地球が滅亡する前に、この人の子を産みたい❤️
1話 隕石の衝突
「大統領、本当に国民に伝えなくていいのですか。」
「くどい。この作戦が失敗すれば、地球は灼熱の地獄となって人間は死に絶えるのだし、成功すれば、これまでどおりなんだ。あと1週間で結論が出ることをみんなに伝え、混乱を起こしても仕方がないだろう。それで各国のトップとも結論に達したのだから、今更、何を言っているんだ。」
「でも、彗星の衝突の前に祈るとか、できることはまだあるのに・・・。」
「軌道計算は大丈夫だろうな。」
「計算はバッチリです。ただ、初めてのことなので、迎撃した後、どうなるか不安もあります。」
アメリカのホワイトハウスで大統領との会話がなされているとき、NASAでは、隕石に迎撃ミサイルの発射準備が進んでいた。
「迎撃後のシミュレーションもしっかりとしているのだから大丈夫だろう。」
「彗星の軌道がずれて地球との衝突は避けられるだけのインパクトは迎撃ミサイルで確保済みです。1週間後には、みんなで笑っていられますよ。地球を救う、この任務に携わることができて、1週間後は大いに友人とかに自慢ができますね。」
「まだ安心するな。考えられる可能性を抽出し、あらゆる対策を講じておくのだ。さあ、皆集まって、各班ごとに検討を進めろ。」
「了解。検討を再開だ。」
2話 この人の子を産みたい
「そんな人やめるべきだよ。」
バーカウンターで2人の30代半ばの女性がグラスを傾けていた。
「この人の子を産みたいと感じちゃったんだから、絶対にゲットするぞー。もう1回、乾杯〜」
「そもそも、50過ぎで、子供を作れるの。」
「大丈夫だと思う。前の奥さんとの子供が2人いて、精力ありそうだし。」
「子供もいるの! 子供2人もいたら面倒でしょ。」
「2人とももう働いていて、そんなに関係はなさそうと聞いているよ。」
「そういう問題だじゃなくてさ。また、みうとの間で子供ができても、中学の授業参観とか、その人、何歳になっちゃうの。」
「大丈夫。私が行けばいい。」
「職場の上司っていうのも、その人と仲が悪くなったら気まづくない?」
「大丈夫、大丈夫。絶対、両思いだと思う。」
「問題しかないと思うけど、まあ、みうの問題なんだけどさ。」
「そう、そう。私もバツイチで、男女が一緒に暮らすっていうのがどういうことか十分わかってのことなんだから大丈夫。」
「みうは、キレイで、これまでも何回も素敵な男の人が声をかけてきたじゃない。普通の恋愛の方がいいって。」
普通の恋愛ってなに? なんか、変なのかもしれないけど、私は1人が好き。この子とは大学の頃から時々、一緒に飲んでいて、その時は楽しく過ごせる。だけど、スケジュール調整は面倒だし、急な用事が入ったりすると、遅れて迷惑かけたくないとか考えて、あたふたしちゃう。そんな気持ちになるんだったら、会わなくてもいいんじゃない。そんな私だから、待ち合わせ場所に行く途中も、早く家に帰りたいななんて思いながら来るんだよね。人に合せずに、思ったらふと出かけたり、1人でその日の気分で旅行にいったり、今食べたいと思うお料理を食べたりする方が、気楽でいい。そういえば、焼肉とかも1人が楽で、この前、19時まではハイボール29円という、なんとお得で1人で入れる焼肉チエーン店を見つけちゃった。近いうちに行こう。最近は、フレンチだって、Uberとかで頼んで、自分の部屋で他人の話しに邪魔されず、1人でじっくり味だけを楽しめる。本当にいい世の中になった。
やっぱり、人の話しに合わせたり、面白くないのに笑顔を作るとか、疲れちゃうからだろうな。そういえば、ある女優が言っていたけど、人の温もりなんか欲しいと思ったことはなく、電車で横に座っているおじさんの肩が触れるぐらいで十分とか言っていたけど、それ分かる。1回もないとは言わないけど、人がいなくて寂しいと思ったことはこれまでないかな。
コロナでリモート勤務が普及したのは、とっても嬉しかった。同じ部屋にずっといて年だけとっていくのもどうかとは思うけど、人に合わせる時間は減って、メークもしなくて楽だし、仕事が終わったら、すぐに乾杯って飲み始められる。リモート会議で、Videoをオンにしてとか言われることもあるけど、絶対しない。部屋みられるのも嫌だし。ただ、こんな怠惰な生活ばかりしていると太るので、毎朝、5Kmぐらい朝日を浴びて走るのが日課。でも、そういえば、この前、窓を開けたら、鳥が鳴いていて、すっぴん、すっぴんと聞こえて、少し反省はしたけど。こんな楽な生活って、いつまで続けられるんだろう?
こんな私だけど、彼がいたことはある。会社に入って1年たったぐらいだったかな。学生の時の先輩と道で偶然あって、その時は用事もあってちょっとしか話さなかったけど、LINE交換してと言われ交換したら、数日後に連絡があって、食事に誘われた。そんなに関心もなかったけど、何回も連絡がきたから、まあいいっかと一緒に飲んで、顔はイケメンだったし、周りも彼がいたから、これが普通かなと思って、そのうち、なんとなく付き合うようになり、一緒に旅行もいった。
確かに、クリスマスイブとか、外を1人で歩くと嫌になるし、タンプレとかもらえると嬉しいとは思う。でも、ワクワクしたことはなかったな。ベットの中でも、あまり気持ちいいと思ったこともないし、なんでこんなことをしているのかな〜って、いつも冷めていたんだよね。そんな中で、作り笑いする時間も増えたのが嫌で、忙しいって距離を取るようにして、自然消滅をさせることにした。あの日だったのもあるけど、イライラしてきて、もう別れると言ったら、彼からはどうしてとか聞いてきて、説明するのも本当に面倒。もともと、初めから、そんな気分じゃなかったんだから察してよ。
また、実は結婚経験もある。親からいつになったら結婚するんだと毎回言われるのが嫌で、婚活サイトで、それなりの年収と学歴のある医者がいたから、数回会ったところで、まあ優しかったし、周りも結婚してるんだからということで、成り行きで結婚生活が始まった。結婚前は、自立してる女性が好きだから私を選んだと言っていて、結婚しても、自分でやりたいことをずっとしていてねと言われので、仕事に専念していたら、一緒に過ごせる時間が少ないから寂しいとか言い始めた。男女って、相手に向かうベクトルを持つ人と、相手とは距離を置いて過ごすベクトルを持つ人がいて、男女両方が相手にベクトルが向かうか、どちらとも外にベクトルが向かうと上手くいくけど、どちらかが相手を求め、相手が外にベクトルを向く関係だと、相手を求める人が辛くなって関係が破綻する。この時、そんなことに気づいたけど、遅かった。そんなこと言われても、お互いに自立して好きに生きる関係だということが気に入って結婚したのに、もっと自分をみてとか今更言われても。しばらく、我慢してたけど、結局、旦那が別の女性ができたからということで離婚することになった。慰謝料ももらえたし、自由が戻ってきたから、まあいいっかという感じ。今どき、バツがついている人も多から、もらい事故かな。
そんなこともあって、1人生活の日々が長くなっちゃった。親も、さすがに今は結婚しなさいとは言わなくなったけど、大学の時の友達から、子供が生まれた写真とか送られてくることが多くなって、また、子育てとかで連絡が取りづらくなって、自分だけこのままでいいのかなとは思うことはある。でも、もう結婚に興味はないし、今の生活を変えられない。目の下にシワとかできても、コンシーラーとかでごまかせば、なんとか過ごせるし、これからも、楽しく1人で過ごせると思って生きてきた。
