98.元勇者、過去を語る
サブタイトル、変更しました。
ヘイロンは昔を思い出しながら、ニアに語って聞かせた。
「俺の生まれは小さな田舎の村でな。両親はいたけど……あまり仲は良くなかったかもな」
「……なんで?」
「うん。たぶん俺のせいだ」
笑って、ヘイロンは自分のせいだと言った。
ニアはどうしてそんなことを言うのか。意味が分からなかった。
どうして、と聞く前に彼は続きを話してくれた。
「俺の生まれは少し特殊でな。片親が亜人なんだ」
「えっ!?」
秘め事の告白にニアは驚いた。
じっとヘイロンの顔を凝視する。けれど彼は普通の人間に見える。亜人としての特徴は一つだってない。
「半分亜人でも見た目は人間と同じなんだ。違うところと言ったら中身だ。少し力が強いとか、魔力が高いとか。そんなもんだよ」
だから、表立って人間と亜人のハーフであると公表する輩はいない。
彼らはどちらの種族にも居場所がないからだ。故にハーフについて殆ど情報は出回っていない。
隅々まで探せばいるだろうが、それだって自己申告でしか確証は得られないものだ。
故に彼らの存在は肩身が狭い。
それは子供だったヘイロンも同じだった。
「俺が生まれたことで、両親は離れて暮らさなきゃいけなくなった。片親が亜人ってことは隠していたけど、田舎の村は噂の回りが早いんだ。すぐにバレちまって村八分だ。だから俺には友達ってやつが居たためしがない。まあ、別にいらなかったんだけどな」
ヘイロンの話を聞いて、ニアはどうしてか悲しくなった。
出来損ないと言われて家族からは嫌われていたけれど、ニアのいた村のみんなはそれでも優しくしてくれた。
お屋敷に軟禁されていたから、村の中を歩けることなどほとんどなかったけれど……家族以外の村人たちはニアのことを可愛がってくれたのだ。
でもヘイロンの周りには助けてくれる人なんて誰もいなかった。それがどれだけ心細いのか。ニアは誰よりも知っている。
「ハイロ、皆のことうらんでる?」
「んー? 俺がそんな奴に見えるか?」
「みえない」
「だろ?」
安心させるようにヘイロンは微笑んだ。その笑顔を見てニアはほっとする。
昔に嫌なことはあったけれど、それをヘイロンはちゃんと乗り越えたのだ。それを知れて、ニアは嬉しくなった。
「ふあぁ……」
安心したら眠くなってきた。
昼飯を食べたばっかりなので、俄然眠気に抗えなくなったニアはヘイロンの身体を背もたれにして薄っすらと目を閉じる。
「眠いのか?」
「うん……お昼寝してもいい?」
聞くや否や、ヘイロンが答える前にニアはすでに寝息を立てていた。
それに苦笑して、しばらく寝顔を見つめた後ベッドにゆっくりと寝かせて、ヘイロンは部屋を出る。
すると、ドアの傍にモルガナが立っていた。
彼女はニヤリと笑って顔を近づけてくる。
「悪い子だねえ。嘘を教えるなんて」
「……今の話、聞いてたのか?」
「聞いてたんじゃないよ。聞こえてきたんだ。ここ、壁が薄いからね」
コンコン、と壁を叩いてモルガナは厭らしく笑った。
「恨んでなかったら、君。あんなことしてないだろ?」
「今は恨んでないって話だろ? ならそれで正解だよ」
「言葉の綾ってやつだ。便利だねえ」
愉快そうに言うモルガナに、ヘイロンは口を閉ざす。
彼女には今の話が嘘であると見抜かれてしまっている。しかしすべてが嘘ではない。半分だけ。
ニアに伝えた昔話は、半分本当で半分嘘だ。つまり作り話ともいう。
「それにしても、君が亜人のハーフだったなんて。私も知らなかったよ」
「誰にも言ってないからな」
「それはアルにも?」
「そうだけど……なに?」
モルガナは何やら意味深なことを問うてくる。
それにヘイロンは訝しむが、彼女から明確な答えは与えられなかった。
「いいや、もしかしたら私の思い違いかもしれない。気にしないでくれ」
何か引っかかることでもあるのか。
モルガナは難しい顔をしながら手を振って去っていった。
「何なんだ?」
呟いて、ヘイロンは顔を顰める。
彼の問いに答えが返ってくることはなかった。