69.弟子、立証する
モルガナを呼んできて調べてみると、あることが分かった。
「ハイロ、君の言う通り。彼の能力は硬質化ではなく同化に近い」
「やっぱそうか」
彼女は嬉しそうに笑ってヘイロンに報告する。
しかし反面、ミディオラは泣きそうな顔をして震えていた。
「お、オマエラには人の心ってものがないのか!? こ、こんなことして……っ」
「尻尾くらいまた生えてくるだろ。トカゲなんだから」
「トカゲじゃないいぃ!」
かつてないほどに泣きわめくミディオラを放置して、ヘイロンは自分の考えた仮説をモルガナに確認する。
「ってことは、俺の仮説は立証できるか?」
「うん。行けそうだね。問題はその素材をどう集めるかだけど……」
「実はこの前の残りがあったんだ。今回はこれを使う。金ならたっぷりあるから当分困らないだろ」
ヘイロンは麻袋からミスリル鋼を取り出した。
彼が立てた仮説は――ミディオラの能力、同化を使って彼をミスリル鋼を纏った鉄壁のドラゴンにしよう、というものだった。
ミディオラの尻尾の先を切り取ってみて彼の中身を調べてみた。
すると、ミディオラの身体は骨と、おそらく内臓以外すべて鉱物と化していた。血肉も皮も鱗だってない。すべて取り込んだ鉱物と一緒のものに同化している。
それを知り得たヘイロンはある計画を思いついた。
それがミディオラに希少鉱物であるミスリル鋼を食べさせ、それと同化させること。
ミスリル鋼の硬度は、現存する鉱石のなかで一番硬い。鋭利部は脅威的な切れ味を誇る。加工前の原石の状態でこれなのだ。
それと同じ身体を持ったドラゴンがどれだけの破壊力を誇るか。考えずとも自明である。
「よかったなあ、ミディオラ。今日から美味い飯食べ放題だ」
「そっ、それ! 美味しいやつだ! 食べてもいいの!?」
「ああ、いいぜ。だけどこれ以外のものは食べるなよ。そうしないと強くなれない」
「し、仕方ないなァ!」
喜びを隠しきれないようにミディオラはヘイロンの言いつけに頷いた。
さっきまで泣きわめいて嘆いていた奴には見えない。
「そうだ。ゴーレムの素材なんだが……使えそうなやつが裏に転がってたぜ」
ご機嫌なミディオラを放置して、ヘイロンはニアを背負うとモルガナと共に魔王城の裏へ向かう。
そこには大きな石像が植物の蔓に絡みつかれて倒れていた。
「なにかな? これは」
「さあ? 俺もよくわからん」
見上げるほどにデカイ石像は全長ならミディオラを超えるほどだ。
これだけの質量があれば力仕事にはぴったりである。
「雨風で削れているけれど、手足は欠けていない。土塊や瓦礫よりは使えるね」
「よし、じゃあコイツにしよう」
ニアを降ろすとヘイロンは自分で作ったゴーレムの核を石像に埋め込む。
するとソレは蔓を引きちぎって起き上がった。
「でっかぁい」
「これなら上々だね」
「それにしても、この石像のモデルは何だろうな?」
ヒト型であるから顔はあるが、それも風化してのっぺらぼうだ。
だからこれの元がなんであるか。知る術がない。
「さて、それじゃあお前は瓦礫の片づけをしてくれ。まずは城の入り口から頼むよ」
ヘイロンが命じると石像のゴーレムはゆっくりと動き出した。
「使えるもんは何でも使うべきだなあ」
「生活水準を上げるには努力の他に技術も必要ってことだ。勉強になったろう?」
「はぁいはい、その通りでございますよ」
適当にあしらってヘイロンはニアの手を握る。
「ニア、ゴーレム動かしてて疲れないか?」
「ううん」
「あ、そう……ならいいや」
ヘイロンの問いかけにニアは意味が分かっていないように呆けている。
けれどそれを隣で聞いていたモルガナには、彼が何を気にしているのかすぐに理解できた。
「ぬいぐるみ程度なら魔力の枯渇はそうそう起きないよ」
「いや、それもなんだが……こうやって魔力を使っておけば自前の魔力も増えるかと思ったんだが、どうだろうなあ」
「それはあり得るだろうね。彼女自身の魔力量では魔法を使える量もないし、今のこれが最善だよ」
「ならよかったよ」
師匠からのお墨付きをもらってヘイロンは、ほっと安堵する。
ニアにゴーレムを与えたのは、彼女のオトモダチを作ることだけではない。
真の目的はニアの魔力に上手く作用して、彼女の魔力の成長の手助けになればいいと思ったからだ。
今まで魔力ゼロだったニアは、同年代と比べて圧倒的に自身の魔力が少ない。
先日の検査で判明した魔王の魔力については除外して、自身の魔力量を伸ばすことはこれから生活していく中でも最優先事項だ。
それに魔力が増えれば身体の成長にも作用する。
やらないよりもやった方がいい。
それがヘイロンがニアにしてやれることでもある。
「腹減ったなあ、戻るか」
「うん!」
「今日の飯、なんだろうな」
「イェイラ、お肉たくさんもってたよ!」
「マジで!? んじゃあ、今日はご馳走だな!」
遠くに見える石像を眺めて、夕暮れのなか三人は城内へ戻っていった。