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48.竜人、のぼせあがる

 

 話し込んでいると、イェイラとムァサドが起きてきた。

 二人は起きているニアの姿を見て、駆け寄ってくる。


「ニア、もう大丈夫なの?」

「気分の悪さはないかね?」

「うん、だいじょうぶ!」


 笑顔で答えたニアの様子に二人は安堵する。

 ヘイロンも今のところは大丈夫だと言ってくれた。


「あれなに?」

「あー、あれか。何に見える?」

「大きい……トカゲさん?」


 ニアは壁際にいたミディオラを指差してヘイロンに問うた。

 彼の姿をニアは初めて見る。そしてあれが竜人であるとは露程も思っていない。


 ヘイロンはニアを連れてミディオラの傍に寄る。

 そしてまだ寝ている彼の頭を思い切り叩いた。


「――っ、いびゃい!」

「寝坊助、さっさと起きろ」

「なぅ、なにするんだよ!」


 涙目で起き上がったミディオラの大きさにニアはビビる。

 ニアなんてぺしゃんこにするなんてわけはない、そんな大きさだ。けれど思ったよりも恐怖は感じなかった。


「ニア、こいつミディオラっていうんだ。仲良くしてやってくれ」

「うん! トカゲさん、よろしく!」

「トッ、トカゲぇ!? オイラは竜人! トカゲやモグラなんかじゃないよ!」

「でかい声で喚くな! んなのどっちでもいいだろ!?」


 再び、鉄拳がミディオラの頭に炸裂する。

 けれど流石は竜人である。いくら叩いてもタンコブの一つも出来ない。


「んびぃ! 殴るな! お前ぜんっぜん優しくねえ! オイラのこと騙したな!?」

「はぁ? 何言ってやがる。俺がいつお前のこと騙したんだよ!」

「ハイロ! 叩いちゃだめだよ!」


 ヘイロンが詰め寄ると、すかさずニアがそれを止めた。彼女の言い分では暴力だけはダメだ、ということらしい。


「はぁ、わかったよ」

「もういじめちゃダメだよ!」

「あうぅ、ありがとううぅ」


 単純なミディオラは助けてくれたニアに恩義を感じた。

 どう見てもあの人間の男よりもこの子供の方が優しい。しかもこの子の言うことならあの男も逆らわない!


 少し考えて、ミディオラは嵌っていた自分を助けてくれたヘイロンではなく、あの暴力男から救ってくれたニアに尻尾を振ることに決めた。


「オイラ、君のためなら何でも頑張れる!」

「え?」

「今度、オイラの大好きなご飯あげるから! 一緒にたべよう!」

「な、なに?」


 押しが強いミディオラに恐怖を覚えたニアは、ヘイロンの背後に隠れる。

 それを見て、ミディオラはショックを受けた。どうやらあの子はあの男の方が良いみたいだ。あんなののどこが好きなのか。身体の大きさだってこっちの方があるのに。


「納得いかなぁい!」

「なんなんだよ、いきなり。付き合ってられん!」


 突然叫び出したミディオラに、呆れたヘイロンはニアを連れて去っていった。

 この世の終わりとでも言うように嘆くミディオラを残して。




 ===




「それで、今日は昨日の予定通り進めるのよね?」

「ああ、それで行こう。俺たちは魔王城の補修で、あのトカゲは畑仕事だ」

「――トカゲじゃないぃ!」


 ミディオラはヘイロンの物言いに突っかかった。両者の仲はあまり良くないようで、ニアは少しだけ心配になる。

 けれど先ほど暴力だけは振るわないと約束してくれたから、きっと大丈夫なはず。


「あれだけ元気があればすぐに終わるであろうなぁ」

「そうね」


 他の二人もなぜかミディオラには冷たいというか、素っ気ない。

 それを可哀そうに思ったニアは、あることを提案してみた。


「ニア、トカゲさんといっしょにいてもいい?」

「とっ……えぇ!? ほんとう!?」

「うん!」


 突然の提案にミディオラは大層驚く。

 こんなことを言ってくれるなんて……この子は自分のことが好きに違いない!

 盛大な勘違いを冒したミディオラは喜んでニアの提案をのんだ。


「いいよ! オイラ頑張っちゃうもんね!」

「その調子でやってくれ。ニアも本当にいいのか?」

「うん。ひとりだとかわいそう」


 完全な憐れみからの行動であるが、ミディオラは勝手にそれを好意だと勘違いをしている。

 それに気づいていないのはニアだけだ。

 他の大人たちはあのような、のぼせあがりなど絶対に下心があると見抜いている。


「ニア、彼に何かされたらすぐにこっちに来なさいね」

「なにかってなに?」

「えっ……と、嫌なことよ」

「オイラ嫌がることなんてしないよ!」

「トカゲさん、こう言ってるよ」

「そうね……うーん、大丈夫かしら?」


 イェイラは心配しながらも、ミディオラに釘を刺して戻ってきた。


「あれ、大丈夫なのか?」

「怪しいからハイドを置いていくわ。何かあったら容赦しないでって言ってあるから」

「うむ、それがいい」


 一抹の不安と共に、それぞれが分かれて仕事に取り掛かった。

 ミディオラ・ニア・ハイドは畑仕事へ。

 そしてヘイロン・イェイラ・ムァサドは魔王城の補修へ。


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