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 伝説の剣士を鍛えた?

 このどこにでもいそうなおじさんが?

 ルークは混乱していた。

 目の前にいる男はどう見てもただの農夫にしか見えない。

 ルークはアレンから説明を受けていた。

 コンラッドは自分の一人前にしてくれた恩人であり、伝説には語られない五人目の英雄でもあると。

 そして、この男が自分より強いことも。

 だがルークには信じられなかった。逆立ちしても勝てないアレンよりもこの農夫が強いなどとは。

「……先生は、アレン・カーターは俺の憧れなんです」

「へえ。まあ、あいつ爽やかだもんな。でもなぜかあんまり女子に人気なかったけど」

 ルークは持っていた風呂敷から剣を取り出した。

「俺が剣士になったのは先生になりたかったから。魔王を倒したアレン・カーターこそが最強だと信じていたから」

 ルークは剣を抜き、コンラッドへ向けた。

「あんたが最強だって言うんなら、それを俺に証明してみろ!」

「…………は? イヤだよそんなの。現に俺は最強じゃないし」

「じゃあ――」

「でもあいつよりは、アレンよりは強いよ。それはたしかだ」

 平然と言い抜けるコンラッドに対し、ルークは憧れを馬鹿にされて暴走した。

「口ではいくらでも言えるんだよッ!」

 叫びながらコンラッドへと斬りかかるルーク。その踏み込みは常人がなんとか反応できる速度だった。

 左上から斜めに袈裟斬り。

 と見せかけ、そのまま体を捻って裏拳のように凪ぐ。

 このフェイントを含んだ一連の攻撃はルークの得意技だった。

(剣はマナで覆ってあるから斬れることはない。骨ぐらいは折れるだろうけどな!)

 だが、折れたのはコンラッドの骨ではなく、剣の方だった。

 コンラッドは放たれた剣を左手で掴み、そのまま握り潰す。

 鋼鉄の剣がガラス細工のように砕けた。

「……………………は?」

 折れた剣を見て、ルークはポカンとする。

(魔獣の攻撃さえも受け止める剣が……折れた……?)

 そこでコンラッドもハッとした。すぐさまルークに謝る。

「あ。悪い。高そうな剣なのに壊しちゃったな。でもお前が悪いんだぞ。いきなり襲い掛かってくるから。マナで剣を覆ってたとは言っても当たると痛そうだから反射的に砕いちゃったよ」

 ルークは愕然としていた。

(あの一瞬で全てを見抜いてたってことか? この男…………)

 黙り込むルークにコンラッドは心配する。

「いや、だから悪かったって。ちなみにだけど、それっていくらしたの?」

「………………二十万ギル」

「俺の小遣い十ヶ月分!?」

 あまりの高さにコンラッドは驚き、慌てて汗を流した。

「本当に悪かった。でも俺も少ない小遣いでやりくりしてるんだ。だから、な?」

 コンラッドの右手がルークの肩に触れた瞬間、ルークは感じ取った。

 この男の底知れなさを。

 まるで巨大な穴の前に立っている感覚に襲われ、冷や汗をかくルーク。

 沈黙され、弁償に恐怖するコンラッド。

 その二人の後ろから一人の男が爽やかな笑みで声をかけた。

「許しませんよ。師匠」

 それは伝説の剣士、アレン・カーターだった。

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