でも、今、狙っている人は、こちらから本当に付き合いたくなった。なんか、恋愛とかじゃないかもしれないかも。さっきも言ったけど、この人の子供が欲しいって体が言ってきた。別に、優しくして欲しいとか、一緒に楽しい時間を過ごしたいとか、この年になって、そんな甘い恋愛を期待しているわけではない。もちろん、そういう時間があるといいとは思うけど、この人の精子が欲しいだけなのかもと思うこともある。自分でもよくわからない。なんなんだろう。でも、体が欲しがっているんだから、仕方がないじゃない。
3話 夜中のメール
「今井さん、これで今週末の中間報告、行けますね。河北さんにメールを送っておきます。」
「お疲れさまー。もう11時過ぎたし、もう帰ろう。内容も十分詰めたし、本当に助かった。」
日頃はリモート勤務が普通だが、今日は、週末のお客様への報告に向けて、メンバ5人がオフィスに集まっていて、もう終電の時間となっていた。
「河北さんにメール送ったし、帰りの準備をしまーす。」
「みんなで、一杯、飲んでいく?」
「もうこんな時間だし、終電で帰りたいから、今回は遠慮します。すみません。」
そう、そう、今時の子たちは飲みに誘っても来ないよなーと思いながら、家に帰ってから飲むビールをみうは思い浮かべていた。
「あれ、河北さんから返事が来た。何点か直せって言っていますよ。これから、まだ仕事しろっていうことですかね。ひどい、帰れない。」
「私がやっておくから、みんな帰っていいよ。」
「今井さん、そんなに働いていたら、自分の時間、なくなっちゃいますよ。」
「いいから、いいから。」
「では、すみません。よろしくお願いします。」
メンバーは、部屋から出ていった。おそらく、35歳で一人暮らしの女性、仕事しか関心がない寂しい女なんだろうと悪口を言っているに違いない。でも違うんだよな。河北さんって、私が狙っている人。あの人の指摘はいつも的確だし、その趣旨を正確に理解し、早々に返事できる頼りになる部下と思われたいんだから。そして、私からメールを出して、私の名前を見る機会を少しでも多くし、そのうち、LINEでも・・・なんて、うふふ。
「さあ、もう一踏ん張り。」
4話 お誘い
「今日のプレゼン、お疲れさま。さすが今井さんだね。」
そうそう、このために頑張ってきたんだから。今日は、もう一踏ん張り、背伸びして誘ってみよう。絶対、うまく行くはず。
「ありがとございます。じゃあ、一つお願いしてもいいですか。」
「なに?」
「今夜、おごってもらえますか?」
「そうだな、たまには、みんなと一緒に飲むのもいいかもね。」
「そうじゃなくて、今回は2人で。いろいろと相談もしたいし。」
「2人だけというのはまずいだろう。相談なら会社で聞くよ。」
そうだ、気をつけないと。今井さんは魅力的だし、自分に好意を抱いているのは間違いない。しかし、こういうことで脱落していった人をたくさん見てきた。最初は両思いで付き合っていても、そのうち関係が悪くなって、女性から、自分は最初から嫌で、上司だから断れなかったなんていうやつもいる。とんでもないやつだ。でも、だいたい、女性の方が正しいという結論になりがちだから、怖い世の中だと言える。
そうは言っても、このルックス、スタイル、好みなんだよな。真顔だと冷たく見えるのに、笑うと顔いっぱいに笑顔になって、本当に楽しそう。そして華奢な体だけど、胸の谷間に目が吸い込まれてしまうといったスタイル。見てると、抱きしめて、キスをして、自分のものにしたいという気分になる。さらに、今井さんから誘ってくる。さあ、どうしよう。
「軽くなら問題ないですよ。ビアバーとかで軽く。お酒を入れると話しやすいし。」
今井さんも、社会人だし、そんなひどいことはできないタイプだと思うし、一線を超えなければ大丈夫だろう。確かに、2人だけで飲んでいたということだけでレッドカードだろうが、これまで見てきた今井さんは、そんなことは問題にしないはず。まあ、大丈夫かな。
「まあ、そこまでいうなら。あとでセクハラとかで訴えないでね。」
「大丈夫ですよー。それなら、お店が決まったら連絡するので、会社のメールじゃまずいし、LINEの連絡先教えてください。」
「LINEか。どうすればいいのかな。」
「ここを押して、そう、バーコードを私に見せてください。私で友達登録して、これで友達登録できました。また、連絡しますね。」
「よろしく。」
どこのお店にいこうか。職場の近くだと知り合いに見つかるかもしれないし、前から行ってみたかった恵比寿のイタリアンにしよう。このお店だと、少し暗めで雰囲気もいいし、酔えば、タクシーで家まで連れていってもらえるかも。そうだ、部屋もキレイにしておこう。
5話 初めてのイタリアン
今日は、恵比寿か。仕事はもう少しで終わるし、遅れずにいけるな。こんな年だけど、今井さんと飲めるって、可愛いし楽しみ。あの笑顔は魅力的だ。まずは、しっかりとした大人の男を見せて、その後、そうはいっても優しい人と思わせるという感じかな。話しは、まあ、その時の気分でなんとでもなるだろう。なんたって、今井さんが自分に興味があるんだから。自惚れすぎ? いや、大丈夫。
さて、今日はリモートだから、私服で行くからねと言っておいた。恵比寿だし、日頃みないラフな格好で行ってもおかしくないし、そんな姿を見るのもいいだろう。30分ぐらいで着くだろから、そろそろ出ようか。じゃあ、部屋のエアコン消して、出かけよう。
今井は、お店には、少し早く来て、いつもの通り、SNSに載せる、お店の外見や内装の写真を撮っていた。
もうすぐ時間だ。リップはさっき確認したし、髪は乱れていないかな。耳出した方がいいかな、いや、今日は髪はすっと落としておいて、後で、すくってイヤリングを見せよう。スカートのしわはない、大丈夫。男性は見ないとか言われているけど、マニキュアももうすぐ夏っていう感じで頑張ってみた。私服で来ると言っていたから、私も私服にしたけど、ちょと、胸出し過ぎだったかな。いやいや、今更変えられないし、清楚な雰囲気だから問題なし。もちろん、今日を決めたのは私だから、体調もバッチリ。なんだったら、子供も作れるタイミングだけど、そこまではいけないね。
河北さんは、時間に厳しいから、待ち合わせ時間ピッタリに来るはずで、あと5分ぐらいで来るだろう。男の人と待ち合わせするのに、こんなワクワクと思ったのは初めて。今日は、可愛く、清楚な雰囲気の女性でいこう。私って、女優の素質もあるかも。あ、来た。
「こっち、こっち。」
「あれ、待たせたなか。」
「いえいえ、私も、今、来たところです。」
「ビアバーとか言っていたけど、イタリアンにしたんだね。」
「このお店、前から来たくて、でも安いのでご安心を。」
「値段のことじゃないんだけど・・・。」
「そんなことより、お料理、何にします? それよりも、まず飲み物ですね。シャンパンで乾杯とかいいですか。」
「任せるよ。」
「では、これ。すみませーん。これ、2杯、お願いします。」
「かしこまりました。あと、お料理は、どうされますか。」
「うーん。少し待ってね。」
「承知しました。では、お飲み物をお持ちします。」
「お願いします。河北さん、お料理、何を頼みます? 私は、生ハムの盛り合わせ、イベリコ豚の炭火焼き、濃厚チーズリゾットあたりかな。」
「美味しそうだね。じゃあ、それと、グリル野菜のピクルスもいいかな。」
「わかりました。シャンパンが来たし、乾杯しましょう。かんぱーい!」
「乾杯!」
最初は、本当に仕事の話しから始まった。
「今井さんに相談があると言っていたけど、まず、私から伝えたいことがある。今井さんの部下に西川君がいるけど、彼は、この仕事には向かないのでメンバーから外すことにする。」
「え、河北さん、彼はできる人だって本人に言っていたじゃないですか。まあ、どうかなとは思っていたけど。」
