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117.大狼、方便を語る

 

 耳を劈くような轟音にヘイロンは上を見た。


「……カミナリ?」


 空には暗く分厚い雲が覆っている。そこから降り出した雨は熱した大地を冷やしていく。

 蒸発して水蒸気となった濃霧は瞬く間に周囲の視界を覆ってしまった。


 遥か上空で稲光をあげる閃光が濃霧の向こうから薄っすらと見える。それを気にしながらヘイロンは奇妙な胸騒ぎを覚えた。

 先ほどのルプトの言動と今の状況。無関係とは思えない。


「まさかこれ、お前の仕業か?」

「それを知った所で貴様の運命は変わらない」


 ルプトはこの状況に動じていない。ならば今のこれは雷火の能力の一部というわけだ。雷を操るなんて神の如き所業であるが、どうにもはったりとは思えない。


「流石に俺もアレはどうしようもないな」


 魔法による雷撃とは桁違いの威力である。ミスリル鋼がどれだけ優れた鉱物でも、雷の直撃を食らっては生きてはいられない。

 一か八か試してみるという手もあるが……流石にそれは博打すぎる。


「あのカミナリが俺に落ちてくるなら、傍に居るお前も無事じゃ済まないだろ」

「私は雷火の大狼だ。雷には耐性がある。それでも生きていられる保証はないがね」

「捨て身の攻撃ってことか」


 命を懸けた一撃ならいよいよ腹を括らなければ。

 ヘイロンはこの場から逃げることはせず、地面に座した。


「大人しく死ぬつもりか?」

「俺がそんなタマに見えるか? んなわけねえだろ」


 胡坐をかいて、ヘイロンは兜の奥でにやりと笑った。


「どっちが生きていられるか。我慢比べでもしようと思ってな。この勝負、生きてた方が勝ちだ」

「ふん、負けると分かっている勝負が好きなようだ」

「そんくらいのハンデがないと面白くねえだろ」


 減らず口にルプトは嫌味なく笑った。

 この男は自身の立場などどうでもいいのだ。純粋に強さを求めている。清々しいほどに裏表のない人間。きっと魔王などのいざこざには興味も無いのだろう。

 そこだけはルプトととても似ている。


 ルプトの心境を他所に、ヘイロンはこの勝負に算段をつけた。

 復元魔法を以てしても、あの落雷を受けて生きていられるかは分からない。なんせ生まれてこの方、そんな経験はしたことないし考えてもみなかった。


 ローゼンが作ってくれたミスリル鋼の兜である程度のダメージは軽減されるが、それだってほんの小さなものだろう。雷の直撃を受けて意識を保っていられるか分からない。

 しかし今焦って逃げても、ルプトの言う通り運命は変わらないのだ。なら出来ることをするまで。


 ヘイロンが決意を固める最中、その時は来た。



 濃霧の向こう側が一瞬光ったと思ったら――鼓膜を破るほどの轟音がヘイロンを襲った。音の衝撃に殴られたと錯覚してしまいそうになるが、実際はヘイロン目掛けて落ちてきた落雷の衝撃だった。

 それが座していたヘイロンの身体を三メートルほど吹っ飛ばす。


 一秒にも満たない間に起きた出来事にヘイロンが気づいたのは、それから三秒後のことだった。


「ぐっ……」


 まるで身体の芯まで焦がされているような激痛に一瞬呼吸が止まった。急いで息を吸い込んで、魔法でダメージを回復させる。

 けれどそれを許さないとでもいうように、倒れていたヘイロンの頭上を影が覆った。


「どうやらこの勝負、私の勝ちのようだ」

「おまえ、なんで」


 目の前の光景にヘイロンは息を呑む。

 そこには闇夜に輝くルプトの姿があった。落雷からのダメージなどなかったように立っている。

 あの光は、おそらく身体に雷を帯電しているのだ。きっと少しでも触れたら身体の内側から焼かれてしまう。

 これが雷火の大狼、ルプト・マグナルィヴの最終形態。



 先ほどの衝撃でヘイロンの意識は一瞬飛んでしまった。けれどそれは数秒の事。しかしその数秒でルプトを拘束していた重力魔法は解除されてしまったのだ。

 自由になったルプトは悠々とヘイロンを見下ろして、勝ち誇ったように口を開く。


「言ったろう? 私は雷火の大狼だ。あんなもの、かすり傷にもなりはしない」

「なんだよ……そーいうの、最初からいっておけよ」

「沈黙は金というだろう。嘘も方便だ」


 ルプトの弁舌を聞きながら、ヘイロンは珍しく焦っていた。

 今のルプトを止めるには生半可な攻撃では無理だ。またあの雷炎になられたら厄介。もう一度同じ策に引っ掛かってくれる間抜けでもないだろう。

 いま、生身であるこの状態が唯一のチャンスだ。


 けれどヘイロンの奥の手を使おうにも、あれは魔力消費が凄まじい。

 一度使ってしまえば虚脱の一歩手前まで持っていかれる。そうなれば戦闘の継続は困難だ。


(弱音吐いてる場合じゃねえな)


 後ろ向きな考えを振り払う。

 ここで敗れることは、魔王城に残してきた皆の命を捨てることと同義。彼らではルプトの相手など出来ない。ヘイロンがここで止めなければ勝ちの目などないのだ。


 ふらつく身体を立ち上がらせて、ヘイロンはルプトを睨んだ。

 しかし射殺すような眼差しも、ルプトは平然と払いのけてヘイロンに最後の忠告をする。


「騙したついでにもう一つ言っておくことがある」


 余裕の態度でルプトはヘイロンから視線を外し、空を見遣る。


「今のが初撃だ」


 落雷の影響で濃霧が晴れた――よく見える曇り空の向こう側で閃光が輝く。

 次いで爆音が鳴る前にヘイロンはルプトに向かって駆けだした。


 次の一撃を食らう前に、何としてもルプトを下さなければ。


 しかしヘイロンの決死の行動も虚しく、轟雷は無慈悲に大地を穿った。


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