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ガルシアは独特の香りがする東洋のお茶をうまそうに飲んでいた。
「これも最初はまずくて仕方なかったんだけどよ。飲むに連れて病みつきになった。しかも体に良いらしいぜ」
シャオマオは僅かな膨らみしかない胸を張った。
「うちの国のお茶ネ。飲めばおっさんでもビンビンヨ」
コンラッドが苦笑しているとガルシアが説明を始めた。
「魔神の骨の持ち主は既に突き止めてる。アブラーモファミリーだ。奴らが主導してオークションを開くらしい」
コンラッドは尋ねた。
「一応こっちは国やら軍やらを動かせるんだ。先に動いて回収はできないのか?」
「無理だな。俺ですら在処は突き止められてねえ。この街にあるあいつらのアジトは十以上。関係組織を含めれば五十を超える。その全部をサツに調べさても出てこないだろうな」
「賄賂か……」
「おう。サツのポケットが膨らむだけで無駄骨だ」
クロエは不思議がった。
「ではどうするつもりなんですか?」
ガルシアはニコッと笑うとクロエの肩に手を回す。
「聞きたいか? ならベッドの上でいくらでも聞かせてやるぜ」
「なっ!?」
クロエが顔を真っ赤にした。
「ウサギは好きだ。寂しがり屋だからな。どうせ男なんて知らないんだろ? なら俺の子を産めよ。気持ちよくしてやるからさ。っていたっ!」
甘く囁いていたガルシアの頭にシャオマオが中華鍋を叩き付けた。
「デカパイ口説いてるんじゃないネ! ぶち殺すヨ!」
ガルシアはクロエから手を離すと頭をさすった。
「冗談だよ。そうムキになるな。それに女の子がいたら口説かないと失礼だろ?」
クロエは恥ずかしがると自分の体を抱いてコンラッドの後ろに隠れた。
「わ、私はあなたの子供なんて産む気はない!」
「そりゃあ残念だ」
シャオマオは口を尖らせた。
「なにが残念ネ」
するとガルシアはシャオマオを抱き寄せる。
「怒るなって。お詫びに今日は朝までコースだ。気絶するまでやってやるよ」
「なら許してあげてもいいヨ。ん」
シャオマオが唇を差し出すとガルシアは熱いキスをした。
それを見てクロエは顔を真っ赤にし、コンラッドは呆れて笑う。
「人がキスしてるところ初めて見た……」
「相変わらずだな……。誰かれ問わず口説くからお前は女子連中にも嫌われるんだよ……」
レオンはどうでもいいのかさっきからずっと食べている。
「おい犬。盛ってねえでさっさと作戦言えや。ぶっ飛ばすぞ」
ガルシアはシャオマオから唇を話すと苦笑した。
「てめえはムードってやつが分からねえのか? モテねえぞ」
「最強になればこの世の女は全て俺のものだ。モテようとするのは雑魚だからそうするしかねえんだろ」
「なるほど。一理あるな。俺は最強だから女に困ったことはねえが」
クロエは眉をひそめて首を傾げた。
(関係あるのか?)
ガルシアは再びお茶を飲むと話を続けた。
「どこまで話した? ああ。そうか、骨を奪う方法だったな。二つある」
ガルシアは右手の親指と人差し指を伸ばした。
「一つは正攻法だ。オークションで落とす。これが一番確実だな。だがおそらくとんでもない額になる。ここに住む魔族は金持ちも多いからな。そうでなくても外の魔族がいくらでもカネを作ってくるだろう。あっちは天然資源が豊富だ。密輸すればいくらでも大金を用意できる。お前らはいくら使えるんだ?」
コンラッドは気まずそうにする。
「正直あまり期待できないな。ある程度なら正当な理由があれば用意できるだろうが、それはマフィアに回るカネだ。頭の固い国が払うとは思えない」
「だろうな。なら二つ目の手段しかねえ。誰かが競り落としたブツをかっ攫う。買ったら必ず受け渡しがあるはずだ。それにでけえんだろ? なら持ち出す時に目立つはずだ。そこを狙う」
クロエは驚いた。
「で、ですがそれは泥棒では?」
「当たり前だろ。くれって言ってくれるもんじゃねえだから奪うしかない。処女か?」
「しょっ! ……それはそうですが」
クロエは恥ずかしがるが納得していなかった。
レオンは平然と骨付きにかぶり付いていた。
「こいつは良い子ちゃんだからな。世の中のルールを分かってねえ」
クロエはムッとした。
「盗む方がルール違反だろ? どんなルールだそれは?」
「喰うか喰われるかだ。ここじゃ弱い奴は奪われる。弱い奴。つまり、俺以外の全てだ」
そう言ってレオンは肉を骨ごと砕いて食べた。
コンラッドは腕を組んで考えるとガルシアに尋ねた。
「今のところ二つ目しかなさそうだな。だけど情報はどうやって手に入れる?」
「ある程度は買えるが限界はあるな。細かいところは現地で仕入れるしかねえ。少なくともオークション会場には行きたいな」
「誰でも入れるわけじゃないだろ?」
「当たり前だろ。あっちは裏社会だぜ? それにモノもモノだ。セキュリティーには力を入れるだろうな。まあ、俺からすればザルだがよ。問題があるとすれば見せ金だ」
「見せ金?」
「おう。聞いた話じゃオークションに参加するには最低でも二千万ギルは必要らしい」
「二千万……。多すぎる……」
二千万は家が建つほどの金額だった。
「おいおい。落札額は億だぞ、億。そんなのはした金だよ。俺の手持ちはこの前の報奨金が二百万。それは利子付きで貸してやる。だからあとの千八百万はそっちで用意しろ」
「無茶言うなよ……」
コンラッドが困るとガルシアはフッと笑った。
「そう言うと思ったぜ。なら稼がせてやるよ」
「稼ぐ? どうやって?」
ガルシアは楽しげに牙を見せた。
「この街で大金を稼ぐって言えば決まってるだろ? カジノだよ!」