「本当のことなんか本人に言えないだろう。やる気もなくなって、パフォーマンスも落ちるし、パワハラとか言われるかもしれないし。それも見越して、先月、山本君を投入した。」
「そうだったんですね。ちょっと、うちのチームでは人が多すぎかなと思っていたので、納得しました。でも、西川さんはどうするんですか?」
「西川君には財務部に行ってもらうことにする。彼には、優秀だけど、チームの中だけだとできる幅が狭くなってしまうので、社内のリレーション構築も含めて、今後の幹部候補生に向けて、よりできる仕事の範囲の幅出しを全社組織でやってもらいたいと意識づけしてくれ。そういえば、やる気も出るだろう。」
「本当のことを言ったらどうですか?もしかしたら、転職などをして、向いている職場で活躍した方が本人のためかもしれないし。」
「当社は、地頭はいい人材がいっぱいいて、のらりくらり使い倒して、最後までいてもらった方がいんだ。西川君だって、新しいビジネスモデルの構築とかはダメだったけど、数字を扱うとか、論理的に物事を整理するには十分な能力がある。今は、中途採用とかあって、それ自体は否定しないけど、よくわからない人を採用するより、今いる人の優秀なところを引き出す方がよっぽど効果的だと思う。」
「会社ってドライですね。私も、河北さんの指導のもとにもっと経験を積みます。」
「ところで、相談したいことってなんだったけ?」
相談したいことは本当はなかったが、そう誘ったので、当たり障りのないことを言ってみた。
「相談っていうほどではないんですけど、最近、リモート会議とか増えているじゃないですか。そんな中で、人と合わない時間が増えて、メンタル気味になる人が増えていると聞いたんですけど、私は、メンバーにどう接すればいいかなって。」
「定期的に、少しの時間でいいから、ちょっと相談させてとか、これどうなっているとか話す時間を作って、一緒に笑顔で話せる時間を作ることかな。今井さんは笑顔が素敵なんだから、笑いかけられれば、みんな、自分のことを気にしてくれてると思って、やる気になると思うよ。」
「そうなんですね。メークもしていないので、Video on にしていないけど、時々、onにしてみた方がいいということですかね。なんか、おばさんがうるさいとか思われないですかね?」
「そんなこと思う人いないよ。とっても可愛い顔なんだから。」
「セクハラ上司と言われないように気をつけてやります。」
今井さんからは、付き合ってオーラを感じるな。どうしよう。この年になっても、付き合うという程の関係ではないが、2人で飲みに行くような女性は何人もいる。そんな女性と、一夜を過ごすことは、その後が面倒なので少ないが、飲んだ後に、濃厚キスぐらいはすることはしょっちゅうある。そんなつかず離れずの関係で、なんとなく続けばいいが。
最近はあまり行っていないが、コロナ前は、毎月、グルメ会に行っていて、大体1回3〜5万円のお寿司とか焼肉とか楽しんでいた。メンバーは、予約すると1年後ぐらいになるお店を予約して、行きたい人いるかとSNSでアナウンスし、集まった人たちなので、8割ぐらいは知らない人だ。美味しい料理とお酒という同じ趣味で集まったので、知らない人ばかりでも安心できるのか、女性1人という人もよく見かける。メンバーがそういう関係なので完全に割り勘制であり、5万円とかぽんと出せるという意味で、女性だとほぼ一人暮らしという人で、年齢も40代ぐらいの人が多い。そのようなグルメ会で、何回か会うと意気投合して、LINEで連絡して2人で飲みに行く女性も数人できた。
そういえば、少し前まで結婚していた。今では、同僚でもまだ結婚していない人もたくさんいるが、30歳ぐらいの頃には、今後、出世するためには家族を持っていないとダメだという先入観があって、その頃、特に好きというほどでもなかったが、付き合っていた女性と結婚した。その女性は、キレイな人で、顔がタイプだったのでつきあい始めたが、性格は可もなく不可もなくという感じだった。でも、自立している女性で、お互いに干渉せずに自由に生きていこうと言われ、結婚しても自由に生きていけるのかなと漠然と思っていた。その頃、そろそろ結婚しないとと思っていたので、子供ができたら、お互いに理由ができるかなと思って、つけずに数回寝たら子供ができて、できちゃった婚となった。
でも、子供ができてから、妻のせいではないが自由はなくなり、やっとやることが終わると、妻から、今日1日の話しとか始まって、聞く気になれないと言っていたら、話す機会もなくなった。そのうち、家にいるときは、全て妻が仕切るようになり、俺が稼いでいるのにとは言わないが、どうして、何をするにも妻の許可が必要なのか、どうしてこんなに妻の顔色を見ながらビクビクしなければいけないのかという気分になって、10年も話ししなかったら、そのうち自然に離婚となった。不倫とか暴力とかはなく、ただ会話をしなかっただけであり、子供も就職しているので、慰謝料などはなく、案外と楽に離婚はできた。
そんな話しはどうでもよくて、今井さんとどうしようか。顔とかスタイルはタイプで、魅力的だ。そういえば、バツイチとか言っていたな。おそらく、男性と一緒に暮らして、男性のいい所、嫌な所とかも、一応、知っているんだろうから、それでも付き合うことであれば、大人の関係で付き合えるかもしれない。でも、同じ職場だし、面倒かな。まあ、今のひと時を楽しめればいいとも言える。付き合ってと言われるのを断るのも、もったいないし。
1時間を過ぎ、ワインも3杯目になっている頃、話題は日々の生活に移っていた。
「河北さんって、日頃、どんな食事をしているんですか?」
「お肉焼いたり、乾麺茹でたり、たまにはお好み焼きを作ったりとかかな。そういえば、先日、1人用の焼肉を焼くプレートを買って、1人でジュージューって焼肉もしているよ。コロナでリモート勤務も浸透し、家で過ごすことが多くなって暮らし方が変わったね。家を出ないと、服とかも買わないし、数百円あれば1日の食事も十分だし、仕事が終われば、すぐにお酒を飲んで、酔っぱらったら即寝れるし、いいことが多いと改めて気づいたよ。」
「野菜とか食べてます?」
「キャベツとか千切りにして、マヨネーズをばーとかけて食べたりしているよ。」
「朝ランニングもしているし、山とかも言っているので、マヨラーでも太らないですね。」
「今井さんも、時々、ランニングしていると聞いたことあるけど、健康のために運動することはいいよね。私は、山も、風景というよりは運動という感じかな。」
「山って、どこら辺にいくんですか?」
「日帰りが多いので、日頃は、奥多摩とか山梨あたりかな。ただ、年に何回かは登山旅行に行って、温泉に入ってなんていうこともある。」
「魅了的だなー。温泉付きの登山旅行、行ってみたいな。今度、一緒にどうですか。」
「またまた、一緒に旅行なんて、みんなにバレたら大変だ。」
「もちろん、温泉旅館とかは別の部屋ですよ。偶然、一緒の温泉宿だったといえばいいじゃないですか。山登りも、体力はあると思うけど、初めてなので指導を受けたいし。お願いしますよー。」
積極的に誘ってくるな。これは同じ部屋でも泊まれそうだ。温泉、美味しい料理、お酒、その先には、朝までというコース、これは楽しみだ。今井さんの生まれたままの姿も見てみたい。なんたって、35歳と若いし、暖かい、柔らかい肌、これだから人生は楽しい。そうは言っても、こちらか誘ったという証拠を残しちゃまずいから、あくまでも今井さんから言わせる、これは徹底しよう。まずは、健康的な時間を過ごすだけ、その後は、今井さんから誘われて、仕方がなく、そうなったというのがいい。今井さんだから部屋は2つ予約するだろうけど、1つしか予約しないかもしれない。それも今井さんに任せて、僕は知らなかったと。
