49.影者、懸念する
ヘイロンは二人を連れて、昨日ミディオラがぶつかった場所に来ていた。
「こいつを使おう」
「これって……」
そこには山盛りの土砂があった。正確にはミディオラから剥がれ落ちた表皮だ。
彼の表皮は食べたものから出来ている。つまり普通に採取したものよりも質は良いということだ。
「あのトカゲの表皮だな」
「なるほどなァ。大量にあるし、ここに置いていても邪魔になる。建材に加工するには充分そうだ」
「だろ? それに……お、あった」
ヘイロンは土砂の中に腕を突っ込んで探る。
そしてあるものを引っ張り出した。
「もしかしてと思ったけど、やっぱあるもんだな」
「そ、それって……ミスリル鋼!?」
ヘイロンの手中にあったのは、光り輝く鉱石――ミスリル鋼だった。
「なぜそれがそこにある?」
「あいつ、鉱石食べるんだろ? 食べたもんがこうして身につくんなら、混ざってても不思議じゃない。ここいら一帯を食い漁ってたんならあり得る話だ」
「これが沢山あったら……暮らしていくのには困らないわね!」
イェイラはヘイロンの手からミスリル鋼を奪って嬉しそうに眺めた。
いつにない彼女の様子にヘイロンは意表を突かれる。
そういえば、以前ヘイロンがぼったくりにあった時もガミガミグチグチ言われた気がする。
嫌な思い出だが、金の事はイェイラに任せておけば間違いはないだろう。
「これならばある程度の資金を集められるだろうなァ」
「ええ、寝る場所はあるけど寝具とか……汚いし古いし新調したかったのよ。あんな場所で眠ってちゃ体調崩しちゃうわ」
「そーいうの、お前に任せるよ」
「ええ、まかせて!」
いつになくやる気のイェイラにミスリル鋼の事は任せて、ヘイロンはムァサドと土砂の選別を始める。
粘土混じりの土の中には石灰岩も含まれていた。これらを磨り潰して粉にする。それに藁と水を混ぜて成型して……高温の炉で焼けばレンガの出来上がりだ。
「しかし先の長い作業になりそうだなァ。儂らだけで出来るのかね?」
「少し厳しいだろうな。人が居れば作業効率も上がるだろうが……こんな場所に住もうなんて好事家、俺たちくらいのもんだろ」
「俺たちって……それって私も入ってる?」
「もちろんだ!」
ヘイロンが胸を張って答えると、イェイラは嫌そうな顔をした。
「私は別に好き好んでこんな場所、来たわけじゃないからね!」
「なんだよ。あの時一緒に来るって言っただろ」
「あ、あれは……そうだけど! あんなの断れるわけないじゃない!」
イェイラの故郷の村での出来事。
ヘイロンは彼女に二択を迫った。村に残るか一緒に行くか。イェイラにとって究極の選択だ。あれを断れるわけがない。
「今更文句言っても遅いぜ? お前たちはもう俺の大事な駒なんだ。魔王城隠居生活のな!」
「わ、分かってるわよ。ていうかなにそれ!? ダサすぎる!」
「お主、ネーミングセンスが壊滅的と言われないか?」
「おっ、よくわかったな」
笑って言うヘイロンに、二人は顔を見合わせて呆れた。
いざという時に頼りになる男だが、それでも普段とのギャップを考えれば手放しで褒められる性格はしていない。
明らかに常人とは一線を画している。
ニアはヘイロンを慕っているが、こんな男に着いていったら彼女の将来が心配だ。
子供の教育に彼は相応しくない。倫理観もおかしいし、確実に悪影響を与える。
ここは自分が何とかしなければ。
いきなり離れろなんて出来る訳はないし、とりあえずニアと話をしてみよう。
妙な正義感に鼻息を荒くして、イェイラは決意した。