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119/123

119.両者、矛を収める

 


 戦意を無くしたヘイロンは警戒を解くと兜を外して放り投げた。

 息苦しさから解放されたのち、二人に説明を求める。


「それで二人とも、俺に何か用があったんだよな?」

「ええっと……ローゼンがね、仲良くしなさいって」

「戦いをやめろって? あいつがそう言ったのか?」

「うん」


 伝令にこの二人を遣わせるのは人選ミスもいい所だ。

 事態はいまいち把握できないが、ローゼンの指示ならば何か理由あってのことだろう。ヘイロンは即座に判断するとルプトを見上げた。


「アンタはどうする?」

「無為な争いは終わらせるべきだ。だが……立場上、私はそれを快諾できない」

「立場上って……一族の中で一番偉いのはお前なんだろ? なら簡単に撤回できるんじゃないのか?」

「そう簡単な話ではないのだ」


 深刻な表情をしてルプトは嘆息した。

 どうにも何かしらの事情を抱えているようだ。自らの一存ではどうしようもない事とは……ヘイロンには考えも及ばないが、当の本人はそれを嘆いているように見える。


 だったら、とヘイロンはルプトにある提案をした。


「争いを避ける気があるなら、俺たちも協力する。そうしろって言われたからな。つまりお前との勝負はおあずけってことだ」

「あの状況でまだ勝ちの目があると?」

「負けたとは言ってない」


 少し不満げなヘイロンの態度にルプトは口元を緩めた。

 これがただの自信過剰な阿呆なのか……それともまだ実力を隠しているのか。一度死合ったルプトにはどちらが正解なのか理解してしまった。


「今回の一件に関して、我らの本意ではないとだけ言っておこう」


 独り言のように零してルプトはちらりと背後に目配せをした。

 彼の行動に気付いたヘイロンはその先を見る。


 ルプトの言動に意図が隠されていることを察したヘイロンは、頭上にある瞳と目を合わせるとその視線の奥に足を向ける。


「ハイロ、どこいくの?」


 ヘイロンの足元にぴったりとくっついて離れないニアは上目遣いで聞いてくる。

 何の気なしの質問にヘイロンはそうだったと思い出した。流石にこの場所にニアを残してはいけない。


「あっちに用事あって行くんだけど……ついてくるか?」

「うん!」


 ニアは元気よく即答した。

 一緒に居られることが嬉しいのか。ご機嫌なニアをおんぶして、ヘイロンは後の二人に指示を出す。


「お前らはここで待ってろ。古馴染みっていうなら昔話でもしてればいい」

「何をするつもりだ?」


 ルプトの問いかけにヘイロンは柔和な笑みを浮かべる。それは清々しいほどに晴れ晴れとした笑顔だった。


「話し合いしてくるだけだ」

「交渉でもするつもりか? 奴らが足を掬われるようなことをするとでも」

「馬鹿言え。転ぶのはあいつらの方だ。見下ろして嘲ってやるのが俺の楽しみなんだよ!」


 ――邪魔すんなよ!


 ルプトに一言物申すと、ヘイロンは満足げに足取り軽やかに向かって行った。

 何かしら考えがあるのか……それともただのでまかせか。瞳を眇めてルプトは不安げに二人を見送るのだった。




 ニアを背中におぶりながら、ヘイロンは森の奥へと進む。


 ルプトの言動を見て、彼の背後には黒幕が居ることがはっきりと分かった。そして、その正体も。

 おそらく、この戦場に来ているのは聖女パウラだ。


 アルヴィオならわざわざ戦場に足を運ぶような真似はしない。彼らが雷火の弱みを握っているなら、それの傍に居る方が管理しやすいからだ。

 ジークバルトはその逆、戦場に来ているなら奥に引っ込むなんてことはしないだろう。ヘイロンがルプトの元に近づく前に血の海を作ることなんて造作ない。


 だからこうしてのこのこ戦場に来るのなんてパウラ以外ありえないのだ。


「多分この先は救護場だろうな」

「なに?」

「怪我人を避難させておく場所だよ。怪我したら痛くて戦えないだろ?」

「うん」


 ニアと話をしながら歩を進めると、少し開けた場所に出た。

 見えたのはボロの簡易テントに怪我人の雷火たち。ざっと見て二十はいる。それらを遠目に見つめて、ヘイロンは大きく嘆息した。


 この惨状に心を痛めたわけではない。

 これから起こるであろう展開を予感して億劫になったのだ。


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