「仕事だけじゃなくて、プライベートも積極的だね。今井さんの魅力には負けちゃうよ。では、来週ぐらいだと、東北では紅葉も綺麗だと思うので、一緒に行こうか。前から狙っていた福島県にある猪苗代湖の近くに安達太良山という山があるから、そこにしようか? その麓に温泉宿もあるし。」
「それ、いい。温泉宿は私で探して予約してみます。安達太良山の麓って、中ノ沢温泉って所ですかね。この地図見ると、磐梯吾妻レークラインとか、五色沼とかあるじゃないですか。もう1泊してレンタカー借りて旅行しましょうよ。」
「楽しそうだね。お互い独身だからいいけど、本当にいいのかなー?。」
苦笑いしているけど、ちょっと強引すぎる? いや、お酒のせいにしておけば大丈夫、大丈夫。河北さん、まんざら嫌ではなさそうだし。この調子なら、強引に1つの部屋しか取れなかったと言っちゃおう。そうすれば、横の部屋が空いていたら嘘だったのとなっちゃうけど、成り行きで一緒に過ごせる。まあ、そんなことは気にしないと思う。私、ポジティブだし。
「大丈夫、大丈夫。たまたま旅行先で会うだけなんだから。登山グッズ、何が必要か教えてくださいね。」
「わかった、わかった。」
6話 婚前旅行
「おはよう。」
「おはようございます。旅行って、新幹線の席で食べるお弁当も楽しみの一つですよね。イクラしゃけ弁当を買ってきたので食べちゃいますね。河北さんは、朝ご飯はどうするんですか。」
東京駅で待ち合わせると見つかるかもしれないということで、新幹線には、河北さんは東京駅から乗り、私は大宮から乗ることにしたので、大宮から一緒になった2人。
「僕はカツサンド買ってきたから食べようかな。どうぞ、食べて。ところで、これから、郡山で降りて、すぐに乗り換えて磐梯熱海駅で降り、予約しているタクシーで登山口に向かうことになっている。念のために言っておくね。」
「わかりました。楽しいなー。」
スポーティーな服も可愛いじゃないか。胸も、こういう服の方が目立って目のやり場に困ってしまう。別々の駅で乗って待ち合わせって、いかにも夫婦じゃないし、不倫と思われているかな。まあ、周りからどう思われても、これから会うこともない人達だろうから問題はないが。
「河北さんって、本当にお肉お好きですよね。お魚も食べないとダメですよ。」
「お魚も食べてるよ。お寿司とか好きだし。」
「どんなネタが好きなんですか?」
「はまちとか、サーモンとか、マグロのトロとかかな。マグロ自体はそんなに美味しいとは思わないけど。」
「私も、マグロの件は一票入れようかな。しめ鯖とか、甘エビとか、鰻とかはどうですか?」
「それらも美味しそうだね。」
「では、次はお寿司屋ですね。楽しみー。お酒とか何が好きなんですか?」
「さっきから質問攻めだね。お酒か。強いお酒とか好きで、スピリッツ系、ウォッカとか、焼酎とか、あとウィスキーとか好きかな。」
「ワインとか、日本酒はお嫌いなんですか?」
「ワインも、日本酒もだい好き。結局、アルコールが入っていれば、なんでも大好きなんだ。」
「そうなんですか。では、お寿司屋さんで、ワイングラスで日本酒を飲み、その後、ショットバーでウィスキーをという感じですね。予約しておきます。楽しみー。」
「あれ、いつの間にか、次の予約が入っちゃったね。」
「そうそう、放っておきませんから。そういえば、河北さんは、品川にお住まいでしたよね。お寿司って言うと、築地あたりのお店でいいですか?」
「任せるよ。」
「はい、任されました。楽❤️し❤️み。」
「そんな可愛いポーズもできるんだ。」
「あれ、私のこと、これまでどう思ってきたんですか?」
今日も、強引すぎたかな。まあ、拒否られているわけでないし、これが普通と思わせれば、こちらのペースで持っていける。まずは、好きなものの話しをして、それを一緒にと言えば、断れないはず。次は、海外旅行かな。どこに行きたいとか聞こう。とは言っても、重たい女とか思われないよう、1つのイベントの後に1つ提案という感じかな。でも、海外旅行も楽しみだなー。河北さんは仕事で海外とかしょっちゅう行っているから、どこがいいかな。でも仕事ということはレジャーの観光地とか行っていないということかも。だと、モルディブとか、いやいや山が好きなんだから、登れるところとか、でも、そんな本格的なところに私はついてけるのかな? オーロラを見るとか幻想的かも。
「なんか楽しそうだね。何考えていたの?」
「いやいや。あはは。あれ、宇都宮駅だって。宇都宮って、こんな所にあったんだ。知らなかった。」
「そうなんだ。東京にずっといると、栃木とか来ること少ないもんね。」
2人はタクシーに乗り換え、順調に登山口まで来て、山歩きを始めた。
7話 津波の到来
その日の明け方、彗星への迎撃ミサイル発射に向けてNASAでは緊張感が高まっていた。「3、2、1、ゼロ」とミサイルを発射。ミサイルは真っ直ぐ彗星に向かっていき、彗星に直撃した。
「やったー。成功だ。」
みんなの歓声の中で、大きな声が聞こえた。
「まずい。彗星の破片が地球に向かっています。軌道を計算します。少し待ってください。えーと、1つが太平洋、フィリピンのマニラと日本の中間あたり、もう1つがメキシコ、そしてモンゴルにもう1つです。今からだと、これらを破壊するミサイルを打つ余裕がありません。」
「この地域の人達の安全を祈るしかない。まずは、関連する国々のリーダーに連絡しろ。」
数時間後、それぞれの破片が衝突した。その中で、太平洋に落ちた破片の影響で、日本、台湾、フィリピン等の国々に400mクラスの津波が襲った。
「日本には申し訳ないが、我々は最善を尽くした。許してくれ。」
朝10時ごろ、日本海沿岸には津波が押し寄せた。400mというと、日本の大部分の都市は水の中という状況だ。東京タワーの高さが333mなので、400mがどのぐらいかは分かるだろう。
日本政府も、情報を得てから朝8時ごろ緊急速報を出したが、大半の人たちは逃げられる余裕はなかった。というのも、高尾駅でさえ標高190mぐらいなので、都心から車で走っても逃げられる距離ではない。更に、高速道路もみんなが逃げるので渋滞になってしまう。
タンカー等も流されるなか、湾岸のタワーマンションも大きくダメージを受けた。これは地球規模の災害なので、東京だけの問題ではない。日本各国で標高400m以下の場所は、ほとんど壊滅状態となったのだ。
山歩きをしている2人は、電波も届かず、ひと気も少なかったので、この事態に気づいたのは、安達太良山山頂付近で、12時を過ぎていたいた。
「なんだって、これじゃ日本が崩壊しちゃうじゃないか。」
「どうしましょう。」
「まず、麓に降りよう。予定のコースが一番近道だと思う。その後、車道で猪苗代湖の方向に行こう。実は、一緒に泊ると言われると困るので言っていなかったけど、猪苗代湖の近くに私のセカンドハウスがある。ネットで見ると、最後のニュースが400mの津波と行っているから、猪苗代湖の標高は500mぐらいだし、津波は大丈夫だ。」
「そうなんですか。お子さんとか大丈夫でしょうか。」
河北は携帯をかけたものの、繋がらないらしい。
「わからないが、まずは進むしかない。」
そこからだいぶ歩いたが、後ろから来た車に相乗りさせてもらい、夕方にはセカンドハウスに着いた。
「この後、1週間はここで過ごす予定だったから、食料は当面ある。また、現金もたっぷり置いてある。ただ、今後、東京からも何も届かないだろうから、当面は、現金で食べ物とかは買って過ごし、食品が流通しなくなってから、ここにある食料を食べよう。」
