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114.大狼、邂逅する

 

 ルプトは白金色の瞳を眇めて眼下に立つ人間を見つめた。


 それは兜のみを被って、抜き身の剣を肩に担いで目の前に現れた。戦線からもっとも離れている敵陣に単身乗り込んできたのだ。

 常人なら考えても行動に移さない。死にに行くようなものだからだ。


 けれど、目の前の男は死なずにルプトの前に立っている。

 あろうことか緊張感など欠片も感じさせない態度で話しかけてきた。


「アンタが雷火の大将か?」

「いかにも」

「へえ~、思ってたよりもデカいな。そんだけ上背があればさぞかし眺めは良さそうだ」

「……私に人間の友人はいない」


 言外に、何者だと問う。

 ルプトの問いかけに、ヘイロンは担いでいた剣を地面に突き刺す。


「アンタと勝負がしたい」


 踏み潰してしまえば死んでしまう。非力な人間が勝負をしたいと馬鹿なことを言いだした。

 それを聞いてルプトは顎門を開いて哄笑する。

 これほど面白い冗談もなかなか無い。


「笑止! 貴様のような人間がどうやって私に勝つというんだ? 人間は負けると分かっている勝負が好きと見える」

「おいおい、もしかして馬鹿にしてんのか?」

「今の貴様の戯言を聞けば、誰でも阿呆が寝言を言っていると馬鹿にする。ここまで来たことは評価するが……私の首を取るにはお前では役不足だ」


 随分な言われようにヘイロンは兜の内側でムッとする。


「じゃあ誰だったらいいんだよ」

「私を倒せる相手など、かの魔王くらいだ。魔王ガルデオニアス。奴が相手では私も手を焼いたやもしれん」


 かつて先人たちが魔王の座を争った宿敵――死灰の黒竜も厄介な相手だったが、あの万化の魔王はそれよりも底が知れない相手だった。


 純粋な強さで言うならばドラゴンに勝るものはいない。

 魔王ガルデオニアスが魔王たる所以は、その手管の多さにある。奴には弱点というものが存在しなかった。


 亜人は成長過程で形態変化を遂げる。それは一族の枠を超えるものではなく、多様性はない。

 しかし万化の幽鬼と呼ばれた奴の一族はその常識をいとも容易く破ってくる。


 亜人の中でもそれぞれに得手不得手が存在する。空を飛べる者、野駆けが速い者、泳ぎが上手い者。

 それらは彼らの前では等しく無意味なのだ。


「本来なら貴様ら人間如きにやられるような相手ではない。魔王などという無駄な業を背負うからだ。先人共は実に下らんことをする」


 深い溜息と共にルプトは胸の内を吐露した。

 周りはやれ魔王の座だの、人間共に復讐だの……下らないことを飽きもせずに吠えている。ルプトにとって、それらは虫の羽音と同じく耳障りなものだった。


 そしてそれは、目の前にいる人間も同じだ。


「ふぅん、じゃあ俺でも問題ないな」

「なんだと?」

「俺が魔王以上なら、お前は俺と勝負してくれるってことだろ? なら条件は満たしてる」


 自信満々に言うヘイロンにルプトは何を言っているんだと呆れた。

 こんな人間が魔王よりも上だというのだ。これほどの侮辱もなかなかない。

 気付くとルプトの表情からは笑みが消えていた。


「それ以上戯言を言うならば、今すぐ噛み殺してやる」


 唸り声と共に牙を向くルプトにヘイロンは物怖じしない。

 まっすぐに相手を見つめて声高に告げる。


「アンタの言う魔王は勇者にやられちまったんだ。まさか知らないなんて言わないよな?」


 その一言にルプトはあの人間共に聞いた話を思い出した。

 この魔王城を根城にしている者たちの中には、魔王を殺した勇者が居ると言っていたのだ。


「もしや……貴様が勇者か?」


 ハッとして問うたルプトに、ヘイロンは兜を取って顔を見せる。


「そうだ。勇者ヘイロンだ。つっても魔王も倒しちまったし、元勇者になるのか?」

「ヘイロン……」


 眼下に立つ人間の顔を、ルプトはじっと見つめた。

 彼に人間の知り合いはいない。だが――


「嫌な目をしている。私の嫌いな目だ」

「はあ? なあんで初対面でそんなこと言われなきゃなんねえんだよ」

「減らず口も尽きぬとみえる」


 鋭い眼光を向けて、ルプトは考えを改めた。

 この男があの勇者なら、こちらの兵がいくら攻めてもあの城を落とせるわけがない。しかし今ルプトの目の前にはその勇者がいる。

 つまりあちらも攻め手に欠けるということだ。だから直に敵の大将を叩きに来た。


 ならばここで、この争いの決着がつく。


「良いだろう。貴様の口車に乗せられてやろう」

「ハハッ、そうこなくちゃなあ!」


 楽しそうに吠えてヘイロンは兜を被りなおす。

 剣を握ったところで先に動いたのはルプトだった。


「ここから生きて帰れると思うな!」


 見据えた巨体に靡く白銀の毛色は一瞬にして燃え盛る。

 陽炎のように揺らめく敵を目の前に、ヘイロンは勇み足で一歩踏み出した。



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