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多くの魔族は種族毎に国を形成している。
鬼の国ゴレイロ。
魔女の国アスタディア。
獸人の国ガウバオ。
この三つの大国が同じ種族でほとんどを占めるのに比べ、亜人の国は種族に対して門戸を開き、多種多様な種族が入り交じって暮らしている。
国の名はテレス。
ゴレイロが山。アスタディアが森。ガウバオが草原にあり、他者との交流が多くないのに比べ、テレスはアイスト大河に沿って平地に形成されている為、貿易の拠点になっていた。
古くから議会制を取ってきたテレスだが、先の大戦以降議会の力は失われつつあった。
代わりに台頭したのが教会である。
大戦の敗北で自信を失った魔族にとって心の支えとなり、今では国民だけでなく、魔族全体から多くの支持を取り付けていた。
元々魔族の間では自然崇拝を主に多くの宗教が生まれ、生活に根付いていたが、最近になって勢いが伸びているものはまた違った。
新興宗教であるメア教は魔神崇拝を掲げている。
新興宗教という認識ではあるが、実際は千年前からメア教は存在しており、それをある男が再び火を灯した。
先の大戦時には誰も知らなかった宗教が今ではテレスの首都ルガノン中心に巨大な教会を持つまでになっていた。
教会には広い庭があり、そこでは珍しい木々や花々が植えられ、誰でも見学できるようになっている。
教会の庭に一人の修道女が歩いていた。
白い肌の美しい金髪をベールで覆ったエルフ、ルカだ。
ルカは報告書を持ってある男を捜していた。
その男は白いシャツに黒いズボン姿で庭の花々にじょうろで水をやっていた。
ルカと同じく白い肌に金髪のエルフであり、長い髪を後ろで括って優しい微笑をたたえている。
ルカは彼の名前を呼んだ。
「レイモンド……。失礼、教王。魔神の骨奪還作戦の報告書が届きました」
レイモンドは花々を見つめたまま言った。
「二人の時はレイモンドでいい。昔みたいにレイでもね」
ルカは少し困っていた。
「そうもいかないわ。あなたは今この国で一番偉い人なんだから」
「なりたくてなったわけじゃないさ。なるしかなかったんだ」
「それでなれてしまうのだから恐ろしいわね」
レイモンドは苦笑して報告書を受け取り、読んだ。
「……そうか。ダメだったか」
ルカは頬を膨らませる。
「どうせ手を抜いていたのよ。オーガが協力的でないのは今に始まったことじゃないんだから」
「だろうね。でもそれでいいさ。少しずつでいい。彼らもいつかは気付くだろう。魔神の必要性にね。人間は甘くない。人の欲望は我々の想像を常に超えてくる。そこに限界はない。いずれこの星も飲み込み、全てがなくなるまで人は終わらない」
レイモンドは報告書の一文に目を留めると懐かしそうに微笑んだ。
「なるほど。ベルが来たのか。通りで勝てないわけだ」
ルカは残念そうに頷いた。
「ええ。やっぱり今度もそうなるみたいね」
レイモンドはどこか嬉しそうに笑った。
「まったく。困ったものだね。うちの弟には」