「TVって見えるかな? 電気はまだ付いているようだけど、いつまでかっていう感じですよね。東京の様子とか、どうなっているのか分からないですね。」
「まずは、しばらくここで過ごそう。」
とんでもないことになっちゃった。私の部屋とかどうなっているんだろう。会社のメンバーもどうだろう。お父さん、お母さんも。想像したくないけど、何もかもめちゃくちゃなんだろうな。でも、私達は全く無傷で、当面は、ここで一緒に暮らすことになった。もう、お寿司屋さんはいけないんだろうな。いやいや、こんな不謹慎なことは考えてはダメだ。
河北さんと一緒に暮らすことはできても、食べ物とか、水道とか、生きていけるんだろうか?子供とか考えていただけど、産めるんだろうか。結婚したいとは思っていたけど、いきなり共同生活って、どう役割分担したり、コミュニケーションをとっていけばいいんだろう。う〜ん、わからない。
そんなことを考えているうちに、河北のセカンドハウスに着いた。
「お邪魔します。大きい家なんですね。びっくり。」
「まあ、入ってくれ。友達なんか呼ぶことはないんだけど、土地は安いから、せっかくだからって大きな家を作ってしまった。部屋はリビングの他に2つある。今井さんは、この部屋を使ってくれ。私はこの部屋。子供達とか来れば、その時に考えよう。台所は、そこ、バストイレはこちらにある。掃除とかしないとだけど、疲れているし、明日にしよう。ベットとかは、それほど、汚れていないと思う。シーツだけ、外で、叩いてほこりを取るぐらいかな。まだ電気は使えるから、冷蔵庫とかは大丈夫だ。」
「お風呂とか入れるんですか?」
「どうだろう、あ、まだ使えそうだね。ただ、今後、どうなるかは分からない。そういえば、裏庭に昔の井戸もあるから、これまで使ってこなかったけど、そこで、水は汲めるかもしれない。今夜は、まず汗を落として、ゆっくり寝よう。タオルはこちら。まず、先に入って。」
「はい。ではお言葉に甘えて。でも、埃もあるし、まず、ざっと、掃除してからお風呂に入ります。
掃除機とかどこですか。」
「電気が今後、どうなっているかわからないから、ほうきで掃除するね。ちょうど2つあるから、今井さんはこれで。まず、虫とか入らないように、窓を開けよう。」
シャワーを浴びた後、2人は、缶ビールと缶詰で軽い夕食をとり、疲れていたこともあり、それぞれベットに入ると同時に眠りに落ちた。さすがに、こんな状況で追い出されることがなく、偶然にも2人での生活が始まった。
翌日、2人は、近所のスーパーに買い出しに行ったが、今井は持っている現金で最初に買ったのは、長期間になることも考えて生理用品で、メークはできない生活になっても、それは見せたくないと思っていた。
8話 どう生き残る
1週間ぐらい過ぎた頃から、だんだん状況がわかってきた。
「東京とかは瓦礫の山となったが、水は引いたそうだ。ただ、海辺では死体とかは海に持ってかれたが、内陸地ではそこまではなく、死体がゴロゴロしていて、とても行ける雰囲気ではないとのことだ。しばらくは東京に戻っても暮らす場所もないから、ここで過ごすしかないな。また、当面は、海外からガソリンとかも来ないから、いずれ車も動かなくなる。まずは、ここで、どう暮らすか考えないと。」
「時間だけはたっぷりあるから、まず、状況をゆっくりみてから考えましょうよ。」
「そうだな。実は、家庭菜園やってみようと思って、ジャガイモを庭で育てているんだ。この前に来た時に収穫したので、今度はもう少し時間がかかるけど、少し、その他のものも育ててみるか。」
「この前、この辺歩いていたら、農家とかもいて、結構、高齢者が多かったように見えました。それなら、弟子入りして、お米とか作ってみたらどうですかね。」
そうだ。高齢者の農家では、ガソリンもなくなってたトラクターとか動かないと労働力は足りないし、東京とかの需要がなくなれば、我々を雇い、農作物を対価として渡す余裕も出てくるだろう。そのうち、亡くなれば、農地を乗っ取ればいい。ここまで来れば、弱肉強食という考えで対応するのが正論だろう。その意味では、農地が広く、農家もできるだけ高齢者という所を探して、そこにアプローチだ。そして、いなくなるまで、せいぜい、ノウハウを吸収するのがいい。
「そういうアイディアもあるね。明日にでも、一緒にお願いに行ってみよう。お米や野菜を作りながら生活するのも、生きてるって実感できるかもしれないし。」
河北さんは、口が上手いから、多分成功するだろう。確かに、農家の方々と、親密な付き合いをするのも嫌といえば嫌。でも、生きていくためだし、当面は我慢しかないかな。でも、田んぼでの労作業か。都会で綺麗に楽しく過ごす予定だったのに、なんで、こんな世界になっちゃったんだろう。爪とか汚れるのも嫌だし、日焼けして、肌ボロボロのおばあちゃんになっちゃう。あ〜嫌、嫌。でも、生きていくためには、仕方がない。今日だって、お米とお新香ぐらいの質素な食事だし、もう少し、人間的な生活にしないと。
「うんって言ってもらえるといいね。農家の生活も楽しいかも。」
そういえば、一緒に暮らして1週間が経ったけど、子供を作りたいという気持ちは変わらない。いや、むしろ高まっているじゃないかな。子孫を残したいという本能? どうすれば、もっと親密になれるかな。と言ってもいきなりだと驚くだろうから、呼び名を変えたりして徐々に近づき、夜に河北さんの部屋に行って、寂しくてと言って、ベットに潜り込む、こんな感じかな。
「1つ提案があるんですが。」
「何?」
「もう一緒に暮らしているわけだし、農家とか周りに、河北さんというのも変だし、聡さんって呼んでいいですか? そして、私のことをみうと呼んでくれると嬉しい。」
もう会社もないし、こんな状況なんだからセクハラと言われることもないだろうし、まあ、いいだろう。ただ、前の奥さんみたく、全て仕切られると嫌だから、その点はきちんと関係構築が必要だけど、今の状況だと、夫婦とした方が都合がいいかもしれない。あくまでも、最後は僕が決めると言っておこう。
「それもそうだ。では、みう、よろしく。」
「こちらこそ。敬語もやめるね。なんか、楽しくなっちゃった。」
「それがいい。僕は、かなり年配者だから、色々な決断をして、みうを守っていかないと。」
「頼もしい!」
翌日、2人で河北が選んだ農家に相談しに行ったところ、その農家は、おじいさん1人で、広い田んぼの世話をどうしようか悩んでいたところに、こんな世の中なんだからお願いするとなった。やや警戒している風もあったが、河北が家庭菜園をしている姿も見ていたらしく、一緒にやれると思ったと後で聞いた。そして、農家生活が始まった。
「今日もいっぱい動いたね。腰が少し痛いなー。」
「でも、こんな生活をするとは昔は全く想定していなかった。でも、土地はいっぱいあるから、畑も広げていくのも楽しいな。」
「聡さん、昔は運動は足だけだったけど、最近は上半身も動かしているから、筋肉がいっぱいついて、一段と素敵になったね。すご〜い。」
「こんな環境で、よくそんなこと言えるね。でも、みうは、こんな環境でも、怖いくらい明るくて助かっているよ。」
「聡さんと一緒だからで〜す。ところで、今朝採れたミニトマト食べてみて。」
「農家の方も最初は半信半疑だったけど、当面は、ジャガイモを作って食べてみなと畑も勧められたのが良かったな。100日ぐらいで育つらしいから、美味しいジャガイモが待っていると思うと、少しはやりがいがあるっていうか。」
「そうね。そして、秋にはお米も取れるし、頑張りましょう。まずは生きることが大切だと気づいたわ。」
9話 彼の娘さんって
