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81.元勇者、詰め寄られる

 

 ローゼンの告白に、イェイラは震える指を突き出してヘイロンを指差した。


「ゆ、ゆうしゃ? これが?」


 彼女の問いかけにヘイロンは無言で頷く。その顔は何とも決まりが悪そうだ。


「ちょっとまって、意味が分からない」

「嘘は言っていない」

「あ、あなたの言葉を疑っているわけじゃなくて……あまりにもイメージと乖離しすぎてて……ううう、脳が壊れそう」


 イェイラは熱にうなされたように頭を抱えて唸り始めた。と思ったら、そのまましゃがみ込んでしまった。


「イェイラ、だいじょうぶ?」

「だぅ、大丈夫じゃない……なんでこんなのが勇者なのよ」


 ニアが心配そうにイェイラの傍に寄っていく。

 けれど、ヘイロンが勇者であると知ってニアは何も言わなかった。彼女にしてみればそんなことは関係ないのかもしれない。


「なあ、さっきから酷い言われようじゃないか?」

「だ、だって! 勇者がこんな変人だなんて! 分かるわけないじゃない!?」

「ハイロ、ヘンだけどやさしいよ」

「そっ、そうだけどぉ」


 イェイラは相当落ち込んでいるみたいだ。立ち直るには時間がいるだろう。

 弁明を諦めて、ヘイロンは大人しく黙っているローゼンに語り掛けた。


「それで、お前は何でここに来た? 殺されかけるほどのことをした覚えはないけどな」

「それは……っ、アンタが灰の顎門(アージゲイト)に戻ってこないから」

「はあ?」


 ローゼンが話した理由に、ヘイロンは素っ頓狂な声を上げる。率直に言って意味が分からなかった。


「傭兵団を抜ける時にもう戻るつもりはないって言ったよな?」

「そ、そうだけど! あんなことがあって……少しくらい頼ってくれても良かっただろ!?」

「アイツラがいる王都に居ろってか? んな馬鹿なこと出来る訳ねえだろ」

「で、でも……あれから一度も会いに来てくれなかった! わ、わたしはずっと……待ってたのに」


 ローゼンは目に涙を貯めて俯いた。

 立場もあり誤解されやすいが、本来の彼女はとても乙女なのだ。可愛いものが好きでおしゃれが好きで、きっとここにいる誰よりも女性らしい性格をしている。

 それを隠してしまっているのが、傭兵団のリーダーという肩書と彼女の生い立ち。けれどヘイロンにとってそれは重要じゃない。


「お前みたいにすぐ泣く奴は、傭兵団のリーダーなんて向いてねえよ」

「ぐっ、そんなこと、言われなくても……」

「分かってるよ。団の奴らの前じゃなめられたら終わりだからな。そんな格好して、虚勢張ってなきゃやってられなかっただろ」


 ローゼンが灰の顎門(アージゲイト)のリーダーに就く前、それをまとめていたのは他でもないヘイロンだった。

 だから元を正せば、彼女がこんな風になった原因はヘイロンにもあるのだ。


「綺麗な髪だったのに、こんなに短くして」

「きっ、きれい!?」


 その一言でローゼンの涙は引っ込んだ。

 こんな台詞は初めて言われた。たったそれだけの言葉がとても嬉しく感じる。


「――っ、決めた!」

「なんだよ、いきなり」

「私は灰の顎門(アージゲイト)を抜ける!」


 嬉々として語ったローゼンに、ヘイロンは固まった。

 そんな嬉しそうに言うことだろうか……イヤ、彼女にとっては良い事であるが。


「お、おお……そうか。うん、それが良いんじゃないか」

「元々傭兵なんて今ではやる必要もないんだ。これからは自分のしたいことをするよ」

「うんうん、良い心がけだ」


 彼女の決断にヘイロンは心から喜んだ。

 これからは傭兵なんて危ない仕事を辞めて生きていくと言ったのだ。ローゼンの人となりを知るヘイロンからしたら、こんなに喜ばしいことはない。


 感慨深げに頷いていると、直後思いもよらない台詞を聞いた。


「だから、私もここで暮らすことにする」

「……はぁ?」

「私もここで暮らそうと思う」


 大事なことのように二回言われて、ヘイロンは目を見開く。

 ――そんな馬鹿な話はあるか!


「だってヘイロンは私に会いに来てはくれないだろう? だったら私が傍に居ればいい!」

「あ、あのなあ……ローゼン、ここ魔王城だぜ?」

「知っている」

「普通な、人が住む所じゃねえんだわ」

「アンタが言っても説得力ないね」

「あー……それはそうだ」


 ここに暮らしているのはヘイロン以外に居るのだし、一人増えた所で困ることはない。

 ないのだが……一つ気になることがある。


「一つだけ聞いていい?」

「答えたらヘイロンの傍に居てもいいか?」

「あー、うん。好きにしたらいい」

「――っ、なんでも聞いてくれたまえ!」


 ヘイロンの返答にローゼンは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 彼女はヘイロンの手をぎゅっと握って離さない。そういえば昔もこうやって迫られたな、なんて思い出しながら、本題に入る。


「お前、ここのこと誰に聞いた? 俺がここにいるって分かって来たよな?」

「ホーミィという商人に聞いた。情報料は金貨五枚。おれ……じゃない、私の他にはあの賢者も知っている」

「はぁ、なるほどなあ」


 金の為なら何でもやると言っていたのだ。

 情報を売られたからといってヘイロンは怒るつもりもない。あの商人はここで暮らしていくには貴重な存在だ。今はお咎めなしとしておこう。


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