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そして現在。
セバスティアン王国の東南に位置する田舎道を一台の馬車が走っていた。
しばらくして馬車が止まると荷台にはなにかを包んだ風呂敷を持った一人の青年が降りてくる。
「なんにもねえな……」
金髪を逆立てたルークは辺りを見て呆れ果てた。
どこを見ても青空と緑しか存在しない。道の両側にはどこまでも畑が広がっていた。
「コンラッドさんちはあの丘の上だよ」
御者のおじいさんが前方を指差す。
そこにはだだっ広い丘にぽつんと一軒家が建っていた。
「…………………マジかよ」
ルークは呆れて嘆息した。
そして御者のおじいさんにしばらく待っているよう頼み、カネを渡して丘の上を目指して歩き出した。
「やられた。からかわれた。こんなところに先生より強い人がいるなんてぜってーに嘘だ……」
ぶつぶつ言いながらルークが丘を登っていると、家の近くにある畑で人影が見えた。
近づくとそれが中肉中背の中年男性であることが分かる。
農家だけあって筋肉質だが、ルークの知り合いにはこれより大きな体や筋肉を持つ者がいくらでもいる。
ルークは鍬を振り下ろす男に声をかけた。
「すいませーん。ここにコンラッドっていう人がいるって聞いたんですけど。中にいますか?」
ルークは家を指差した。
男は首にかけていたタオルで汗を拭いた。
「コンラッドなら俺だけど?」
「はあ? いや、そんなはずないんですけど……」
「そう言われてもなあ……。ここらでコンラッドって言ったら俺くらいだし……」
自分が自分であることを否定され、コンラッドは困っていた。
「やっぱガセか……」
ルークは溜息をついて鞄から手紙を取り出した。
「あの、アレン・カーターって人はご存じですよね。フォークナー養成学校を創設した伝説の人物です」
「知ってるけど」
「先生にはこの手紙をコンラッドって人に渡すよう言われて来たんです」
「へえ。それはご苦労」
コンラッドは手紙を受け取り、眺めた。高級な封筒が使われ、差出人にはアレン・カーターの名前が彼の筆跡で書かれている。
コンラッドはルークに尋ねた。
「あいつはなんて?」
「あいつ?」
敬愛する先生をぞんざいに扱われた気がしてルークは眉をひそめる。
「……その、話がしたいと言ってましたけど」
「ふうん。なんだろうな。同窓会とかかな?」
伝説の人物から手紙が来たのにこの反応。普通は驚き、緊張するはずだ。
ルークはムッとして尋ねた。
「あの、先生とはどんな関係なんですか?」
「どんなって……。そうだな……」
コンラッドは少し悩んでから告げた。
「偉そうな言い方をすれば、あいつは俺が鍛えてやったんだよ」