家に帰ったら、前に1台の車が停まっていた。
「お父さん、大丈夫だったんだね。あ、これ私の彼なんだけど、一緒に山形に旅行していて助かって、そういえば、昔、お父さんから聞いたセカンドハウスに行こうとなって、なんとかたどり着いたんだ。ガソリンもちょうどなくなったけど、なんとか来れた。」
「なみじゃないか。無事だったんだね。心配していたんだよ。どうぞ、どうぞ、家に入って。たいいたものはものはないが、暮らすには十分だ。部屋はどうしようか。みう、今の部屋は片付けて、僕の部屋に来なさい。なみは彼と一緒の部屋でいいよね。」
「いいけど、こちらは?」
「紹介していなかったけど、一緒の会社で働いていて、今回の事件の後、一緒に暮らしているんだ。」
「女の人と一緒に暮らしていたなんて、びっくり。みうさんって言うの。よろしくお願いします。かなり若そうだけど。私と10も違わないんじゃ。」
「なみさん? こちらこそ、よろしくお願いします。聡さんは、娘さん達のこと心配していたので、まだ1人だけだけど、まずはよかった。年齢のことは後でお話ししますね。聡さん、部屋の件は了解です。」
なんか難題が一つ増えた。がっかり。せっかく聡さんと一緒になったのに、煩わしいことが増えちゃった。でも、なんとかやっていくしかないね。なみさん、少しキツそうなお嬢さんだけど、しっかり躾けないと。彼は、少しポアンとした感じかな。多分、なみさんの尻に敷かれている感じ。これは扱いやすそう。聡さんと一緒の部屋になったのは一歩前進か。
その晩は、久しぶりに日本酒と缶詰で再会のお祝いをした。
「みうさん、これから、よろしくお願いします。でも、お父さんが、女性と一緒に暮らしているなんて想像もしていなかった。失礼ですけど、おいくつなんですか?」
「その質問が最初? 年は35歳。こちらこそ、何も言わずにお父様と一緒にいてごめんなさい。今回の災害で一緒に暮らすことになったけど、それまで付き合ってもいなかったの。それから本当にお世話になって、一緒に暮らすことになって、なんとか今日まで生きてこれたという感じ。本当に感謝しているわ。」
「やっぱ、若いんだ。こんなおじいちゃんとやっていけるのか心配だけど。」
「おじいちゃんって、ひどい。でも、それは大丈夫。災害の前からも仕事を一緒にしていて、ずっと尊敬して人柄もよく知った上での共同生活だから、思いの外、うまくやれている。ところで、彼とはどういう関係?」
「大学からの付き合いで、これからもずっと一緒に暮らしていくつもり。結婚という世の中の雰囲気じゃないから、このままでいいのかなーていう感じかな。」
「そうなんだ。なんか明るい未来があるようで、いいな。ねえ、彼氏さん、名前は何ていうの。」
「田村亮介です。よろしくお願いします。」
「じゃ、亮介さんと呼んでもいいですよね、なみさん。」
「どうぞ。」
なみさん、彼氏と一緒だったのはよかった。お姑のように聡さんに接したら、追い出すしかないけど、そんなことはなさそうだ。できるだけ、彼との関係をヨイショして、二人だけの生活に仕向けていこう。ここは、年上としての立場を明確にして、私たち2人には、なみさんが関与しないよう、しっかりと関係作りをしていくのがいい。なんか弱みを握るのもいいかも。女子トークで何か引き出してみよう。
「ところで、なみ。僕らは今、農家の方と一緒に田んぼや畑仕事をしていて、今後の食材を確保しようとしているんだ。一緒に暮らす以上、そこに参画してもらうしかないので、よろしくお願いする。亮介くんもいいよね。」
「暮らせるだけで十分だよ。よろしくお願いします。」
「やったことないけど、頑張る。みうさんも、よろしくお願いです。」
「もちろん。4人になって力強いな。女性陣もできたのも嬉しい。」
この日から、河北の娘と彼もこの家にジョインし、一緒に過ごし始め、その夜から、2人は一緒のベットで夜を過ごすようになった。
「聡さん、今日から同じ部屋だけど、よろしくです。」
「僕は、もっと身近に過ごせるようになって嬉しいよ。狭いけど、キングベットだし、それほど窮屈ではないと思う。遠慮は不要だからね。1人で過ごしているのと同じ気分で過ごしてもらいたい。」
「なんか、下着だけで一緒に寝るのは恥ずかしい。」
「今更、何を言っているんだい。それよりも、入っておいで。横になりながら話そう。」
みうはうぶだな。バツイチとか言っているけど、清楚で素直な女性で、男性との関係も前の旦那ぐらいかもしれない。人を騙すとか考えたことないんじゃないかな。なみとも仲良くやっていけそうだし、年も近いから、友達のように助け合ってもらいたいけど、みうなら大丈夫。でも、今日は抱いても大丈夫だろう。いこう。
「はい。では、お邪魔します。ところで、奥様と別れた後、ずっと1人だったんですか?」
「ずっと1人だったな。女性とはプライベートで話すこともなかった。そんな中で、みうは眩しいよ。」
「そうなんだ。じゃあ、いっぱい楽しい思い出作ろうね。」
聡さんの顔が目の前にきた。あ、口が塞がれた。胸に手が。さすが、ブラも、パンツも脱がすの自然ね。やっとここまで、嬉しい。ぎゅっと抱いて。
横の部屋で娘達がいるのに関わらず、みうは声を抑えきれず、2人は抱き合い続けた。
あぁ、あぁ、こんなのは初めて。やめないで、このまま続けて。同じタイミングで続けてくれる方が気持ちいい。腰を動かすと、触れ合うところが増えて、もっと気持ちいい。もっと来て。なんなの、体がそりかえっちゃう。あぁ、だめ。
「とっても良かった。いったの、初めて。」
「そうなの。そんなこと言われると嬉しいよ。みうと一緒に過ごすの、毎日楽しいよ。」
「これからも、ずっと一緒ね。」
好きな人とやるのは気持ちいいと聞いてたけど、本当だった。好きというより、やりたいと思う人ということかもしれない。聡さん、年だけど、まだまだ元気だから、今回は少し遅いので、おそらく子供はできないと思うけど、今度の排卵期にエッチすれば、なんとかなるかも。環境は良くないけど、絶対にゲットする。
そういえば、清純のふりは成功した様子。さすが私は演技派。男って、やっぱり清純で、初めてという経験が少ない子が好きだもんね。出来るだけ、前の旦那や、関係を持った男の話しはしない。前の旦那が初めてだったということにして、でも旦那は性格が悪く、エッチもほとんどしなかったということで通そう。その方が燃えそう。男って単純ね。
その後、数ヶ月が過ぎ、東京に戻る人たちはいたが、人手もなくて復興は基幹道路ぐらいで、瓦礫の撤去などは進まず、結局、食料もないので被害がなかった地域に戻るしかなかった。
そんな中、東京都心で大地震が起こったが、人もほとんどいない状況だったので、ビルの倒壊が進んだ程度で、大きな被害はなかったのは不幸中の幸いかもしれない。
電気や携帯については、多くの設備が破壊されたものの、電力会社や電話局の職員が、太陽光パネルや古い発電所を再開したり、自動車などに搭載された簡易電波装置を使い、繋がりにくいものの、なんとか使える状況にはなっていった。
10話 欧米は全滅
一方、この2人には伝わっていなかったが、世界各国では、大変なことが起きていた。
太平洋以外に落ちた隕石の中に、とんでもない昆虫の卵があったのだ。それが孵化し、1日で1匹から数万という卵が産まれ、それが孵化する。部屋の壁にあった、1つの卵から、朝日がさす中で、バーと小さな蜘蛛のような虫が散らばり、いきなり走り始めて、近くの動物の口に入っていく。そして、あっという間に内臓を食い潰し、その夜中には卵を数万と産む。なんと怖い。
