三日月様、三日月様、私にお兄ちゃんをください
「ママぁ、私にお兄ちゃん産んで!」
愛坂朋子は幼い頃、そう言って母親を困らせていた。
四才の頃に見た女児アニメ『魔法少女ビビッド・エンジェル』に出ていたヒロインの兄に一目惚れし、いつしか理想のお兄ちゃんを求めるようになった。
しかし、学年が上がるにつれ、それが叶うはずのない夢とわかってきて、欲求のはけ口としてスマホの乙女ゲーの年上系イケメンを愛でるライトなオタガール気質となっていった。」
小学校を卒業した朋子は、都心の中高一貫校に通うこととなり寮に入ることとなった。
そこで出会った漫画家を目指している同級生・明石小夢と仲良くなった。
小夢も乙女ゲーのヘビーユーザーで、朋子の趣味を理解してくれている。理想のお兄ちゃん象について熱く語っていた。
「わかってるんだ。お兄ちゃんが欲しいだなんて、どんなに願っても、努力しても、私の夢は永遠に敵わないんだって。はあ……乙女ゲーの世界に生まれてきたかった」
うつむく朋子を見て、小夢は――
「それなら朋子ちゃん、三日月様にお願いしてみたら?」
「三日月様?」
「この町に伝わる都市伝説があるんだけど……」
学区内の外れにある『朧神社』っていう江戸時代から続く神社があるの。
そこでは夜空に浮かぶ三日月を神様として信仰していたの。毎年この時期になると神社を中心にお祭りが行われて、その夜に境内の池に映る三日月に祈りを捧げると願いが叶うんだって」
「願いが叶う……、本当に?」
「わかんないけど、噂だと宝くじで十万円当たったとか、異性に告白して付き合ったっていう噂は何度か聞いたよ」
そして祭りの日がやってきた。浴衣を着て寮のみんなと神社まで遊びに来ていた。
そして境内の池を見て朋子は小夢の話を思い出す。半信半疑だったが、朋子はお祭りの日の夜、神社の池に向かって祈りを捧げた。
「三日月様、三日月様、私にお兄ちゃんをください」
そして次の日の朝、寮のベッドで寝ている朋子に――
「おーい朋子、もう朝だぞ」
「!?」
耳元で誰かが囁く、乙女ゲーでよく聞くイケメンボイスに朋子は飛び上がる。
朋子の兄を名乗る、アニメや乙女ゲーで幾度となく夢見てきた、理想のお兄ちゃんが実写化されたかのような二才年上のイケメンだった。
理想の兄との奇妙な学園生活が今始まろうとしていた。
なんとかアイデアをひねり出しました
こぼれ話は活動報告で――