自分の右手を見つめた。
使い込まれた手には昔のような若さはない。
コンラッドは右手を握りしめ、哀愁を漂わせた。
「まったく……。世話がかかる弟子だ…………」
夕日が照らす男の背中はいつもより少し頼もしく見えた。