表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/123

43.魔王、変容する

 

 二人を背に乗せてムァサドは山を駆け、魔王城まで戻ってきた。

 彼の足は止まることなく、城の門扉を過ぎてそのままエントランスに突入する。


「――着いたぞ!」


 叫ぶようなムァサドの声にヘイロンは前を見据えた。

 城の内部は出て行った時よりも荒れ果てている。

 その原因は、城壁へと激突したミディオラのせいでもあるが……一番に目を引くのはエントランス中央に空いた穴。


 視認できる範囲でニアの姿はなく、その穴の奥から異様な気配と低い唸り声が聞こえてくる。

 何か異変が起こっており、それに逡巡している暇などない。


「そのまま飛び込め!」

「ぐッ――ええい、ままよ!!」


 ためらう暇もなく、三人は穴の中へと飛び込んだ。

 頭上から指す陽の光を背に、見えるのは巨大な姿。


 かの魔王――ガルデオニアス。生前の姿よりも何倍も膨れ上がった化け物がそこにいた。

 頭上から降ってきた三人は奴にとっては火に入る虫のようなものだ。


 振り上げられた腕が横薙ぎに、ムァサド目掛けて襲ってくる。

 ――と、それを寸前で回避してこのまま着地、とはならなかった。


「なぅ、なんじゃこれはあああああ!!」


 避けきったと思えた攻撃は、形を変えて襲ってくる。

 岩肌の腕はあっという間に植物の蔓のように形を変え、触手を動かすように獲物であるムァサド目掛けて寄ってきたのだ。


 空中で身動きが取れないムァサドはせめてもの抵抗で、爪を振り回す。

 しかし絡みつく触手の手数が多い。圧倒的に不利な状況で、ヘイロンは彼の背から飛び出した。


「うごっ!」


 ムァサドの頭を踏み台にして、跳躍。

 そのまま攻撃してきた腕に飛び移ると、腕と触手の境目を思い切り踏み込む。


「――ッ、もげろォ!」


 刹那、肌身で感じられるほどの圧が周囲に展開される。

 範囲を極限まで絞り込んだ重力魔法。それは効果範囲が狭まるほどに圧も高まっていく。

 つまり、この化け物の片腕を捥いでしまうくらいわけはないのだ。


「ギッイイイィィイイイイイイイ!!!!」


 叫び声を聞いたと思ったら次の瞬間。

 捥げた腕が灰になった。それは静かに頭上から降り注ぎ、差し込んでいた陽の光を遮断する。

 薄暗い地下に着地したヘイロンは、目の前のこれが何なのか。ようやく合点がいった。


「灰招きッ、そういうことか!」


 化け物の姿は生前の魔王にそっくりだった。

 けれど魔王はヘイロンが倒し、ムァサドもすでに死んでいると断言している。だったらこうして動き出す理由は限られてくる。


 灰招きの核の出どころは気になるが、今はそれどころではない。

 頭の片隅に追いやってヘイロンは降り立った地下に目を向ける。

 しかし降り注ぐ灰が視界を塞ぎ、肝心のニアの姿を見つけられない。もしかしたらここには居ないのかも、なんて思った直後――


「――っ、ハイロ!」


 イェイラの叫び声が聞こえる。

 振り返ったヘイロンの目には、血を流して倒れているニアの姿が映った。


「っ、ニア!」


 駆け寄ってみると否が応でも知れてしまう。

 彼女の状態は最悪だった。腹に刺さった剣による傷はかなり深く、内臓を傷つけている。血を吐いてすでに意識のない顔は死人のように青白い。

 誰が見ても助からないことは分かりきっていた。


「呼吸も脈もある、でもとても弱い。これじゃ、もう……」

「わかってる!」


 ヘイロンの怒鳴り声にイェイラは肩を揺らした。ここまで動揺している彼を目にするのは初めてだ。

 いつもなら任せておけと言って、余裕な態度を見せるのに。

 逆を言えば、この状態ではどうあっても助けられないと言外に言っているようなものだ。


 ぎゅっと拳を握りしめてイェイラは俯いた。

 どうしてこんな状況になっているのか。何も分からないが、ここまで一緒に来てこれからだって時に……やるせなさでイェイラは力なく頭を振る。


 けれど、ヘイロンは諦めていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