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85.朋友、張り切る

 

 陽が昇りきって食事を摂ったあと、ヘイロンはニアを連れて外に出た。


「それじゃあ今日も張り切っていくぞ!」

「はぁい!」


 張り切っているニアは今日も元気に能力習得のため精を出す。

 その横でヘイロンは昨夜、目途を付けた魔法の実験のため、石拾いをしていた。


 ミディオラから剥がれた表皮の山から目当ての鉱石――珪砂を取り出すとそれを砕いて小さくしていく。さらにすり鉢に入れて砕く。

 熱心に作業をしていると、傍にニアが寄ってきた。彼女の変化能力の上達は目覚ましいものだった。

 昨日は手首部分だけだったのに、今は肘辺りまで獣化している。しかもこれ、面白いのが変化した毛並みはニアの髪色と同じ金色なのだ。

 魔王の万化の能力はイメージで変わると思っていたから、この発見は面白い。


「ハイロ、なにしてるの?」

「うん? これはな……俺の今日のおやつを作ってんだ」

「えぇ!?」


 意味が分からないとニアは言った。

 まあ、そうだろうなとヘイロンは頷く。きっと誰に言っても同じ反応をされるだろう。


「それおいしいの?」

「美味しそうに見えるか?」

「……ううん」

「だろ?」


 素直なニアに微笑んで、細かく砕いた砂粒を鷲掴み口の中に入れる。


「ぐぇっ」


 思った以上にむせる。

 咳き込んでいると、背後を通りかかったローゼンが水を渡してくれた。


「た、助かった」

「何をやっているんだ?」

「これか? 長寿の秘訣ってやつだ」

「ハァ?」


 意味も分からず固まってしまったローゼンは、なにやら色々と荷物を持ってどこかに行く途中らしい。


 彼女以外にここ、魔王城に暮らしている皆にはそれぞれ仕事を割り振っている。

 ムァサドには狩りや食料調達。

 ミディオラは魔王城周りの土地の開墾。

 モルガナには薬やその他諸々の調合。グリフは魔王城周辺の警戒。


 そして、イェイラとローゼンには炊事と雑務全般を任せていた。


「お前こそ何してんだ?」

「私か? やるべきことはだいたい片付いたから、今は自由時間だ」

「うん、それで?」

「前々から傭兵を辞めたら鍛冶をしてみたいと思っていたんだ。だからその準備だな」

「へぇ、面白そうだ」


 武具マニアのローゼンにはぴったりの趣味である。


「でもお前、鍛冶の知識はあるのか?」

「それなら心配ご無用! 鍛冶屋の親父オヤジさんを口説きまくって教えてもらった!」


 簡単なナイフや斧、生活に必要なものは作れるのだという。


「獣人の彼が獲ってきてくれる獲物の毛皮をなめして革にすれば、防具だって作れる!」

「お前はそれ使ってどこに戦いに行くんだよ」

「ヘイロン、何事も備えというのは大事だ。ここが攻められた時、武器も防具もなしじゃ戦えないだろう?」

「まぁな」


 ローゼンは趣味であると言っているし、うるさく言う必要もないだろう。

 それよりも、とヘイロンは彼女に頼みごとをした。


「だったらムァサドに鉄のブラシ作ってやってくれないか? 剛毛が傷むんだと」

「彼には世話になっているからね。任せてほしい」


 張り切ったローゼンは足取り軽く去っていった。

 鍛冶をするとなると炉や金床なんかも必要になってくるだろう。それについては用意してやるのもやぶさかではない。

 ヘイロンも頼みごとをしているし、持ちつ持たれつである。


「ハイロ、他になにする?」


 ニアは自在に操れるようになった両手を見せて問う。

 それにヘイロンは少し思案して、ニアに語ってみせた。


「そうだなあ。俺が思うに、その能力は自分の身体以上の質量は持てないはずだ」

「どういうこと?」

「例えば今のニアがミディオラみたいなドラゴンになろうとする。でもニアの身体はアイツよりは小さいだろ? それがいきなりデカくなるのは無理なんじゃないかって話だ」

「ふぅん」

「だからまずは肢体の変化からだな。手と足、そこを頑張ってみよう。今言ったやつは面白そうだし後で挑戦するけど、今はそれだけで充分だ」

「うん!」


 そうと決まればとニアはムァサドを探しに行った。

 彼の足の観察をするのだろう。ヘイロンはそれを見送ると、自分の魔法研究の続きに没頭した。


 ヘイロンの試したいことは、魔法での疑似同化だ。

 ミディオラのように完璧な同化は無理でも、一部だけでも出来れば有難い。それが出来れば、ヘイロンのやりたいことの目途が立つ。


 しかしこうやって取り込んで魔法として昇華させることは、モルガナに言わせると邪道であるらしい。

 ヘイロンが編み出した復元魔法も、ボロクソに扱き下ろされたのだ。今やろうとしていることを見られたらまだ色々言われるに違いない。


「バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ」


 ははは、と笑ってヘイロンは作業の続きをする。

 直後に、視線を感じて顔を上げた。


「……なんだ?」


 しかし顔を上げて見渡してもどこにも誰もいない。


「ううーん、気のせいか?」


 独り言をいってヘイロンは立ち上がった。

 先ほど粉にした鉱石を飲んでみたがこのまま飲み込むのはやはりツライ。ここは溶かして一気に流し込む!


「味さえ気にしなければ楽勝だな!」


 傍から見れば土を弄って遊んでいるようなものだ。

 けれどそんなこと、少しも気にせずにヘイロンは魔法研究に精を出すのだった。


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