表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/120

3.元勇者、脱獄する

サブタイトル変更しました。

 

 ヘイロンの刑執行は五日後であると、牢外の看守は告げた。

 それを今にも死にそうな顔をして聞いていたヘイロンは、冷たい石床に座り込んで無視を決め込む。


 あの後――仲間だった奴らに無慈悲な糾弾を受けた後、彼らは一言もヘイロンへと言葉を掛けることはなかった。

 自分の身かわいさにヘイロンを裏切ったのだ。今更気に掛けるも何もない。所詮、それだけの仲だったということだ。

 彼らを信じていたのはヘイロンだけ。虚しい現実が、否応なしに心に染みこんでくる。


「なんで、なんで俺がこんな目に」


 怒りよりも失望からでた言葉に応えてくれる者は誰も居ない。


 彼が勇者として責務を与えられた当初、ヘイロンは千年に一度の逸材だと持て囃された。歴代の勇者とは潜在能力、実力共に一線を画していたのだ。

 実際、彼の魔法の腕前は賢者をあっという間に追い越し、回復魔法も聖女よりも能力に優れる。

 あらゆる武器の扱いをマスターしていた剣聖を、追い越そうとする上達ぶりだった。


 本当ならば魔王討伐に際して、勇者ヘイロンには仲間など必要なかったのだ。


 それは仲間である彼らはよく知っていた。けれど、公言しなかったのは勇者一行の魔王討伐に参加したという栄誉を得るためである。

 五十年に一度の大役を成せば、その後の余生はなに不自由なく暮らしていける。


 下らない欲と保身に走るクズ共と、今まで一緒に苦楽を共にしてきたのだ。裏切られたことよりも、そのことにヘイロンは激しい怒りを感じていた。


「ふざけるな……ふざけるなっ!」


 腹の底から湧いて出た怒りは、彼を死人のままで居させてはくれない。


 彼の頭の中では、すぐさま脱獄する算段が練られていく。

 ヘイロンの実力であれば城の兵士など敵ではない。牢獄から出るのだって容易い。魔法が使えるのならば牢屋ごと吹っ飛ばしてしまえば良い。近距離で強力な魔法を使ってはヘイロンも無事では済まないが、腕が千切れようが足が折れようが死ななければ回復魔法で治せる。痛みは怒りで塗り替えてしまえ。


 脱獄した後は、国外ヘと逃げよう。

 あのクズ共へ復讐も出来るが、これ以上あんな奴らと関わりたくはない。

 勇者ヘイロンを知らない、辺境に身を置いて静かに暮らそう。傷ついた彼には心を癒やせる静かな場所と時間が必要なのだ。




 ===




 牢屋を自身もろともぶっ飛ばして、無事脱獄を果たしたヘイロンは計画通りに国外ヘと逃げた。


 石牢を跡形もなく爆破させるほどの威力の魔法を受けた身体は、回復魔法によって綺麗に治っている。けれど、ボロボロの衣服だけはどうにもならず半裸状態で、尚且つ無一文でヘイロンは街道を南へと歩いていた。


「うぅ……腹減ったぁ」


 欠損した身体でさえも治せる回復魔法だが、空腹を癒やすことは出来ない。

 よろよろと今にも倒れそうな足取りで歩いていたヘイロンだったが、ついに限界が訪れる。


「ぐぅ……」


 うつ伏せに地面へと倒れたヘイロンの身体は指先さえも動かすことは出来なかった。

 魔法で身体は治せるが、それに伴う疲労感は拭えない。加えて精神的に疲弊していたヘイロンがいつまでも当て所なく歩き続けられるわけはない。


 王国からの追っ手が来るかもしれない。魔物に襲われるかもしれない。

 頭の中でとめどなく溢れてくる思考に、ヘイロンは考えるのが億劫になってそのまま目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