この虫は、アッと言う間にアメリカ大陸、ユーラシア大陸、アフリカ大陸と広まり、各地では、阿鼻叫喚の状況だった。ニュースとかになる前に、周りの町は滅びさり、朝、なんか虫がいると気づいた時には、静かに人たち血を吐いて死んでいく。このことがニュースになり始めると、人々は、どこに逃げていいか分からないまま、北に逃げていくが、虫の方が早い。虫は小さく、飛ぶので、ビルに逃げても、車に乗っていても、いつでも入ってくる。車で逃げていて、横に乗っている家族の首に何か小さな虫がいると思ったら、さっと口に入って、あっと思っていたら、血を吐いて死んでしまう。ダメだと思ったら自分の胃に激痛が、そこで運転できなくなり、前の建物に激突という感じだ。バーナーで焼こうと思っても、小さくて飛んでいるし、ターゲットが定まらない。そんなこんなで、あっという間に近くに押し寄せ、考える間もなく横に虫が来ているという状況だ。
最初は蚊のように小さいが、内臓に入ると、血とか肉ををたっぷり食べて、半日ぐらいで、ゴムのような体がテニスボールぐらいの大きさにまで膨れ上がり、体を破って出てくる。まず、体内にいる時にその人ごと焼くということも考えられたが、まずさっきまで一緒だった人を焼くことに躊躇いがあったのと、そんなことを考えている最中に虫が体に入り、そもそも、そんなことはできなかった。防護服とか着ても、衣服を破っているのか、隙間があるのか、どこからか入ってきてしまう。また、体から出てきた時に殺すという手もありそうだが、その頃には、周りに生き残っている動物は全くいないので、生き延びるという生態系であった。
ただ、この虫は塩水があると生きていけなかったため、大陸から出ることができず、津波の被害を被った日本などには入らなった。その意味では、津波の被害を受けたものの、日本では人間は生き延びることができたのだ。1ヶ月ぐらい経った時に、オーストラリアや日本などの島国を除き、動物はいなくなった。ただ、逆にこれが原因で、隕石から広がった虫も食べるものがなくなり、消滅することになった。繁殖力が高い一方で、地球の環境では必ず孵化するため、卵のままで存在できなかったことがラッキーだった。
この昆虫の生体を調べる間もなく、一部の地域を除き人類はいなくなってしまたったが、実は、別の惑星から彗星が拾ってきたものだった。そこでは、メタンの海があり、大きな生物もいるものの、0°Cを超えるのは年に1ヶ月程度で、あとはマイナス180°程度の極寒の星。そこで、マイナス50°C以下では卵でしか存続できないこの昆虫は、短期間に急激に繁殖する習性を身につけた。また、1ヶ月程度の間に食べられずに過ごせた生物も多く、残りの期間は生活を謳歌したので、バランスは保たれていた。ただ、地球では、この昆虫にとって生きやすい気温だった一方で、海を超えることができなかったことが限界となり、最終的に死滅した。北極などに彗星の破片が落ちなかったのも幸いだった。いずれにしても、塩水に満ちた地球に感謝だ。
この頃、世界のネットワークに接続できるようになり、世界各国から、虫から逃げろという映像も含めて入ってきて、河北達は、さらに孤立した気分になった。
「これはひどい。日本だけが大変と思っていたが、これでは日本とか島国だけが孤立して生き残ったということだったんだ。なおさら、まずは、ここで安心して暮らせる環境を作らないと。」
「そうね。逆に、地球全体がダメにならなかっただけでも幸せと思うべきなのかも。」
聡さんと一緒に山登りに来たのは運命だったのね。この人の子を産みたいと思ったのも、生き延びる方法を神様が教えていたのかもしれない。ただ、一緒に暮らし始めて3ヶ月程経ったが、まだ子供ができないな。聡さんが、危ない時を察して、そんな頃にコンドームをつけていたから。コンドームもいつかはなくなるだろうけど、聡さんも年だし、そんなに待てない。
「ねえ、相談なんだけど、聡さんとの子供が欲しいな〜と思っているんだけど、どう?」
「こんな環境で大丈夫かな?」
みうも女だな。これだから女は面倒なんだよ。子供まで育てるのは大変だし、今後、やっていけるか不安。なんで分からないかな。馬鹿な女は嫌いなんだよな。でも、生活するうえで、みうには助かっているし、さすがに娘もいる中で捨てるわけにもいかない。また、みうの体の魅惑も手放し難い。子供ができるかは分からないし、まずはOKと言っておこうか。できたら、あとはどうにかするしかない。
「助産婦さんもいると聞いたし。」
「そうじゃなくてさ、子供の世話をしながら、日々生活できるかということだよ。」
「私との子供は欲しくないの? 前の人とは2人も作ったのに。」
あ〜、今日はイライラする。あの日だから? でも、子供産みたいんだから、なんとしても合意させないと。どうして男の人って、はぐらかすんだろう。あなたが不安でも、ちゃんと私は育てる。まあ、作っちゃえば、こちらのもの。
「聞いている? 子供を育てる環境が不安だと言っているだ。」
「私も35歳は過ぎたし、あなたもいつまでも若くないし、早く作りたいの。」
「う〜ん。」
「もういい。寝る。」
みうはしばらく粘り、河北も折れて、子作りを始めるしかなかった。
11話 ガールズトーク
「なみさん、もう来て3ヶ月になるね。どう慣れた。いや慣れないようね。」
「世の中から見れば、とっても幸せとしか言えない。」
「そうよね。私の不満は、食べ物が淡白で、イタリアンとか食べられないことぐらいかな。彼はなんて言っているの。」
「彼は、不満があっても、あまり喋らないし。まあ、それなりに過ごしているんじゃないかな。でも、前から聞きたかったんだけど、みうさん、彼氏とかいなかったの?」
「聡さんにずっと憧れていたから、他の男性には興味はなかったかな。でも、逆に、聡さんは、他に女性とかいなかったか知らない?」
「お母さんと離婚して、あまり接点がなかったから知らないかな。でも、お父さんとお母さんが会話していた記憶がないから、みうさんと仲良かったのはびっくり。あんなに女性と仲良く話す人だったかなと思った。」
「そうなんだ。でも、お母さんから不満とか聞いていたんでしょ。」
「あまり記憶ないんですよね。不満があったから離婚になったんだろうけど、子供には不満をぶつけなかったんだと思う。お父さんも、毎日遅くて、あまり話したことがないし。」
なんかいい情報が出てこないな。なみって娘、使えない。それだったら、この子の彼について聞いてみようか。
「まあ、そんなことはどうでもよくて、なみさんの彼について教えてよ。どんな人なの。」
「う〜ん。ぼーっとしていて、なんか子供みたい人。なんか親がオーストラリアで事業していてお金持ちらしい。そう今回は、オーストラリアは被害が少なかったみたいだから、その後も、事業は続いていて、親とこの前、電話で話したらしい。でも、飛行機とか、今は行けないので、当面は会えないって。私も、いつかはオーストラリアに行って、昔のような生活ができるのを楽しみにしている。ステーキとか食べられるかな?」
「それはいいね。親は何をしているの?」
「なんかIT会社らしい。詳しくは知らないけど、コールセンターを管理するクラウドサービスとか、よく分からないこと言っていた。」
「これだけ環境が変わると、どう影響があったかは分からないけど、お金持ちっていうのはいいね。なみさんは今後も、安泰だ。」
「まあ、オーストラリアに行けたらということだけど。」
「行ける、行ける。いいなー。」
「みうさんだって、幸せそうですよ。」
「そうだけど、なみさんにも幸せになってもらいたいな。」
これは使えるかも。ここでの生活が苦しくなっても、オーストラリアに行って、昔の生活ができるなら、それは朗報だ。でも、この子って、何考えているんだろう。あまり、気持ちが分からない。まだ警戒しているのかな?
