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コンラッドはたき火でお湯を沸かすとそれをコップに注ぎ、そこに持ってきたハーブを入れて飲んでいた。
一息つき、一見リラックスしているように見えるが、その実纏ったマナで周囲を探っていた。
するとそこにリネットが楽しそうにやってくる。
「うー♪ 見張りが終わったので来ちゃいました!」
リネットは食べかけの携帯食を両手に一つずつ持っていた。
コンラッドは先程大きなニャルモーを抱いてようやく眠ったアイリスをチラリと見てからリネットにコップを持ち上げた。
「ハーブティーだ。お前も飲むか?」
「是非!」
リネットはコンラッドの近くに転がっていた岩に座った。
コンラッドはもう一杯ハーブディーを作りながら尋ねた。
「まさかこんなところで会うとはな……」
「うー♪ わたしもびっくりしました! また一緒にいれて嬉しいです!」
「そうだな……」
コンラッドは水を入れた小さな鉄瓶を見つめながら続けた。
「最年少だったお前が軍で仕事があるってちょっと驚いたよ。いつから働いてるんだ?」
リネットは携帯食をもぐもぐ食べながら答えた。
「アレン君達がドレッドノートを倒した時が十四歳でしたから、あれから四年ほど軍の訓練学校に行って、卒業してからずっとです。だからもう六年になるんですね」
「……なんで軍を選んだんだ?」
「それはもうごはんですよ。軍にいればお腹いっぱい食べられますから」
「……え? それだけ?」
「はい!」
「そうか……」
コンラッドは呆れながらも納得していた。
この国で最も安定しているのは軍人、特に中央軍だ。
それ故競争率は高いが、リネットは最年少で魔王討伐の候補に選ばれた秀才。
軍に入り、居続けるのもさほど難しくはないだろう。
「そう言えば王都に来る途中でロンと出会ったよ」
「わー。ロンさんですか。軍に入って一年目はお世話になりました。でも途中で遠方に行くことになっちゃって、それっきりです。お元気でしたか?」
「ああ。家族のためにがんばったよ」
「それはなによりです」
お湯が沸いてくるとコンラッドはコップにお湯を注ぎ、そこにハーブを入れた。
「中央軍に居続けるのって大変なんだろ?」
「そうみたいですね。結構色んな人が地方に行ってます。今はあんまりお仕事ないんで訓練ばかりですから。毎年査定があって、良い成績じゃないと居られなくなっちゃいます。わたしはいっぱいごはん食べたいのでいつもがんばってますよ」
「じゃあ今残ってるのは訓練が得意な奴ばかりってことか……」
コンラッドは納得しながらリネットにハーブティーを渡した。
「どういう訓練をするんだ?」
「体力トレーニングと組み手が半分。あとは座学ですね。国の歴史とか、年に一度ある式典でのパレードとかもあります。周りと合わせて歩かないと怒られるので大変なんですよー」
「……実戦は?」
「たまに魔獣を追い払ったりするくらいですかねー。でもみんなで組み手してるんで戦いには慣れてます」
「組み手って本気なのか? それとも寸止め?」
「両方です。普段は寸止めで、半年に一度あるテストの時は実戦形式ですね。あ。でも怪我させたらダメですけど。防具付けてるから大体のダメージは半減するのでそれも滅多にないですね」
「能力は使えてるのか?」
「ある程度は。でもあんまり本気を出すと怪我させてしまうかもしれないですからほどほどにですね」
「へえ。今はそうなってるのか。なるほど。ロンが飛ばされるはずだ。あいつの力だと怪我させるかもしれないもんな」
「うー♪ ロンさんは力持ちですからねー。わたしもよく肩車してもらいました!」
リネットはニコニコと笑いながらハーブティーを飲み、熱くて顔をしかめた。
それを見てコンラッドは小さく嘆息する。
「その状況で六年か……。どおりで……」
(……でも、本来ならそれでいいのかもな……)
リネットは不思議そうに首を傾げた。
「どうかしましたか?」
「……いや。今の状況は幸せか?」
リネットはニコリと微笑んだ。
「うー♪ みんなと一緒にいるのは楽しいし、ごはんもたくさん食べれて幸せです!」
「……そうか。ならよかった」
コンラッドは優しく笑うと空を見上げ、呟いた。
「俺は古い人間なんだろうな……」
リネットはいまいちよく分からなそうにハーブティーをちびりと飲んだ。




