表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/189

6

 アーシュラ・レイブンは最強の黒魔術師。

 魔王討伐でも主砲として活躍し、英雄となった。

 しかし他の三名、アレン、ベルモンド、リリーとは違い、魔王討伐後の動向は一切が不明となっていた。

 ミステリアスな黒魔女。それがルークのイメージだ。

 しかし、実際のアーシュラは息子二人のお母さんだった。

「ママ~。お腹空いた~」

「さっき食べたでしょ。お客さんがいるからお兄ちゃんとお外で遊んできて」

 息子二人にそう告げて、アーシュラはコンラッドの淹れた紅茶を淹れ直し、お茶菓子などを用意した。

 それを見てアレンは複雑そうな笑みを浮かべた。

「なんだか随分変わったね」

「そう? まあ子供を産むとどうしてもねえ」

 スマートだったアーシュラだが今では少しだけ肉付きがよくなっている。

「いや、体型だけじゃなくて色々と。昔の君はもっとこう、性格がきつかったというか」

「なによそれ? わたしってそんなんだった?」

 アーシュラに尋ねられ、コンラッドは苦笑する。

「いや、君はずっと優しかったよ……」

「でしょう♪」

 アーシュラはニコリと笑った。ルークはなぜだか怖くなる。

「それにしても懐かしいわあ。リリーとベルモンドは元気?」

 アレンは頷いた。

「二人とも元気だよ。今は一緒に後輩達を鍛えてる。本当は君も誘うつもりだったんだけどタイミングがなかった。魔王討伐のあと、見なくなったと思っていたらまさか師匠と結婚するとはね。どこで仲良くなってたんだか……。俺はちっとも気付かなかったよ」

「あら。リリーとベルモンドは知ってたわよ。あなたが鈍いだけなんじゃない?」

「それは生徒からもよく言われる」

 アレンは苦笑した。

 アーシュラはカップに淹れた紅茶をアレンの前に置いた。

「昔話をするためにわざわざ来てくれたの?」

「いや、それなんだけど色々あってね」

 アレンは経緯を説明した。

「ということなんだ。だから師匠を借りたくて……」

「ダメよ」

「即答か……」

「当たり前でしょ? 息子が二人もいるのよ。それに畑もあるし、収穫もしないといけないの。とてもじゃないけど世界を救ってる暇なんてないわ。ね?」

 コンラッドはコクコクと頷く。

「言っただろ?」

「困ったな……。このままだと世界が滅んでしまう…………」

 アレンは腕を組んで悩んでいた。

 話を聞いていたルークは声をあげた。

「いや! おかしいだろ! 世界の危機なんだぞ!? 普通は快く送り出すべきだろ! あんたも英雄だったら分かるでしょ!?」

 ルークがアーシュラを指差すとコンラッドが怒り出した。

「おい! うちの嫁さんを困らせるな! あとが大変だろ!」

「なんだよそれ!? あんた状況が分かってんのかよ!? 魔神が復活するんだぞ!」

「うるさい! 分かってないのはお前の方だ! なにが魔神だ! アーシュラの方が十倍怖いわ!」

 アーシュラはムッとした。

「人を化け物みたいに言わないで」

「いや、そう言うわけじゃ……。でも実際俺より遙かに強いわけだし……」

 ルークは驚いた。コンラッドを凌駕する実力などあり得るのだろうかと怪しむ。

 しかしアレンは違い、苦笑していた。

「みたいだね。魔力の量も桁違いに増えてる。今なら一人で魔王も討伐できそうだ」

「なんか妊娠すると魔力が増える体質みたいなのよね。おかげで力の調節が大変なのよ。家が壊れるから魔術も使えないし、色々と不便だわ」

 アーシュラは困り顔だった。

 アレンは窓の外をチラリと見た。

 そこには夫婦げんかの末に大きく抉られた山が見える。

「……あはは。もしよかったら君が代わりに来てくれてもいい。子供達を王都の学校に通わせられるよ?」

「今は無理よ」

 アーシュラはお腹に優しく触れた。

「この子がいるから安静にしておかないと。それに都会は好きじゃないし」

「三人目……か……。えっと、おめでどう」

「ありがとう」

 ニコリと微笑むアーシュラだが、アレンは当てが外れてしまった。

 実は最も確実なのはアーシュラを魔神復活阻止の為の部隊に連れていくことだったのだが、妊娠しているのであれば不可能だ。

 コンラッドもそれが分かっていた。

「もういいだろ? 新しく家族も増えるし、俺もたくさん働かないといけないんだよ。魔神だったらお前らだけでもどうにかしてくれ。師匠を使う前に自分が汗を掛けよ」

「それがそうはいかないんですよ。俺達は謂わばお守りですから」

「お守り?」

「魔神が復活でもしてみてください。誰が王都を守るんですか? 誰が王族を守護するのか? なんていう風に言われるわけです」

「無視すればいいだろ?」

「そうもいきません。それだけ学園は大きくなり、責任は増えたんです。そのせいで俺とベルとリリーは動けません」

 そう説明し、嘆息するアレンは随分疲れて見えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
, ,

,

,

,

,
,
,
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