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47.幼女、目覚める

 

 ヘイロンはすでにこの竜人を労働力として数えていた。

 身体がでかい=力仕事に向いている。おまけにミディオラの能力は硬質化と似たようなものだ。上手く使えばボロボロの魔王城の修繕に役立つかもしれない。


「そんな顔するなよ。今のはちょっとした冗談だ」

「ほんっ、ほんと? オイラのこと食べない?」

「うんうん、食べない食べない」


 笑顔で約束して、でも――とヘイロンは続ける。


「ここに住むってことは俺たちに協力しなきゃいけないんだ」

「いいけど……オイラ、出来ること何もないよ?」

「それは俺が考えてやる。ま、心配するな」


 思いがけない優しい言葉に、ミディオラは感動した。

 人間のくせに優しいじゃないか、と彼がまんまと騙されているとヘイロンは焚火の傍に座り込む。

 彼の背中には未だ目を覚まさないニアがいた。どうやら背負ってきたようだ。


「寝かせておかないの?」

「目が覚めた時、ひとりで暗い場所じゃかわいそうだろ」

「……そうね」


 背負っていたニアを床に寝かせて、ヘイロンは皆と食事を摂る。


「一応、落ち着いたけど……問題は山積みね」

「そろそろ生活基盤を整えなきゃなあ。寝る場所だってずっとここじゃ不便だ」


 安定した食料の供給に畑づくり。

 ボロ魔王城の修繕と清掃。


 目下やらなければならないことはこの二つだ。


「畑って言ってもまずは土壌を作らないとね。それがしっかりしていなければどれだけ頑張っても不作になる」


 魔王城の裏には広い土地がある。しかしそこは草木が茂っており、作物を育てられるような状態ではないのだ。


「それならオイラ、得意だよ! 地面を耕すんだよね?」

「出来るの?」

「うん! 潜るのは朝飯前さ!」

「お前、それはドラゴンってよりもモグラじゃないのか?」


 思わず突っ込んだヘイロンの言葉に、ミディオラは失敬な! と吠えた。


「オイラはれっきとした竜人! あんなのと一緒にしないで!」

「わーかったよ。そういうことにしといてやる。それじゃあ、畑はお前に任せるとして……城の修繕は俺たちで請け負うか」


 ヘイロンの提案にイェイラとムァサドは頷いた。


「そうなれば建材が必須となるが……上等なものだと一から作らねばならんぞ?」


 ボロくても魔王城。しっかりとした造りをしているこの城はレンガや石材で出来ている。

 レンガを作るには粘土を混ぜて成型して、それを高温の窯で焼く必要がある。かなりの重労働で時間もかかるものだ。


「あなたの便利な魔法でどうにかできないの?」

「土塊なら出せるけど、かなり脆いし建材には使えない。直したところで崩れたら意味ないだろ?」

「むゥ、それもそうだ」


 幸い土地は広い。探せば粘土でも石材でも見つかるだろう。

 けれどヘイロンはもっと良い案を思いついてしまった。


「これについては俺に考えがある。たぶん大丈夫なはずだ」

「なによ。もったいぶってないで教えなさいよ」

「あー、うん。まあ、明日の楽しみにでも取っておけよ」


 適当にあしらってヘイロンは横になると毛布を頭から被る。

 今日一日、色々なことがあって疲労がたまっていたのか。ヘイロンはすぐに寝入ってしまった。




 ===




 朝日が昇った頃。

 まどろみのなか、誰かが身体を揺する感覚でヘイロンは目を覚ました。


「んな、なんだよ……」


 寝ぼけ眼を擦って目を開ける。

 すると目の前には笑顔のニアがいた。


「ハイロ、おはよう!」


 驚き固まっていると、ニアはヘイロンの胸に飛び込んでくる。

 ずっしりとした重みと温かさに、ヘイロンは安堵の息を吐いた。


「お、おはよう……そうだ。ニア、体調はどうだ? どこか痛いとか苦しいとかは?」

「ないよ!」

「そうか? ならよかった」


 彼女が言うにはなんでも調子はすこぶる良いらしい。

 なんだか生まれ変わったみたい! なんて笑っていうものだから、この分だと本当に心配する必要もないだろう。


「ほんと、心配したんだぜ? 灰招きの核、盗ったのお前だろ?」

「……ごめんなさい」


 目に涙をためて、ニアは素直に謝った。

 ちゃんと反省している姿を目にしてヘイロンは宥めるようにニアの頭を優しく撫でてやる。


「あそこで何があったかは分からんが、ニアのしようとしたことはなんとなーく分かる」

「ニア、魔力なくて。役にたたないから……だから」


 彼女が吐露した思いは、きっとずっと悩んでいたことなのだろう。

 思い詰めてあんな馬鹿な事をするくらい気にしていたのだ。

 そこに、気にするなだとか。そんな言葉を投げかけられるほどヘイロンは無責任な男ではない。


「だったら先に俺に相談しろ。言ってくれなきゃ何も出来ないだろ?」

「……っ、うん」

「そもそもあの方法はリスクが大きすぎる。成功して魔力が得られる可能性も低いし……あくまであれは魔力の増加効果しかない。ゼロから増やせるものでもないんだ」

「そうなんだ……」


 ヘイロンの説明を聞いてニアはさらに落ち込んでしまう。


「落ち込むのはまだ早いぜ? 俺は無理だとは言ってないだろ?」

「え?」

「ニアが魔力を得られる可能性はある。でも俺だけじゃ厳しいんだ。助力が必要になる」

「だれか、助けてくれるひといるの?」

「ああ、一人だけな」


 自信たっぷりなヘイロンの物言いに、ニアは眉を寄せた。

 あのなんでも出来ると言っているヘイロンが厳しいと言い、助けを乞うのだという。きっとその人はヘイロンよりもすごい人だ!


 ニアが期待の眼差しを向けていると、ヘイロンは少しだけ嫌そうな顔をしながら――


「俺の師匠だ。出来れば会いたくねえけどな」


 彼にとっては、苦渋の決断をするのだった。


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