「ところで、亮介は、私のことはなんでもきいてくれるけど、男の人って、分からないこと多いですよね。」
「たとえば?」
「これまで3人ぐらいの人と同棲していたんだけど、なんかいつも黙っているし、ブスッとしていて、なんか私のこと好きじゃなくなったのかと思ったら、突然、一緒に飲むぞと言ってきたり。それで、料理とかいっぱい作って、飲みながらいっぱい話していたら、聞いていないし、何考えているか分からない。また、ショートの子が可愛かったとか言ってたから、2cmも髪切ってショートにしても、気づかない。なんなんだろう。」
「わかるー。そういう人いるよね。なんなんだろうね。私は、あまり、期待しないようにしているけど。でも、好きになったら、期待しちゃうしね。」
「そうそう、別の人は、飲みにいくと、ずっと、数学とかの話しをしている。よく分からないから、うんうんって笑顔で対応していたけど、本当に疲れちゃう。もちろん、話したいことがあるのはわかるけど、こちらが興味なければ、同じ趣味を持つ人に話すとか、なんか考えないのかな。」
「それも、わかるー。そんな人多いよね。なんか、機械とか、音声の波形とか、私が興味のない話しを永遠に話している人っているよね。なみさん、面白いね。そんな人たちと結婚とかの話題にならなかったのも納得ね。」
「そうじゃなくて、実は、学生の時、最初に同棲した人とは結婚という話題はあったんだ。」
「え、なになに?」
「実は、彼とは結婚しようとお互いに言っていたんだけど、まだ彼は学生で、決心してなかったんだろうね。そのあと、妊娠したんだけど、その時、彼が、俺の子じゃないんだろとかいうからキレて結婚はやめた。それがショックで、流産しちゃって、まあ、まだ若くて、結果オーライとも言えるけど。でも、一回、流産するとクセになるっていうし、今後は少し不安。」
「そうなんだ。亮介さんは知っているの。」
「まだ話していない。彼の両親にも、そんな過去は話せないし、一生、黙っているつもり。みうさんも秘密にね。」
「もちろんだよー。」
これはいい情報だ。オーストラリアに行くには亮介さんとの関係を維持する必要があるけど、どうしてもとなったら、ばらすと言って、なみさんを手名付けられる。いやー、今日は成果があった。
12話 出産
「だいぶ日が経ったが、東京はまだ荒れ放題のようだ。そりゃー、東京に住んでいた人の大部分が亡くなったのだから、東京に戻るという考えがないよな。この日本を東京中心に復興するということ自体無理があって、まずは、生き残っている地域をベースに、昔のように暮らせるようにしないと。」
「でも嫌な噂を聞いたわよ。今回の災害で助かった地域の地元住民ではない、観光客でたまたま助かったような人達が生活できずに、地元住民を襲って食べ物を盗んだりしているらしい。また、いろいろなところで略奪や暴力をする集団になっているって。」
「それ、僕も聞いた。この地域でも、その対策として、自警組織を作るっていいてた。」
「何もないといいわね。」
実は、この時、みうはやっと妊娠できて、お腹も大きくなっていた。こんなところに暴力集団とかくると被害も多いなと心配していた。
不幸にも、その噂は本当で、4人が暮らすこの地域にもやってきた。ただ、これは思いかけず、すぐに終わった。30人ぐらいの略奪集団がやってきたのだが、自警団の一人が、鹿狩りとかで使っていた猟銃を撃ったところ、略奪集団のボスの頭にあたったのだ。目の前で、頭が粉々に吹っ飛ぶ様子を見た集団は、冷静さを取り戻し、さらに、怖くなって逃げ出した。それ以来、このエリアは、略奪集団の間で、触れてはいけない所として噂が広まり、避けられるようになった。また、これが各地域にも伝わり、それぞれが自警団を組織するようになり、略奪集団は自然消滅し、それぞれが、各地域の生産活動に溶け込んでいった。やはり、日本人は農耕民族の遺伝子が根強く生き残っていたのだろう。
「もう一緒に暮らして1年も経ったけど、一緒にいられるのが美羽でよかった。いつでも明るく積極的だしね。」
「私は、これまでの人生で今が一番幸せかもしれない。昔は、美味しい料理とか、お酒とかはいっぱいあったけど、毎日、仕事に追われていたし、いや、聡さんのせいじゃないからね、同僚の女性からも、いろいろな嫌がらせを受けていたし。でも、今は生きることに専念するせいで、そんなことを気にする暇もないし。最近は、近所の方々ともだいぶ仲良くなったんだ。歳の差はあるけど、いい夫婦ねって言われた。嬉しいな。」
こんなことを言っておけばいいんだろうか。私が妊娠してから、つわりとかの時期は辛くて、少し聡さんには相談をしたけど、あんまり聞いてくれなかった。そんな関係とは思っていたけど、二人の子供なんだから、ちょっとは父親らしいことをしてよ。本当に辛いんだから。そんなこと考えていたら、なんか、聡さんの嫌なところが気になっちゃって。たとえば、本を読んでいるときは部屋に入らずに、リビングにいてとか。自分の時間があって、いいわね。また、近所付き合いも大変で、気苦労が多いけど、こんなことがあったと夕飯の時に話したら、全く聞いていない。あなたと一緒に暮らすためにやってるんだから、一緒に考えてもいいじゃない。
その数ヶ月後に、子供が生まれた。
「おめでとう。やっと私たちの子供が生まれたね。これからが楽しみだ。」
「抱いてあげて。お父さんよ。」
「男の子だね。こんな時に生まれてきて大変だけど、一緒に頑張ろう。」
なんか実感がわかないけど、自分の子供なんだな。これから大変だ。夜泣きとか、みうも農作業とか制約があるだろうから、僕がもっと動かなければいけない。面倒だな。でも、できちゃったんだから、なんとかしないと。ただ、みうも、農作業のせいか、そこら辺のおばさんになったし、僕の人生って、良かったんだろうか。もちろん、隕石の影響が大きいけど。みうは、自立していていいと思ったけど、やっぱり女で、毎日、話しを聞いてだし、対応するだけで疲れる。これからは更に、面倒を見ないといけないから、自分の時間は減る。なんか、もっと自分の思いとおりに生きられないかな。
生まれるまで1日半ぐらいかかって、本当に大変だった。おめでとうも悪くはないけど、大変だったねとか言えないの。楽しみとか、なんか他人事で、何を考えているんだか。一緒に頑張るというより、まずは守ってよ。この人を見るの、嫌になってきた。
13話 最愛の人の死
災害の日から2年が経ち、子供も1歳となり、忙しい日々が続いていた。一方、日々の生活はできていたが、医療機関などは、医薬品や手術用の器具などはなくなり、ガソリンも尽きて車なども走らなくなり、人類が積み重ねてきた科学を土台にして成り立っていた豊かな生活はなかなか元に戻せなかった。
そんな中、河北は、ここに来てから、ずっと、料理を作るための薪を拾いに山に行っていたが、今日も山中を歩いていた。
「綺麗な花が崖の途中に咲いているな。これなら、この木につかまれば取れるから、たまには、みうに持っていってあげよう。」
足を踏み出した途端、地盤が崩れ、河北は崖から落ちてしまった。
これは死ぬな。真っ暗になってきた。今から思うと、みうと一緒にいたこの2年、幸せだったかもしれない。みうは、ずっと笑ってくれて、家はほのぼのとしていた。みうのように、みんなのことをいっぱい考えて、いつも周りのことを考えている女性って、そんなにいないんじゃないかな。本当に裏表がない、僕のことや娘を大切にすることしか考えていないみうには感謝だ。お花渡したかったけど、無理だね。これからどんな人生が待っ・・・・・。
近所のおじさんが、慌てて家に走ってきた。
「河北さん。旦那さんが崖から落ちたって。頭打って、病院には運ばれたけど、もうダメみたいだって。早く病院に行って。」
「え! なみさん、お父さんが崖から落ちたって、一緒に病院に行くよ。陽翔は私が抱っこしていく。亮介さん、家をよろしく。」
病院についたが、すでに河北は亡くなっていた。
「頭を強く打って、出血も多く、おそらく即死だったんじゃないかと。ご愁傷様です。」
「先生、ありがとうございます。本人も、ここまで生きれて楽しい人生だったんじゃないかと思います。」
涙に溢れるみうは、陽翔を抱きしめた。なみも、涙を静かに流し、茫然と立ちすくしていた。
「奥さん、大変だね。あんなに仲良かったのに、まだ、これからっていう時に亡くなっちゃうんなんて。」
「そうだね。俺が伝えに行った時には、顔真っ青だったし。娘さんも、久しぶり会えたって喜んでいたのに。」
「でも、子育てが大変だから、奥さんも気が紛れるんじゃないかな。また、娘さんの旦那さんがいるから農作業も当面は大丈夫なのは不幸中の幸いかも。」
聞こえているわ。そう思ってくれれば、これからもいい人演じられる。でも、これは天罰ね。やっと、聡さんから解放される。私のこと大切にしなかったから、当然の報いなのよ。これからは、陽翔を私が理想とする男に育てあげていく。立派な男にするからね。お母さんとずっと一緒だから。亮介さんの親も必要なら利用する。私は、あなたを立派に育てるために、ずっと頑張っていける。私の子だから。
お読みいただき、いかがでしたでしょうか? この作品を書きたくて、小説を書き始めました。ご意見をいろいろいただけると嬉しいです。また、お会いしましょう。