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86.翼人、身の振り方を考える

 

 それは樹上にいて、ずっと見ていた。

 木陰の暗がりから、眼下を見据えて息を飲む。


(……っ、バレたかと思ったァ!)


 緊張した面持ちで彼は身を翻すと、樹上を伝って森の奥に移動する。


「子供は一人。ならアレが魔王の縁者で間違いないな」


 その人物は――背に翼を持つ翼人の男。名はグウィン。

 亜人の一族のうちの一つである翼人は、空を飛べる。竜人と比べると非力で飛行能力も劣るが、自在に空を駆けることが出来るのはこの二種の一族のみだ。


 しかしグウィンの翼はそれに適していない。

 形状も小さく、彼の背に収まるほどの翼しか持っていない。もちろんそれでは空を飛べるほどに力もない。


 彼は翼人として生まれながら、空に嫌われたのだ。


「ここまでくれば安全だろう」


 グウィンは樹上から降りて、陽の当たる地面へと降り立った。

 すると彼の身体――末端の鳥頭からあしゆびまでの黒色が、脱色したように白く変わっていった。


 彼の身体は変色能力を持っている。

 周囲の明るさで身体の色が変わるのだ。

 そしてそれは、密偵や隠密など闇に紛れる任務には適任でもある。


 だからこそ、彼の一族の長に偵察を頼まれたのだ。そしてあわよくば、魔王の縁者を生け捕りにしろと命を受けた。

 しかしそれ以外の理由があったことをグウィンは知っている。


 空を飛べない者は翼人にあらず。

 ようは厄介払いである。


「よし。カウル、これをルプト様に届けてくれ」


 肩にとまったカラスにグウィンは手紙を託す。

 例の子供の有無、それと魔王城にいる者たちの数。グウィンはこの数日、魔王城を監視していた。見落としはないはずだ。


「ふぅ……一先ずはこれでいいとして。俺がこのまま村に戻っても入れてはもらえないだろうな」


 グウィンの村長は、最期の任務だと彼に言った。

 すなわち、生きて戻ってくるなということだ。グウィンを煙たがっている彼らにとってみれば今回の件は都合が良かったのだ。


 彼がこの任務を言い渡された要因は、雷火の一族に命じられたからである。

 彼らは獣人たちの中で一番の権力を持つ。グウィンのような翼人の一族では逆らっても皆殺しがオチだ。


「しかし、雷火の旦那も思い切ったことをする。この機に魔王の座を奪おうってんだから……これから荒れるだろうなあ」


 既に情報は送った。

 グウィンがこれから考えなければならないのは、身の振り方だ。生き残るにはどの勢力に付くのが利口か。しっかりと見極めなければ。


「雷火と死灰。あとは魔王――人間側はないとして……どうするかなあ」


 木陰に入って木の幹に寄り掛かる。

 指折り数えて、グウィンはあれこれと思案した。


「雷火の奴らはどうせ翼人なんて使い捨ての駒くらいにしか思っていない。戻っても生き残れる可能性はゼロ。死灰も……飛べない翼人は要らないだろうな。そもそも竜と俺たちは犬猿の仲だ。歓迎してもらえない」


 そこまで考えてグウィンは焦った。もしかして詰みじゃないか、と。


「まてまて、まだ残ってる! あの魔王城に住んでる奴ら。よく分からないが……人間もいれば亜人もいるってかなり面白い。上手く取り入ればなんとかなりそうだ」


 今しがた情報を売ったばかりだが、魔王側の戦力の詳細はグウィンも分からなかった。人数は把握しているがそれだけだ。

 つまり、まだ重大な失態は冒していない。


 たいして魔王城の彼らは、他の連中が動いていることなんて知らないだろう。知っていたらあんな呑気にしていないはず。


「よし、決めた!」


 グウィンは顔を上げると、踵を返した。

 立場の弱い自分は他人を利用して、上手く立ち回らないと生き残れない。なら、精一杯もがいて意地汚く生きてやろう。


 それがグウィンを使い捨てた奴らに出来る、唯一の抵抗だ。



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